オリジナリティーはどう生まれる?自分だけの作風を育てる7つの考え方

 どうも。プロ鉛筆画家の中山眞治です。

           筆者近影 作品「月のあかりに濡れる夜Ⅳ」と共に

 さて、鉛筆画やデッサンを長く描いていると、「自分らしい作品とは何だろう?」「どうすれば自分だけの作風を持てるのだろう?」、と考えることもあるでしょう。

 しかし、オリジナリティーは、人と違うことを無理にしようとして、生まれるものではありません。

 何度でも描きたくなるモチーフ、心を惹かれる光と影、落ち着く構図や余白、細部を描き込む場所とあえて残す場所。そうした小さな選択の積み重ねに、その人らしさは少しずつ表れてきます。

 さらに、これまで見てきた風景や心に残っている記憶、人生の中で感じてきたことも、作品に深みを与える大切な要素です。

 この記事では、他の人と違う作品を無理に目指すのではなく、描き続ける中から自分だけの表現を見つけ、オリジナリティーのある作風へ育てていくための7つの考え方を解説します。

Table of Contents

「自分らしい絵」を無理に作ろうとしない

 鉛筆画やデッサンを続けていると、「もっと自分らしい作品を描きたい」、と感じることがあります。技術が身につくほど、その次の段階では、「自分の作品にはどんな特徴があるのだろう」、と考えるようになるからです。

 しかし、「誰も描いたことのないものを描こう」「他の人とは違う表現をしよう」、と意識しすぎると、本当に描きたいものから遠ざかってしまうことにもなるのです。

 作風とは、最初から完成しているものではありません。作品の制作を重ねる中で残っていく好みや選択が、少しずつその人の特徴になります。

 本章では、オリジナリティーを無理に作らず、自分らしい表現を育てる基本的な考え方を見ていきましょう。

オリジナリティーは奇抜さではない

 「オリジナリティーのある作品」と聞くと、珍しいモチーフや大胆な構図などを思い浮かべるかもしれません。しかし、人と違っていることだけがオリジナリティーではありません。

 たとえば、同じリンゴを10人が描いても、10枚すべてが同じ作品になることはないでしょう。光の当て方、観る角度、影の濃さ、輪郭の扱い、背景との関係など、それぞれの判断によって印象は変わります。

 大切なのは、「人と違うものを描くこと」よりも、目の前のものを自分がどう観て、どこに魅力を感じたのかを表現することです。

 その人ならではの観方が積み重なれば、奇抜さを狙わなくても、作品には自然と違いが生まれます。

上手な人の作品をまねることから始めても問題ない

 鉛筆画やデッサンを学ぶときに、好きな作家や上手な人の作品を参考にすることがあります。「まねをしていたら、自分の作風が生まれないのでは」、と心配することはありません。

 線の重ね方、鉛筆の使い分け、光の残し方などを観察することは、表現の選択肢を増やす大切な勉強です。ただし、学んだ方法をそのまま繰り返すだけで終わらせないことが重要です。

 「自分なら影をもう少し深くしたい」「ここには余白を残したい」など、自分の判断を少しずつ加えてみましょう。

 模倣から学んだ技術も、自分で選び直して使ううちに、やがて自分自身の表現へ変わっていきます。

描き続けるうちに自然と残るものがある

 作品を何枚も描いていると、自分では意識していなくても共通する傾向が現れてきます。

 強い光と深い影を好む、静かな場面を選ぶ、人物の後ろ姿に惹かれるなど、何度描いても自然に選んでしまうものがあるかもしれません。

 そこには、自分の感覚や価値観が表れている可能性があります。過去の作品を何枚か並べてみると、「昔からこういう光が好きだった」「静かな場面をよく描いている」、といった共通点を発見できます。

 新しい個性を探すだけではなく、すでに自分の作品の中にある特徴を見つけることも、作風を育てる大切な方法です。次の作品を参照してください。

    第2回個展出品作品 ランプの点(とも)る静物 2000 F30 鉛筆画 中山眞治

「自分らしさ」は後から見えてくる

 作風を早く確立しようとして、「これが自分のスタイルだ」、と決めつけてしまうことはありません。

 描き続けていれば、興味のあるモチーフや表現方法は変化します。細部まで描き込むことが好きだった人が、やがて余白の美しさに惹かれることもあるでしょう。そうした変化も、作品を育てる大切な過程です。

 まずは描きたいものと向き合い、作品の制作を積み重ねてください。そして、ときどき過去の作品を振り返ります。

 そこに繰り返し現れている特徴に気づいたとき、「これが自分の作風なのかもしれない」、と感じられるようになれるのです。

 オリジナリティーとは、急いで決めるものではありません。描いてきた時間の中から、少しずつ輪郭が見えてくるものになります。

なかやま

 作風を急いで決めず、まずは描き続けましょう。その積み重ねの中に、自分らしさの種が見つかるはずです。

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何度でも描きたくなるモチーフに目を向ける

 自分らしい作風を考えるとき、「どう描くか」、に目が向きがちですが、その前に「何を描きたいのか」、を振り返ることも大切です。

 花や人物、動物、古い建物、静かな風景など、人によって心を惹かれる対象は違います。

 とくに理由を考えなくても、何度も選んでしまうモチーフがあるならば、そこには自分らしい表現へつながる手がかりが隠れているかもしれません。

 本章では、好きなモチーフを掘り下げることから、作風を育てていく方法について考えていきます。

なぜか惹かれるものには理由がある

 同じ風景を観ても、古びた建物に目が留まる人もいれば、そこに差し込む光や道端の草花に惹かれる人もいます。

 こうした違いは、単なる好みだけではありません。これまでの経験や記憶、ものの見方などが影響している場合もあるのです。

 作品の題材を探すときには、「絵になりそうだから」、という理由だけではなく、「なぜ自分はこれを描きたいと思ったのだろう」、と考えてみてください。

 明確な答えが見つからなくても構いません。自分の心が反応した瞬間を大切にすることで、題材選びにも少しずつ自分なりの基準が生まれてきます。

繰り返し選ぶモチーフは作風の種になる

 過去の作品を振り返ると、似たモチーフを何度も描いていることがあります。

 それは「題材の幅が狭い」、ということではありません。同じ対象を繰り返し描くからこそ、以前とは違う見方や表現を発見できることがあるのです。

 たとえば、同じ樹木でも、季節や時間帯、観る位置によっても姿は変わります。人物であれば、表情だけではなく、手の動きや後ろ姿から感情を表すこともできます。

 一つの題材を深く掘り下げることで、その人ならではの視点が磨かれます。繰り返し描きたくなるモチーフは、作風を育てる「種」と考えてよいでしょう。

「何を描くか」より「なぜ描きたいか」を考える

 人気のある題材や、作品映えするモチーフを選べば、魅力的な作品になるとは限りません。

 むしろ、「なぜこれを描きたいのか」、が自分の中ではっきりしているほど、画面の中で何を大切にするべきか判断しやすくなれます。

 古い靴を描く場合でも、革の質感に惹かれたのか、長く使われた時間を表現したいのかによって、描き方は変わるでしょう。

 前者なら細かな質感を追い、後者なら傷や皺、周囲の静かな空間を大切にする方法もあります。モチーフそのものの珍しさよりも、そこに何を感じたのか。その視点が作品に独自の意味を与えてくれます。

好きなものを深く掘り下げることが個性につながる

 オリジナリティーを求めるあまり、毎回まったく違う題材へ挑戦する必要はありません。

 もちろん、新しいモチーフを描くことは、技術や視野を広げてくれます。一方で、自分が本当に好きなものを長く描き続けることにも大きな意味があります。

 「もっとこの光を表現したい」「次は違う角度から描いてみたい」、と感じるならば、その興味を追いかけてみましょう。

 一つのテーマを繰り返すうちに、観る場所や省略する部分、明暗のつけ方にも自分なりの選択が生まれるのです。

 広く探し続けるだけではなく、好きなものを深く掘り下げる。その積み重ねも、自分だけの作風へつながっていきます。

何度でも描きたくなるものには、自分らしさの手がかりがあります。好きなモチーフを深く掘り下げてみましょう。

光と影の好みから自分の表現を見つける

 鉛筆画やデッサンでは、色彩に頼らないからこそ、光と影の扱いが作品の印象を大きく左右します。

 同じモチーフでも、明るい光の中で描くのか、深い影に包まれた姿を描くのかによって、伝わる雰囲気は大きく変わります。そして、どのような明暗に心を惹かれるのかという好みも、作風を形づくる要素の一つです。

 本章では、技法としての明暗ではなく、光と影に対する自分自身の感覚から表現の特徴を見つける方法を考えていきます。

明るい作品と暗い作品では伝わる感情が変わる

 画面全体を明るく仕上げた作品には、穏やかさや開放感、柔らかさを感じることがあります。一方、深い黒や影の面積を大きくした作品からは、静けさや緊張感、神秘的な印象を受けることもあるでしょう。

 どちらが優れているということではありません。大切なのは、自分がどのような明暗の世界に惹かれるのかを知ることです。

 過去の作品を見返してみると、知らないうちに似た明暗を選んでいることがあります。その傾向は、自分が作品を通して表現したい空気感や感情を知る手がかりになります。

どこに光を置くかで作者の視点が表れる

 光には、観てくださる人の視線を導く力があります。人物の顔を明るくすれば表情へ目が向きますが、手元だけに光を当てれば、その仕草や動作に意味を持たせることもできます。

 つまり、光を置く場所を決めることは、「作品のどこを見てほしいのか」、を選ぶことでもあるのです。

 モチーフ全体を均等に見せるのではなく、自分が最も魅力を感じた場所へ光を集めてみる。その選択が繰り返されることで、作品に作者ならではの視点が表れるようになります。

影をどこまで描くかにも個性が出る

 光と同じように、影にも作風が表れます。影の中まで細部を描き込む方法もあれば、深い黒へ沈ませて形をわずかに感じさせる方法もあります。また、輪郭をあえて曖昧にして、背景とモチーフをつなげる表現もあります。

 影は、単に「光が当たっていない場所」、ではありません。何を見せ、何を見せないのかを決めるための表現でもあるのです。

 すべてを説明するように描くのではなく、観てくださる人の想像に委ねる部分を残す。その影の扱い方も、作品の雰囲気を特徴づけていきます。

好きな明暗表現を繰り返すことで特徴が生まれる

 作品を制作するたびに、「今回は前と違う光にしなければ」、と考える必要はありません。

 斜めから差し込む光が好きなら、それを何度も試して構いません。逆光や薄暗い室内、夕暮れの柔らかな明暗に惹かれるのであれば、その感覚を掘り下げることにも意味があるのです。

 同じような光でも、モチーフや構図が変われば表現は変化します。繰り返すことで、光の強さや影の深さについても、自分なりの判断が磨かれていきます。

 「また同じ表現をしている」、と考えるのではなく、「自分はこの光が好きなのだ」、と気づくことが大切です。

 その好みを深く追い続けることが、やがて作品を観た人に、「あの人らしい光と影だ」、と感じてもらえる特徴へ育っていきます。次の作品を参照してください。

第3回個展出品作品 灯の点る窓辺の静物 2022 F10 鉛筆画 中山眞治

好きな光と影の扱いには、自分自身の感覚が表れます。その好みを深めることも、作風を育てる大切な道筋です。

構図と余白に自分なりの「心地よさ」を見つける

 モチーフや光と影だけでなく、「画面のどこに何を置くか」、という選択にも作者の感覚が表れます。

 中央に大きく配置する人もいれば、あえて片側へ寄せて広い空間を残す人もいます。どちらが正しいというものではなく、自分がどのような配置に魅力を感じるのかが大切です。

 構図の基本を学んだその先には、自分自身が心地よいと感じるバランスがあります。

 本章では、構図と余白を作風の一部として捉え、自分なりの画面づくりを育てる考え方について見ていきましょう。

正解の構図だけを求めなくてもよい

 三分割法や三角構図など、構図の基本を知ることは、安定した画面を作るうえで役立ちます。しかし、基本に忠実であることだけを目的にすると、どの作品も似た印象になってしまうこともあります。

 ときには、モチーフを√2などの構図によって、中央から大きく外したり、一部を画面の外へ切ったりすることで、かえって伝えたい雰囲気が強くなる場合もあるのです。次の画像を参照してください。

 √2の構図とは、制作画面の縦横の寸法に対して、÷1.414で得られた寸法で上下左右から分割することを指します。

 たとえば、地平線やテーブルの高さを⑦の合わせれば、地表面やテーブル上を広く見せることができますし、⑧を使えば、空間の広がりを表現できるのです。

 また主役を⑤や⑥に配置したり、2つの対角線も使って、奥行きを表現することに活用することもできます。

 また、この構図分割基本線を使って、モチーフをあなたの都合の良いように配置して、全体のバランスを取ることもできるのです。

 風景画などでは、上の構図分割基本線の中の、特に制作画面上で強調できるEFIJを主役の中心に据えることで、作品の内容にアクセントをつけられます。

 風景などでは、構図にあった場所を探しても、ピッタリはまる風景など見つかりません。すべてのジャンル(※)において、構図を使って、その主要な個所へあなたの扱いたいモチーフを当てはめて描いても良いのです。^^

 構図の基本は「必ず守る規則」ではなく、自分の表現を支える知識として活用することが大切です。作品の意図に合わせて、基本から少し離れる判断ができるようになると、構図にも作者らしさが表れてきます。

※ここで言う、すべてのジャンルとは鉛筆画やデッサンで描く、風景・静物・人物・動物・心象風景を指します。

余白の取り方には作者の感覚が表れる

 鉛筆画やデッサンでは、描かれている部分だけではなく、描かれていない空間も作品の一部です。

 モチーフの周囲を細かく描き込めば、密度の高い画面になりますが、広い余白を残せば、静けさや広がりを感じさせることもできます。余白は「何も描かなかった場所」、ではありません。

 たとえば、人物の視線の先へ空間を残したり、孤独感を表すために小さく描いた人物の周囲を広く空けたりすれば、余白そのものにも意味が生まれるのです。

 どの程度の空間を心地よいと感じるのか。その感覚も、作品の制作を重ねるうちに自分らしい特徴になっていきます。

視線をどこへ導きたいのかを考える

 構図を考えるときには、モチーフを美しく配置するだけでなく、「最初にどこを観てほしいのか」、を意識してみましょう。

 最も伝えたい部分を、中心付近へ置く方法もあれば、光や影、モチーフの向きなどを構図分割基本線の対角線などを活用して、視線を導くこともできます。

 そして、その先に何を見せるのかによって、作品の印象は変わります。主役を一目で強く見せたいのか、それとも画面をゆっくり巡りながら発見してほしいのか。

 こうした考え方を持つことで、構図は単なる配置ではなく、自分が伝えたい世界へ観てくださる人を導く手段になります。

自分が心地よいと感じる配置を蓄積する

 作品を完成させたとき、「なぜかこの構図は落ち着く」、と感じることがあります。その感覚を見過ごさず、過去の作品と比べてみてください。

 主役を少し端へ置くことが多い、上部に空間を多めに残している、画面いっぱいにモチーフを入れるのが好きなど、自分なりの傾向が見つかるかもしれません。

 ただし、画面一杯にモチーフを入れてしまうと、作品が「窮屈」なイメージになってしまうので、大きさはほどほどが良いでしょう。^^

 それらを意識して蓄積していくと、「自分自身が美しいと感じる画面」、の基準が少しずつ明確になります。

 毎回同じ構図にすることはありません。自分の感覚を土台にしながら変化を加えることで、作品には統一感と新鮮さの両方を持たせることができるのです。

 尚、オリジナリティーのヒントとして、制作画面前景を薄暗く・主役を含めた中景を暗く・遠景を明るく描くと、圧倒的な画面深度を得られます。次の作品を参照してください。

      国画会展 会友賞 誕生2013-Ⅰ F130 鉛筆画 中山眞治

 また、構図分割基本線を活用した「抜け」を使うことで、観てくださる人の画面上の息苦しさを解消する方法もあります。この画面構成は、さまざまなジャンルで活用できますので、記憶しておきましょう。次の作品を参照してください。

       第3回個展出品作品 遠い約束Ⅰ 2023 F1 鉛筆画 中山眞治

 √3構図とは、制作画面の縦横の寸法に対して、÷1.732で得られた寸法で分割するということです。上下左右から測って、合計4本の分割線が得られます。

 また、縦横の2分割線と、2つの対角線も使って、構図を構成していきますが、うえの作品の「抜け」は、B⑥F⑦で区切られた部分を、構図分割線を使って、大胆に構成しています。

 主役は、⑤のライン上に中心をおいている「鍵」です。分かりますね?^^

構図と余白にも、自分自身の感覚は表れます。「心地よい」と感じる配置を大切に育てていきましょう。

 自分らしい構図を育てるためには、感覚だけに頼るのではなく、基本となる構図の考え方を知ったうえで、自分に合うものを選ぶことも大切です。

 構図の選び方をさらに詳しく確認したい方は、こちらの記事も参考にしてください。  LS297「構図はどう選ぶ?鉛筆画で迷わないための判断基準7つの視点と使い分け方

描き込み方と省略の仕方に個性を宿す

 鉛筆画やデッサンでは、細部まで描き込まれた作品に目を奪われることがあります。そのため、上達するほど「もっと細かく描かなければ」、と考えてしまうこともあるでしょう。

 しかし、作品の魅力は描き込んだ量だけで決まるものではありません。どこを細密に描き、どこを抑えるのか。その違いによって、画面には強弱や奥行きが生まれます。

 本章では、描写の密度を自分で選ぶことで、作品に個性を加える考え方について見ていきましょう。

すべてを同じ密度で描くべきではない

 写真を参考に制作していると、写っているものをすべて丁寧に描きたくなることがあります。しかし、画面の隅々まで同じ強さで描き込んでしまうと、どこを見ればよいのか分かりにくくなる場合があります。

 主役は細かく描き、背景は少し柔らかく薄めに描く。手前の質感はしっかり表現し、遠くのものは形を簡略化する。このように描写の密度を変えることで、自然な強弱をつけられるのです。

 「描けるから描く」のではなく、「この作品には必要だから描く」、と判断して描くことが大切です。描写する情報を選べるようになると、技術を見せるだけではない表現へ一歩進むことができます。

細部を描き込む場所を選ぶ

 細密な描写には、観てくださる人の視線を引き寄せる力があります。

 人物なら目元や手、静物なら質感や傷など、自分が最も魅力を感じた部分へ描写を集中させることで、作品の主題を強調できます。ここで重要なのは、「細かく描く場所」ではなく、「観てほしい場所」を選ぶことです。

 たとえば古い木製のイスなら、全体を均等に描くのではなく、使い込まれた座面の傷へ密度を集めれば、そこに刻まれた時間まで想像させられるかもしれません。

 描き込みは技術の証明ではなく、作者が何を伝えたいのかを示す手段として使うことができます。その根拠として、私たち人間は、「細かい柄や模様」に注意を奪われる習性があります。

 その習性を活用して、主役のモチーフや主役の分部に「細かい柄や模様」がある場合には、しっかりと描き込み、それ以外のモチーフや部分に「細かい柄や模様」があっても、簡略や省略して描くことで、主役を引き立てられます。

 また、全体的に描き込みをしっかり施したい場合でも、主役のモチーフや主役の部分にはしっかりと「ハイライト」を効かせて、それ以外の脇役や部分には、「ハイライト」を抑えて描くことで、主役を引き立てられます。^^

あえて描かない部分が想像力を生む

 省略というと、「描く手間を減らすこと」、のように感じるかもしれません。しかし、意図的な省略は重要な表現方法です。

 たとえば、暗い背景の中へ輪郭の一部を(輪郭線を弱く描き)溶け込ませれば、すべてを描かなくても形を感じさせることができます。

 背景の情報を抑えれば、観てくださる人は描かれていない部分を自然に想像します。作品の中ですべてを説明しないからこそ、生まれる余韻もあるのです。

 何を描かないのかを判断できるようになることは、単なる手抜きとはまったく違います。必要な情報を見極める力があってこそ成立する表現になります。

描き込みと省略のバランスが作品のリズムになる

 描き込みと省略を組み合わせると、画面の中に密度の変化が生まれます。細部まで見せる場所、柔らかくぼかす場所、白い紙の表面を残す場所、深い黒へ沈ませる場所。それぞれに差があることで、視線は画面の中を自然にめぐります。

 そして、どの程度描き込むのが心地よいかは、人によって異なります。細密描写を中心にする人もいれば、大胆な省略を活かす人もいます。大切なのは、どちらか一方が正しいと考えないことです。

 作品の制作を重ねながら、自分自身が美しいと感じる密度のバランスを探してみましょう。その選択の積み重ねが、作品を特徴づける表現へ育っていきます。

なかやま

すべてを描く必要はありません。描き込みと省略を選ぶ判断にも、自分らしい表現が宿るのです。

自分の感情や人生経験を作品に重ねる

 作風を考えるとき、線や明暗、構図といった技術的な特徴に目が向きます。しかし、作品を生み出しているのは技術だけではありません。

 これまで見てきた風景、大切な人との記憶、嬉しかったことや寂しかったこと。そうした経験は、知らないうちに「何に心を動かされるのか」、という感覚へ影響しています。

 同じ技法を使っても作品が同じにならないのは、描く人が歩んできた時間が違うからでもあるのです。

 本章では、自分の感情や人生経験を、作風を育てる大切な要素として考えていきましょう。

同じモチーフでも感じ方は人によって違う

 一輪の枯れた花を見たとき、「寂しい」と感じる人もいれば、「美しい」と感じる人もいます。長い時間を生き抜いた強さを感じる人もいるでしょう。

 目の前にあるものは同じでも、受け取る意味は人によって異なります。その違いは、作品にも表れるのです。

 寂しさを感じれば、静かな余白を広く取りたくなるかもしれません。生命力を感じれば、残された花びらや茎の質感を力強く描きたくなることもあります。

 大切なのは、「何となく感じること」ではなく、自分が何を感じたのかを見失わないことです。その感覚こそ、ほかの人にはそのまま置き換えられないものだからです。

記憶や経験は作品を観る視点を変える

 昔住んでいた家に似た建物、子どものころに歩いた道、家族が使っていた古い道具など、何気ないものが強く心に残ることがあります。

 それは、モチーフそのものだけではなく、自分の記憶と結びついているからかもしれません。そうした対象を描くときには、形を正確に写すことだけでは表せない気持ちが生まれるのです。

 古びた部分を丁寧に残したい、夕暮れの光を強調したい、周囲を静かな空間にしたいなど、自然と表現にも「厚み」が加わります。

 自分自身の経験を、無理に作品へ説明として入れる必要はありません。心に残るものを大切に描くことが、その人ならではの視点につながるのです。

感情を直接説明しなくても作品ににじみ出る

 「感情を込めた作品を描こう」と考えると、悲しさや喜びが一目で分かる表現を作らなければならないように感じるかもしれません。

 しかし、感情は必ずしも直接的に示す必要はありません。静かな室内に差し込む一筋の光、誰もいない室内のイス、遠くを見つめる人物の後ろ姿など、説明を抑えた表現だからこそ、観てくださる人が自由に感じ取れることがあります。

 作者が感じたことを、すべて答えとして示すのではなく、作品の中へ静かに残しておく。その余韻が、技術だけでは生み出せない魅力につながることがあるのです。

技術だけでは生まれない深みを大切にする

 鉛筆の扱い方やデッサン力は、練習によって高めることができます。一方、その人がこれまで経験してきた時間を、ほかの誰かが同じように持つことはできません。

 若いころには気づかなかった風景に惹かれたり、古いものに刻まれた時間を美しいと感じたりすることもあるでしょう。

 年齢を重ねることは、表現するうえで不利になることばかりではありません。むしろ、観るものにさまざまな意味を感じられるようになることは、作品の制作にとって大きな財産になるのです。

 技術を磨きながら、自分が歩んできた人生も大切にしてください。そこから生まれる視点は、誰かの作風を真似するだけでは手に入らない、自分だけの表現を支えてくれます。

人生の経験も、作品をつくる大切な要素です。自分が感じてきたことを、表現の強みとして大切にしましょう。

 自分の感情や経験を作品へ重ねるだけでなく、それを観てくださる人の心へどのように届けるかを考えると、作品はさらに深まります。

 感情が伝わる作品づくりについては、こちらの記事で詳しく解説しています。                                         LS314「観てくださる人の心に余韻を残す!感情が伝わる作品づくり7つのポイント【鉛筆画・デッサン】

描き続けながら「変化する作風」を育てる

 自分らしい表現が少しずつ見えてくると、「この作風を守らなければ」、と考えることもあるでしょう。

 しかし、作風は一度完成したら変えてはいけないものではありません。描く技術が向上し、興味の対象や感じ方が変われば、作品も自然に変化するのです。

 むしろ、その変化を受け入れながら制作を続けることで、表面的な特徴だけではない、自分の根底にあるものが見えてきます。

 本章では、変化を恐れず、長い時間をかけて自分だけの作風を育てていく考え方について見ていきましょう。

作風を一度決めたら守り続ける必要はない

 「これが自分の作風だ」、と感じられる表現が見つかることは、大きな喜びです。しかし、それを守ることばかり考えていると、新しい表現を試しにくくなることがあるのです。

 以前は細密描写を好んでいても、ある時から大胆な省略に魅力を感じるかもしれません。静物を中心に描いていた人が、人物や風景へ興味を持つこともあります。

 そうした変化を「作風がぶれた」、と考えることはありません。その時々に本当に描きたいものへ向き合うことで、表現の幅は広がります。作風とは、自分を閉じ込める枠ではなく、制作とともに成長していくものです。

過去の作品を並べると自分の傾向が見えてくる

 自分の作風は、制作している最中には意外と分かりにくいものです。そこで、ときどき過去の作品を年代順に並べて見てみましょう。

 以前より黒が深くなった、余白が増えた、人物の表情より仕草を描くことが多くなったなどの、変化が見つかるかもしれません。同時に、何年経っても変わっていない部分が見つかることもあります。

 技法やモチーフが変化しているのに、作品全体には同じ静けさがある。そのような「変わっても残っているもの」は自分自身の作風を考えるうえで重要な手がかりです。

 一枚ずつでは分からなかった特徴も、作品を並べることで見えやすくなります。

新しい表現への挑戦が作風をさらに深める

 自分らしい作品を育てるためには、得意な表現を続けるだけではなく、ときには慣れていない方法を試すことも大切です。

 普段より大きな余白を作る、これまで使わなかった鉛筆の濃度を試す、描いたことのないモチーフに挑戦するなど、小さな変化でも構いません。

 試してみて「これは自分には合わない」、と分かることにも意味があります。新しいものをすべて取り入れる必要はなく、試した中から心地よいものだけを残していけばよいのです。

 挑戦と選択を繰り返すことで、自分の表現は少しずつ磨かれ、以前よりも深みのあるものへと変わっていけます。

「あの人の作品だ」と感じてもらえるまで育てていく

 作風が育ってくると、署名を見なくても「あの人の作品ではないか」、と感じてもらえることがあります。

 それは、毎回同じ構図やモチーフを使っているからとは限りません。光の扱い方、描写の密度、余白、作品に流れる静けさなど、いくつもの特徴が重なり、その人ならではの世界観として伝わるからです。

 その状態を急いで目指す必要はありません。一枚一枚の作品で、自分が本当に描きたいものへ向き合い、新しいことも試しながら制作を重ねていく。その長い積み重ねが、やがて作品同士をつなぐ一本の線になります。

なかやま

オリジナリティーは、完成した答えではありません。描き続ける限り変化して、深まり続けるものなのです。作風は変化して構いません。挑戦を重ねながら、それでも残るものを大切に育てていきましょう。

 自分らしい作風が育ってきたら、その表現を公募展という場でどのように作品として高めていくかを考えることも、次のステップになります。

 公募展で意識したい作品づくりについては、こちらの記事も参考にしてください。              LS315「公募展で評価される作品とは?審査員の心を動かす7つのポイント

自分だけの作風を育てるための練習課題3選

 オリジナリティーは、頭の中で考えているだけではなかなか見えてきません。

 実際に作品を振り返ったり、同じモチーフを違う方法で描いたりすることで、「自分は何に惹かれているのか」「どんな表現を心地よいと感じるのか」、が少しずつ分かってきます。

 本章では、自分らしい作風の手がかりを見つけるための3つの練習課題をご紹介しましょう。

過去の作品から「共通点」を5つ探す

目的

 自分では、気づいていなかった作風の特徴を発見することです。

内容

 これまで描いた作品を、10枚程度並べて観比べてください。 モチーフ、光と影、構図、余白、描き込み方などを観察し、何度も登場している特徴を5つ書き出します。

 たとえば、「暗い背景が多い」「人物の後ろ姿をよく描く」「強い光を一部分だけに使う」、など簡単な言葉で構いません。

ポイント

 上手に描けた作品だけを選ばないことです。制作時期の違う作品を混ぜると、長く残っている特徴を発見しやすくなれます。

期待できる効果

 新しく個性を作ろうとしなくても、すでに自分の作品の中に作風の種があることに気づけます。

同じモチーフを3つの表現で描き分ける

目的

 自分が、最も心地よいと感じる表現を知ることです。

内容

 果物、花、カップなど、シンプルなモチーフを一つ選び、小さな作品を3枚描きます。

 1枚目は細部まで描き込み、2枚目は影を強調し、3枚目は余白や省略を多く使うなど、意識的に表現を変えてみましょう。 完成度を求める必要はありません。

ポイント

 描き終わったあと、「どれが一番上手に描けたか」ではなく、「どれを描いている時間が一番楽しかったか」「どの画面が自分には心地よいか」、で比べます。

期待できる効果

 技術的な得意・不得意とは別に、自分が本当に好む描写の密度や明暗、余白の使い方が見えてきます。

心に残っている風景や物を一枚描く

目的

 自分の記憶や経験を、作品へつなげる感覚を養うことです。

内容

 昔住んでいた家、よく歩いた道、大切な人が使っていた物など、自分の記憶と結びついているモチーフを一つ選びます。

 写真が残っていれば参考にしても構いません。ただし、写真をそのまま再現することだけを目的にせず、「自分は何を一番強調したいのか」、を考えてから描き始めます。

ポイント

 すべてを説明しようとしないことです。光、影、傷、余白など、自分自身の記憶を象徴すると感じられる部分を一つ選び、そこを大切に描いてみましょう。

期待できる効果

 正確に写すだけではなく、自分が感じたことを画面の中で選択する経験ができます。それが、自分だけの表現を育てる練習になります。

まとめ|オリジナリティーは探すものではなく、育てていくもの

 今回は、「オリジナリティーはどう生まれる?自分だけの作風を育てる7つの考え方」をテーマに、自分らしい表現を見つけるための考え方について解説してきました。

 オリジナリティーというと、「ほかの人とは違う作品を描かなければならない」、と考えてしまいがちです。しかし、本当に大切なのは奇抜さを求めることではありません。

 今回ご紹介した7つの考え方を、もう一度振り返ってみましょう。

  • 「自分らしい絵」を無理に作ろうとしない。
  • 何度でも描きたくなるモチーフに目を向ける。
  • 光と影の好みから、自分の表現を見つける。
  • 構図と余白に、自分なりの「心地よさ」を見つける。
  • 描き込み方と、省略の仕方に個性を宿す。
  • 自分の感情や、人生経験を作品に重ねる。
  • 描き続けながら、「変化する作風」を育てる。

 こうして並べてみると、作風とは一つの特別な技法から生まれるものではないことが分かります。

 何を描くのか。どんな光に惹かれるのか。どこまで描き込み、どこを残すのか。そして、目の前のモチーフに何を感じるのか。そうした一つひとつの選択が重なり、作品にその人らしい雰囲気が生まれていきます。

 また、作風は一度決めたら変えてはいけないものでもありません。新しい表現に挑戦し、失敗し、ときには以前とは違うものに惹かれながら変化して構いません。

 それでも長く描き続けていると、不思議と作品の中に残り続けるものがあります。それこそが、自分でも気づかなかった「自分らしさ」、なのかもしれないのです。

 オリジナリティーを急いで探す必要はありません。今日描く一枚を大切にしながら、自分が美しいと感じるもの、心を動かされるものを少しずつ積み重ねていきましょう。

 その歩みの先に、誰かの真似ではない、自分だけの作風が育っていくのです。

 鉛筆画を続けていると、自分らしい作風が育つだけでなく、「描くことそのもの」が毎日の楽しみや生きがいになっていくことがあります。

 趣味を持つことが人生後半にどのような意味をもたらすのかについては、終活ブログの記事でも詳しくお話ししています。

 JT54「定年後に生きがいを失わないために|人生後半を楽しむ趣味の見つけ方」も、あわせてご覧ください。

自分らしい鉛筆画を、もっと楽しみながら育ててみませんか?

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