こんにちは。私は、アトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治です。

筆者近影 作品「月のあかりに濡れる夜Ⅳ」と共に
さて、複雑な花の形を鉛筆画でリアルに表現するには、形の「再構成」が欠かせません。特に鉛筆画中級者の人にとって、花びらの重なり及び形の歪みや構造の理解不足は、大きな壁となります。
この記事では、観察と分解、そして再構成の3ステップを通じて、複雑な花を論理的かつ美しく描き上げるトレーニング方法をご紹介。
再構成とは、モチーフを要素ごとに分解し、再び意味のある形として組み直す作業であり、これにより、花の立体感や自然な流れを正確に捉えられるようになれるでしょう。
鉛筆画中級者の人が、ワンランク上の描写力を身につけるための実践的なアプローチを、順を追って解説していきます。
尚、あなたが既にたくさんの作品を制作していて、「そろそろ個展を開催したい」とお考えの場合には、この記事の最終部分に、有益な関連記事を掲載してありますのでご覧ください。
それでは、早速どうぞ!
複雑な花の観察力を高めるための視点

第1回個展出品作品 トルコ桔梗 1996 F6 鉛筆画 中山眞治
複雑な花を描く際には、まず重要になるのが「観察力」です。
鉛筆画中級者の人の多くが、技術的には描けるのに描写がリアルに見えない理由の一つは、形の捉え方に偏りがあるからです。
本章では、複雑な花の描写に必要な観察の3つの視点について解説します。
全体のシルエットと重心を意識して観察する

シュウメイギクの画像です
花を描き始めるときには、細かい部分に目がいきがちですが、まず意識すべきは全体の輪郭と重心の位置です。
特に、大輪の花や広がる形状のものは、重心のズレが構図全体に影響を及ぼします。最初に花全体の形を俯瞰し、中心からどの方向に広がっているか、どの角度で傾いているのかを観察します。
この段階でしっかり方向性を捉えることで、後の描写の精度が安定します。
繰り返し構造とズレの関係性を見る

フサザキスイセンの画像です
花には多くの場合、放射状や螺旋状の構造が見られます。
一見すると、すべての花びらが均等に見えるかもしれませんが、実際にはわずかな角度や長さの違いがあります。
大切なのは、その繰り返しのパターンを見つけると同時に、そこに生まれる「ズレ」を観察することです。
このズレを見落とさずに取り込むことで、花の自然さや生命感がよりリアルに表現できます。
花びらの厚みと立体的な重なりを読み取る

カーネーションの画像です
複雑な花は、花びらの重なりが密接で、立体感をつかむのが難しいと感じることが多いでしょう。ここで必要なのが、厚みの情報を視覚的に読み取る技術です。
花びらの端がどうカーブしているか、どの部分に影が落ちているかを観察することで、平面的な線だけではなく、空間的な広がりとして形を把握できます。
光と影の変化、輪郭の強弱から立体構造を導き出し、それをスケッチブックや紙面に反映させることが大切です。
複雑な花を描く第一歩は、適切な観察から始まります。全体像と重心をとらえ、構造の規則性とズレを意識し、花びらの立体感を読み取りましょう。
この3つの視点を明確に持つことで、描写力に格段の深みが加わり、技術的な上達以上の表現力が身につきます。
花が簡単に描ける別の方法
これから説明する方法につきましては、「そんな描き方もあるのか」程度の理解で結構ですので、記憶の端にとどめてください。
その方法は、花の輪郭を取り、離れて観たり、時間をおいてから観ることを含めて、輪郭が完成した時点で行います。
それは、輪郭全体に、HB等の鉛筆を優しく軽く持ち、縦横斜めの4方向からの線(クロスハッチング)で埋めましょう。
次に、「練り消しゴム」を用意して、練って先端を鋭いプラスドライバーやマイナスドライバーのような形状にして、実物のモチーフが光っている部分を制作画面上で拭きとります。
その後は、それぞれ必要な個所へ、必用なトーンを乗せていけば、完成へ向かえます。筆者はこの描き方で、花・静物・人物の髪・動物の毛並等も描いているのです。
何しろ簡単なので、試してみてください。次の作品の、花や一輪挿しについてもそのようにして描いています。^^

第1回個展出品作品 トルコ桔梗 1996 F6 鉛筆画 中山眞治
尚、何度試してもうまく描けない人へのアドバイスもあります。それは、「咲き姿の簡単な白い花」で、チューリップ・コスモス・すずらん・トルコ桔梗などの「造花」で練習を重ねてみましょう。
そして、「白い花の造花」にこだわるのは、「光と影」の状態がはっきりと確認できて、描きやすいからです。
形を分解して単純化するための手順

バラの画像です
複雑な花をそのまま写し取ろうとすると、形の情報量に圧倒されて描き進められなくなることがあります。
そこで有効なのが、「分解」と「単純化」です。花の形をパーツに分け、視覚的に扱いやすくすることで、構造が見えてきます。
本章では、実践的な分解の手順を紹介します。
基本図形に置き換える思考を身につける

スズランの画像です
花を描く前に、その全体像を円、楕円、円錐、球体などの基本図形に置き換えることで、空間の中での立体的な広がりが明確になります。
たとえば、バラは球体+螺旋構造、ユリはラッパ状+筒型などのように見立てることができ、初期段階の構成ミスを防ぐのに有効です。
これにより、光源との関係や傾きも把握しやすくなります。
鉛筆画中級者の人が構図を研究すべき理由

第2回個展出品作品 君の名は? 1999 F30 鉛筆画 中山眞治
あなたは、今まで鉛筆画の制作を続けて来て、「毎回同じような画風になってしまう」「作品全体のまとまりが悪く感じる」「もっと見映えのする作品にしたい」と感じたことはありませんか?
構図とは、先人の築き上げてきた美の構成に裏打ちされた、バランス・緊張感・力強さ・躍動感などを伝えることができる技術です。
構図は、作者とすれば「作品の魅力をより一層引き出せる技術」である反面、観てくださる人からすれば「見映えのする作品」に仕上げるための、重要なノウハウと言えます。
構図については、この記事の最終部分に関連記事「初心者でも簡単!プロが教える鉛筆画の構図の取り方やコツとポイント」を掲載していますので、関心のある人は参照してください。
各パーツの役割と配置を理解する
花びら、がく、茎、葉、それぞれの部位を個別の構造物として分けて考えると、描写における優先順位が明確になります。
たとえば、花びらの中央の湾曲やがくの位置関係が分かると、空間に対する奥行きの演出がしやすくなります。

ユリの画像です
また、それぞれのパーツの大きさや重なりの影響を理解することで、構図に奥行きと安定感を持たせることができます。
輪郭の複雑さを抽象化する訓練を行う

ホタルブクロの画像です
花びらのフチや重なりはとても複雑ですが、最初からそのまま描こうとせず、「波型」「角型」「楕円型」といった抽象化した形に変換して捉えると、描く際の混乱が減ります。
具体的には、輪郭をなぞるのではなく、形の流れや方向性を先に捉えて線を描く練習が有効です。これにより、描写に必要な線と不要な線の取捨選択が可能になります。
花の形を分解して単純化する作業は、複雑なモチーフを整理し、描く際のストレスを軽減する手段となります。
基本図形で全体を捉え、パーツごとの構造を明確にして、輪郭を抽象的に見直すことで、描写のコントロール力が高まり、迷いなく鉛筆を動かせるようになれます。
再構成でリアルさを高めるステップ

第2回個展出品作品 コスモス 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
複雑な花を描く工程において、観察と分解が終わったあとの最終段階が「再構成」です。
本章では、分解したパーツや要素をどのように組み直し、一つのリアルな花として仕上げていくか、その具体的なステップを解説します。
軸線と補助線で空間の土台を作る

オランダカイウの画像です
描き始める前に、まずは花の中心となる軸線を描き、その軸から放射状に補助線を広げていきます。
このとき、花の中心点の位置が画面のどこにあるかを明確にし、傾きや奥行きに応じて放射の角度を調整することで、空間の歪みを避けることができます。
軸と補助線によって、花びらやがくの配置が視覚的に安定し、描写の途中で構成が崩れるリスクを減らすことができます。
立体感と重なりを濃淡で再構成する

ラナンキュラスの画像です
再構成の過程では、花びらや茎の位置関係を明確にしながら、陰影を用いて立体的に組み直していきます。
手前のパーツは輪郭を強調し、奥にいくほど薄く柔らかく描くことで、自然な奥行きが生まれます。
特に、花びらの重なり部分は影の形や濃さを変えることで、層の厚みや透明感が表現できます。この段階での鉛筆の濃淡操作が、作品全体の印象を決定づける要素にもなります。
観察した微差を意識して構成に反映する

バラの画像です
同じ種類の花であっても、花びら一枚一枚の長さやカーブ、傾きには微妙な差異があります。
再構成の際は、こうした違いを意識的に取り入れることで、単なる図形の組み合わせではなく、実際に咲いている花の自然さを再現できます。
花びらの縁のわずかな折れや、がくの角度の違いなど、細かな部分にこそリアリティーが宿ります。均一化を避け、個別性を尊重する視点が求められます。
再構成は、描いたパーツをつなげて一つの花として完成させる重要なステップです。軸線と補助線で空間を整え、濃淡で奥行きを作り、微差で個性を表現することで、リアルで説得力のある花の描写が完成します。

分解から始めた作業が、この再構成によって統合され、作品全体の完成度を大きく引き上げることになります。
描いた花を客観的に見直すチェック法

椿Ⅱ 2024 SM 鉛筆画 中山眞治
完成した花の作品を観て「上達した」と感じても、それが的確な構成(※)や構図(※)になっているかどうかは別問題です。
鉛筆画中級者の人にとって、最も伸びるための重要な要素は、描いた後の「客観的な見直し」にあります。
本章では、構図にも充分意識を配り、再構成された作品を確認して、改善点を見つけるための具体的なチェック法を解説します。
※ 構成とは、作品を作るにあたってどんな要素を入れていくか、どんなテーマで、どんなふうに作っていくか、などの全体的な組み立て要素。色の明暗、モチーフは何を入れるか、などなど。
※ 構図とは、作品の見た目でのバランス。見え方。
全体のバランスを離れて確認する

さつきの画像です
作品の輪郭を描き終わっても、そのままの状態にしているのでは、全体を適切に確認できません。いったん席を立って2〜3メートル離れ、作品全体のバランスや傾き、重心のズレの確認が必要です。
モチーフの中心がずれていないか、花びらが一方向に偏っていないかを意識して観ると、構図の歪みが浮かび上がります。
この工程は、構図の安定性や視線の流れを整えるために有効です。
反転・写真化で構造の違和感を探る

バラの画像です
作品を左右反転したり、スマートフォンで写真に収めて白黒化してみると、意外な歪みに気づけます。
我々人間の目は、慣れると補正してしまうので、視点を変えることによって初めて歪みが観えるようになります。
また、写真を通して第三者に意見を求めることで、自己評価の偏りを修整できます。
他者の作品と比較して構成力を測る

マーガレットの画像です
過去に自身が描いた花や、他者の優れた作品と見比べることも大切です。
自身の再構成がどれほど自然か、あるいは立体感に差があるかを比べてみることで、現在の実力や改善点が明確になります。
第三者の作品に学びつつ、自身の中にある構成の癖や省略の傾向を理解すると、次の制作につながるヒントも得られるでしょう。
描いた作品を客観的に見直すことは、再構成力の完成度を高める最後のステップです。離れて観る、反転して確認する、他者の作品と比較することは重要です。
この3つのアプローチを習慣化すれば、構成の甘さに早期に気づき、描写の確度を高めていくことができます。
再構成力を高める日々のトレーニング

第3回個展出品作品 椿Ⅰ 2024 SM 鉛筆画 中山眞治
再構成力は、一度身につければ終わりではなく、日々の積み重ねによって洗練されていきます。
特に、鉛筆画中級者の人は、「描く前の思考力」を高めることで、描写の正確さだけでなく表現の幅を広げられます。
本章では、再構成の感覚を日常的に育てるトレーニング法を紹介します。
身の周りの花をデッサンし構造を意識する

バラの画像です
日々、目にする花を短時間でデッサンする習慣は、再構成の基礎力を鍛えるためには効果的です。
花を1分間観察し、次の3分で大まかな構造を描くという訓練を繰り返すことで、瞬時に軸線やパーツ配置を組み立てる力が養われます。
形を覚え、スケッチブックや紙面に構造を再現する力が自然と身につきます。
画像に補助線を描いて構成分析する

カラタネオガタマの画像です
花の画像を印刷し、上からトレーシングペーパーなどで軸線や補助線を描き込んでいく方法も効果的です。
実物を描くよりも、じっくり構造を確認できるため、再構成の思考回路を定着させやすくなります。
放射状の配置、花びらの角度、重なりの方向などを繰り返し確認することで、構成の成り立ちを見抜く力が養われます。
想像で花を再構成する練習を取り入れる

アイリスの画像です
実際の花を観ずに、頭の中のイメージをもとに花を再構成して描く訓練も有効です。
この方法では、記憶力と構成力の両方が試されるため、観察後の情報処理の訓練として優れています。
例えば、1日1種の花を観てから「5分後に描く」というルールで続けると、構造の記憶が強化され、再構成力の向上につながります。
再構成力を高めるには、実際に描く経験と、構造を分析する思考訓練が必要です。

日常のスケッチ、画像分析、記憶描写の3つをバランスよく取り入れられれば、構成力の精度が上がり、複雑なモチーフにも柔軟に対応できるようになれます。
練習課題(3つ)

第3回個展出品作品 シャクヤク 2024 SM 鉛筆画 中山眞治
本章では、あなたが実際に手を動かして練習できるように、練習課題を用意しました。あなたの身の回りにあるモチーフを活用して、試してみてください。
練習課題①:複雑な花を3段階に分けて描く構成トレーニング
目的: 再構成力を高めるために、段階的な描写プロセスを意識する。
内容:
画像や実物の花(例:バラ、ユリなど)を選ぶ。
- 第1ステップ:花全体のシルエットと軸線だけを描く。
- 第2ステップ:花びらやがくを単純図形に置き換えて配置。
- 第3ステップ:陰影や細部を加えてリアルに再構成する。
ポイント: 各ステップで時間を区切り、迷わず線を引く意識を持つ。

練習課題②:左右反転と補助線による構造チェックデッサ
目的: 再構成した形の精度とバランスを視覚的に検証する。
内容:
- 花の作品を描いて左右反転して確認する(ミラー、PCソフト可)。
- 補助線(中心軸・放射線)を後から加えて配置バランスを分析。
- 重心や傾きのズレをチェックし、再度描き直して修整する。
ポイント: 自作デッサンを他者視点で分析する習慣をつける。

練習課題③:記憶による花の再構成チャレンジ
目的: 観察後の構造記憶と再構成力の連動を強化する。
内容:
- 花を1分間だけ観察し、紙を裏返して5分間他の作業をする。
- 観察した花を記憶を頼りに、構造・軸線・花びらを再構成して描く。
- その後、元の花と、描いた絵を比較し、記憶のズレを分析する。
ポイント: 記憶からの再構成力は、即応的な構成判断力を鍛えるのに効果的。

まとめ:複雑な花を描きこなすために必要な「再構成力」を習得しよう

第3回個展出品作品 睡蓮 2024 SM 鉛筆画 中山眞治
複雑な花をリアルに描く力を身につけるためには、単なる描写技術ではなく、観察・分解・再構成という思考のプロセスが必要不可欠です。
鉛筆画中級者の人が次のレベルに進むには、この3段階を意識して取り組むことが何よりも重要です。
この記事では、それぞれのステップに具体的な視点と練習方法を設けることで、確実な実力向上を図れる内容を紹介しました。
特に、再構成力は観たものを理解し、頭の中で整理してから描き出す力であり、花の複雑な構造を正確に再現する鍵となります。
以下のポイントを意識して、継続的にトレーニングしていかれれば、描写の説得力と表現の幅が格段に広がっていくはずです。
再構成力を育てるためのチェックポイント
- 花の全体像、重心、傾きなどを観察する力を養う。
- 繰り返し、構造や立体的な重なりに注目して形を理解する。
- 花を図形に分解し、要素ごとの役割や配置を明確にする。
- 軸線や補助線を用いて、構造を安定させながら再構成する。
- 濃淡で立体感を表現し、微細な差異でリアルさを強調する。
- 描いた作品を客観的に見直し、構成の精度を分析する。
- 日常的に花をデッサンし、記憶による再構成練習を行う。
- 他者の作品と比較し、自身の構成力の傾向を把握する。
- 観察→分解→再構成の流れを繰り返し実践する。
- 表面的な模写から一歩抜け出し、意識的に構造を描く思考へ転換する。
こうした学びと実践を通して、鉛筆画における花の描写力は飛躍的に向上します。
複雑な形を見ても怯まず、整理して再構成する力を育てることで、鉛筆画中級者の人は確かな表現力を手に入れることができるのです。
ではまた!あなたの未来を応援しています。
描いて行くうえでは、さまざまな描き方がありますので、自身に合った描き方を身につけましょう。