鉛筆画の描き方が初心者の人にもよくわかる!基本から応用まで徹底解説

 こんにちは。私は、アトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治です。

         筆者近影 作品「パーティーの後で」と共に

 さて、鉛筆画は、シンプルでありながら深みのある表現ができる魅力的なアートです。初心者の人でも、すぐに始められるのが特徴ですが、基本的なテクニックや準備が必要です。

 この記事では、初心者の人向けに、鉛筆画の描き方をステップバイステップで解説し、最初の一歩から、今後の道しるべまでサポートします。

 尚、ところどころで筆者の作品画像が出てきますが、鉛筆画ではこんな風にも描けますよということを説明する意図で掲載してますので、そのようにご理解ください。^^

 それでは、早速見ていきましょう!

Table of Contents

鉛筆画の基本的な道具と使い方

筆者の描画道具入れの画像です

 鉛筆画を始めるためには、まず基本的な道具の選び方と、使い方を理解することが大切です。本章では、適切な道具を揃えることで、初心者の人でもスムーズに描き進めるられることについて解説します。

鉛筆の種類と選び方

 鉛筆には、H系統からB系統まで硬さに応じた種類があります。一般的に、特に描き始めの大きく輪郭を取る際などでは、初心者の人はBや2Bを選ぶと扱いやすいです。

 H系統の硬い鉛筆は、細かい線や微妙な陰影を描くのに適しており、B系統の柔らかい鉛筆は濃い影や太い線を描くのに適しています。

 初心者の人が最初に揃えるべき鉛筆の種類は、同じメーカーの製品で、2H・H・HB・B・2B・3B・4Bの合計7本です。これだけあれば当面の制作ができますが、あなたが鉛筆画を続けていきたいと思えるようになれましたら、徐々にトーンの幅を広げていきましょう。

鉛筆のメーカーは、ステッドラー、ファーバーカステル、三菱ユニ、トンボ、などたくさんありますが、どこででも購入できるステッドラーがオススメです。筆者の使用している鉛筆も、ステッドラーが全体の約7割です。

スケッチブックや紙の選び方

 スケッチブックや専用の紙の紙肌も、鉛筆画の仕上がりに影響を与えます。滑らかな紙は鋭い線を描くのに向いており、ざらついた紙は豊かなテクスチャ(感触や風合い)を表現できます。

 スケッチブックや紙は、中目程度の質感で中程度の厚さを持つものを選ぶと、鉛筆の乗りが良く、破れにくくもあり、陰影の表現がしやすくなります。そして、スケッチブックの大きさは、一番最初に取り組む際にはF6くらいの大きさが扱いやすいです。

 しかし、あなたが、やがて市の展覧会などへも出品したいと考えるのであれば、F10のスケッチブックもオススメです。その理由は、F10の大きさであれば、一般的にどこの市の公募展にも出品できるからです。

スケッチブックや専用の紙は、できるだけ紙肌の白いものを選びましょう。その理由は、鉛筆画のハイライト部分は「紙肌の色」をそのまま使うので、できるだけ白い方がハイライトを強調しやすいからです。

練り消しゴムとプラスチック消しゴムの使い分け

   練り消しゴムの画像です

 練り消しゴムは柔らかく、練って形を変えられるので、ハイライト部分の強調や、部分的に明るさを調整する際に便利です。また、プラスチック消しゴムは、画面に深めに食い込んだ鉛筆を消すのに向いています。

 初心者の人は、練り消しゴムとプラスチック消しゴムの両方を使い分けることで、表現の幅を広げられます。

      第1回個展出品作品 ブラザーウルフⅠ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治

 練り消しゴムは、練って鋭いプラスドライバーやマイナスドライバーのような先端にして、ハイライト部分を丹念に拭き取ったり、人や動物の毛並を描く際に便利に使えます。

 上の作品でも、毛並みを描くことに活用していますが、その方法は、毛並みを描き込みたい面をHBの鉛筆で縦横斜めの4通りの線でクロスハッチングを行います。

 そして、そこへ練って鋭いプラスドライバーのような形状にした練り消しゴムで「描き込んで」います。作品の狼のあごの下あたりが分かりやすいです。

 また、花の雄しべや雌しべのあたりには、一旦描き込む面をトーンで埋めた後で、「当たりをつける」ための点を打ったりと、幅広く活用できます。

 尚、プラスチック消しゴムは、スケッチブックの画面に深めに食い込んだ鉛筆跡も消すことができますが、それほど使いません。

なかやま

鉛筆画の制作においては、練り消しゴムを一つ買っておけば当面制作できるよ!

基本ツールの保管と手入れ

筆者のアトリエです

 鉛筆や練り消しゴムは、使い込むほどその利便性を実感できますが、適切な保管と手入れも大切です。

 鉛筆は、芯を長く削りすぎると折れやすくなるので注意し、練り消しゴムは気温の高い時期によく練って、直射日光の当たらないケースなどに収納することで、性能が保たれてスムーズな制作に役立てられます。

 練り消しゴムは、10月頃~4月頃の、気温の低い時期には練ることが難しくなるので、暖かいうちに何回か練っておけば、気温の低い時に練る必要ありません。

 しかし、使用頻度が高い場合には、練り消しゴムの表面が鉛筆の粉(グラファイト)で汚れるので、そんな時には、「温風ヒーター」などの温風を2~3分当てておけば、練ることができます。

 筆者の場合の、練り消しゴムの練り方は、引き延ばして半分に折り、ぞうきんを絞るように捩じって、さらに引き延ばして半分に折り、と2~3回繰り返せば充分です。

 これらの基本ツールとその使い方を理解することで、初心者の人でも安心して鉛筆画を始められます。質の良い道具を適切に使うことで、描く楽しさを維持できます。

なかやま

鉛筆画の道具は、専用の収納ケースに入れて保管することがオススメです。100円ショップで280mm×390mm程度の「書類入れ」にバンダナを敷いて、道具入れにもできるよ!上の画像を参照してみて!

線の描き方と濃淡のつけ方

 鉛筆画の基本は、線の描き方とその濃淡の度合いを理解することから始まります。線を効果的に使いこなすことで、作品に立体感や奥行きを与えられます。本章では、さまざまな使用方法による描写方法を解説します。

力加減による線の変化

鉛筆の持ち方Ⅰ

鉛筆の持ち方Ⅱ

鉛筆の持ち方Ⅲ

 線の強弱は、鉛筆の持ち方と筆圧で大きく変わります。軽く握って優しく描くと、薄く滑らかな線が描けます。

 逆に、しっかり握って強い力を加えると濃くて太い線が描けます。初心者の人は、まず自身の筆圧を確認しながら、さまざまな力加減で線を描いてみる練習をすると効果的です。

 そして、鉛筆の持ち方は、これでないといけないということはありませんので、あなたの握りやすい状態で描いていきましょう。

 ただし、描き始めの大きな輪郭を取る際には、上の画像の「鉛筆の持ち方Ⅰ」のように、鉛筆を人指し指・中指・親指でつまむように優しく軽く持ち、肩と腕を振るって大きな動作で描いていくようにすると、安定した描線を得られます。

 また、細密描写をする際には、上の画像の「鉛筆の持ち方Ⅱ」のように、文字を書くときの握り方で進めていきましょう。

 描き方のコツは、大きな輪郭から徐々に細かい部分へと描き込む順序が良いです。描き始めから、一つの部分だけを細密に描いているようでは、全体のバランスを保てません。

 尚、上の画像の「鉛筆の持ち方Ⅲ」のような鉛筆の持ち方は、鉛筆の芯を寝かせて、画面に幅広の線を使う描写の際などに有効です。

大きく輪郭を取る描き始めでは、鉛筆を優しく軽く持ち、肩と腕を振るって描くような大きな動作のイメージで描き、徐々に全体を描いていくことが極めて重要です。

ハッチングとクロスハッチングのテクニック

国画会展 入選作品 誕生2001-Ⅱ F80 鉛筆画 中山眞治

 ハッチングは、並行する短い線を重ねることで陰影をつける技法です。一方、クロスハッチングは、縦横斜めの4方向からの線を交差させて描線部分を埋めていきます。

 これらの手法により、滑らかなグラデーション(階調)や濃淡の表現ができます。濃い部分を作るには、線を密に重ねることがポイントです。

 特に、濃い面を作る場合には、このクロスハッチングを繰り返すことで、濃いトーンの面を得られます。

 筆者の場合には、画面上で地表部分を描くことがたまにありますが、Bや2Bなどの鉛筆で、根気よくクロスハッチングを繰り返すことで、透明感さえ得られています。上の作品の地表部分を参照してください。

鉛筆画でのトーンの面は、クロスハッチングによる描線によって、淡い微妙な面から濃く背景を引き立てるトーンまで、すべてに応用できます。

グラデーションの練習方法

水滴Ⅵ 2019 F1 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆を使ったグラデーション(階調)は、筆圧とハッチングやクロスハッチングの組み合わせで表現します。

 濃い部分から、徐々に薄くしていく練習を繰り返すことで、滑らかな遷移ができるようになれます。グラデーションの幅を広げることが、よりリアルな立体感を生み出す鍵でもあります。

 同じ方向での描線では、必要とする濃度や均一なトーンを得られないので、クロスハッチングの技法はとても重要です。上の作品の淡い部分には、2Hの優しく軽いタッチのこの技法で、繰り返し描き込むことによって面を埋めています。

なかやま

クロスハッチングは、縦横斜めの4方向からの線の重なりで面を埋めていきますが、描きにくい方向の線は、スケッチブックや紙の向きを変えることで、問題なく描くことができるよ! 

描き始めの注意点

遠い約束 2023 F1 鉛筆画 中山眞治

 ところで、描き始めの輪郭線を描き終えたところでは、一旦休憩を入れてから、改めて画面を点検してみましょう。一気に描き進んでしまうと、後から修整が利きにくい状態になってしまうこともあるからです。

 筆者の場合でも、毎回の制作において、最初の輪郭を取った直後には必ず一旦休憩をはさんで、改めて画面に向き合いますが、必ずと言ってよいほど修整すべき点が2~3ヶ所見つかります。

 この点検作業を省いてしまうと、どんどん描き進むうちに、ふと根本的な修整が必要になったことに気づく瞬間がやってくることがあります。筆者は、この失敗を何回も経験しています。^^

 そして、かなり描き進んでからの修整となると、大きな修整となってしまい、画面も汚れますので、早い段階での点検はとても重要なひと手間と言えます。尚、上の作品の輪郭部分でも、休憩後にデッサンが適切でないことが分かり修整しています。

 そして、修整が済んだ後の手順は、あなたの描こうとしている画面の中で一番トーンの濃いところから描き始めて、徐々に明るいところへと描き進むことで、描きやすさが増します。

描き始めの際には、大まかな全体の輪郭を捉えたあとに、休憩を挟んで、改めて画面に向き合い点検することは極めて重要です。

線の方向とリズムの活用

        月夜の帰り道 2019 F3 鉛筆画 中山眞治

 線の方向やリズムは、モチーフの形状や動きを表現するために重要です。縦線、横線、斜め線を組み合わせて描くことで、物体の質感や構造を表現できますし、画面上の表現のバリエーションも増えて、躍動感を表現することができます。

 具体的には、上の作品でもいろいろな描線を取り入れていますが、丸い地平線は、「大地の広がり」を表現するための構図を使っています。

 大地とは、マクロな視点では緩やかな曲線になっているのです。このような意図的なデフォルメも描いていて楽しいものです。鉛筆画の制作においては、リズム感を意識しながら線を描くことで、単調にならない活き活きとした表現も可能になります。

 線の描き方と濃淡のつけ方をマスターすることで、鉛筆画の表現力が格段に向上します。繰り返し練習し、力加減やテクニックを使いこなせるようになりましょう。

 筆者は、描き始めのころ、何もわからなかったので垂直と水平を多用していましたが、確かに何枚か同じように描いていて、変化の乏しい印象を感じましたので、意識的にさまざまな線を取り入れることにしたところ、画面に変化をもたらすことができるようになれました。

垂直と水平を多用した画面は、単調な印象の作品になりがちなので注意が必要です。

初心者の人はシンプルなモチーフから始めよう

 初心者の人が、最初に取り組むべきモチーフは、できるだけ単純で光と影の状態を確認でき易いものを選ぶべきです。 上の画像のようなモチーフは、描くことに慣れて来てからチャレンジしましょう。

 本章では、初心者の人が最初に選ぶべきモチーフの選び方や扱い方について解説します。

初心者の人にオススメなモチーフとは

           リンゴ 2018 F3 鉛筆画 中山眞治

 各種石膏モチーフなどは、どこの絵画教室でも常備していて、教室にはイーゼルやイスもあるので、講師の指導を直接受けながら描き進むことができます。

 一方、自宅で始めたい人の場合には、白い卵及び白無地のカップ&ソーサーや白いマグカップなどを選びましょう。その理由は、白無地のモチーフであれば、光と影の状態を「つぶさ」に観察できるからです。

 この、光と影の観察は、リアルな作品の制作に結びつくので、欠かせない学習です。それ以外にも「白無地」のモチーフがあれば、何でもOKです。100円ショップでも見つける気になれば何点でも見つけられるはずです。

 そして、鉛筆画を始める際、最初のモチーフ選びは重要です。初心者の人は、描きやすく基本技法を身につけやすい、シンプルなモチーフから始めることが重要なのです。

 また、初心者の人に最適なモチーフは、形が単純で観察しやすいものが最適です。例えば、上の作品のリンゴなどの果物や野菜類、または調理器具などが良いでよう。

 これらは、円形や楕円形を基にした構造を持ち、陰影の付け方や立体感を学ぶのに適しています。また、シンプルなモチーフを描くことで、基本的な線の描き方や濃淡のつけ方に集中できるため、初心者の人の練習にぴったりです。

 筆者は、描き始めに際しては絵画教室へ行きましたので、各種石膏モチーフを色々描きましたところ、光と影の関係をじっくりと観察できたので、その学習がその後の制作においてしっかりと役に立ちました。

なかやま

初心者の人は、白無地で複雑な形状ではないモチーフから取り組み、光と影の状態を観察することから始めよう!      

モチーフの選び方のポイント

第1回個展出品作品 野菜 1996 F10 鉛筆画 中山眞治

 モチーフを選ぶ際は、構造が理解しやすく、かつ複雑すぎないものを選びましょう。制作画面上のサイズや角度を変えることで、同じモチーフでも異なる練習に役立てられます。

 例えば、コップを上から見た場合と、横から見た場合では陰影のつけ方は異なるので、複数の視点から練習することができます。

 上の作品では、「黒い下敷き」の上にモチーフを乗せていますが、その影までがキレイに映り込むので、それらも丹念に描き込み、仕上時においては、その影には「HBのクロスハッチング」を行って、実像が引き立つようにしています。

 この「黒い下敷き(A4サイズ)」は、どんなモチーフにも使えますので、1枚用意しておきましょう。魅力的な描写を実現できます。

なかやま

モチーフは、絵画教室へ行かなくても、あなたの身の回りの品々で、充分制作を始められます。白い卵、白無地のカップ&ソーサー、白いマグカップ、調理器具、野菜類など、少なくとも10作品以上は制作できるはずだよ!

線と形を捉えるための練習

 シンプルなモチーフを描くときには、まず全体の形を捉えることが重要です。

 スケッチの段階で正確な形を把握し、その後、徐々に細部へと描き進むことで、バランスの取れた作品に仕上がります。

 初心者の人にとって重要なのは、複雑なディテール(詳細)にこだわりすぎず、全体のバランスを取ることに集中することです。

 筆者は、制作の最初の頃に近所の公園へいき、デジカメでいろいろなものを撮影して帰ってきましたが、それぞれが複雑すぎて挫折しそうになったことがあります。帰宅後には、白いマグカップの描写から始めました。^^

描き始めの一番重要な点は、あなたの描こうとしている画面全体のバランスを見ながら、大きな構成要素から、徐々に小さな構成要素を描いていくことが必要です。

シンプルなモチーフから描き始めることで得られるメリット

 シンプルなモチーフは、成功体験を積みやすく、モチベーションを維持しやすい点がメリットです。

 そして、短時間で仕上げられるため、繰り返し練習できて技術の向上に繋がります。また、習得した技術は、より複雑なモチーフに挑戦する際にも応用できます。

 シンプルなモチーフを基に練習を重ねることで、初心者の人でも確実にステップアップの土台が築けるでしょう。

 尚、仮にあなたが、花を描きたい場合には、生花はすぐに「しおれてしまう」ので、その場合には、「造花」で描くことがオススメです。初心者の人の場合には、どうしても最初の内は時間がかかるからです。

 筆者は、鉛筆画を描き始めたばかりの頃に、咲き姿の単純な「白いトルコ桔梗」の生花を一輪買ってきたことがありましたが、3時間くらいたったころから花がしおれてきてしまい制作を断念したことがありました。

 そこで、このような失敗の経験から、造花の花を描くことにしました。当たり前ですが、造花はしおれたり花が下を向いてしまうようなこともなく、「焦って描く必要もない」ので、ゆったりとくつろいで複数枚描くことができました。

あなたにオススメなモチーフは、シンプルなモチーフです。花ならば、「白い」「咲き姿の単純な」チューリップ・コスモス・トルコ桔梗・すずらんなどが良いでしょう。「白い」の理由は、前述していますが、「光と影」をしっかりと観察できるからです。

鉛筆画における陰影と立体感の表現方法

蕨市教育委員会教育長賞 灯(あかり)の点(とも)る静物 2000 F30 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画の魅力は、陰影を使って平面的な紙の上に、立体感を生み出すことにあります。適切な陰影の付け方をマスターすることで、作品にリアルな深みを加えられます。

 本章では、制作上の「効果的な光と影」の捉え方や、制作上のテクニックについて解説します。

光源の確認と観察

 陰影を表現する際に、まず確認すべきは光源の位置であり、光がどこからきてモチーフに当たっているのかを確認することで、明るく光っている部分と影になっている部分をしっかりと観察できます。また、光源を一つに固定する場合には、安定した陰影を得られます。

 室内の照明で制作するのも良いのですが、あなたのデスクの上にある自在に動く照明がある場合には、室内の照明を消して、その自在に動く照明を斜め上からモチーフに当てることで、描きやすいシンプルな光と影を得られます。

 また、ここでも「黒い下敷き」があると、きれいな映り込みまで描くことができて、「独特の世界」を表現することもできます。

 筆者は、光源の確認を曖昧にしたまま描き進んで、途中から大幅な修整をしなければならなくなったことがありますが、その次の制作からは、よく観察することで、余計な遠回りをすることもなく、画面も汚さずに制作していくことができるようになれました。

光源があってこそ、光と影の構成があるので、まずは最初に光源の位置を正確に確認しましょう。そして、モチーフにどのように光が当たり、どのような影ができるのかを充分観察することが重要です。

ハイライトと陰影のバランス

邂逅-Ⅰ 2019 F3 鉛筆画 中山眞治

 立体感を生み出すには、ハイライト(最も明るい部分)と陰影の対比を意識することが重要です。

 ハイライトの部分は光源に近く、光をしっかりと受け止めている部分であり、陰影は光が届かない部分です。中間のトーンをうまく繋げることで、滑らかな陰影が実現し、自然な立体感が生まれます。

 尚、影の中にも、たくさんの種類のトーンがある事を記憶しておきましょう。夜であっても、漆黒の闇がある一方で、ぼんやりとした影など、たくさんのトーンが存在しています。

 筆者は、ハイライトと陰影のバランスにおいて、ハイライトをより引き立てるために、背景に濃いトーンを配置することで、しっかりと効果が得られることを認識してからは、より「光と影の劇的な対比」を考えるようになりました。

 上の作品は、人物を黒く塗りつぶしていて、実際にはこのような情景はありませんが、人物を黒く塗りつぶすことによって、逆に背景を引き立てるための実験作品です。

ハイライトを一層引き立てるためには、より濃いトーンを同時に配置することが必要です。

グラデーションの滑らかな遷移

     第1回個展出品作品 マリリン・モンロー 1996 F10 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画における陰影は、段階的なグラデーション(階調)で表現します。柔らかく濃淡を遷移させることで、モチーフの丸みや凹凸を効果的に描き出せます。

 滑らかなグラデーションを作るには、鉛筆の持ち方や筆圧を調整しながら、ゆっくりと線を重ねていくことがポイントです。

 筆者の場合には、制作の対象が人物である場合には、顔及び肩や胸の陰影では、微妙なトーンを塗り重ねていくことになりますので、小さくたたんだティッシュペーパーで擦ることによって、微妙なトーンの調整もしています。上の作品を参照してください。

なだらかな曲面に対する陰影の入れ方では、薄い鉛筆で優しく丹念にクロスハッチングなどでトーンを重ねていくことがポイントです。特に、人物の顔及び肩や胸などへの陰影の入れ方では、優しく化粧を施すような滑らかな遷移を意識しましょう。

面を意識した陰影の描き方

 立体感を表現するためには、モチーフを多数の面の集合体として捉えることが効果的です。

 例えば、球体を描く際には、表面をいくつかの部分に分けて考え、それぞれに適切な陰影をつけると、より立体的に見えます。部分ごとの陰影を理解することで、複雑な形状も自然に描けるようになれます。

 上の画像の、球体自体にできているコアシャドウや球体の影が投映しているキャストシャドウの他にも、反射光や、ハーフトーンから明部へ、そしてハイライトと、リアルな表現をする際には欠かせない、いくつものポイントがあります。

 それらをよく観察して、あなたの作品に活かせるようにしましょう。またグラデーションの描写では、前述していますようなティッシュペーパー及び擦筆や綿棒などの道具を使うことで、滑らかなグラデーションを得ることもできます。

 筆者は、球体を初めて描いた時には、陰影の施し方に苦労しました。結果的には、球体はその丸い形状に沿った曲線を描き重ねていくことで表現しますが、それがよく分からなかったのです。

 しかし、モチーフをよく見て、その方法で描き進めることで、それらしい陰影を入れることができるようになれました。

なかやま

球体の陰影を学ぶことで、さまざまなモチーフの中でも、なだらかな形状のモチーフへ陰影を施すことができるようになれるよ!

鉛筆画の練習に最適な簡単ステップ

第1回個展出品作品 葡萄 1997 F10 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画を上達させるためには、段階的な練習のステップが重要です。

 本章では、シンプルで効果的な練習法を取り入れることで、基礎技術をしっかりと身につけられることを順を追って解説します。

ステップ1 – 線のコントロールの練習

 まずは、線の描き方を練習します。直線、曲線、ジグザグ線など、異なる種類の線を描くことで、手の動きを安定させることができます。

 線の長さや方向を変えながら、一定の力で描く練習を繰り返しましょう。この基礎練習は、全ての鉛筆画の基本となります。

 初めて鉛筆画に取り組む人は、真っ先に試しながら練習してみましょう。私たちはこれまで、筆記用具として鉛筆とお付き合いしてきましたので、全く新たなことをするのではありませんので、簡単な練習から始めることで何となく扱い方が分かるものです。

 この練習では、スケッチブックや専用の紙ではもったいないので、不要な紙の裏面を使っての練習でも良いでしょう。^^

なかやま

単純な話ではありますが、まずは直線及び曲線やジグザグ線など、試しに描いてみよう!

ステップ2 – 簡単な形を描く練習

 次に、円、三角形、四角形といった基本的な形を描きます。

 このステップでは、形のバランスやプロポーション(比率)を意識しながら描くことがポイントです。シンプルな形を正確に描けるようになることで、複雑なモチーフにも対応できるようになれます。

 単純な形状の形を描いてみましょう。意外に描きにくいものがあったり、逆に描きやすいものがあったりと、発見があるものです。その描きにくい形状のものを多めに練習しておきましょう。

なかやま

いろいろな形を描いて行く中で、あなたの描きにくい形や描きやすい形なども見えてきます。それによって、練習の方向性も見えてくるよね!

ステップ3 – トーンの表現の練習

 濃淡の付け方を習得するためには、グラデーション(階調)の練習を行います。

 例えば、立方体の中で、濃い部分の面から薄い部分の面へと変わるグラデーションを描く練習をします。異なる筆圧や鉛筆の種類を使い分けることで、滑らかな陰影が表現できるようになれます。上の画像を参照してください。

 この時の全体的な仕上げでは、光の当たっている部分の背景には濃いトーンを持ってきましょう。そして、暗い部分の背景には、少し明るめのトーンを持ってくることで、画面全体が引き立ちます。

 下の画像は立方体ではありませんが、こんな感じで背景のトーンを配置すると見映えが良くなります。

  第2回個展出品作品 洋ナシのある静物 2000 F1 鉛筆画 中山眞治

 筆者の描き初めの時には、この陰影の入れ方で苦労したことを覚えています。最初に試したのは「白い石膏の直方体」でしたが、モチーフ自体の陰影ではなくて、モチーフを引き立てる際の、背景の陰影をどのように入れるかで、試行錯誤しました。

なかやま

陰影の入れ方の学習は、特に重要な部分です。よく観察して、効果的な陰影を入れられるように色々試してみよう!

ステップ4 – モチーフを組み合わせて描く

第1回個展出品作品 静物Ⅱ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治

 基本形を組み合わせたシンプルなモチーフを描いてみましょう。

 例えば、円と四角形を組み合わせた立方体や筒状の容器などが良い練習題材です。この段階では、形と陰影の両方に注意を払いながら、より立体的に見せる練習をします。

 制作を続けていく中で、一つのポイントですが、モチーフを組み合わせる際には、できればいろいろな形のものを併せて描くことがよいです。分かりやすく言えば、丸い物ばかりを描くのではなくて、四角い物や三角の物なども含めて考えるということです。

 画面の中で、それぞれの形状が、それぞれの「個性」のようにも表現できて、観てくださる人に楽しさを味わってもらえます。

 意図的に丸い物ばかりを描くというのも、勿論ありですが、その場合には、陰影の状態に特に配慮したり、一部分に直線的な部分のあるモチーフも加えてみるとよいでしょう。

 筆者の場合には、最初はこの部分をあまり考えないで制作していたのですが、そのようなアドバイスを受けて、上の作品を描きました。片手鍋の柄に直線が入っていますので、このモチーフも加えて構成したところ、まとまりを得られました。

なかやま

モチーフを組み合わせて描く際には、色々な形状のもので構成すると効果的だよ!

ステップ5 – 実際のモチーフで練習

東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明 氏

 最後に、身近な物を観察しながら描く練習を始めます。コップや果物など、日常的なアイテムを選び、今まで練習してきた技術を総合的に活用します。この段階では、観察力も重要になってきます。

 このようなステップを順番に進めることで、初心者の人でも無理なく鉛筆画の基礎を習得できます。

 前述していますが、上の作品のように、あなたの身の回りには、あなたがその気にさえなればモチーフになり得るものがたくさんあります。空き缶や空きびんでさえもモチーフにできるからです。また、下の作品も参照してください。

第1回個展出品作品 家族の肖像 1997 F10 鉛筆画 中山眞治

なかやま

特別なものではなくても、身近なものを使って描いていこう!

失敗しない構図の取り方とコツ

     第2回個展出品作品 ランプのある静物 2000 F50 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画において、構図は作品全体の印象を左右する重要な要素です。適切な構図を扱うことで、視覚的にバランスの取れた絵を描くことができます。

 本章では、取り組みやすい構図について解説します。

初心者の人に一番大切なことは「楽しんで描く」こと

 あなたが初心者の場合には、はじめは、構図や構想を練るというようなことは考えないで、単純に「楽しんで描く」ことが一番重要です。

 筆者も、描き初めは、構図など何も考えないで描いていましたが、とにかく余計なこと(構図及び構成や構想を練るなど)を考えていませんでしたので、楽しく描けていました。描き始めの最初は、このような状態で描き進むことが極めて重要です。 

 そして、5作品ほど描いて、ある程度描くことに慣れることができましたら、あなたが描こうとしているモチーフの中で、強調したい部分や感動を伝えたい部分を構図の中心に据えられれば、一層作品を引き立てることができます。

 構図は、画面構成をする上で、なくてはならない重要な要素です。簡単に言ってしまえば、より一層画面全体を引き立てられて、観やすくなり、あなたの感動や強調したい部分を表現する際の重要なポイントとも言えます。

描き始めの5作品くらいまでは、とにかく楽しんで描くことが一番重要です。

構図の決め方

ミヒカリコオロギボラのある静物 2022 F4 鉛筆画 中山眞治

      

 初心者の人におすすめな構図の一例として、三分割法があります。制作画面を縦横それぞれ三等分し、交点に描きたい要素を配置する方法です。

 視線を引き付けやすく、安定感のあるバランスが取れます。特に風景画や静物画でこのテクニックを使うと、自然な構図が作りやすいです。

 尚、構図と聞くと、何か難しいもののように聞こえてしまうかもしれませんが、簡単なものもたくさんありますので、できれば、構図に関する本を1冊購入することをオススメします。

 たくさんの簡単な構図の中から、一番簡単な構図から順番に取り組んでいくことで、あなたの画力は確実に向上できます。

 上の作品は、三分割と三角形の構図を組み合わせた作品ですが、こんな風に分割して、作品を仕上げることもできるわけです。

構図の本には、簡単なものもたくさんありますので、順番に、そしてその構図にどんなモチーフを組み合わせるかを考えることで、あなたは急速に上達できます。

初心者の人が知っておくべきデフォルメとは

 尚、ここで重要な点をお伝えしておきます。上の文章では、一つの例として三分割法を紹介して、「風景のポイントになる部分をその三分割線上に配置する」と書いていますが、そのように丁度三分割できる風景を探していても実際には存在しません。

 つまり、実際の風景の中から、ポイントを抽出して、「あなたの都合の良いように配置してしまうと」いうことです。絵画の世界では、ごく日常的に行われていることであり、「デフォルメ」と呼ばれていて、修整・削除・変形・縮小・拡大と、何でもありです。

 実際に、実物の風景には「電線」や「電柱」があったとしても、それらを省略して、「より魅力的な風景に変更」してしまうことは、当たり前に行われていることを記憶しておきましょう。

 また、実際の対象物が大きかったり、小さかったり、あるいは、幅があったり、細すぎたりした場合には、あなたの使う構図に都合の良いサイズに変更してしまっても良いのです。どうです?楽になったでしょう。^^

デフォルメは、制作の描きやすさが増すばかりか、作品の完成度を高めてくれる重要な制作手法と言えます。

主題と背景のバランスを考える

      灯(あかり)の点(とも)る窓辺の静物 2022 F10 鉛筆画 中山眞治

 構図を決める際には、構図上の分割点にあなたの描くモチーフの中で、あなたが強調したい、あるいは、感動を伝えたい部分(主役や主題と呼びます)を配置していきます。その際には、背景とのバランスも意識することが重要です。

 しかし、主役が目立ちすぎると背景が圧倒されてしまい、逆に背景が強調されすぎても主役が埋もれてしまいます。この解消策としては、下描きを使って入念なシミュレーションを行いましょう。それで、ほぼ解決できるはずです。

 また、主役や準主役の中心点と画面の寸法上の中心点を重ねないようにすることは重要な意味を持ちます。

 それは、「作品全体の動きが止まってしまう」からです。しかし、意図的に画面中央にモチーフを据える場合や、肖像画などはこれに該当しませんので安心してください。^^

 上の作品では、画面縦横の√2分割点の交点に、主題(主役)であるロウソクの炎を据え、画面右上の窓を模した「抜け」も、画面縦横の√2分割点で作った空間をそのまま活用して、中空の三角の構図で描いています。

 √2分割点とは、画面の縦横の寸法に対して、÷1,414で得られた数値を、画面縦であれば上下から測って2本、左右からも測って2本見出せます。

なかやま

主題と背景のバランスは、下描きをすることでバランスを確認できますので、制作に入る前には、下描きで充分な検討をしよう!

視線誘導を意識した構図

       国画会展 会友賞 誕生2013-Ⅱ F130 鉛筆画 中山眞治

 観てくださる人の視線を誘導するためには、線や形を活用します。

 例えば、遠近感を表現するために、手前に大きな物を配置し、奥に視野の先にある小さくなった物を配置することで、視線が自然と奥へと向かいます。線を使って視線を誘導することで、画面全体に動きとリズムを与えることができます。

 上の作品では、前景を「薄暗く」、中景を「暗く」、遠景を「明るく」描くことによって、画面深度を深めて、且、「抜け」を使って、観てくださる人に、遠景が見えることによって「息苦しさ」を解消しつつ、手前から一気に遠景へと視線を誘導しています。

作品の制作には、観てくださる人の意識や視線を誘導する工夫も必要です。そのためにも、近景・中景・遠景に対する工夫もさることながら、画面上の縦横の2分割線や2つの対角線も、視線誘導のために有効活用することを考えましょう。

実際に描く前のラフスケッチ

兎の上り坂 2023 F4 鉛筆画 中山眞治

 最終的な構図を決める前に、エスキース(下描き)などで、ラフスケッチで複数の構図を試してみましょう。

 ラフ段階でいくつかのパターンを描くことで、最もバランスの取れた構図を見つけることができます。手軽に変更できるため、失敗を防ぐための効果的な方法になります。

 筆者の場合には、A4サイズの紙を半分に切った大きさで、画面縦横の2分割線・2つの対角線を描き、各モチーフの選定が終わった時点で、どの構図を使うか決めたり、逆に、構図を選んでそれに使いやすいモチーフを選んだりしています。

 これらのコツを取り入れることで、失敗しない構図を取り、視覚的に魅力的な鉛筆画を描けるようになれます。

 因みに、上の作品では、黄金分割の構図分割基本線を活用しながら、3匹のウサギを使った逆三角形の構図で制作しています。

 また、視線という構図も使っていますが、その内容は、画面左奥のウサギが右側のウサギを見る、右側のウサギは画面中央のウサギを見る、画面中央のウサギこちらを見ているという視線の流れを活用しています。

なかやま

実際の制作に入る前には、A4の紙を半分にしたものでよいので、入念な下描きによる検討をおこなおう!

鉛筆画初心者の人がつまずきやすいポイントとその対策

第1回個展出品作品 休日 1998 F10 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画を始めたばかりの初心者の人は、特有の壁にぶつかりがちです。

 本章では、よくあるつまずきのポイントを解説し、あなたが適切な対策を取れることで、スムーズに技術を向上させることにつなげられます。

鉛筆の持ち方と筆圧の問題

 初心者の人に多い悩みの一つが、鉛筆の持ち方や筆圧です。過度に強い筆圧は、紙に跡が残り、滑らかなグラデーションを作りにくくなります。

 適切な持ち方は、描き始めの段階では特に、Bや2Bの鉛筆を人指し指・中指・親指で優しく軽く持ち、リラックスした状態で描くことです。また、筆圧を調整しながら、柔らかい線から練習することで、より自由な表現が可能になります。

 輪郭を描き終わった時点からは、鉛筆の持ち方を「文字を書くときの握り方」に変えて、一番濃いトーンのところから徐々に明るいところを描くようにすることで、描きやすさが増します。

なかやま

大きく輪郭を捉える場合の鉛筆の持ち方や、微妙で繊細な陰影を入れる時の鉛筆の持ち方など、いろいろな制作に対応できる持ち方を取り入れることで、完成度を高めよう!

輪郭線に頼りすぎる描き方

  第2回個展出品作品 パプリカのある静物 2000 F1 鉛筆画 中山眞治

 初心者の人は、モチーフの輪郭線に頼りがちです。しかし、実際のモチーフには明確な輪郭線は存在しません。

 代わりに、陰影やトーンを使って形を表現することが重要です。輪郭線を薄く描き、その背景に濃い陰影を配置する練習であれば、立体感のある描写ができるようになれます。

 つまり、形を鉛筆でしっかり濃く描くのではなくて、描き始めは濃い輪郭を描くこともなく、上のパプリカのように、背景に濃いトーンを持ってくることで充分リアルな表現ができます。

陰影の付け方におけるバランスの問題

第1回個展出品作品 静物Ⅰ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治

 陰影のバランスが適切でない場合には、作品全体の調和が崩れてしまいます。初心者の人は、濃淡のメリハリが弱いことが多いので、暗い部分と明るい部分を明確に区別する意識を持ちましょう。

 まずはハイコントラストなモチーフ(白っぽいモチーフ)を選び、陰影の練習を行うことで、メリハリのある表現が身に付きます。

 つまり、前述していますが、絵画教室へ行く人は「石膏モチーフ」を使い、自宅で制作を始める人の場合には、白い卵及び白無地のカップ&ソーサーや白いマグカップ、あるいは調理器具などで始めてみましょう。上のような作品も描けます。

 あるいは、これも前述していますが、花を描く場合には白い咲き姿の単純な造花の、チューリップ・コスモス・トルコ桔梗・すずらんなどがオススメです。

観察力不足によるディテール(詳細)の欠落

 細部の観察を怠ると、描写が平面的になりがちです。初心者の人は、モチーフをじっくり観察し、その形状や質感、光の当たり方を丁寧に捉えることが大切です。

 部分的に描くのではなく、全体のバランスを見ながら、全体の輪郭から、徐々に細部の描写(大きいところから徐々に小さい部分へと描き進む)ことで、統一感のある作品が完成します。

練習の継続が難しい

 最も重要なのは、継続的に練習することです。しかし、結果がすぐに出ないとモチベーションが下がりがちです。そこで、小さな成功体験を積み重ねるために、シンプルなモチーフから始め、徐々に難易度を上げていきましょう。

 進歩を実感できると、練習を続ける意欲が湧いてきます。これらのポイントを理解し対策を講じることで、初心者の人でも着実に技術を向上させることができます。

 その大きな解決策としては、たとえ少しの時間でも、毎日練習をすることでしょう。集中できれば、たとえ毎日10分間でも時間を作れれば、上達していけます。ただし、休日の1日くらいはたっぷりと時間を取りましょう。

 筆者の場合には、取り組みの最初から嵌まり込んでしまい、平日は毎日2時間、土日祝祭日盆暮れ正月は、早朝から「描きたくて」目が覚めてしまい、制作に疲れるたびに、食事・掃除・洗濯・買い出しをはさんでいました。^^

 この結果、3年半でF6やF10を合計で50作品完成させて、その中から40点に絞り、第1回目の個展の開催までたどり着けました。

練習の継続を快適に続けるポイントは、簡単なモチーフにしっかり取り組むことです。その極意は、簡単な造りで白っぽいモチーフの制作をたくさんこなすことです。そのためにも、決して無理をせず、あなたが楽しんで、毎日少しでも取り組む時間を作りましょう。

鉛筆画の基礎力を高めるために習得すべき技術

第2回個展出品作品 ランプの点る静物 2000 F30 鉛筆画 中山眞治 

 鉛筆画の基礎力を高めるためには、特定の技術を習得することが重要です。これらの技術をマスターすることで、より安定した作品を描くことができて、表現の幅も広がります。

 本章では、鉛筆画制作における基礎力を高める、モチーフの捉え方や描き方について解説します。

形を正確に捉える「観察力と構造の理解」

      出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 三澤寛志 氏

 形を正確に描くためには、モチーフをしっかりと観察し、その構造を理解することが必要です。モチーフを単純な形に分解して捉える方法を習得することで、複雑な形状もバランスよく描けるようになれます。

 例えば、人物画を描く場合などでは、人の腕や足を円筒形の簡単な形状で捉えたり、上半身を少し反った厚い板状の形で取り組みを始め、徐々に細かく仕上げていく方法です。上の画像を参照してください。

 観察力を鍛えるためには、モチーフをじっくり観察し、線で形を描く練習を繰り返すことが効果的です。

形状が複雑な対象を描く場合には、制作対象を単純な形の集合体としてとらえれば、作品の制作に取り組みやすくなれます。

スムーズな濃淡を作る「グラデーション技術」

      第1回個展出品作品 雷神像 1996 F10 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画において、滑らかなグラデーション(階調)を描く技術は欠かせません。異なるトーンを自然に繋げることで、立体感や深みのある表現が可能になります。

 ティッシュペーパー及び擦筆や綿棒を使った「ぼかし」も効果的ですが、まずは鉛筆のみで濃淡を調整する技術を磨くことが基本です。上の作品の場合には、「ぼかし」を使わずに仕上げています。

線を自在に操る「多様な描線技法」

       第1回個展出品作品 風神像 1996 F10 鉛筆画 中山眞治

 描線技法には、短い線を積み重ねるハッチングや、縦横斜めの4種類の線を交差させて面を作るクロスハッチングなどがあります。上の作品の濃いトーンの部分は、クロスハッチングで繰り返し描いて、濃いトーンを実現しています。

 これらの技法を駆使することで、質感や陰影を細かく表現できます。練習として、異なる方向に線を引くことで、自由に線を操る技術を習得しましょう。

 尚、クロスハッチングで、描きにくい方向の線は、スケッチブックや紙の側の角度を変えれば、問題なく描けます。

奥行きを作る「遠近法の理解と応用」

坂のある風景Ⅱ 2019 F1 鉛筆画 中山眞治 

 遠近法は、平面上で立体感を表現するために不可欠な技術です。遠近法を正しく理解して、適用することで、空間的な奥行きが自然に表現できます。

 上の画像のような手法を使って、消失点を使った作品を描くことから始めると良いでしょう。この場合の遠近法は、一点透視法と呼ばれていますが、消失点で消えていくように描くということです。

 尚、上の作品では、道路の一番奥を√2の位置にして制作しています。√2の位置とは、画面縦のサイズを正確に測って、÷1.414で得られた寸法を画面の下から測って入れ込み制作したものです。 

質感を描き分ける「テクスチャ表現」

      出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 石原崇 氏

      出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明 氏

 木、金属、布など、異なる物質の質感を表現する技術は、作品にリアリティーを与えます。

 異なるテクスチャ(質感や風合い)を観察し、それに適した線の描き方や陰影の付け方を学ぶことで、表現力が格段に向上します。まずは簡単な素材から始め、少しずつ難易度を上げることで、確実に技術を習得できます。上の画像を参照してください。

 これらの基礎技術を習得することで、鉛筆画の基礎力がしっかりと固まり、さらなるステップアップが可能になります。

完成度を高める仕上げのテクニック

      第1回個展出品作品 マリリン・モンロー 1996 F10 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画を完成させる際、最後の仕上げが作品全体の完成度を大きく左右します。

 本章では、仕上げの段階で取り入れるテクニックを活用することで、作品がより引き締まり、プロフェッショナルな仕上がりになる点について解説します。

完成に近づいた際の点検事項

 制作が完成に近づいた時点では、全体を見直して、光と影のコントラストを「もっと強調できないか」考えましょう。

 それまで扱ってきた一番濃い色であったところをもう一段濃くしてみたり、ハイライト部分を再度丹念に拭き取ることで作品にメリハリがつきます。

 この最終調整をすることが、完成度を高める秘訣です。このように、陰影を意識して描くことで、鉛筆画の立体感が格段に向上します。

完成度を高める仕上に近づいた時点のコツは、濃いところをもっと濃く・明るくあるべきところをもっと明るくすることです。下の作品を参照してください。

第1回個展出品作品 夜の屋根 1996 F10 鉛筆画 中山眞治

エッジの整理と精緻なディテールの追加

 輪郭やエッジは、ぼやけた部分とくっきりした部分を使い分けることが重要です。モチーフのエッジ(縁)を点検し、主役をより鮮明に描くことで、視覚的に強調したい部分が引き立ちます。

 また、あなたが強調したい・観てくださる人へ感動を伝えたい部分には、細かいディテール(詳細)を追加することで、全体の完成度がさらに向上します。

 逆に、画面上の主役や準主役以外の「脇役」には、詳細な描写を抑えて「何となくわかる」程度に描き込むことで、主役や準主役が引き立ちます。

 あるいは、主役や準主役にはしっかりとハイライトを入れる一方で、それ以外のモチーフには、「ハイライトを抑えて描く」ことで、主役や準主役を引き立てることもできます。

主役や準主役の引き立て方には、いろいろな手法がありますが、目立たせたいものに細密描写を施したり、一番明るいハイライトを入れましょう。全部のモチーフを細密描写したり、全部のモチーフにしっかりハイライトを入れてしまうと、焦点が定まりにくくなります。

ブレンディングで滑らかさを調整

 仕上げの段階で、ブレンディング(ぼかし技法)を使ってトーンの境界を滑らかに整えます。

 ティッシュペーパー及び擦筆や綿棒使い、陰影の自然な遷移を意識しながら優しく擦ることで、画面全体の統一感が生まれます。ただし、必要以上にブレンディングを行うと、細部の表現が失われるため注意が必要です。

仕上げ後の全体チェックとサインの入れ方

 最後に、作品全体を離れて見直し、バランスや構図を確認します。微細な調整を終えた後、完成作品としての一体感を再度確認しましょう。そして、サインを入れる際は、作品の画面構成を損なわない位置・サイズ・濃さを選び、作品を完成させます。

 尚、鉛筆画のサインでは、予めサインする場所をはじめから考えて描き進みましょう。サインを入れる最適な場所が、濃すぎる地表部分だったりすると、困ってしまいますよね。

 そのためにも、サインする場所の部分には、全体のバランスを壊さない程度に、予めトーンを弱く(薄く)しておくことも必要です。

 これらのテクニックを仕上げ段階に取り入れることで、鉛筆画の完成度が格段に高まり、作品の質が向上します。

なかやま

サインをする場所は、予め考えておくということだよ!そうしないと、サインの場所がなくなるし、サインをする位置・サイズ・濃さを間違えてしまうと、作品に影響してしまうからね。

まとめ

 鉛筆画を始めたばかりの初心者の人でも、効果的な技術と練習方法を取り入れることで確実に上達できます。

 以下では、基礎技術から応用テクニックまで、成長を実感しながら、この記事から習得できるポイントを網羅しました。特に、以下の要素に焦点を当て、あなたのスキル向上をサポートします。

主なポイント

  • 基本ツールと使い方: 鉛筆や消しゴムの選び方から、保管・手入れの方法までを解説。
  • 線の描き方と濃淡のつけ方: 効果的な筆圧のコントロールと、ハッチング・クロスハッチングを活用した陰影表現。
  • シンプルなモチーフから始める練習方法: 初心者の人がつまずかないための、簡単かつ効果的なステップアップ法。
  • 陰影と立体感の表現方法: 光源の確認やグラデーション技術、面を意識した立体表現。
  • 構図の取り方とコツ: 三分割法や視線誘導を使い、バランスの取れた構図を構築。
  • 成長を実感するための効果的な練習方法: 同じモチーフの定期的な描き直しや、時間制限を設けたスピード練習。
  • 仕上げのテクニック: コントラストの強調、エッジの処理、ハイライトの強調による完成度アップ。

 これらのテクニックとコツを実践することで、初心者の人でも確実に上達し、より高度な表現へとステップアップできます。

 ではまた!あなたの未来を応援しています。