鉛筆画を長く楽しむには?比較・失敗・評価に振り回されない5つの考え方

 どうも。プロ鉛筆画家の中山眞治です。

          筆者近影 作品「月のあかりに濡れる夜Ⅳ」と共に

 さて、鉛筆画やデッサンを描き続けていると、最初は楽しかったはずなのに、他人の作品を観て自信をなくしたり、思い通りに描けない一枚に落ち込んだりすることもあります。

 作品を発表するようになると、人からの評価が気になり、自分自身が何を描きたかったのか分からなくなる場合もあるでしょう。

 長く制作を楽しむためには、技術を磨くことと共に、比較や失敗、評価との付き合い方を考えることも大切です。また、描けない時期があっても、それまでの経験がなくなるわけではありません。

 この記事では、自分自身の制作の軸を守りながら、暮らしの変化に合わせて鉛筆画やデッサンを楽しむための5つの考え方をご紹介します。これからも描きたいと思える、自分なりの向き合い方を見つけていきましょう。

 それでは、早速どうぞ!

Table of Contents

他人との比較から離れて、自分自身が描きたいものを見つめる

 他人の鉛筆画やデッサンを観て、「自分もこんな作品を描きたい」、と感じることは、制作へのよい刺激になります。

 しかし、観るたびに自分の未熟さばかりを探してしまうと、描く楽しさが薄れてしまうこともあるでしょう。

 一つ目の考え方は、「他人との比較で、自分の作品の価値を決めないこと」です。参考にしたい技術を学びながら、自分自身が何に心を動かされて描いているのかにも、目を向けてみるべきです。

 本章では、他人の作品から学ぶ姿勢を保ちながら、自分自身の描きたいものを見つめる方法について解説します。

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他人の完成作品と自分の制作途中を比べない

 SNSや展覧会で目にする作品の多くは、作者が時間をかけて仕上げ、発表するために選んだものです。その一枚ができるまでの試し描きや、修正の過程までは見えないことが少なくありません。

 一方、自分自身の制作では、デッサンがうまく取れない時間も、消した跡も、陰影がまとまらない途中の状態も、すべて目に入ります。

 相手の完成作品と自分の制作途中を比べれば、自分の方が見劣りすると感じやすくなるでしょう。

 たとえば、黒い背景から白い器が浮かび上がる作品も、制作の途中では背景の濃さが足りず、器の存在感が弱く観えることがあります。それは、完成に向けて調整している段階です。

 他人の作品を観るときには、「自分よりうまい」で終わらせず、「器の明るさを支えているのは、どの部分の暗さだろう」と、具体的な工夫を一つ探してみてください。

 優劣の判定を、観察と学びに置き換えることで、自分のスケッチブックや紙に向かう気持ちも保ちやすくなれます。

技術への憧れと、自分の表現したいことを分けて考える

 細密な描写や滑らかなグラデーション(階調)を観ると、その技術を身につけたいと思うものです。ただし、憧れた作品と同じ描き方をすることが、自分の表現したい内容に合うとは限りません。

 たとえば、古いビンを描く場合にも、表面の傷を細かく描きたい人と、窓から差す光やビンの周囲の静けさを描きたい人では、力を入れる場所が変わります。どちらにも、それぞれの制作意図があります。

 参考の作品から学ぶ際には、「取り入れたい技術」と「自分が伝えたい印象」、を分けて考えてみましょう。

 ガラスの透明感は学びつつ、背景や周囲の描写は、自分自身が求める静かな雰囲気に合わせて選ぶこともできます。技術は、表現を支えるためのものです。

 細かく描けるようになったからといって、画面にすべてを描き込む必要はありません。何を際立たせ、どこを控えるかを自分で選ぶことも、作品づくりの大切な判断になります。

描きたい理由を言葉にしてみる

 他人の作品が気になって、自分の制作に迷いが生まれたときには、「なぜ、この題材を描きたかったのか」、を短い言葉にしてみてください。立派な制作理念を用意する必要はありません。

 「朝の光が器の縁に当たる様子がきれいだった」「使い込んだ道具に親しみを感じた」「静かな部屋の空気を残したかった」など、自分自身が最初に心を動かされた点を書き留めます。

 題材の名前だけでなく、どの部分に引かれたのかまで言葉にすると、制作中の判断にも役立つのです。

 たとえば、主役がビンに映る光なら、ラベルの文字や周囲の小物を詳しく描くことよりも、光と暗部の関係を整える方が大切かもしれません。

 途中で作品の印象が変わった場合には、最初の言葉を書き直してもよいのです。描き進める中で、当初は気づかなかった魅力が観えてくることもあるのです。^^

 自分の描きたい理由を持つと、他人の表現の工夫を観ても、「この工夫は自分の意図に役立つだろうか」、と考えられます。憧れに流されるだけでなく、自分自身で選び取るための軸になるでしょう。

過去の自分自身の作品から変化を見つける

 自分自身の変化を確かめたいときには、過去の作品と現在の作品を並べてみましょう。その際には、単純に「昔よりうまくなったか」、だけで判断してしまうと、細かな変化を見落としてしまいます。

 観る項目を一つに絞ると、違いを捉えやすくなれます。たとえば、器の輪郭、影の濃さ、明暗の境界、背景との関係などです。

 「以前は輪郭線で形を説明していたが、今は周囲との明暗差で見せている」、といった変化も観つかるでしょう。

 また、技術以外にも目を向けてください。以前は形を写すことに精いっぱいだったのが、今はモチーフの置き方や、画面に流れる空気感を考えられているかもしれません。描く際の関心が深まったことも、制作の変化なのです。

 反対に、昔の作品に、今も好きだと思える大胆な暗さや、素直な線を見つけることもあります。それを未熟な時代のものとして片づけず、現在の制作に活かせる魅力として受け止めてみましょう。

 過去の自分自身の作品は、成長を採点する資料であると共に、自分自身が大切にしてきた表現を思い出す手掛かりにもなります。

なかやま

他人の作品から学びながらも、自分自身の作品の価値を、他人との優劣だけで決めないことが大切です。描きたい理由と、これまでの変化を確かめながら、自分自身が心を動かされた題材に向き合っていきましょう。

 自分が描きたいものを、作品ならではの表現へ育てたい方は、オリジナリティについて整理した次の記事も参考にしてください。                                       LS316「オリジナリティーはどう生まれる?自分だけの作風を育てる7つの考え方」

失敗した作品にも、次の制作につながる価値がある

 思い描いていた雰囲気が出せなかったり、修正を重ねるうちにスケッチブックや紙の表面が荒れたりすると、「この一枚は失敗だった」、と感じることもあります。時間をかけた作品ほど、残念な気持ちも強くなるでしょう。

 しかし、仕上がりへの不満と、その制作で得られた経験は分けて考えられます。二つ目の考え方は、『失敗や未完成の作品にも、次につながる価値を見つけること』です。

 本章では、思い通りに描けなかった作品の受け止め方と、制作を続けるか区切るかの判断について解説します。

思い通りに描けなかった一枚を全否定しない

 一ヶ所の失敗が気になると、その部分ばかりに目が向き、作品全体まで価値がないように感じてしまうこともあります。

 たとえば、主役の器のデッサンがうまく取れなかったために、背景や影の表現まで無意味だったと思ってしまう場合です。そんなときは、作品の仕上がりと、制作中に経験したことを分けて振り返ってみましょう。

 器のデッサンには不満があっても、背景を濃くする順番や、練り消しゴムで「光を描き込む」加減について、気づいたことがあるかもしれません。

 大切なのは、失敗を無理によい出来事と言い換えることではありません。「今回は形の確認が不足した。ただし、暗部の重ね方は試すことができた」と、事実を具体的に捉えることです。

 気持ちが落ち着かない場合には、すぐに結論を出さず、数日置いて観直してもよいでしょう。残念な一枚にも、次の制作では同じ迷いを減らすための材料が残っています。

失敗した箇所と、気に入った箇所を分けて観る

 作品を振り返る際には、「直したい部分」と「残したい部分」を、それぞれ一つずつ挙げてみてください。全体を漠然と採点するよりも、次の制作で何を変えるかが分かりやすくなります。

 たとえば、「ビンの口が傾いている」という不満に対して、「ビンの下に落ちる影には重さが出ている」、という気に入った点があるかもしれません。

 同じ画面の中に、改善点と手応えが共存していてもよいのです。改善点は、できるだけ観察できる言葉で残しましょう。

 「立体感がない」だけではなく、「器の右側と背景が同じ濃さになり、境界が分かりにくい」と書けば、次に確認する場所が明確になります。

 気に入った部分も、「何となくよい」で終わらせず、「モチーフの底面部分を濃くしたことで、器が台に接して観える」、と理由まで考えます。失敗の修正だけでなく、うまくいった表現を再び使えることも、制作を支える力になるのです。

試した表現を、次の作品の手掛かりとして残す

 新しい表現を試した作品では、完成度だけを観て判断すると、試行の成果を見落としやすくなってしまいます。

 背景の黒さや金属の反射など、慣れない表現に取り組んだ一枚には、途中で得た発見もあるはずです。その発見は、作品の写真と短いメモで残しておくと役立つのです。

 「濃い鉛筆で早く塗り込むと、細かな明暗を調整しにくかった」「薄い層を重ねた部分は、光の形を残しやすかった」など、実際に確かめたことを記録しましょう。

 鉛筆の濃度及びスケッチブックや紙の種類、描いた順番も、分かる範囲で添えておきましょう。条件が残っていれば、次に別の方法を試した際には、違いを比較しやすくなれるのです。

 また、作品全体を描き直さず、気になる部分だけを別のスケッチブックや紙で試す方法もあります。

 失敗した一枚を取り返すためではなく、疑問を一つ確かめるための試作と考えると、取り組みやすくなるでしょう。記録は数行でも充分です。

未完成の作品を続けるか、区切るかを判断する

 長く描いていると、続けてもよい方向へ進まない作品に出会うことがあります。完成させる経験は大切ですが、費やした時間が惜しいという理由だけで、修正を続ける必要はありません。

 まず、「これから何を変えたいのか」、を一つ言えるか確認しましょう。「主役の周囲を暗くして、明るさを引き立てたい」など、試す内容が具体的なら、続ける意味を見いだしやすくなります。

 一方、スケッチブックや紙の表面が傷んで調整が難しい場合や、描きたい内容そのものが変わった場合には、そこで区切る選択もあります。作品をしばらく保管して、後から再開するかを決めても構いません。

 区切る際には、制作の狙い、試したこと、次に変えたいことを短く書き残しておきます。未完成でも、経験を整理できれば、次の一枚へつなげられます。

 続けるかどうかは、残りの作業で何を確かめられるかを、基準に考えてみてください。完成への粘り強さと、制作を区切る判断の両方を持つことが、長く描く助けになるのです。

思い通りに描けなかった作品にも、改善点と残したい表現があります。一枚の結果から自分自身の能力全体を決めつけず、得られた経験を整理しましょう。続ける場合も区切る場合も、次に試したいことが見えれば、その制作には意味が残ります。

人からの評価と、自分自身の制作の軸を分けて考える

 作品を人に見せると、自分自身では気づかなかった魅力を教えてもらえる一方、予想外の感想に戸惑うこともあります。

 褒められた表現を繰り返したくなったり、反応が少ない作品に自信をなくしたりする場合もあるでしょう。

 三つ目の考え方は、「評価を参考にしながら、自分自身の制作の軸を守ること」です。感想や審査結果は、自分自身の作品を別の角度から観る材料になります。ただし、その評価だけで、次に描くものを決めることはありません。

 本章では、人の感想、助言、SNSの反応、公募展の結果を、制作にどう取り入れるかについて解説します。

感想は、その人の観方として受け止める

 同じ鉛筆画やデッサンを観ても、「静かで落ち着く」、と感じる人もいれば、「寂しさを感じる」、という人もいます。観てくださる人の経験や、その日の気持ちによって、作品から受け取る印象は変わります。

 あなたが意図した内容と違う感想が返ってきても、すぐに表現の失敗と考える必要はありません。たとえば、朝の柔らかな光を描いた作品から、誰かが昔住んでいた家の記憶を思い出すこともあるでしょう。

 感想を聞く際には、「どの部分から、そう感じましたか」、と尋ねてみると、作品の観え方を具体的に知ることができます。背景の暗さや余白など、自分自身が意識していなかった要素が、印象を生んでいるかもしれません。

 感想は、その人が作品と出会ったときの受け止め方です。自分自身の意図と照らし合わせながら、気づきとして持ち帰りましょう。

具体的な助言と、好みの違いを観分ける

 作品に対する意見には、形や明暗についての指摘と、題材や雰囲気への好みが含まれています。すべてを同じように受け入れてしまうと、作品の方向性が定まりにくくなることがあります。

 たとえば、「器の輪郭の左右で、楕円の傾きが違う」という指摘は、実物や下描きと比較して確かめられます。一方、「もっと明るい作品が好き」という感想は、観てくださる人の好みを表している場合があるのです。

 助言を取り入れる際には、「確認できる問題か」「自分の制作意図に役立つか」、を考えてみてください。静けさを表したくて暗い背景を選んだのであれば、明るくする提案をそのまま採用する必要はないでしょう。

 判断に迷うときには、小さな試し描きで違いを確認する方法もあります。意見の採否を急がず、実際の画面を観て選ぶことで、助言を自分自身の判断につなげられます。

SNSの反応だけで作品の良し悪しを決めない

 SNSへ作品を投稿すると、反応の数が目に入ります。時間をかけた作品よりも、気軽に紹介した一枚に多くの反応があると、何を基準に描けばよいのか迷うこともあるでしょう。

 しかし、反応の数から分かるのは、その投稿に対して表れた反応です。作品の細かなグラデーション(階調)や質感、実物を前にしたときの存在感まで、充分に伝わっているとは限りません。

 数字を見る前に、「今回の作品で確かめたかったこと」、を振り返ってみてください。ガラスの透明感を表せたか、主役に視線が向かうかなど、自分自身の制作上の目標に基づいて確認することが大切です。

 また、反応を確かめるたびに制作の気持ちが揺れるならば、確認する時間を区切るのも一つの方法になります。

 寄せられた具体的な感想は参考にしつつ、数字を次の作品の題材や表現を決める唯一の基準にしないようにしましょう。

公募展の結果を、次の制作にどう生かすか

 公募展へ出品した作品には、期待や努力が込められています。望んだ結果にならなければ、落ち込むのも自然なことです。

 すぐに前向きな意味を見つけようとせず、まずは気持ちが落ち着く時間を持ってもよいでしょう。その後で、「審査の結果」と「作品について確認できること」、を分けて振り返ります。

 具体的な講評がなければ、結果だけから、構図や技術のどこが評価されなかったのかを断定することはできません。

 作品を観直す際には、主役の伝わり方、明暗のまとまり、描き込みの強弱など、制作時の狙いに沿って点検します。

 次の作品には、改善したい点を一つ選ぶと、結果への落胆を具体的な課題につなげやすくなります。入選した場合も、評価された表現だけで自分自身を固定する必要はないのです。

 その作品で得た手応えを大切にしながら、新しい題材や表現へ進む余地を残しましょう。挑戦の結果は、自分自身の制作を振り返る節目として活かせます。

なかやま

人からの評価は、自分自身だけでは見えない部分を知る手掛かりになります。感想、具体的な助言、数字、審査結果を分けて受け止め、自分自身の意図に役立つものを選びましょう。何を描き、どう表したいのかを確かめることが、制作の軸を守ることにつながるのです。

 公募展の結果を振り返り、次の作品で何を深めるか考えたい方は、審査員へ作品の魅力を伝えるための視点も参考にしてください。                                     LS315「公募展で評価される作品とは?審査員の心を動かす7つのポイント」

描けない時期があっても、鉛筆画とのつながりは保てる

 仕事や家族の事情、暮らしの変化などによって、鉛筆を持つ時間が取れなくなることもあります。しばらく描いていないと、「このまま描かなくなるのではないか」、と不安になる人もいるでしょう。

 以前と同じ頻度や、作品の大きさを保てなくても、鉛筆画やデッサンを楽しむ道は残っています。四つ目の考え方は、『休止や暮らしの変化に合わせて、鉛筆画やデッサンとの付き合い方を選び直すこと』です。

 本章では、中断した時間の受け止め方と、今の暮らしに合う形で制作を再開する方法について解説します。

描かない期間を、挫折と決めつけない

 以前は毎週描いていたのに、今は道具を出すことさえない。その変化を見て、「自分には続ける力がなかった」、と考えてしまうことがあるかもしれません。

 しかし、描かなくなった事情を確かめずに、自分自身の意欲だけを責めることはありません。制作には、時間だけでなく、落ち着いて観察できる気持ちや、道具を広げられる場所も必要なのです。

 暮らしの中で優先することが増えれば、制作から離れる時期が生まれるのも自然でしょう。

 まずは、「描きたい気持ちはあるが余裕がない」のか、「今は別のことに関心が向いている」のか、を考えてみてください。前者なら制作の負担を減らす工夫が役立ち、後者ならば無理に再開を急がなくても構いません。

 再開の日を決められなくても、これまで描いた作品まで否定することはありません。今は休んでいると受け止め、再び描きたくなったときに、戻れる余地を残しておきましょう。

観ることや題材を探すことも、制作につながる

 鉛筆を持てない時期にも、日常の中で光や形に目を向けることはできます。窓辺のコップに映る光、雨上がりの葉、使い込んだ道具の陰影など、描いてみたいものとの出会いは、制作の場の外にもあります。

 気になる題材を見つけましたら、写真や短い言葉で残してみてください。「夕方の光でビンの影が長く伸びていた」、と書くだけでも、後から描きたい場面を思い出す手掛かりになるのです。

 その際には、目についたものをすべて記録しようとすると、別の負担が生まれます。心に残ったものだけを、無理のない範囲で残せば充分です。描く予定を立てずに、眺めるだけの日があってもよいでしょう。

 過去の作品や画集を観て、「今なら、この部分をどう描くだろう」、と考えることもできます。描かない期間をすべて練習に変えようとはせず、鉛筆画やデッサンへの関心が自然に膨らむ瞬間を大切にしてください。

再開するときには、以前の水準をすぐに求めない

 久しぶりに描くと、デッサンを取るのに時間がかかったり、鉛筆の濃さを調整しにくかったりすることがあります。以前の作品と比べて、「こんなはずではなかった」、と焦る場合もあるかもしれません。

 再開した一枚には、描く感覚を確かめる役割を持たせてみてください。以前の代表作に並ぶ作品を目指すよりも、鉛筆の持ち方や力加減、スケッチブックや紙へのトーンの乗り方を、一つずつ確かめるつもりで始めましょう。

 題材は、見慣れた器や果物など、観察する対象を絞れるものが取り組みやすいでしょう。複雑な反射や多数のモチーフは、感覚が戻ってから選ぶ方法もあります。

 描き終えましたら、不満だけではなく、「ここは以前の感覚で描けた」、という部分も探してください。最初の一枚で再開の成否を決めず、数枚を通して様子を見ることが大切です。

 道具や題材を確かめながら、今の自分自身に合う制作へ少しずつ戻っていきましょう。

暮らしの変化に合わせて、作品の規模を選び直す

 以前は大きな作品を描けていても、今の暮らしでは同じ制作時間を確保できないこともあるでしょう。その場合には、過去の制作方法を基準にし続けると、始めること自体が難しくなってしまうのです。

 作品の大きさ、モチーフの数、描き込む範囲を選び直してみましょう。たとえば、複数の器を組み合わせた静物画から、一つの器とその影へ題材を絞れば、準備や観察の負担を減らせます。

 ただし、小さなスケッチブックや紙ならば、必ず早く完成するとは限りません。細部まで描き込めば時間はかかるため、「今回は器の丸みと影の関係を描く」など、表現する内容も合わせて絞ることが大切です。

 道具を出し入れしやすくする工夫も、再開を助けてくれます。今の生活で扱える規模を選ぶことは、作品の制作に対する思いを弱めることではありません。

 限られた画面で、何を見せたいのかを考える経験は、その後の制作にも活きてきます。

描けない時期があっても、鉛筆画やデッサンとの関係を終わりと決めることはありません。日常で心に残る題材を見つけ、再開するときは感覚を確かめる一枚から始めましょう。今の暮らしに合う規模や描き方を選ぶことが、無理なく制作へ戻る助けになるのです。

 再び描き始める準備が整ったら、制作時間や環境を無理なく整えることも役立ちます。楽しみながら制作を続ける具体的な工夫は、次の記事で紹介しています。                       LS190「モチベーションが続く!鉛筆画を楽しみながら上達する方法とは?」

上達だけに偏らず、描くことで得られる喜びを大切にする

 鉛筆画やデッサンを続けていると、以前より正確に描けることや、作品を評価してもらえることが励みになります。

 しかし、上達や入選だけを制作の支えにすると、変化を感じにくい時期に、描く意味まで見失ってしまうことがあるのです。

 五つ目の考え方は、「上達や入選以外にも、描く喜びを持つこと」です。光の美しさに気づいた瞬間や、思い出の品を描き残せた満足感など、制作には結果だけでは測れない喜びがあります。

 本章では、描いている時間や題材との出会いを振り返り、これからも大切にしたい制作の姿勢について解説しましょう。

完成した喜びと、描いている最中の喜びを見つける

 作品を一枚仕上げたときの達成感は、鉛筆画やデッサンを描く大きな喜びです。制作の途中には難しい場面もあるため、完成した作品を眺めながら、取り組んだ時間を振り返ることもあるでしょう。

 一方、描いている最中にも、小さな喜びが生まれています。薄く重ねたトーンによって器の丸みが見えてきたり、暗部を深めたことで光が際立ったりする瞬間です。完成まで届かなくても、その手応えは確かに味わえるはずです。^^

 制作後に、「今日はどの場面が楽しかったか」、を一つ思い出してみてください。「形を直せた」「影の境界を柔らかくできた」など、具体的な出来事に目を向けます。

 毎回、楽しい時間ばかりである必要はありません。難しさの中にも、自分自身がもう少し描きたいと思えた瞬間があれば、それを覚えておきましょう。

 完成だけを待たず、途中の喜びにも気づくことで、制作を支えるものが増えていきます。

 私の場合の制作時の喜びは、エスキース(下描き)で、散々「描いては消し・描いては消し」をして練り上げた構想に従って、予定通りの構図にモチーフを落とし込むことに成功することです。

 そして、背景を暗くして細密描写も施すことで、徐々に「姿を現していく」主役の姿を観察しながら、光と影による「妖艶な美しさ」を確認しつつ、制作を進めている瞬間ともいえるでしょう。^^

作品に残したい記憶や感情を考える

 鉛筆画やデッサンの題材には、形や質感の面白さだけではなく、自分自身にとっての記憶が重なることがあります。長く使ったカップ、旅先で拾った貝殻、家族が大切にしていた道具なども、その一つです。

 そうしたものを描くときには、「何を残しておきたいのか」、を考えてみてください。カップの傷を描きたいのか、使っていた頃の穏やかな時間を表したいのかによって、光の当て方や周囲の余白も変わってきます。

 思い出を表すために、多くの小物を加える必要はありません。一つの品と、その下に落ちる影だけでも、自分自身にとっては、大切な時間を重ねられる場合もあるのです。

 また、観てくださる人に、思い出のすべてを理解してもらう必要はありません。制作を通して、その品を改めて観つめられたこと自体にも意味があります。

 描き残した一枚は、後から眺めたときに、その時の気持ちを思い出す手掛かりにもなるでしょう。

以前と変わった興味や題材を受け入れる

 長く描いていると、心を引かれる題材は変わることがあります。以前は金属やガラスの反射に夢中だったのに、今は古い木の表面や、柔らかな布の陰影に目が向くかもしれません。

 その変化を、「自分らしさがなくなった」、と心配することはありません。暮らしの経験や、日常で目にするものが変われば、描きたい内容にも変化が生まれるのです。

 新しい題材に引かれたときには、まず、どこが気になるのかを観察してみましょう。素材は違っていても、「静かな光が好き」「使い込まれたものに引かれる」など、以前からの関心とつながっている場合もあります。

 過去の作風に合わせて題材を選び続けるよりも、今の興味を小さな一枚で試してみることもできます。すぐに制作の方向を決めなくてもよいのです。

 描いてみて初めて分かる魅力を確かめながら、自分自身の表現の幅を育てていきましょう。

これからも大切にしたい制作の姿勢を決める

 比較や評価に気持ちが揺れたときに、立ち戻れる言葉を持っていると、自分の制作を見つめ直しやすくなります。それは、「必ず入選する」といった結果の目標とは別に、描く際に大切にしたい姿勢です。

 たとえば、「心を動かされた光を丁寧に観察する」「主役を決めて、伝えたい印象を大切にする」「一枚ごとに、試したことを確かめる」など、自分自身が行動に移せる言葉を選びます。

 あれもこれもと並べず、今の自分に必要なものを一つか二つに絞りましょう。制作前に読んだとき、「今回は何を大切に描くか」が分かるので、思い出せる短さが適しているのです。

 その言葉は、経験に合わせて変えても構いません。以前は正確さを重視していても、今は光や空気感を深めたいと感じることもあるでしょう。

 自分自身の姿勢を確かめながら選び直すことが、これからの制作を自分の意思で続ける助けになるのです。

なかやま

上達や評価を目指しながらも、描く途中の手応えや、記憶を作品に残す喜びを大切にしましょう。自らの興味の変化を受け入れ、今の自分が守りたい制作の姿勢を持つことで、結果が思うように出ない時期にも、次の一枚へ向かう理由を見つけやすくなれます。

練習課題 自分自身の作品との向き合い方を見直す3つの実践

 本章では、比較や失敗、評価から少し離れ、自分自身の制作を見つめるための練習課題をご紹介します。

 正確さだけで採点せず、好きな表現や次に試したいこと、自分自身が描きたい理由を確かめてみましょう。

過去の作品から「今も好きな部分」を3つ見つける

目的

 過去の作品を欠点だけで判断せず、自分自身が大切にしてきた表現や、現在の制作にも生かしたい魅力を見つけます。

内容

 過去に描いた作品を一枚選び、今観ても好きだと感じる部分を3つ探してください。仕上がりに不満が残った作品でも構いません。

 「器の縁に残した白さ」「背景へ溶け込む輪郭」「台に広がる影」など、場所を具体的に挙げ、それぞれを好きだと思う理由を一文ずつ書きます。

 最後に、3つの中から、次の作品でも大切にしたい表現を一つ選びましょう。

ポイント

 形の正確さや描き込みの細かさだけではなく、静けさ、温かさ、光の印象にも目を向けましょう。

 「ここはうまい」より、「この明暗が落ち着いた雰囲気を生んでいる」と書くと、自分の好みを捉えやすくなれます。

効果

 過去の作品から、自分自身が引かれる表現の傾向を見つけやすくなります。他人との優劣とは別に、次の制作で残したいものを考える手掛かりになるのです。

思い通りに描けなかった一部分を、別の表現で描き直す

目的

 失敗を作品全体の否定に結びつけず、具体的な疑問を確かめる試作として、次の制作につなげます。

内容

 不満が残った作品から、器の縁やビンの反射など、気になる部分を一つ選びます。まず、「輪郭線が強く、器が切り抜かれたように観える」といった、確認できる言葉で問題を書きましょう。

 次に、別のスケッチブックや紙で描き直してください。この例なら、輪郭線を弱め、周囲との明暗差で形を見せる方法を試します。

 描き終えましたら、元の作品と並べ、よくなった点と、まだ気になる点を一つずつ記録しましょう。

ポイント

 作品全体を描き直さず、変える条件も一つに絞ります。鉛筆の濃度や描く順番などを一度に変えると、何が印象の違いを生んだのか分かりにくくなります。

効果

 失敗を、具体的な制作課題として捉えやすくなれます。試した方法の長所と難しさを知り、表現の選択肢を増やすことにつながるのです。

発表を前提にせず、心を動かされた題材を一枚描く

目的

 人からの反応を考える前に、自分自身が何に引かれて描くのかを確かめて、題材を選ぶ際の軸を見つめます。

内容

 SNSへの投稿や、公募展への出品をいったん考えず、身近なカップや果物、窓辺のビンなど、描きたいと感じた題材を一つ選びましょう。

 制作前に、「夕方の光で、ビンの影が静かに伸びていた」など、心を動かされた理由を一文で残してください。

 その魅力を大切に描き、完成後は「どこまで表せたか」「途中で何に気づいたか」、を振り返ります。

ポイント

 影に引かれたならば、細部の描き込み以上に、影の方向や濃淡、余白を観察します。後から人に見せても構いませんが、まずは自分の関心を基準に制作してみましょう。

 尚、影は光源から離れていくほど、徐々に薄くかすれていくように描くことで、リアルな表現につながります。

効果

 描きたい理由と、画面上の表現を結びつける練習になります。評価を受ける前に、自分自身が描いてよかったと思える点を見つけやすくなれます。

まとめ 自分自身の制作の軸を大切にしながら、鉛筆画を長く楽しむ

     第1回個展出品作品 1996 金剛力士像(阿形) F10 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画やデッサンを長く描いていると、技術の課題だけでなく、自分自身の作品との向き合い方に迷うことがあります。

 他人の作品がまぶしく観えたり、時間をかけた一枚が思い通りにならなかったり、発表後の反応に気持ちが揺れたりすることもあるでしょう。

 そのようなときには、さらに練習量を増やすだけでは、気持ちを整理できない場合があります。何を学びたいのかと共に、なぜ描きたいのか、どのような喜びを大切にしたいのかを確かめることも必要です。

 本記事で紹介した5つの考え方を、振り返ってみましょう。

  • 他人との比較で、自分の作品の価値を決めない。
  • 失敗や未完成の作品にも、次につながる価値を見つける。
  • 評価を参考にしながら、自分の制作の軸を守る。
  • 休止や暮らしの変化に合わせて、描き方を選び直す。
  • 上達や入選以外にも、描く喜びを持つ。

 他人の作品を観ることは、表現の可能性を知る機会にもなります。ただし、相手の完成作品と、自分自身の迷いや修正を含む制作過程を比べると、自分の不足ばかりが目につきやすくなります。

 「自分よりもうまい」で終わらせず、学びたい工夫を一つ見つけ、自分の制作意図に合う形で試してみてください。

 思い通りに描けなかった作品も、仕上がりへの不満と、制作で得た経験を分けて振り返れます。形に問題が残っていても、影の重ね方や光の残し方には手応えがあるかもしれません。

 改善したい部分と残したい部分を具体的に挙げることで、次の一枚で取り組むことが見えてきます。また、完成させることが負担になっている場合には、続けることで何を確かめられるのかを考えましょう。

 修正の方向が見えていれば続け、スケッチブックや紙の状態や制作意図の変化によって難しい場合には、区切る選択もできます。試したことを記録しておけば、未完成の一枚からも経験を持ち帰れます。

 人からの感想や公募展の結果については、受け止める内容を分けることは大切です。具体的に確認できる助言は点検に生かし、好みの違いは一つの観方として受け止めるべきです。

 SNSの反応や審査結果だけでは分からないこともあるため、そこから作品の欠点や自分自身の能力を断定しないようにしましょう。

 暮らしの事情で描けない期間が生まれても、これまでの作品や経験まで失われるわけではありません。

 再開するときには、以前の水準をすぐに取り戻そうとせず、鉛筆の力加減や観察の感覚を確かめる一枚から始めましょう。作品の大きさやモチーフの数を少なく選び直すことも、今の生活で制作を楽しむための工夫です。

 そして、制作を支える喜びは、上達や入選だけではありません。器の丸みが観えてきた瞬間、暗部を深めて光が際立った瞬間、思い出の品を自分の手で描き残せた満足感もあります。

 そうした経験に目を向けると、結果が思うように出ない時期にも、描く理由を確かめやすくなれるでしょう。

 ご紹介しました練習課題も、今の気持ちに合うものから取り組んでみてください。自信をなくしているのなら、過去の作品の好きな部分を探し、失敗が気になるならば、一部分を別の方法で試します。

 評価が頭から離れないときには、発表を前提にせず、自分自身が心を動かされた題材を描いてみましょう。

 長く楽しむための向き合い方は、経験や暮らしに応じて変わってよいものです。今の自分が何を描き、何を大切にしたいのか。その問いに立ち戻りながら、次の一枚へ向かっていきましょう。

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 鉛筆画やデッサンに向き合う時間は、作品を仕上げる喜びだけでなく、日々の暮らしに楽しみを育てるきっかけにもなります。

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