公募展で評価される作品とは?審査員の心を動かす7つのポイント

 どうも。プロ鉛筆画家の中山眞治です。

 さて、公募展に作品を出品するときに、「どのような作品なら評価されるのだろう?」、と考えたことはありませんか?

 丁寧に描き込み、技術的にも納得できるところまで仕上げた作品であっても、必ずしも高い評価につながるとは限りません。

 反対に、思わず足を止めて観入ってしまう作品があります。そこには、単なる描写力だけでは説明できない、「作品としての力」があります。

 公募展では、審査方法や評価基準がそれぞれ異なるため、「こう描けば必ず入選する」、という正解はありません。

 だからこそ大切なのは、審査員に合わせて作品をつくることではなく、自分が表現したいものを明確にし、それを一枚の作品として、どこまで高められるかということになるのです。

 構図、緊張感、明暗、第一印象、独自性、テーマ、完成度、そして観たあとにも心に残る余韻。こうした要素が互いに響き合ったとき、作品は単に「上手に描かれた絵」から、「もう一度観たいと思わせる作品」、へと変わっていきます。

 私自身も鉛筆画やデッサンを制作し、公募展への出品を重ねている中で、技術を磨くことと同時に、「作品として何を伝えるのか」、を考えることの大切さを感じてきました。

 この記事では、公募展への出品を目指す人に向けて、審査員の心を動かす作品へ近づくために意識したい7つのポイントを、鉛筆画やデッサンの作品づくりという視点から、詳しく解説していきます。

 入選するためだけの作品ではなく、観てくださる人の記憶に残る一枚を目指して、一緒に考えていきましょう。

 それでは、早速どうぞ!

Table of Contents

一目で惹きつける「第一印象」をつくる

 公募展の会場には、多くの作品が並びます。その中で自分の作品をじっくり観てもらうためには、まず「もう少し観ていたい」、と感じてもらえる第一印象が大切です。

 ただし、第一印象を強くするといっても、奇抜な構図や極端なコントラスト(明暗差)を使えばよいわけではありません。

 大切なのは、作品の前に立ったときに、「何を見せたい作品なのか」、が自然に伝わり、その先へ視線を誘えることです。

 鉛筆画やデッサンは、色彩に頼らないからこそ、構図や明暗、余白、形の強弱といった要素が第一印象を大きく左右します。

 本章では、公募展という多くの作品が並ぶ場所でも埋もれにくい、第一印象のつくり方について考えていきましょう。

鉛筆画やデッサンをもっと楽しみながら、自分らしい作品を描いてみませんか?

鉛筆画やデッサンの上達に役立つヒントや、作品づくりを楽しむための情報をメールマガジンでお届けしています。

技術を磨くだけでなく、「自分にしか描けない一枚」を目指したい方にも、これからの作品づくりに役立つ内容をお届けしていきます。

無料でメールマガジンに登録する

登録は無料です。いつでも解除できます。

審査では最初に受ける印象も大切になる

 作品を観るとき、私たちは最初から細部を一つひとつ確認しているわけではありません。

 まず画面全体を観て、「明るい」「暗い」「静か」「緊張感がある」「力強い」「不思議だ」「何か気になる」、といった大まかな印象を受け取り、そのあとで細部へ目を移していきます。

 公募展でも、この最初の印象は無視できません。もちろん、第一印象だけで評価が決まるわけではなく、審査方法や基準は展覧会によっても異なるのです。

 しかし、多くの作品が並ぶ環境では、「もう少し近くで観たい」、と感じさせる魅力を持っていることは、作品にとって大きな強みになります。

 ここで意識したいのは、単純に目立たせることではありません。たとえば、静けさを表現した作品なら、強烈なコントラスト(明暗差)を使わなくても、広い余白の中に人物を一人だけ配置することで強い印象を生み出せるのです。

 反対に、緊張感や生命力を表現したい作品ならば、明暗差や大胆な構図によって視線を引き込む方法もあります。

 つまり第一印象とは、「派手さ」ではなく、作品が伝えたい世界を一瞬で感じてもらうための入口なのです。次の作品では、故郷への思いが迫って来るイメージを表現しました。

      青木繁記念大賞展 郷愁 2001 F100 鉛筆画 中山眞治

遠くから見ても存在感のある作品を目指す

 作品を制作していると、どうしても画面の近くで細部を観る時間が長くなります。髪の毛一本、衣服の質感、建物の細かな陰影などを丁寧に描き込んでいると、それだけで作品が完成に近づいているように感じることがあります。

 しかし、公募展を意識するのであれば、ときどき作品から2~3m離れて確認してみることが重要です。

 離れた場所から観たときに、主役はすぐに分かるでしょうか?明るい部分と暗い部分の大きなまとまりはできているでしょうか?画面全体が同じ濃さになり、平坦な印象になっていないでしょうか?

 細部は近づかなければ観えませんが、構図や大きな明暗の流れは離れたところからの方が伝わります。

 とくに鉛筆画やデッサンでは、細密な描写に意識が向きやすいため、「細かく描けている=存在感がある」、とは限らない点に注意が必要です。

 制作の途中から、何度も2~3m離れて眺め、作品全体が一つの大きな形として成立しているかを確認してみてください。

 近くでは細部を楽しめ、離れれば作品全体の印象が伝わる。この二つが両立すると、作品の存在感はさらに高まります。

主役を明確にして視線の入口をつくる

 一枚の作品の中に、魅力的な要素をたくさん描き込んでも、すべてを同じ強さで見せてしまうと、鑑賞者は「どこを見ればよいのか」、が分からなくなることがあります。

 そこで大切になるのが、視線の入口です。人物画なら顔や目元、風景画ならば光が差し込む場所、静物画であれば最も象徴的なモチーフなど、「まずここを見てほしい」、という場所を考えてみましょう。

 その場所に、比較的強いコントラスト(明暗差)をつくったり、周囲の描写を少し抑えたりすることで、視線を自然に導くことができるのです。

 そして主役を観たあとは、周囲のモチーフや背景へ視線が移り、最後にもう一度主役へ戻ってくるような流れができれば、鑑賞者は作品の中をゆっくり旅するように観ることができます。

 これは、主役以外を雑に扱うという意味ではありません。むしろ、すべてを同じ強さで描かず、見せる部分と支える部分に役割を与えることが重要なのです。

 作品を観てくださる人の視線を想像しながら、「最初にどこを観て、その次にどこへ進んでほしいのか」、を考えてみましょう。

描き込みより先に作品全体の印象を整える

 鉛筆画やデッサンでは、細部を描き込む作業そのものに大きな魅力があります。質感が少しずつ現れ、立体感が生まれてくる過程は、作家にとっては楽しい時間です。

 しかし、公募展へ出品する作品では、細部を描き込む前に「作品全体として成立しているか」、を確認することが欠かせません。構図に無理がある状態で細部を完成させてしまうと、あとから大きく修整することは難しくなります。

 そのため制作の初期段階では、細部よりも、大きな形、明暗の配置、主役の位置、余白のバランスなどを優先して確認しましょう。

 ときには、スマートフォンなどで作品を撮影し、小さな画面で確認するのも一つの方法です。細部が観えにくくなることで、作品全体の明暗や構図の偏りに気づけやすくなれます。

 「どれだけ描き込んだか」ではなく、「一枚の作品としてどのように観えるか」。この視点を制作の早い段階から持っておくことで、細部の描写も作品全体の目的に沿ったものになるのです。

なかやま

離れて作品を観る、主役を明確にする、視線の入口をつくる、細部より先に全体を整える。この習慣を意識することで、「もう少し観ていたい」と感じてもらえる作品へ近づいていけます。

視線を導く「構図」で作品の完成度を高める

 公募展へ出品する作品では、モチーフを上手に描くことだけではなく、それらを画面の中へどのように配置するかを考えることは重要です。

 同じ人物や風景を描いていても、主役の位置、余白の広さ、背景との関係などが変わるだけで、作品から受ける印象は大きく変化します。

 構図には、鑑賞者の視線を導きながら、「この作品で何を見せたいのか」、を伝える役割があります。だからこそ、描き始めてから構図を考えるのではなく、制作の初期(下絵)段階から画面全体を一つの作品として設計することが大切です。

 本章では、公募展への出品作品をより印象深い一枚へ高めるために、構図という視点から考えておきたいポイントをご紹介します。

上手に描くだけでは作品としてまとまらない

 人物の顔が細密に描けている。衣服の質感もリアルに表現できている。背景にも時間をかけ、細部まで丁寧に仕上げている。それでも、作品全体を観ると「なぜかまとまりがない」、と感じることもあります。

 その原因の一つは、個々のモチーフばかりに意識が向き、それらを一枚の画面としてまとめる視点が不足していることです。

 たとえば人物画で、人物そのものは非常によく描けていても、画面の中央へただ配置しただけでは、作品として単調に観える場合があります。

 反対に、人物を少し左右のどちらかの、構図による分割線を中心とした位置へ移したり、視線の向いている方向に余白を設けたりするだけで、画面に物語性や広がりが生まれることもあるのです。

 つまり、「モチーフを上手に描くこと」と「作品をつくること」、は似ているようで少し違います。

 公募展を意識するのであれば、一つひとつの描写だけではなく、

  • この人物をなぜここへ配置したのか
  • この余白には、どのような意味を持たせられているか
  • この背景は、主役を引き立てているだろうか

 といった視点から、画面全体を観直してみることが大切です。

 描写力を、作品としての魅力へ変えるためにも、構図は欠かすことのできない土台になります。

主役と脇役の関係を整理する

 一枚の作品には、主役だけではなく、その周囲を支えるさまざまな要素があります。人物画であれば背景や衣服、小物、光と影なども作品を構成する重要な要素です。

 しかし、それらすべてを同じ強さで描いてしまうと、何が主役なのか分かりにくくなることがあります。

 そこで考えたいのが、「主役と脇役の関係」です。たとえば、人物の表情を最も見せたいのであれば、顔の周辺はしっかり描き込み、背景は少し抑える。

 反対に、人物と空間との関係そのものを表現したいのであれば、人物だけを強調するのではなく、背景や光とのバランスを考える必要があります。

 重要なのは、脇役を単純に目立たなくすることではありません。脇役にも、「主役を引き立てる」「視線を導く」「空間を感じさせる」「物語性を想像させる」、といった役割があるのです。

 画面の中に存在するもの一つひとつについて、「これは何のためにここにあるのか」、と考えてみると、不要なものと必要なものが見えてきます。主役と脇役の役割が整理されるほど、作品の意図も伝わりやすくなります。

 もっと分かりやすく言えば、構図基本線に基づいて、モチーフを配置すれば過不足を防ぐことができます。次の画像を一つの例として参照してください。

 仮に地平線を⑦にした場合には、大地の広がりを表現できますし、⑧に据えれば空間の広がりを表せます。そして、主役モチーフを⑤や⑥の位置に据えれば、画面全体がまとまります。

 また、画面縦横の2分割線③④や、斜線①②も使って、その線上にモチーフを配置して、奥行きを造ることもできます。⑥F⑦を使って、窓を模した「抜け」にすることもできます。

 風景などでは、この構図基本線に「ぴったりハマる」景色などありませんので、この基本線上に、あなたの都合に合わせてモチーフを配置すればよいのです。

 その場合、それらのモチーフの大きさは、あなたの都合の良い大きさへ変更したり、削除・簡略化・付けたし・拡大・縮小などの「デフォルメ」を行えば、何の問題もなく収められます。どうです?楽になったでしょう?^^

 尚、黄金分割とは、制作する実際の画面のサイズに対して、÷1.618で得られた寸法で分割するということです。その際には、上下左右からそれぞれ分割線を得ることができます。

余白を活かして画面に呼吸を生み出す

 公募展へ向けて力の入った作品を制作すると、「画面をできるだけ描き込まなければならない」と考えてしまうことがあるでしょう。

 しかし、画面いっぱいに情報を詰め込むことが、必ずしも作品の魅力につながるわけではありません。ときには、何も描かれていないように観える余白が、強い表現になることもあります。

 たとえば、広い空間の中に人物を小さく配置すると、孤独や静けさ、広がりなどを感じさせることができるのです。

 人物の視線の先に空間を残せば、「その先に何があるのだろう」、と鑑賞者の想像を促すこともできます。

 余白とは、単なる「描かなかった場所」、ではありません。作品の中に静けさをつくったり、主役を際立たせたり、鑑賞者が想像する時間を生み出したりするための表現の一つです。

 とくに鉛筆画やデッサンでは、描き込まれた黒や中間調のグレーとスケッチブックや紙の白さとの関係によって、独特の緊張感をつくることもできます。

 「どこを描くか」と同じくらい、「どこを描かずに残すか」、を考える。その意識を持つことで、画面に呼吸が生まれ、作品の世界にも広がりが生まれてくるのです。

四隅まで意識して画面全体を設計する

 作品を制作していると、どうしても主役の周辺へ意識が集中します。しかし、一枚の作品として観た場合に、画面の中央だけでなく、四隅を含めたすべての部分が作品を構成しています。

 たとえば画面の片隅に強い黒があるだけで、視線がそこへ引っ張られることがあります。反対に、四隅がすべて同じような明るさや形になっていると、画面が単調に感じられる場合もあるのです。

 そこで制作の途中には、主役だけを観るのではなく、四隅へ順番に視線を移して確認してみましょう。

  • ここだけ重くなっていないか
  • 意味のない形が視線を引き寄せていないか
  • 主役から視線が逃げてしまう場所はないか

 こうした確認をするだけでも、画面全体のバランスを客観的に見やすくなれます。

 また、四隅を完全に埋める必要もありません。あえて静かな部分を残したり、一方だけに変化をつけたりすることで、画面に流れを生み出すこともできるのです。

 作品の中央だけを完成させるのではなく、四隅まで含めて一枚の画面として考える。この意識が、構図の完成度をさらに高めてくれます。

 もっとわかりやすく伝えるならば、風景画の場合には、作品は切り取った風景の一部です。四隅から外部に広がるイメージを持たせることで、外部へ連続性のある作品へと仕上げられるのです。

 次の作品では、2つの対角線を使って、四隅が外部へとつながる連続性を表現しています。

  • 黄色線:構図基本線(対角線・画面縦の2分割線は4分割線と重複する)
  • 青色線:黄金分割線(上下左右の各2本)
  • 黄緑色線:4分割線(縦方向に対して3本)
  • ピンク色の線:画面の中で視線を囲み、鑑賞者の視線を導く方向を示す線

       国画会展 入選作品 誕生2001-Ⅰ F80 鉛筆画 中山眞治

主役と脇役、余白、四隅までを一つの画面として考えることで、描写力だけに頼らない「作品としての完成度」が生まれてきます。

 公募展を意識した作品では、描き始める前に「どの構図を選ぶのか」を十分に検討することも大切です。構図の選び方や判断基準については、こちらの記事で詳しく解説しています。  LS297「構図はどう選ぶ?鉛筆画で迷わないための判断基準7つの視点と使い分け方

 作品の中央だけでなく、四隅まで活用して視線を導く方法については、こちらの記事でさらに詳しく解説しています。                       LS301「構図だけでは足りない?鉛筆画の“4隅”で作品性を高める視線誘導テクニック7選

明暗とコントラストで「見せ場」をつくる

 鉛筆画やデッサンは、色彩に頼らないため、明るさと暗さの関係が作品の印象を大きく左右します。

 白から黒までの階調を、どのように配置するかによって、主役を際立たせたり、奥行きを感じさせたり、静けさや緊張感といった感情まで表現することができるのです。

 公募展へ出品する作品では、すべてを均一に描き込むのではなく、「どこを最も見せたいのか」、を考えながら明暗を設計することが大切です。強い部分があるから弱い部分が活き、暗い部分があるから光も輝いて観えます。

 本章では、鉛筆画やデッサンの大きな魅力である明暗とコントラストを活かし、作品の中に印象的な「見せ場」をつくる方法について考えていきましょう。

すべてを同じ強さで描かない

 公募展へ向けて時間をかけて制作していると、「せっかく描くのだから、どこも手を抜きたくない」、と考えることもあるでしょう。

 その気持ちは大切ですが、すべての場所を同じ濃さ、同じ細かさ、同じ強さで描き込んでしまうと、かえって作品の見せ場が分かりにくくなる場合があるのです。

 たとえば人物画で、顔、髪、衣服、背景のすべてに同じくらい強いコントラストをつければ、鑑賞者の視線は画面の中をさまよってしまいます。

 そこで意識したいのが「強弱」です。

 主役となる部分はしっかり描き込み、周囲は少し抑える。重要な輪郭は明確にしながら、すべての輪郭を同じ強さでは描かない。暗部にも変化をつけ、真っ黒に近い場所と柔らかな暗さを使い分ける。

 こうした強弱が生まれることで、画面の中に視覚的なリズムが生まれます。描かないことや弱く描くことも、決して手抜きではありません。

 むしろ、最も見せたい部分を活かすために、ほかの部分を意識して抑えることも作品づくりの大切な判断です。

 「どこまで描くか」と同時に、「どこを抑えるか」を考えることが、作品全体のメリハリにつながります。

最も見せたい場所へ強いコントラストを置く

 人の目は、明るさの差が大きい場所へ、自然に引きつけられやすい特徴があります。鉛筆画やデッサンでは、この性質を活用して鑑賞者の視線を主役へ導くことができるのです。

 たとえば人物の顔を最も見せたいのであれば、顔の周辺に明るい部分と暗い部分の差をつくり、背景との明暗差を調整します。

 明るい顔のすぐ後ろに暗い背景を置けば輪郭が際立ち、反対に黒い髪の後ろへ明るい空間を配置すれば、その形を印象的に見せることができるのです。

 ただし、画面のあちらこちらに、強いコントラストをつくってしまうと、その効果は弱くなります。

 最も強いコントラスト(明暗差)をどこに置くのか。二番目、三番目に見せたい場所はどこなのか。このように優先順位を考えることで、鑑賞者の視線にも流れをつくることができるのです。

 制作の途中では、作品から2~3m離れ、目を細めて画面を観てみるのも一つの方法です。細部が観えにくくなることで、大きな明暗のまとまりや、必要以上に目立っている場所を確認しやすくなります。

 コントラストは、単に作品を強く見せるためではなく、「ここを見てほしい」、と伝えるための視覚的な言葉として使ってみましょう。

中間調を活かして鉛筆画やデッサンに奥行きを与える

 鉛筆画やデッサンの魅力は、白と黒だけではありません。その間に存在する豊かな中間調こそが、柔らかな空気感や立体感、奥行きを生み出してくれるのです。

 強い黒と、スケッチブックや紙の白だけで画面を構成すると、印象的な作品になる一方で、使い方によっては硬く平面的に感じられることもあります。

 そこで重要になるのが、さまざまな濃さのグレーです。

  • 手前の主役には比較的はっきりした明暗を使い、奥へ行くほどコントラストを弱める
  • 影の中にもわずかな明るさを残し、反射光を感じさせる
  • 背景には柔らかな中間調を使い、主役との距離をつくる

 こうした階調の変化によって、平面であるスケッチブックや紙の上に空間が生まれてきます。

 また、中間調は作品の雰囲気を整えるうえでも重要です。柔らかなグレーを多く使えば静かで穏やかな印象をつくりやすく、深い黒との組み合わせを増やせば、重厚感や緊張感を生み出すことができるのです。

 鉛筆画やデッサンでは、「黒をどこまで濃くできるか」だけではなく、「その黒へ至るまでに、どれだけ豊かな階調(グラデーション)をつくれるか」、にも大きな表現の可能性があります。

光と影に作品の感情を担わせる

 明暗には、立体感を表現するだけでなく、作品の感情や物語性を伝える力があるのです。

 たとえば窓から柔らかな光が差し込む室内は、穏やかさや希望を感じさせられることもあります。反対に、人物の一部だけが暗闇から浮かび上がるような光は、緊張感や孤独、神秘性を感じさせられることもあります。

 同じ人物を描いていても、光の方向や強さが変われば、作品から受ける印象や感情は大きく変わるのです。

 そのため、単に「モチーフに影があるから描く」のではなく、「この光は作品の中でどのような役割を持っているのか」、と考えてみることが大切です。

 光を希望として見せるのか。影の中に静けさを感じさせるのか。明暗の境界によって緊張感をつくるのか。そこまで意識して光と影を扱うようになれると、明暗は単なる描写の技術から、作品の感情を伝える表現へと変わっていきます。

 公募展を意識した作品だからこそ、明暗を「リアルに描くため」だけに使うのではなく、「何を感じてもらいたいのか」、を伝えるためにも活かしてみてください。

なかやま

すべてを同じ強さで描かず、見せ場を決め、中間調を活かしながら光と影に意味を持たせることで、作品はより印象深い一枚へと近づいていきます。

「自分にしか描けないもの」を作品に込める

 公募展へ出品される作品の中には、高い描写力を持った作品が数多くあります。

 そのような作品群の中で、自身の作品を印象に残すためには、「上手に描けている」という評価だけではなく、その作者ならではの視点や表現が感じられることが大切です。

 同じ人物、風景、静物を描いても、何に心を動かされ、どこを見つめ、どのように表現するかは人によって異なります。その違いこそが、作品に「作者らしさ」を与えてくれます。

 本章では、流行や他人の評価だけに左右されず、あなたにしか描けない作品へ近づくために、意識したいことを考えていきましょう。

技術の高さだけでは作品の個性にならない

 鉛筆画やデッサンを学んでいくうえで、描写力を高めることはもちろん大切です。正確な形を取ること、立体感を表現すること、質感を描き分けること、豊かな階調をつくること。

 こうした技術の積み重ねが、作品を支える土台になります。しかし、技術が高いことと、その作品に個性があることは必ずしも同じではありません。

 写真のように細密に描けていても、「なぜこのモチーフを描いたのだろう」、という部分が伝わらなければ、技術への驚きだけで鑑賞が終わってしまうことがあるのです。

 一方で、完璧な描写ではなくても、作者独自の視点や感情が強く伝わってくる作品に、思わず惹きつけられることもあります。

 だからといって、技術が必要ないということではありません。技術とは、自分が感じたものを作品として表現するための「言葉」のようなものです。

 大切なのは、その言葉を使って何を語るのかということです。技術を磨くことを目的にするだけでなく、「この技術を使って、自分は何を表現したいのだろう」、と考えることで、作品は少しずつ自分自身のものになっていきます。

モチーフを選んだ理由を自分自身に問いかける

 作品づくりにおいて、モチーフ選びは非常に重要です。

 「描きやすそうだから」「写真がきれいだったから」「人気のある題材だから」、こうした理由からモチーフを選ぶことも、練習段階では決して悪いことではありません。

 しかし、公募展へ出品する作品を制作するときには、もう一歩踏み込んで、「なぜ自分はこれを描きたいのか」、と問いかけてみてください。

 ある風景を観たときの、静けさに心を惹かれたのかもしれません。人物の表情に、自分自身の経験と重なるものを感じたのかもしれません。古びた建物や道具の中に、長い時間の積み重なりを感じたのかもしれません。

 その「心が動いた理由」が分かってくると、何を強調し、何を省き、どのような光や構図にするべきかという判断にも一本の軸が生まれます。

 モチーフそのものに、珍しさは必要はありません。身近なものでも、作者がそこに何を感じたのかによって、まったく違う作品になるからです。

 「何を描くか」だけではなく、「なぜ描くのか」。その問いを持つことが、あなたにしか描けない作品への出発点になります。

 もっと言えば、ありきたりなモチーフでありながらも、どのような構図と配置、そして光と影の用い方で、作品はまったく別次元の個性を持てるのです。^^

流行や他人の作品に引っ張られすぎない

 優れた作品を観ることは、上達するうえで大きな刺激になります。

 公募展や美術館で作品を観たり、画集やインターネットで多くの表現に触れたりすることで、新しい構図や技法の着想を得られることもあるでしょう。

 しかし、評価されている作品を意識するあまり、「このように描かなければ評価されない」、と考えてしまうと、自分自身の表現から少しずつ離れてしまうことがあります。

 もちろん、他の作品から学ぶこと自体に問題があるわけではありません。重要なのは、「その表現をそのまま取り入れる」のではなく、「なぜ自分はその作品に惹かれたのか」、を考えることです。

 大胆な構図に惹かれたのか。静かな余白に心を動かされたのか。深い黒の使い方に魅力を感じたのか。そこまで掘り下げれば、他人の作品から得た刺激を、自分自身の表現へ置き換えることができます。

 公募展で評価されることを意識するほど、他人の作品が気になることもあるでしょう。

 それでも最後に描くべきものは、「評価されそうな作品」ではなく、「自分が本当に描きたい作品」です。その姿勢が、長い目で見れば作者らしい表現を育てることにつながります。

繰り返し描く中から自分らしい表現を育てる

 「自分らしい作品を描きたい」と思っても、最初から自分の作風が明確に分かるとは限りません。むしろ、何枚も描き続ける中で、少しずつ見えてくるものです。

 完成した作品を並べてみると、「なぜか静かな場面を選ぶことが多い」「強い光より柔らかな光を好んでいる」「人物そのものより、その周囲の空間を大切にしている」、といった共通点に気づくことがあります。

 それは、自分でも意識していなかった「好きなもの」や「大切にしている感覚」、かもしれません。その共通点を無理に変える必要はありません。

 むしろ、自分が繰り返し惹かれているものを深く掘り下げていくことで、それが少しずつ作品の個性になっていきます。

 作風とは、奇抜な表現を考えてつくるものではなく、長く描き続ける中で自然に育っていく部分も大きいものです。

 過去の作品をときどき振り返り、「自分は何を描き続けてきたのだろう」、と考えてみてください。そこに、自分にしか描けない作品へつながる、大切な手がかりが隠れているかもしれません。次のような作品でも良いのです。

       第1回個展出品作品 夜の屋根 1996 F10 鉛筆画 中山眞治

なぜそのモチーフを描きたいのかを考え、自分自身が繰り返し惹かれてきたものを見つめ直すことで、作品には少しずつ「自分にしか描けないもの」、が表れてきます。

作品を通して「何を伝えたいのか」を明確にする

 公募展へ出品する作品を制作するとき、「上手に描くこと」に意識が向きすぎると、その作品で本当に伝えたかったものが見えにくくなることがあります。

 しかし、人の心に残る作品には、技術の奥に作者の思いや視点が感じられます。静けさ、孤独、希望、懐かしさ、生命力、時間の流れ。

 それを言葉で説明する必要はありませんが、「この作品で何を感じてもらいたいのか」、という軸を作者自身が持っていることで、構図や明暗、描き込み方にも一貫性が生まれます。

 本章では、技術を見せることだけで終わらず、作品を通して鑑賞者へ何かを伝えるために意識したいポイントについて考えていきましょう。

テーマがある作品には観る理由が生まれる

 作品のテーマというと、難しい思想や壮大な物語性を考えなければならないように感じるかもしれません。しかし、必ずしもそうではありません。

 「朝の光の静けさを描きたい」「年齢を重ねた人物の表情に刻まれた時間を表現したい」「誰もいない風景から、懐かしさを感じてもらいたい」、このような小さな思いでも、充分に作品のテーマになります。

 大切なのは、作者自身が「なぜこの一枚を描くのか」、を分かっていることです。テーマが明確になると、作品の制作の途中で迷ったときにも判断しやすくなるのです。

 たとえば静けさを表現したいのであれば、背景へ必要以上の情報を加えない。人物の孤独を伝えたいのであれば、周囲に広い空間を残す。

 希望を感じさせたいのであれば、光の扱いを作品の重要な要素として考える。このようにテーマは、構図や明暗、余白、描写の強弱を決める基準にもなります。

 「何を描いた作品なのか」だけでなく、「何を感じる作品なのか」。そこまで考えることで、鑑賞者にも作品をじっくり観る理由が生まれてくるのです。

説明しすぎず鑑賞者の想像する余地を残す

 作者に伝えたい思いがあるほど、「すべて分かってもらいたい」、と考えてしまうことがあります。しかし、美術作品の魅力の一つは、観てくださる人によって受け取り方が異なることです。

 作者が「孤独」、を描いたつもりでも、ある人には「静かな安らぎ」、に観えるかもしれません。作者が「別れ」、を意識して描いた作品から、別の人は「新しい始まり」、を感じることもあります。

 その違いは、決して作品が伝わらなかったということではありません。むしろ、鑑賞者自身の記憶や経験と作品が結びついた結果とも考えられるのです。

 そのため、作品の中ですべてを説明する必要はありません。背景の一部をあえて曖昧にする。人物の視線の先を描き切らない。光の向こう側に何があるのかを想像させる。

 こうした「分からない部分」、が残っていることで、鑑賞者は作品の中に自分自身の物語性を重ねることができます。

 作品は作者だけのものとして完成するのではなく、観てくださる人が何かを感じたとき、さらに広がっていくものでもあるのです。

 伝えたいことを持ちながら、答えまですべて与えない。その余地が、作品を長く観てもらうきっかけにもなります。

技法はテーマを伝えるための手段と考える

 鉛筆画やデッサンを続けていると、さまざまな技法を身につけていけます。細密描写、ぼかし、ハッチング、深い黒の表現、柔らかなグラデーションなど、それぞれに魅力があります。

 しかし、公募展へ出品する作品では、「技法を見せること」、そのものが目的になっていないか、ときどき確認してみることも大切です。

 たとえば、柔らかな空気感を表現したい作品に、すべての輪郭を鋭く描く必要があるでしょうか?静かな夜を描きたいのに、画面全体へ強いコントラストを入れる必要があるでしょうか?

 反対に、緊張感や力強さを表現したい作品なら、深い黒や鋭い明暗差が効果的になることもあります。つまり、技法には「これを使えば作品が良くなる」という絶対的な正解があるわけではありません。次の作品を参照してください。

      第3回個展出品作品 旅立ちの詩Ⅱ 2021 F4 鉛筆画 中山眞治

 作品のテーマに合わせて、必要な技法を選ぶことが大切です。「この描き方は上手く見えるだろうか」ではなく、「この描き方は、自分が伝えたいものに合っているだろうか」、と考えてみてください。

 技術がテーマを支えるようになると、作品全体に一貫性が生まれてきます。

 尚、上の画像にもあるように、「何かが迫って来る」ように描くことで、「緊張感」のある作品を制作できます。制作のヒントにしてください。^^

タイトルまで含めて一つの作品として考える

 公募展へ出品するとき、意外に悩むのが作品のタイトルではないでしょうか。

 制作を終えてから、とりあえずモチーフの名前を付けることもできます。しかし、タイトルも鑑賞者が作品を観るときの大切な手がかりになります。

 たとえば、夜の風景を描いた作品へ単純に「夜景」と付ける場合と、「静かな夜」「帰らない時間」「光の向こうへ」といったタイトルを付ける場合では、鑑賞者が作品から想像する世界も変わるのです。次の作品を参照してください。

      第3回個展出品作品 静かな夜Ⅲ 2023 F10 鉛筆画 中山眞治

 ただし、タイトルで作品の意味をすべて説明してしまう必要はありません。むしろ、作品を観たあとに、「このタイトルには、どんな意味があるのだろう」、と考えてもらえるくらいの余地があってもよいでしょう。

 タイトルを考えるときには、「この作品で最も大切にしたかったものは何だったのか」「制作中に何を感じていたのか」「鑑賞者にどのような余韻を残したいのか」、を振り返ってみてください。

 作品とタイトルが響き合えば、一枚の絵から感じられる世界はさらに広がります。タイトルは作品に後から付ける単なる名前ではなく、作品表現の最後の一部として考えてみましょう。

 尚、かの「マグリッド」の好んだタイトルのつけ方は、私も参考にしています。先ほどの黒い球が転がって来るよな作品にしてもそうですが、突飛押しもないテーマではだめですが、何となくそういう風にも観えるね。

 そんな感じのタイトルの方が面白いですよね。次の作品でも、そんな感じでタイトルをつけてみました。

        第1回個展出品作品 休日 1998 F10 鉛筆画 中山眞治

なかやま

テーマを明確にしながらも答えをすべて描き切らず、技法やタイトルまで含めて一つの世界をつくることで、鑑賞者が想像できる作品へと広がっていきます。

細部まで妥協しない「完成度」を高める

 公募展へ出品する作品では、最後まで作品全体を見直し、完成度を高めていく作業が欠かせません。ただし、完成度を高めることは、画面の隅々まで細かく描き込むことと同じではありません。

 構図、明暗、主役と脇役、緊張感、余白、細部の描写などが一つの目的に向かって整い、「これ以上加えることで、かえって作品の魅力を損なわないか」、と考えられるところまで仕上げることが大切です。

 制作時間が長くなるほど、自分では作品を客観的に観ることが難しくなっていきます。だからこそ、完成が近づいた段階では「描くこと」だけでなく、「観ること」、にも時間を使う必要があります。

 本章では、公募展へ送り出す一枚として、作品の完成度をさらに高めるために、最後の段階で確認したいポイントを考えていきましょう。

描き込みの量と完成度は同じではない

 鉛筆画やデッサンでは、細部まで細密に描かれた作品に大きな魅力があります。

 髪の毛一本一本、衣服の質感、肌の微妙な陰影、建物の細かな凹凸など、時間をかけて描き込むことで生まれる説得力は、鉛筆画やデッサンならではの魅力の一つです。

 しかし、「たくさん描き込んだ=完成度が高い」、とは限りません。主役も背景も同じ密度で描き込み、すべての輪郭を同じ強さで仕上げてしまうと、かえって画面が窮屈になったり、主役が埋もれたりすることがあります。

 完成度とは、描写量ではなく、それぞれの部分が作品全体の中で、適切な役割を果たしているかという視点から考える必要があるのです。

 主役には必要な描き込みを加え、背景は少し抑える。輪郭を明確にする部分と、空間へ溶け込ませる部分をつくる。あえて、スケッチブックや紙の白さを残す。こうした「描かない判断」も完成度を高めるための重要な選択です。

 描き足すことだけでなく、「ここはこれ以上描かない」、と判断できるようになると、作品全体にメリハリが生まれてきます。

作品全体を離れて確認する習慣をつける

 長時間制作を続けていると、どうしても目の前の細部ばかりを観るようになってしまいます。

 その結果、顔の一部分は非常によく描けているのに、作品全体では左右のバランスが崩れていたり、背景の一部が必要以上に目立っていたりすることもあるでしょう。

 そこで、制作の途中から、意識して作品との距離を変えてみましょう。2~3m離れて観る。少し時間を置いてから観る。鏡に映して観る。スマートフォンで撮影して、小さな画像として観る。

 このように観方を変えることで、制作中には気づけなかった違和感を発見できることがあります。とくに完成が近づいた作品では、細部を観る時間よりも、全体を観る時間を意識的に増やすことが効果的です。

 「主役はきちんと目立っているか」「明暗のバランスは崩れていないか」「視線が不自然な場所へ引っ張られないか」、こうした点を確認しながら、作品全体を一枚の画面として観直します。

 作家自身が一度「描く人」の視点から離れ、「観る人」の視点へ移ることが、完成度を高めるための重要な作業になるのです。

違和感の残る部分を最後まで見逃さない

 作品が完成に近づいたときに、「何となくここが気になる」、と感じる場所が出てくることがあります。形がほんの少し違う。影の方向に違和感がある。背景の一部だけ濃すぎる。人物と空間がうまくなじんでいない。

 そのような違和感が小さなものであっても、自分自身が気づいているのであれば、一度立ち止まって確認してみることが大切です。

 もちろん、修整を繰り返せば必ず良くなるわけではありません。鉛筆画やデッサンでは、手を加えすぎることで紙面を傷めたり、せっかくの柔らかな階調を失ったりする場合もあります。

 だからこそ、「何となく気になる」だけで闇雲に描き直すのではなく、その原因を考えます。形なのか。明暗なのか。構図なのか。周囲との関係なのか。原因が分かれば、必要最小限の修整で済むこともあるのです。

 最後の数%を整える作業は、目立たないものですが、その積み重ねが作品全体の説得力につながります。ここは非常に重要です。^^

「描き終えた」と「完成した」を区別する

 長い時間をかけて制作していると、「もうこれ以上描きたくない」、と感じる瞬間が訪れることがあります。

 その気持ちを「完成」、と考えてしまうこともありますが、「描き終えたこと」と「作品が完成したこと」、は少し違うのです。

 一度鉛筆を置き、翌日あるいは数日後に作品を観直してみると、制作中には観えなかった部分が急に気になることがあります。

 反対に、「ここをもっと描かなければ」、と思っていた場所が、時間を置いて観るとそのままで充分だと感じる場合もあるのです。

 完成を判断するときには、「まだ描ける場所があるか」ではなく、「この作品に、まだ描き足すことが必要か」、と問いかけてみてください。描き足すことでテーマがより伝わるのであれば、手を加える意味があります。

 しかし、単に画面を埋めるための描き込みであれば、そこでやめることも一つの大きな判断です。作品を完成させるとは、すべてを描き尽くすことではありません。

 自分が伝えたかったものが、一枚の画面として成立し、「ここで鉛筆を置く」、と決めることも、作品づくりの大切な技術なのです。

距離や時間を置いて作品を観直し、違和感を確認しながら、「何を加えるか」と同時に「どこでやめるか」、を判断することが、公募展へ送り出せる一枚へ仕上げるための大切な工程になります。

 作品を客観的に見直し、構図そのものを判断する視点については、こちらの記事も参考になります。                                    LS297「構図はどう選ぶ?鉛筆画で迷わないための判断基準7つの視点と使い分け方

審査員の記憶に残る「余韻」をつくる

 公募展では、技術的に優れた作品や強い存在感を持った作品など、多くの作品が並びます。

 その中で、作品の前を離れたあとでも、「なぜか、あの作品をもう一度見たい」「あの作品が気になる」、と思わせる作品があります。その理由は、必ずしも圧倒的な描写力や派手な表現だけではありません。

 作品から感じた静けさ、人物の表情、光の印象、説明できない物語性やイメージの広がりが心のどこかに残り、時間が経ってからでも思い出されることがあります。

 公募展で評価される作品を考えるとき、この「観たあとに何が残るのか」、という視点も大切です。

 本章では、一瞬の強さだけではなく、鑑賞後にも心に残る作品について考えていきます。

観た瞬間の驚きだけが印象ではない

 作品の印象を強くしようとすると、大胆な構図や強烈なコントラスト(明暗差)、細密な描写など、「一目で驚かせるもの」を考えがちです。

 もちろん、それも作品表現の一つです。しかし、心に残る作品がすべて強烈な第一印象を持っているとは限りません。

 最初は静かに観えた作品なのに、観ているうちに人物の表情が気になってくる。何も起こっていない風景なのに、その場所に自分自身が佇んでいる感覚に襲われる、作品の中に流れている時間を想像してしまう。

 会場を歩きながら、なぜかもう一度振り返りたくなる。そのような作品もあります。第一章(一目で惹きつける「第一印象」をつくる)では、第一印象の大切さを取り上げましたが、第一印象は鑑賞者を作品へ導く「入口」です。

 一方、余韻は作品から離れたあとにも残る、「出口」と考えることもできます。入口だけが強くても、そのあとに何も残らなければ、一時的な驚きだけで終わってしまうかもしれません。

 最初に目を惹き、近づくほど新しい発見があり、離れたあとにも何かが残る。そのような鑑賞の流れまで考えられると、作品の印象はさらに深くなります。

すべてを描き切らないことで想像を促す

 鉛筆画やデッサンでは、描写力が高くなるほど、「もっと描ける」という状態になります。しかし、描けるものをすべて描くことが、必ずしも作品にとって最善とは限りません。

 たとえば、背景の一部を柔らかな階調の中へ消していく。人物の視線の先に広い空間を残す。暗闇の中にあるものを完全には描き出さない。そうすることで、鑑賞者は見えない部分を想像するようになるのです。

 「この先には何があるのだろう?」「この人物はどこを見ているのだろう?」「この場面の前には、何があったのだろう?」、作品の中にこうした問いが生まれると、鑑賞は作品の前だけでは終わらなくなります。

 ここで重要なのは、単純に描写を省略することではありません。何を見せ、何を見せないのかを作者自身が意識して選ぶことです。

 描かれていない部分にも意味が感じられると、鑑賞者は自分自身の想像によって、その先を補ってくれます。すべてを語らないからこそ、作品を観てくださる人の中でイメージや物語性が広がっていきます。

静けさや物語性が作品を観る時間を長くする

 公募展で目立つためには、強い作品をつくらなければならないと思う人もいるかもしれません。しかし、「強さ」は必ずしも派手さだけから生まれるものではありません。

 静かな作品にも、人を長く立ち止まらせる力があります。誰もいない部屋に差し込む光。遠くを見つめている人物。闇の中に小さく浮かぶ光。時間が止まったような風景。

 そこに明確な出来事が描かれていなくても、鑑賞者が「この場面には何かがある」、と感じられれば、自然と作品を観る時間は長くなります。

 そのためには、作品の中に小さな物語性の入口をつくることも効果的です。人物の表情や仕草、置かれた小物、光の方向、背景の空間などが互いに関係し合うことで、「この場面の前後」、を想像できるようになるのです。

 イメージや物語性を、すべて説明する必要はありません。むしろ、何が起きているのかを断定できない程度の余地があるほうが、観てくださる人それぞれの経験や記憶と結びつきやすくなります。

 静かな作品ほど、鑑賞者自身が作品の中へ入っていける空間を残しておくことも大切です。

作者の感情が伝わる作品は記憶に残りやすい

 作品の制作では、構図、デッサン、明暗、質感、遠近感、緊張感など、多くの技術が必要になります。

 しかし、技術だけでは説明できない魅力を持つ作品があります。その一つが、「作者は本当にこれを描きたかったのだろう」、と感じられる作品です。

 モチーフに対する愛着。ある風景を観たときの感動。失いたくない記憶。静かな時間への憧れ。言葉にできない感情。

 そうしたものが制作の根底にあると、構図や光、描写の強弱など、一つひとつの判断にも自然な一貫性が生まれてきます。もちろん、作者の感情がそのまま鑑賞者へ同じ意味で伝わるとは限りません。

 しかし、作品に込められた思いが強ければ、観てくださる人がそこから何かを感じ取る可能性は高まります。

 公募展へ出品すると、「評価されるだろうか」、という気持ちが生まれるのは自然なことです。 それでも制作の最後に戻ってきたいのは、「自分は、この作品で何を描きたかったのか」、という原点ではないでしょうか。

 審査員の評価だけを意識してつくられた作品ではなく、作者自身が本当に描きたいものを追い求め、その思いを一枚の作品として完成させる。

 その結果として、観てくださる人の誰かの心に響き、作品を離れたあとにも記憶に残る。それこそが、公募展へ挑戦するうえでも、大切にしたい作品づくりの考え方ではないでしょうか。

なかやま

「評価される作品」を追いかけるだけではなく、「自分は何を残したいのか」、を考えることが、結果として人の心を動かす一枚につながっていきます。

 観てくださる人の感情を動かし、作品を見たあとにも余韻を残すための表現については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。                       LS314「観てくださる人の心に余韻を残す!感情が伝わる作品づくり7つのポイント【鉛筆画・デッサン】」

実践してみよう!公募展を意識した3つの練習課題

 公募展で評価される作品を目指すには、描写力だけでなく、構図や明暗、見せる部分と抑える部分などを自分自身で判断する力も必要です。

 本章では、今回ご紹介しました7つのポイントを、実際の作品づくりへ活かすための3つの練習課題に取り組んでみましょう。

同じモチーフで「3つの構図」を考えてみよう

【目的】
 同じモチーフでも、配置や余白によって作品の印象が大きく変わることを理解して、描き始める前に構図を考える習慣を身につけます。

【内容】
 人物・静物・風景など一つのモチーフを選び、小さな画面に3種類の構図を描きます。

 主役を中央に置く、左右のどちらかへ寄せる、小さく配置して余白を広く取るなど、できるだけ異なる構図を試してみましょう。細部は描き込まず、大まかな形と明暗だけで構いません。

【ポイント】
 3つの構図を並べ、「どれが最も目を惹くか」「主役が分かりやすいか」「自分が伝えたい雰囲気に合っているか」、を比較します。

【効果】
 モチーフをそのまま描き始めるのではなく、一枚の作品として画面全体を設計する力が身につきます。公募展用の作品を制作するときの構図選びにも役立ちます。

白・中間調・黒の「3段階」で作品を考えてみよう

【目的】
 細部を描き込む前に、作品全体の大きな明暗構成を捉え、主役を引き立てるコントラスト(明暗差)の使い方を身につけます。

【内容】
 描きたいモチーフを、「白に近い明部」「グレーの中間部」「黒に近い暗部」、の3段階だけに分けて描いてみます。細かな質感や輪郭にはこだわらず、大きな明暗のまとまりを意識してください。

【ポイント】
 最も強い黒をどこへ置くのか、スケッチブックや紙の白さをどこへ残すのかを考えます。完成したら2~3m離れて眺め、細部がなくても主役が分かるか確認してみましょう。

【効果】
 作品全体の明暗を客観的に捉える力が養われ、細部の描き込みに頼らず「見せ場」、をつくれるようになれます。鉛筆画やデッサンならではの、階調表現を活かすための基礎にもなります。

「描くもの」と「描かないもの」を決めて一枚を仕上げよう

【目的】
 すべてを同じ強さで描くのではなく、見せる部分と抑える部分を意識的に選び、作品にメリハリと余韻をつくる力を身につけます。

【内容】
 人物や風景などのモチーフを一つ選び、最も見せたい場所を最初に決めます。そこは丁寧に描き込み、それ以外の部分は描写を抑える、輪郭を背景へ溶け込ませる、あるいは余白として残してみましょう。

【ポイント】
 単純に描写を省略するのではなく、「ここは見せる」「ここは抑える」「ここは鑑賞者の想像に任せる」、と意図を持って判断することが大切です。

【効果】
 描き込みの量だけに頼らず、視線誘導や余白を使って作品をまとめる力が身につきます。「何を描くか」と同時に「何を描かないか」を選択する、作品づくりに必要な判断力も養われます。

まとめ|公募展で評価される作品は「技術+伝える力」から生まれる

          静かな夜Ⅱ 2023 F10 鉛筆画 中山眞治

 今回は、「公募展で評価される作品とは?」というテーマから、審査員の心を動かす作品づくりに必要な7つのポイントについてご紹介しました。

 公募展では、審査方法や評価基準がそれぞれ異なります。そのため、「このように描けば必ず入選できる」、という方法はありません。

 しかし、数多くの作品の中でも思わず目を留め、近づいて観たくなり、作品の前を離れたあとにも記憶に残る一枚には、描写力だけでは説明できない魅力があります。

 今回ご紹介しました7つのポイントを、もう一度振り返ってみましょう。

  • 一目で惹きつける「第一印象」をつくる。
  • 視線を導く「構図」で、作品の完成度を高める。
  • 明暗とコントラストで、「見せ場」をつくる。
  • 「自分にしか描けないもの」を作品に込める。
  • 作品を通して「何を伝えたいのか」を明確にする。
  • 細部まで妥協しない、「完成度」を高める。
  • 審査員の記憶に残る「余韻」をつくる。

 この7つは、それぞれが独立したものではありません。

 構図によって視線を導き、明暗によって見せ場をつくり、その中に作者自身の思いやテーマを込める。そして、必要な部分を最後まで整えながら、鑑賞者が想像できる余地を残す。

 それらが一つの画面の中で響き合うことで、作品は単に「上手に描かれた鉛筆画やデッサン」から、「何かを感じる一枚」、へと変わっていきます。

 そして、公募展へ挑戦するときに忘れたくないのは、「審査員に評価されること」、だけを作品づくりの目的にしないことです。

 評価を意識するあまり、自分が本当に描きたかったものから離れてしまえば、その人らしい作品の魅力まで弱くなってしまうかもしれません。

 「なぜ、このモチーフを描きたいのか」「この一枚から、何を感じてもらいたいのか」「自分は、どのような作品を残したいのか」、制作に迷ったときには、こうした原点へ戻ってみてください。

 公募展への挑戦は、入選や入賞という結果だけでなく、自分の作品を客観的に見直し、これまで身につけてきた技術や表現を一枚へ集約する機会にもなります。

 結果が思うようにならなかったとしても、そのために考え、試し、描き直した経験は、次の作品へとつながっていきます。技術を磨きながら、自分にしか描けないものを追い続ける。

 そして、「評価される作品」だけを目指すのではなく、観てくださる人が作品の前で足を止め、何かを感じ、会場を離れたあとにも、ふと思い出してくださるような一枚を目指す。

 その積み重ねの先に、公募展という場所でも、人の心を動かす作品が生まれてくるのではないでしょうか。

 公募展へ挑戦することは、入選や入賞だけが目的ではありません。一つの目標へ向かって作品をつくり、自分自身と向き合う時間そのものが、これからの人生に新しい張りや生きがいを与えてくれることもあります。

 年齢を重ねてから、もう一度「自分自身の人生をどう生きるか」を考えてみたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてください。                                     JT49「親を見送ったあと、自分の人生をどう生きる?|第二の人生を歩き始めるために

鉛筆画をもっと楽しみながら、自分らしい作品を描いてみませんか?

鉛筆画やデッサンの上達に役立つヒントや、作品づくりを楽しむための情報をメールマガジンでお届けしています。

技術を磨くだけでなく、「自分にしか描けない一枚」を目指したい方にも、これからの作品づくりに役立つ内容をお届けしていきます。

無料でメールマガジンに登録する

登録は無料です。いつでも解除できます。

 ではまた!あなたの未来を応援しています。