こんにちは。私は、アトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治です。

筆者近影 作品「静物2025-Ⅲ」と共に
さて、鉛筆画やデッサンで風景を描こうとすると、「どこから描けばよいのか分からない」「全体のまとまりが取れない」と悩む、鉛筆画やデッサン初心者の人は多いのではありませんか?筆者も、かつてはそうでした。^^
風景画は、制作画面に取り込む要素が多く、同時に距離感や明暗も複雑なため、最初の一歩がとても大切です。
この記事では、鉛筆画やデッサンの初心者の人が、風景を描く際に意識すべき「観察力」と「構成の基本」を中心に整理しました。
細部の描き込みよりも、まず全体をどう捉え、何を優先して配置し、どこを省略して画面づくりを行うのか。
その考え方を理解するだけで、描写の迷いが減り、風景の描き方が驚くほど安定しますので、この記事では、あなたの最初の一歩を丁寧にサポートしましょう。
それでは、早速どうぞ!
風景を描く前に必要な「観察の視点」を身につける

国画会展 入選作品 誕生2015-Ⅱ F130 鉛筆画 中山眞治
風景を、鉛筆画やデッサンで描き始める際に、初心者の人がつまずきやすいのは「どのように見ればよいのか」という観察の視点です。
いきなり細部へ目を向けると、全体の比率や構成が崩れやすく、途中で描き直しが多くなり、結果としてまとまりのない風景になってしまいます。
本章では、風景を描く前に身につけたい、基本的な観察の姿勢を整理し、鉛筆画やデッサンで迷わず描ける下地をつくるための考え方をまとめました。
全体を「ひとつの塊」として捉える視点を持つ

鉛筆画やデッサン初心者の人が、まず意識したいのは、風景全体を細部ではなく、「大きな塊」として捉える視点です。木や建物、道、空といった要素をひとつずつ見ようとすると、情報が多すぎて混乱してしまうのです。
そこで最初は、画面を占める面積や方向性を大まかに観察し、「空はどれくらいの割合か」「地面の傾きはどうか」「縦方向の要素はどこに固まっているか」といった、全体のバランスを把握します。
鉛筆画やデッサンで構図(※)を安定させるうえで、この「ざっくり捉える視点」が最も重要です。
※ 構図については、この記事の最終部分に関連記事を掲載してありますので、関心ある人は参照してください。^^
主要な形を線ではなく「量」として観察する

風景を描くときに、鉛筆画やデッサン初心者の人は、制作対象を細い輪郭線で考えがちですが、風景は線よりも「量」の集合として観察した方が安定します。
たとえば、樹木なら丸い固まり、建物なら縦長の直方体、水面なら横方向の帯といったように、大まかな形を平面的な線ではなく、立体の量感として見ることが大切です。
鉛筆画やデッサンで、量を感じる観察ができると、後の描き込みで迷いが減り、全体の比率が崩れにくくなります。
風景全体の光の方向と「明暗の流れ」を先に確認する

風景では、光源の位置が全体の印象を決めます。「木の影の出方」「建物の暗い面の位置」「地面の影の方向」などは、すべて光の方向によって決まるため、描き始める前に必ず「光源の位置」を確認しておくことが必要です。
また、風景全体にどのような明暗の流れがあるかを観察しておくと、鉛筆画やデッサンの後半でトーンを入れる際に迷いがなくなります。
細部よりも、最初に光の方向を把握することで、画面全体に統一した明暗のリズムを作ることができるのです。
動きのある部分と静かな部分を見分ける習慣をつける

風景には、視線を誘導する「動きのある部分」と、構図を安定させる「静かな部分」があります。木の枝の複雑なリズムや道の曲がりは動きを生み、空や地面の広い面は静かな要素です。
これらを、バランスよく観察しながら画面に取り込むことで、風景に自然な動きと落ち着きが生まれます。
鉛筆画やデッサンでは、動きと静けさの対比を理解することで、シンプルな風景でも魅力的な画面に仕上げることができるのです。
風景を描く前に必要な観察力は、細部を見る技術ではなく、全体を大きく捉える視点にあります。
風景の塊を把握し、形を量として見ること、光源の方向と明暗の流れを観察すること、動きと静けさのバランスを理解することで、鉛筆画やデッサンにおける風景の「迷い」が大幅に減るでしょう。
風景をシンプルに整理する!主要な3つの要素の選び方

国画会展 入選作品 誕生2008-Ⅱ F130 鉛筆画 中山眞治
風景を、鉛筆画やデッサンで描くときに、初心者の人が最も迷いやすいのは「どの要素を優先して描くべきか」という点ではないでしょうか?
風景には、空・木・建物・道・草むら・水面など、多くの要素が同時に存在するため、すべてを同じ比重で描こうとすると、画面がごちゃついてしまい、全体の印象が曖昧になります。
本章では、風景を大きく整理しながら、主要な3つの要素を軸に構成する方法を解説します。これは初心者の人が、風景の鉛筆画やデッサンの迷いを減らし、画面に統一感を生み出すための重要なステップです。
空・地面・縦要素の「3分法」で風景を整理する

鉛筆画やデッサン初心者の人に、最も取り入れやすい制作画面の整理法は、風景の要素を「空」「地面」「縦要素」に分ける3分法です。
空は、広い面として風景の雰囲気を支え、地面は、水平の広がりをつくり、縦要素(木や建物)は、画面にリズムを生むアクセントになります。
この3つを大まかな比率で観察し、画面のどこにどれを置くのかを先に決めておくと、鉛筆画やデッサンでの構成が一気に安定するのです。
とくに、空の割合は、場面の印象を大きく左右するため、最初に比率を見極めることが重要です。たとえば、次の黄金分割線ような構図で区切ることもできます。
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制作画面の縦方向をを⑦の位置で区切れば、大地の広がりを表せますし、⑧で区切ると、空間の広がりを表現できるのです。
主役や準主役の立ち位置は、⑤や⑥の分割線が中心に来るように考えながら、とくに交点のEFIJは、画面上の強調できるポイントなので、主役となる一番強調したいモチーフや、人物であれば顔の位置などを据えます。
尚、黄金分割とは、画面の上下左右の寸法に対して、÷1.618で得られた寸法で分割するということであり、また、縦横の2分割線や左右からの対角線も併せて活用して、画面を構成することで画面が安定するのです。
次の連続画像を参照してください。この作品では、画面縦に4分割構図と横方向に黄金分割を使っています。
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- 黄色線:構図基本線(対角線・画面横の2分割線・画面縦の2分割線は4分割線と重複する)
- 青色線:黄金分割線(上下左右の各2本)
- 黄緑色線:4分割線(縦方向に対して3本)
- ピンク色の線:画面の中で視線を囲み、鑑賞者の視線を導く方向を示す線

国画会展 入選作品 誕生2001-Ⅰ F80 鉛筆画 中山眞治
主役と脇役を決めることで描く優先順位が明確になる

風景の中ですべてを主役として扱うと、画面に焦点がなくなります。そこでまず「どの要素を主役にするか」を決めましょう。
たとえば、一本の特徴的な木、カーブした道路、並んだ家並みなど、主役(強調するポイント)をひとつ決めることで、その周囲の脇役要素は描き込み量を抑えられるのです。
鉛筆画やデッサンでは、主役の明暗差や細部の密度をやや高め、脇役の描き込み密度は低くします。この「描き込みの差」が画面の視線誘導を自然に生み、初心者の人でも、まとまりのある風景に仕上げられます。
複雑な部分は「形」ではなく「まとまり」として把握する

木の葉、草むら、遠くの建物など、細部の集まりは初心者の人にとっては、描きにくい部分でしょう。これらを、ひとつひとつ形として捉えるのではなく、最初は「まとまりの塊」として見ていきます。
たとえば、木の葉は一つずつ描くのではなく、大きな濃淡の塊として観察し、後に必要な場所だけ枝や葉を追加していきましょう。次の画像の木の繫り具合を参照してください。^^

第3回個展出品作品 坂のある風景Ⅰ 2019 F1 鉛筆画 中山眞治
この観察方法を身につけると、鉛筆画やデッサンでの描写時間が短縮されるだけでなく、全体の比率を崩さずに済むので、風景全体の印象が安定します。
近景・中景・遠景を意識して情報量をコントロールする

風景を描く際は、空間を「近景・中景・遠景」に分けて考えることで、情報量の整理が格段に進みます。
近景は質感を少しだけ強める、中景は程よい情報量に抑え、遠景は形を単純化するなど、距離によって描き方を変えることがポイントです。
鉛筆画やデッサンでは、距離感が曖昧になりやすいため、近くほど明暗差を強め、遠くほど淡くすることを意識すると、画面に自然な奥行きが生まれます。情報量の配分は全体の調和を保つ大切な要素になります。
風景をシンプルに整理するためには、要素を「空・地面・縦要素」に分けて考えることから始め、主役と脇役の役割を決めることで、描く優先順位を明確にしましょう。
また、複雑な部分は塊として捉え、近景・中景・遠景を意識した情報整理を行うことで、画面全体が自然にまとまります。
鉛筆画やデッサン初心者の人にとって、風景を簡潔に整理する力は構図を安定させるための重要な技術であり、この視点があるだけで描写の迷いが大幅に減るでしょう。
画面のどこから描き始める?風景デッサンの初期配置の考え方

青木繁記念大賞展 奨励賞 郷愁 2001 F100 鉛筆画 中山眞治
風景を、鉛筆画やデッサンで描き始めたとき、初心者の人が最も迷うのが「どこから描き出すべきか」という点です。
細部から手をつけてしまうと、後から全体の比率が合わずに修整が増え、画面がまとまりにくくなります。
本章では、風景を描き始めるときの、「初期配置」の考え方に焦点をあて、どの位置から描き始めると構成が安定するのか、鉛筆画やデッサン初心者の人でも迷わず進めるための基礎的視点をまとめましょう。
最初に「置き場所」を決めることで画面が安定する

風景を描く際には、いきなり制作対象の輪郭線に入るのではなく、まず画面のどこに何を置くかという「置き場所」を決めることが重要です。
空の割合、地面の広がり、主要な木や建物の位置などを軽くアタリ線で示しておくと、鉛筆画やデッサンの全体バランスが崩れにくくなります。
最初は、正確さよりもスピードが大事で、何度も調整しながら大まかな配置を決めることが、風景全体の安定につながるのです。
この場合のコツは、Bや2Bの鉛筆を人指し指・中指・親指で優しく軽く持ち、肩や腕を使う大きな動きのイメージで、全体の輪郭を描いて行きます。
そして、いちいち「描いては消し・描いては消し」をせずに、複数の線を使って描いて行きます。やがて「この線だ」という線に出会えますから、その調子で大きな輪郭全体を描いて行きましょう。
そして、描き終わったところで、練り消しゴムを使って不要な線を整理していきます。また、残った線を改めてなぞる際には、それまで使っていた鉛筆よりも2段階明るい鉛筆で、優しく描き込みます。
それまで2Bで描いていたとすれば、HBでなぞるということです。その理由は、濃い鉛筆でしっかりと輪郭を取ってしまうと、違和感の残る仕上がりになってしまうからです。
想像してみてください。輪郭が、やたらと「はっきり」している作品なんて、なんだか変でしょ。^^
主役の位置は「左右どちらかの軸」に置くとまとまりやすい

風景では、主役となる要素を制作画面のど真ん中に置くと、画面の動きを止めてしまうことにつながってしまいます。
とくに、制作画面の寸法上の中心に、主役となるモチーフの中心を重ねてしまうと、動きが止まってしまうのです。
ただし、人物画で制作画面の寸法上の中心に、主役の人物を置くことは問題ありませんのでご安心ください。そういう構図もあります。^^
鉛筆画やデッサン初心者の人が、安定した構成を整えるには、主役を左右どちらかに寄せて「軸を作る」配置が効果的です。
先ほども掲載していますが、次の黄金分割構図基本線を参照してください。⑤や⑥上に据えるということになります。
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木、建物、道の起点などを左右いずれかの位置に置くことで、視線の流れが生まれ、鉛筆画やデッサンの構成が自然に引き締まります。これによって、後の描き込みでも迷いが減り、全体の整理が簡単になるはずです。
輪郭線は「薄く速く」描くことで修整が容易になる

鉛筆画やデッサン初心者の人に多い失敗の一つに、初期段階で筆圧の強い濃い線を使ってしまうことがあります。筆圧の強い濃い線は、修整が難しく、途中で比率を変えたいときに手間が増えます。
そこで、最初に描き始める輪郭線は、極力薄く速く(優しく軽く)描いておき、全体の比率が決まってから、描き込みを深めるのが基本です。
鉛筆画やデッサンでは、この「薄く速く(優しく軽く)」描くことが、後半の精度を決める鍵にもなります。
近景→中景→遠景の順番で描き出すと迷いが減る

風景を描く順番として、鉛筆画やデッサン初心者の人が、最も安定できるのは「近景→中景→遠景」の流れです。
最初に、近景の質感の強い部分を描き込むことで、鉛筆画やデッサン全体の奥行きに向かう起点を作れます。
次に、中景の建物や樹木へと順番に描き込んでいくだけで、制作の迷いが大幅に減るため、初心者の人にとくにオススメの方法です。
最後に、遠景は形の単純化がしやすいため、背景の空や山を描くと全体の空間がつかみやすくなり、奥行きを自然に整えられます。次の作品を参照してください。

第3回個展出品作品 旅立ちの詩Ⅱ 2021 F4 鉛筆画 中山眞治
風景デッサンの初期配置で、最も重要なのは、最初に大きな位置関係を決めておくことです。そして、近景をしっかり・くっきりと描きながら、徐々に鮮明度や描き込みを省略しながら中景から遠景へと描き進めましょう。
そして、主役の位置を左右どちらかに寄せて軸をつくり、輪郭線は薄く速く描き、近景から遠景へと順番に進めることで、全体の比率が安定します。

鉛筆画やデッサン初心者の人にとって、この初期配置の考え方は「迷いを減らす最初の基礎」であり、ここを押さえることで、風景画での表現が大きく前進するでしょう。
風景の距離感をつかむ!明暗と形の「差」で空間を作る方法
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第1回個展出品作品 夜の屋根 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
風景を、鉛筆画やデッサンで描くとき、初心者の人が戸惑いやすいのが「奥行きのつくり方」でしょう。
遠近法の、専門的な知識をすべて理解しなくても、風景には「近いものははっきり・遠いものは淡く」という自然のルールが働いています。
本章では、明暗と形の差を使い、鉛筆画やデッサン初心者の人でも実践しやすい方法で、空間を表現するための基本を整理しましょう。
複雑な風景でも、この方法を意識するだけで一気に奥行きが生まれ、画面の広がりが安定します。
近くは濃く、遠くは淡くという自然の法則を活用する

風景を描く際に、最も簡単で効果的な奥行き表現が、「距離に応じた濃度の変化」です。
近景は、光と影の差が強く、輪郭もはっきりと見えます。一方、遠くの山や建物は、空気の層を通して見えるためコントラスト(明暗差や対比)が弱くなり、形の輪郭も柔らかくなります。
この自然現象を、鉛筆画やデッサンに取り入れることで、特別なテクニックを使わなくても空間に奥行きが生まれるのです。
近景→中景→遠景の順で、濃度を段階的に変えるだけで、画面は立体的に見えてきます。
形の「くっきり度」を距離によって変える

奥行きをつくるときには、明暗だけでなく、形の輪郭の扱い方を変えることも重要です。近景はしっかりとした輪郭に、中景は標準的な線、遠景の輪郭は柔らかく少しぼかしたように扱います。
鉛筆画やデッサンで、輪郭をコントロールする意識を持つと、それだけで遠近の差が明確になり、画面に広がりが出るのです。
とくに、近景は線の強弱を丁寧につけることで存在感が増し、風景全体が安定して見えるようになります。
近景・中景・遠景の役割を理解してバランスを取る

風景は、手前の「近景」、真ん中の「中景」、奥の「遠景(背景)」の3層構造を意識すると整理しやすくなるのです。
近景は、画面に入口をつくり、中景は主役となる部分を支え、遠景は空間の広がりを決めます。
鉛筆画やデッサンでは、近景には少しだけ細部や質感を加え、中景は主役の密度をコントロールし、遠景は淡いトーンでまとめると、自然な遠近感が生まれるのです。
この3つの役割を理解すると、描く場所の優先順位が明確になり、全体の整理が格段にしやすくなります。
明暗の「重心」をどこに置くかで空間が変わる

奥行きを出すうえで意外に重要なのが、画面のどこに、最も強いコントラスト(明暗差)を置くかという「重心」の考え方です。
強い明暗が、近景のどこかに配置されると手前が引き締まり、中景と後景が自然に後方へ広がります。逆に、画面全体を同じ明暗で構成してしまうと、距離が平坦になり奥行きが生まれません。
鉛筆画やデッサンでは、明暗差の最も大きい部分=画面の核心をどこに置くかを意識すると、遠近の層が自然に整理されていきます。
風景に、奥行きを生み出すための基本は、難しい遠近法ではなく「距離による明暗と形の差」を理解することです。
近景を濃く、中景を適度に、遠景を淡くまとめることで画面の層が明確になり、自然な空間の広がりが生まれます。
さらに輪郭のくっきり度や近景・中景・遠景の役割、明暗の重心を意識することで、鉛筆画やデッサン初心者の人でも、迷わず奥行きをつくることができるのです。
尚、混乱のないようにしていただきたいのですが、圧倒的な画面深度を構成する手法をお伝えしておきます。
前述までの内容と一部矛盾が生じますが、近景を「薄暗く」・中景を「暗く」・遠景を「明るく」描くことで、「劇的な画面深度」を構成することもできます。次の作品を参照してください。

国画会展 会友賞 誕生2013-Ⅰ F130 鉛筆画 中山眞治
これらの要素を組み合わせることで、風景は一気に立体的な表情を持ち始めるでしょう。
描き込みすぎない!風景デッサンをまとめるための省略と統合

第1回個展出品作品 サン・ドニ運河 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
風景を鉛筆画やデッサンで描くときに、初心者の人が最も失敗しやすいのが、「描き込みすぎ」です。
風景画は、描き込む要素が多いため、すべてを細かく描こうとしてしまうと画面が重くなり、主役を引き立てられなくなります。
本章では、作品の印象を損なわずにまとめるための、省略技法と統合の考え方を解説します。
どこを描き、どこを省略するのかを判断できるようになれるだけで、風景の鉛筆画やデッサンの完成度は、大きく変わるのです。
情報量を減らすためにも最初に「描かない部分」を決めておく

風景の鉛筆画やデッサンでは、描く部分よりも描かない部分を先に決めることが効果的です。たとえば、空の雲を詳細に描く必要はなく、広い面として残すだけで充分です。
また、広く続く草むらも、最初から細部を追うのではなく、面としてまとめて描かない部分を作ることで画面が軽くなります。
鉛筆画やデッサンにおける省略は、手抜きではなく、主役(強調したいポイント)を引き立てるための大事な選択なのです。
主役及び主役の周囲はしっかりと描き込み、外部へ向かうほど情報を減らす「中心密度法」

制作画面の、主役の周囲はやや描き込みを増やし、主役部分から離れるほど情報を薄くします。これを中心密度法と呼びます。
たとえば、一本の木を主役にする場合、幹や枝の陰影は少し強くし、背景の木々は淡く処理するだけで奥行きが生まれるのです。
鉛筆画やデッサンで、主役と脇役の密度差を作ると視線が自然に誘導され、画面全体がまとまります。
複雑な形は「塊として統合してから」必要な線だけ追加する

葉、草、屋根瓦などの細部を初期段階で描いてしまうと、途中で画面が飽和し、比率の修整が難しくなります。
そこで制作当初は、複雑な形は塊として処理し、面やトーンのまとまりで配置しておきます。後半で必要な箇所にだけ線を追加すればよく、無駄な描き込みが大幅に減るのです。
統合してから細部を足すことで、鉛筆画やデッサンの全体感が失われにくくなり、作業効率も向上します。
省略と統合が画面のリズムと視線の流れを生む

風景デッサンでは、描かれた部分と、練り消しゴムなどで抜いた部分の差が、リズムを作ります。
密度の高い部分が一定量あると、視線はその周囲から画面内を巡り、自然な流れが生まれます。一方で全体を均一に描き込むと視線の停滞が起こり、作品が平坦に見えてしまうのです。
省略と統合を適切に行うことで、風景の中に動きと静けさが調和し、観てくださる人に「心地よいリズム」を感じさせることができます。
風景の鉛筆画やデッサンで、描き込みすぎを防ぐには、描かない部分を先に決め、主役の周囲だけ密度を高める中心密度法が効果的です。
また、複雑な形は塊として統合し、必要な線だけ後から追加することで全体の比率が安定するでしょう。
ここで重要な点を解説しておきます。我々人間の目は、「細かい柄や模様」に視線を奪われる習性があります。
つまり、あなたが主役として描く部分には、しっかりと細密描写しましょう。しかし、主役や準主役以外の脇役部分には、現実的には「細かい柄や模様」があったとしても、それを簡略化することで、主役が引き立つのです。
このことを実践せずに、脇役部分に「細かい柄や模様」をしっかり描き込んでしまうと、観てくださる人の視線は、あなたが導きたい主役には向かいずらくなってしまいます。
そのようになってしまった作品は、「何が言いたいのか分からない作品」言われてしまうことがあるので、注意が必要です。我々制作者は、画面の中の主役をいかにして引き立つように描くかが、大きな課題なのです。
あるいは、全体を細かく描き込みたいという場合では、主役や準主役にはハイライトをしっかりと入れて、それ以外の部分には「ハイライトを抑えて描く」ことで、主役や準主役を引き立てられます。
しかし、主役に対して、準主役にも主役を引き立てるように、描き込みやハイライトを抑える配慮が必要になるのです。
そして、あなたが描こうとしている風景は、決してあなたが扱おうとしている構図にぴったりはまる景色など存在しません。
何が言いたいのかと言うと、あなたが扱う構図に合わせて、その主体的な構図の位置(構図分割線の縦横の交点など)に、あなたが描こうとしている主役を配置して、準主役や脇役なども使って、構図分割線を充分に活用するということになります。
その際に、それらのモチーフは、離れている所にあるモチーフなどは「あなたの都合の良い」・位置へ移動させましょう。これをデフォルメと呼びますが、移動・削除・省略・拡大・縮小・つけたしなど何でもありです。
具体的には、風景の中に「電柱や電線」があっても、それらを削除して描くことなど、どのプロ画家も当たり前に行っています。
構図分割基本線に合うように、脇役なども大きさや寸法、あるいは形状を一部変えて、画面全体が構図分割基本線に沿って整理されて、尚且つ、主役や準主役が引き立つように描くことが重要なのです。^^
これらの配慮を充分に行った作品は、「公募展への入選」も可能にしてくれるでしょう。

省略と統合の判断が上手になると、画面にリズムが生まれ、鉛筆画やデッサンならではの、軽やかで深みのある風景を描けるようになれます。
練習課題

第1回個展出品作品 ノートルダム寺院 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
本章では、あなたが実際に手を動かして練習できる課題を用意しました。鉛筆画やデッサンは練習しただけ上達できますので、早速試してみてください。
空・地面・縦要素で風景を3つに整理するラフスケッチ

内容:
- 近所の公園や道沿いの風景を選び、スケッチブックに横長の枠を3つ描く。
- それぞれの枠で「空」「地面」「縦要素(木や電柱、建物など)」の大まかな割合だけを描き分ける。
- 細かい描写は一切せず、空の広さ、地面の奥行き、縦要素の位置とボリュームだけを鉛筆でラフに描き込む。
- 1枠につき5分程度で、3パターン描いてみる。
目的:
風景を、鉛筆画やデッサンで描く前に、細部ではなく「空・地面・縦要素」という、3つの大きな塊で整理する感覚を身につける。構成をざっくり押さえる習慣を持つことで、描き始めの迷いを減らす。

参考画像です
主役と脇役を決める構図ラフ
内容:
- 1枚の枠の中に、道と木、または建物と木など、要素が2〜3個あるシンプルな風景を選ぶ(写真でも可)。
- 「今回はこの木を主役」「今回はこの道のカーブを主役」と、同じ風景で主役を変えてラフ構図を2〜3枚描く。
- 主役にしたいものは少し大きめに、コントラスト(明暗差)も少し強めに描き、脇役の要素は形を簡略化して描き込みを抑える。
- 1枚あたり10分以内で、描き過ぎないように止める。
目的:
鉛筆画やデッサンで、すべてを同じように描いてしまう癖を防ぎ、「どこを主役にするか」で構図を決める練習をする。描き込み量の差で主役と脇役を分ける感覚を身につける。

参考画像です
近景・中景・遠景を分けて明暗で奥行きをつくる
内容:
- 小さな田舎道や坂道など、奥に続いていく風景の写真(または実景)を一つ用意する。
- 1枚の枠の中で「近くの手前(近景)」「道の途中や建物(中景)」「遠くの山や建物のシルエット(遠景)」を、大まかな形と明暗だけで描き分ける。
- 近景はやや濃く、中景は中くらい、遠景は淡くすることを意識し、細部は描き込まずにトーンの差だけでまとめる。
- 10〜15分以内で、全体の明暗リズムを優先しながら仕上げる。
目的:
近景・中景・遠景を意識しながら、鉛筆画やデッサンで奥行きをつくる基本を体験する。正確な遠近法よりも、「近くほど明暗差を強く、遠くほど淡く」というシンプルな距離感のルールに慣れる。

参考画像です
まとめ

風景を、鉛筆画やデッサンで描くうえで、最初に大切なのは細部の描写よりも「どのように観察し、どう構成するか」という根本的な視点を身につけることです。
鉛筆画やデッサン初心者の人が、風景で迷いやすいのは、目に入るすべてを描こうとしてしまい、結果的に描き込みの優先順位や、画面全体の流れが不明確になる点にあります。
この記事では、観察の基本、要素の整理、描き始めの位置、距離感の作り方、省略と統合の考え方までを順序立てて解説してきましたが、これらはすべて「迷いを減らし、安定した画面を作るための基礎」です。
鉛筆画やデッサンで風景を描く際に必要な考え方は、一つひとつのモチーフの捉え方が小さなコツの集合体のように見えるかもしれませんが、実際には全体の画面づくりに、それぞれが密接に関わっています。
ここでは、記事全体の重要ポイントを改めて整理し、今後の制作で活用できる形にまとめました。
まず、風景を描き始める前には、制作対象を細部ではなく「塊」として観察し、空・地面・縦要素といった、大きな分類で全体を把握する習慣が必要です。
この段階での観察力が、その後の比率や構成に影響し、画面の安定感を左右します。次に、主役と脇役の役割を決めることで、描写の密度に差が生まれ、視線の流れが自然に整います。
さらに、近景・中景・遠景の区分や明暗の差を活用することで、距離感と空間の広がりが表現しやすくなるのです。
最後に、すべてを描き込みすぎず、省略と統合によって画面全体をまとめる判断力が、風景の鉛筆画やデッサンの完成度を高める鍵になります。
重要ポイント(箇条書き)
- 風景は、細部ではなく「大きな塊」として観察する。
- 空・地面・縦要素の3分法で、全体の構造を整理する。
- 主役と脇役を決め、描き込みの密度に差をつける。
- 近景・中景・遠景の3層構造を意識して、距離感を作る。
- 明暗の流れを早い段階で把握し、トーンの方向性を決める。
- 複雑な部分は形ではなく、「まとまり」として捉える
- 描き込みすぎを避け、省略と統合で画面を整理する。
- 観察→整理→配置→距離感→まとめ、の順で進めると迷いが減る。
- 鉛筆画やデッサンでは、「量感の把握」が画面安定の土台になる。
- 風景の情報量を調整する判断力が、完成度を左右する。
また、「人生が充実する、鉛筆画やデッサンがもたらす驚きのメリットと魅力!」という次の記事もありますので、関心のある人は参照してください。^^
ではまた!あなたの未来を応援しています。




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こうした観察の視点を持つことが、鉛筆画やデッサン初心者の人が、安定した風景の鉛筆画やデッサンへと進むための最初の一歩となります。