こんにちは。私は、アトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治です。
筆者近影 作品「人物Ⅶ」と共に
さて、スケッチ及び鉛筆デッサンと鉛筆画は、どれも鉛筆を用いたアート形式ですが、それぞれにおいて違いがあります。初心者の人がアートを始める際には、どれを選ぶべきか迷うこともあるでしょう。
この記事では、スケッチ及び鉛筆デッサンと鉛筆画の基本的な違いを分かりやすく解説します。
それぞれの特徴や用途、習得のコツを学ぶことで、自身に合ったスタイルを見つけるヒントになります。 作品を制作する楽しさを広げるために、ぜひ参考にしてください。
それでは、早速見ていきましょう!
スケッチ及び鉛筆デッサンと鉛筆画の基本的な定義や役割とは
第1回個展出品作品 葡萄 1996 F6 鉛筆画 中山眞治
スケッチ及び鉛筆デッサンと鉛筆画は、いずれも鉛筆を使った表現方法ですが、その定義や役割には明確な違いがあります。
本章では、モノトーンの鉛筆による制作を前提に、それぞれの基本的な特徴を解説します。
スケッチの定義
スケッチとは、人や風景を大まかに描写する方法のことであり、写生、素描という意味です。 下絵、略図という意味もなどあります。
鉛筆デッサンの定義と役割
鉛筆デッサンとは具体的なテーマを持たずに、形及び構成や構図(※)、光と影の関係を把握するための下絵や練習目的の描画です。完成を目的とせず、素早く描くことで対象を捉える力を養います。
例えば、人物や物体の基本的な形を短時間でデッサンし、全体のバランスを確認する作業として活用されます。これは後の作品制作の基盤として重要な役割を果たします。
尚、そもそもデッサンとは、我々が目で観ている現実の3Dのモチーフを、2Dに置き換えて制作する作業であるとも言います。
また、デッサンとは、モチーフを見て、明暗などを線の濃淡で描いていく手法のことであり、一般的に線画、あるいはほとんど彩色を施さない絵画表現を指します。
※ 構図については、あなたが楽しんで5作品ほど描き進み、「ある程度描くことに慣れて」こられましたら、研究を始めましょう。それは、最初からいろいろなことを考え込んでしまうと挫折の原因になってしまうからです。^^
構図は、作品をより見映えのする、あなたの感動や強調したい点を表現する際には極めて重要なポイントになります。公募展などへもやがて出品したいという希望がある人には、なおさら必要不可欠な要素です。
構図の関連記事は、この記事の最終部分に「鉛筆デッサンで風景を簡単に描くための基本構図やテクニック!」を掲載してありますので、関心のある人は参照してください。
鉛筆画の定義とその特徴
よく誤解されますが、鉛筆で描いた絵全般を鉛筆画と呼ぶ人もいますが、ここでは、「鉛筆を使って描かれる完成度の高いアート作品」を鉛筆画と呼びます。
尚、完成度の高い鉛筆画とは、公募展などで入選以上を目指せる鉛筆による、描画作品を指します。
その特徴は、さまざまな構成及び構図や各種技法を取り入れて画面全体を使い切り、光と影の劇的な対比及びディテール(詳細)や質感に重点を置いて、観賞用として制作されることが多い点です。
鉛筆の濃淡を活かして、リアルで劇的な描写を追求するため、充分な時間をかけて仕上げるのが一般的であり、静物画・人物画・動物画・風景画・心象風景画など、具体的なテーマを持つことが多いのも特徴となっています。
鉛筆デッサンと鉛筆画の役割の違い
鉛筆デッサンは「準備」や「練習」のための工程といえますが、鉛筆画は「完成」を目指した作品作りが目的です(スケッチとは、鉛筆デッサンの前段階の簡素なものということです)。
どれも、モノトーンで表現される芸術ですが、鉛筆デッサンを通じて構成及び構図や陰影の理解を深め、その技術を鉛筆画へと昇華する流れが一般的です。これらを組み合わせることで、アーティストとしてのスキルが磨かれます。
鉛筆デッサンと鉛筆画の技法の違いを比較する
第1回個展出品作品 ノスリ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
鉛筆デッサンと鉛筆画はどちらも鉛筆を使ったモノトーンの表現ですが、その技法には明確な違いがあります。
本章では、それぞれの制作目的や具体的なテクニックを比較し、アーティストがどのように使い分けるべきかを解説します。
鉛筆デッサンの技法 – 素早くモチーフの形状を捉える描写
鉛筆デッサンでは、スピード感と観察力が求められます。簡潔な線やラフな陰影で対象物の全体像を掴むのが目的です。
クロッキー(5~10分程度の短時間でのスケッチ)や、光源を意識したシャドウの配置により、形や構図を正確に把握します。細部よりも全体のバランスや動きを重視して捉える点が、鉛筆画とは大きく異なります。
鉛筆画の技法 – 細密な表現と質感の追求
一方、鉛筆画では、ディテール(詳細)とリアルさに重点を置きます。
細密なハッチング(一定方向の重ね塗り)やブレンディング(鉛筆の線をぼかして滑らかな陰影を作るテクニック)を駆使し、滑らかなグラデーション(階調)や質感を丁寧に描き出します。
たとえば、樹の樹皮や布の織り目などを再現する際には、鉛筆の硬さを使い分けながら濃淡を緻密にコントロールします。このような技法により、観賞用として完成度の高い作品を仕上げることが可能になります。
尚、重ね塗りの部分では、「クロスはチング」という方法もあります。これは、縦横斜めの4通りの方向からの線によって、必要とする面のトーンを自在に調整できる技法です。
この場合、描きにくい方向の線は、スケッチブックや紙側を90度回転させれば問題なく描くことができます。筆者はこの手法による描き込みが多いです。
鉛筆デッサンと鉛筆画の技法を活用するタイミング
鉛筆デッサンと鉛筆画は、制作プロセスで異なる役割を果たします。たとえば、鉛筆デッサンで構図や光の配置を検討し、その情報をもとに鉛筆画で細部を仕上げていく流れが一般的です。
また、鉛筆デッサンは試行錯誤や新しい技術の練習にも役立ちます。一方で、鉛筆画は完成品として観賞用に仕上げる目的で取り組みます。
これらの技法の違いを理解することで、制作の幅を広げ、自身の表現したいテーマに最適な手法を選ぶことができるようになれます。
初心者の人も、まずは鉛筆デッサンから始めることで、鉛筆画へのステップアップがスムーズになるでしょう。
初心者におすすめの鉛筆デッサンと鉛筆画の練習方法
第1回個展出品作品 金剛力士像(吽形) 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
鉛筆デッサンと鉛筆画のスキルを向上させるには、初心者の人に適した練習方法を選ぶことが重要です。
本章では、モノトーンの鉛筆による制作を前提に、効率的かつ楽しく取り組める練習法を紹介します。
練習ステップ1 – シンプルな形状を繰り返し描く
初心者の人に最適な練習は、円や四角、三角といった基本的な形状を繰り返し描くことです。この練習により、手の動きを慣らしながら、線の正確さと安定感を高めることができます。
また、形の大きさや角度を変えて描くことで、構図を捉える力も養えます。デッサンの基礎力向上に役立つアプローチです。
練習ステップ2 – 光と影を使った簡単な立体表現
モノトーンの鉛筆画の特徴である光と影を理解するには、シンプルな立方体や球体をモチーフにして練習するのが効果的です。
光源を設定し、影の濃淡を描き分けることで、奥行きや質感をリアルに表現するスキルを磨けます。この段階では、濃い鉛筆と薄い鉛筆を使い分けて、その効果を比較しながら試してみましょう。
球体については、自宅で取り組む場合には「白い卵」などでも代用できます。
練習ステップ3 – 写真や静物を使った観察練習
次のステップとして、身の回りにある簡単なモチーフ(野菜・果物・調理道具・食器類・花瓶など)や写真を題材に、実物も観察しながら描く練習を行います。
第1回個展出品作品 野菜 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
第1回個展出品作品 静物Ⅱ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
第1回個展出品作品 静物Ⅰ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
この練習は、鉛筆デッサンと鉛筆画の両方に共通する観察力を養い、モチーフの形状や陰影を正確に捉える力を向上させてくれます。最初はシンプルな構造のものを選び、徐々に複雑な対象に挑戦することが、挫折しないためのポイントです。^^
初心者の人がこれらの練習方法を順番に実践することで、鉛筆デッサンと鉛筆画の技術を基礎から確実に身につけることができます。焦らずに楽しみながら取り組むことで、スキルを着実に向上できます。
プロが語る!鉛筆デッサンと鉛筆画の選び方と活用例
第1回個展出品作品 マリリン・モンロー 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
鉛筆デッサンと鉛筆画は、それぞれの特性や目的に応じて使い分けることで、より魅力的な作品制作が可能になります。
本章では、モノトーンの鉛筆を前提としたプロの視点から、選び方と活用例を紹介します。
鉛筆デッサンを選ぶべきシーンと活用例
鉛筆デッサンは、アイデアを練る段階や構図を試すときに効果的です。プロのアーティストは、新しいプロジェクトの計画時に鉛筆デッサンを使って、モチーフの形状や光と影の配置を確認します。
また、短時間で動きや雰囲気を捉えるスキルを磨くためのトレーニングにも役立ちます。
鉛筆デッサンは下絵としてだけでなく、研究や準備のための重要なステップでもあります。
鉛筆画を選ぶべきシーンと活用例
鉛筆画は、完成度の高いアート作品を目指すときに適しています。たとえば、風景や人物の詳細を丁寧に描き込み、観賞用や(各種公募展への出品などへの)展示用の作品として仕上げたい場合に最適です。
日美展 大賞(文部科学大臣賞/デッサンの部大賞) 誕生2023-Ⅱ F30 鉛筆画 中山眞治
質感や光の反射をリアルに再現することで、観てくださる人に感動を与えられる作品を作り出せます。また、ギフトやインテリア用のアートとしても鉛筆画は人気があります。
鉛筆デッサンと鉛筆画を組み合わせた活用例
プロはしばしば鉛筆デッサンで基本構図やアイデアを練り、それを元に鉛筆画で詳細を描き込む流れを採用します(筆者の作品はすべてこれに当てはまります)。
たとえば、風景を描く場合には、最初に鉛筆デッサンで小さな別途のエスキース(下絵)や、本制作画面上を含めて全体のバランスを確認し、その後鉛筆画で質感や陰影を細かく表現します。
このプロセスにより、時間を効率的に使いながら高品質な作品を完成させることができます。 鉛筆デッサンと鉛筆画を目的に応じて使い分け、あるいは併せて適切に活用することで、表現の幅を広げることが可能になります。
どちらもアート制作において重要な役割を果たすため、自身のニーズに合った選択を心がけましょう。
鉛筆デッサンと鉛筆画で知っておきたいポイント
国画会展 会友賞 誕生2013-Ⅱ F130 鉛筆画 中山眞治
鉛筆デッサンと鉛筆画はどちらも鉛筆を使ったモノトーンのアートですが、目的や技法に応じた基本的なポイントを押さえることが大切です。
本章では、それぞれの制作を成功させるための重要なポイントを解説します。
鉛筆デッサンで重視すべき「形状」と「バランス」
鉛筆デッサンでは、モチーフの形状を正確に捉える力が求められます。輪郭線をシンプルかつ的確に描くことで、全体のバランスを整えることができます。
特に複雑なモチーフを描く場合には、初めに大まかな形を描き、その後細部を徐々に修整していく方法が効果的です。短時間での観察と描写が練習の基礎となります。
鉛筆画で重要な「質感」と「濃淡」の表現
鉛筆画では、質感をリアルに表現することが完成度を高める鍵となります。たとえば、樹の樹皮や布のシワなど、異なる素材の特徴を描き分けることで、作品に深みが生まれます。
出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明 氏
また、濃淡のグラデーションを正確に描くことも重要です。これにより、光と影が強調され、奥行きのある表現が可能になります。
鉛筆デッサンから鉛筆画への連携が生む効果
鉛筆デッサンと鉛筆画は、それぞれ単独でも有用ですが、連携して使用することでさらなる効果を発揮できます。たとえば、鉛筆デッサンを通じて構図や光源を確認し、その成果を元に鉛筆画で丹念に細部を仕上げると、作品の完成度が格段に向上します。
この連携は、アーティストが自身の意図を明確に伝えるための強力な手段となります。デッサンと鉛筆画、それぞれのポイントを理解し適切に活用することで完成度を深められます。
尚、この場合のポイントは、あなたの感動や強調したい点を構図上の重要な交点などへ入念に描き込んで、2分割線や斜線なども使いながらバランスを取り、それ以外の「脇役的なモチーフ」には、ある程度わかるくらいの描き込みにとどめましょう。
次の画像は黄金分割構図基本線ですが、EFIJなどの交点を効果的に使うことができます。画面の縦横にはそれぞれ2つづつ黄金分割線があり、斜線などにもモチーフの頭をかすめるように配置するとか、いろいろな使い方ができます。
何もかも事細かに描くことが、必ずしも良いことではないということです。そのように全部へ描き込み過ぎてしまうと、作品のどの部分を強調したいのかが分からなくなってしまうからです。
人によっては、そのような作品を「何が言いたいのかよく分からない作品」という人もいます。あるいは、全部のモチーフを細密に描き込んだとしても、あなたの感動や強調したいモチーフにはしっかりと「ハイライト」を入れましょう。
一方で、それ以外のモチーフには「意図的にハイライトを抑えた描き込み」をすることによって、あなたの感動や強調を引き立てられます。
初心者の人もこれらの基礎を習得することで、作品づくりをさらに楽しむことができるでしょう。
まとめ
青木繁記念大賞展 奨励賞 郷愁 2001 F100 鉛筆画 中山眞治
鉛筆デッサンと鉛筆画はどちらもモノトーンの鉛筆を用いたアートですが、目的や技法に違いがあります。それぞれの特性を理解し、適切に使い分けることで、作品の完成度を高めることができます。以下にポイントをまとめました。
鉛筆デッサンと鉛筆画の基本的な違い
- 鉛筆デッサン:練習や構図の確認を目的に制作。素早く形や光と影を捉える力を養う。
- 鉛筆画:完成度の高いアートを目指し、観賞用や展示用に制作される。ディテール(詳細)や質感、濃淡の表現が重要。
鉛筆デッサンの技法
- 短時間で形状や構図を捉える練習を繰り返す。
- 光と影を意識しながら、モチーフの全体像を描く。
- 試行錯誤を楽しみながら観察力を養う。
鉛筆画の技法と練習方法のポイント
- 質感を細密に描き分ける。
- 滑らかな濃淡表現で奥行きを出す。
- 観賞用作品としての完成度を追求する。
練習例
- 基本形状(円、四角、三角)を繰り返し描く。
- 球体や立方体を使って光と影を表現する。
- 写真や静物を観察して描写の正確性を高める。
鉛筆デッサンと鉛筆画の連携
- 鉛筆デッサンで構図や光の配置を確認し、その成果を元に鉛筆画で仕上げを行う。
- 両者を組み合わせることで、効率的かつ高品質な作品制作が可能になる。
鉛筆デッサンと鉛筆画を最大限活用するために
- 初心者の人は鉛筆デッサンで基礎力を養い、鉛筆画で応用する流れを試す。
- 明確な目的を持って制作に取り組むことで、作品の完成度が向上する。
これらを実践しながら、あなたらしい表現を追求してください。鉛筆デッサンと鉛筆画の違いを楽しむことが、あなたのアートの幅を広げる第一歩です!
ではまた!あなたの未来を応援しています。
スケッチ及び鉛筆デッサンと鉛筆画の違いを理解し、それぞれの役割を活用することで、作品のクオリティーが大きく向上します。初心者の人も、この基礎を押さえることで着実にステップアップできるでしょう。