鉛筆画で風景の描き方がよくわかる!:初心者から始める完全ガイド

 こんにちは。私はアトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治です。

        筆者近影 作品「パーティーの後で」と共に

 さて、鉛筆画で風景を描きたいけれど、どこから始めれば良いかわからないという人に、鉛筆画で風景の描き方の基本から応用まで、具体的な手順をステップごとにご説明します。

 構図の決め方、遠近法の取り入れ方、光と影の扱い方、質感やディテール(詳細)の表現など、リアリティー(現実性)を追求するための技法も順序立てて解説します。

 この記事を通じて、鉛筆画で風景を描く技術をマスターし、初心者の人でも自信を持って描けるようになれるでしょう。

 それでは、早速どうぞ!

Table of Contents

鉛筆画の風景の基本構成と準備

日美展 文部科学大臣賞(デッサンの部大賞) 誕生2023-Ⅱ F30 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画の風景を始めるにあたり、まずは基本構成と準備が重要です。適切な準備と構成を理解することで、より、リアルでバランスの取れた風景画を描けるようになれます。

 本章では、初心者の人でも分かりやすいように、基本ステップを解説していきます。

 尚、ところどころで筆者の作品画像が出てきますが、鉛筆画ではこんな風にも描けますよということを説明する意図で掲載していますので、そのようにご理解ください。^^

初心者の人が描き始める際の順序

 誕生2020-Ⅲ F4 鉛筆画 中山眞治   

 初心者の人が、鉛筆画で上達する道筋としては、順を追って描き進むということが重要な意味を持ちます。

 それは、簡単なものから初めて、徐々に描くことに慣れるにしたがって、難易度を少しづつ上げていくことであり、特に取り組みの最初は重要です。

初心者の人が最初に取り組むべき制作の基本とは? 

 あなたが初心者の人の場合には、はじめは、構図や構想を練るというようなことは考えないで、単純に「楽しんで描くこと」が一番重要です。 その理由は、初めから複雑な制作に取り組んでしまうと、挫折する可能性が高まるからです。^^

  しかし、5作品ほど描いて、ある程度描くことに慣れることができましたら、あなたが描こうとしている風景の中で、強調したい部分や感動を伝えたい部分を構図の中心に据えることで、一層作品を引き立てることができます。 

 構図とは、画面構成をする上で、なくてはならない重要な要素です。簡単に言ってしまえば、より一層画面全体を引き立てられて、観やすくなり、あなたの感動や強調したい部分を表現する際の重要なポイントとも言えますので、詳細はこの先で説明します。

描き始めの最初は、色々なことは考えないで、楽しんで描くことが一番重要です。構図や構想を練るという過程はその次の段階と記憶しておきましょう。

名作に共通する確固たる構図の秘密

 「著名な画家」の作品は、必ずしっかりとした「構図」に基づいて制作されているものです。構図は、鉛筆画に限らず、絵画制作の全体における重要な骨格であり、基盤となる要素です。   

 そして、この「主題を決める」という部分では、あなたが「この風景を描いてみたい」と思える景色の中には、必ずその中に魅力的な部分があるはずです。例えば、公園の景色であれば、池に映った林やその他の反射で捉えたいモチーフがあるのではないでしょうか。 

 筆者も、描き始めのころは、画面に人を惹きつけられる要素や魅力を、どう表現したらよいのかよく分からないまま描いていました。しかし、簡単ではあっても、構図を入れることによって作品の構成が充実して、魅力的な描写ができることを実感しました。

 その他にも、ベンチを含めた背景の景色や、公園の時計台など、画面の中で、あなたが中心に捉えたいモチーフを選ぶことが重要です。何となく描いていては、作品にメリハリが出せません。

 主題については、あなたが描きたいと思える画面上の要素をハッキリさせましょう。具体的には、前述していますように、公園であれば池に映った風景や、時計台やベンチを含めた背景の風景などです。

 繰り返しますが、あなたが「描くことにある程度慣れて」きましたら、画面上で中心に据えたい要素を抽出して、それを構図に当てはめて描いていくことで、作品にメリハリが生まれます。

なかやま

鉛筆画はモノトーンの世界なので、色鮮やかな色彩はありませんが、充分な構想を練り、しっかりとした構図の導入及び光と影の劇的な対比や、遠近法によってリアルな描写ができますよ!

構図の導入と練るべき構想の重要性について

国画会展 入選作品 誕生2001-Ⅱ F80 鉛筆画 中山眞治

 あなたはには、風景の中で強調したい部分や感動を伝えたい部分などを、中心として描いていくという心づもりが必要です。

 その時点では、まず、描きたい風景の主題(画面上で中心に据える対象物)を決め、その主題を中心に画面構成を考える必要があるということです。

 上の画像の中の黄色の枠線で囲んである部分が、この作品の主題(主役)であり、青色の枠線で囲んでいる部分は準主題(準主役)です。2つのモチーフはいずれも、画面上の黄金分割点上に配置して存在を強調しています。

 そして、この画像ではよく見えていませんが、左下角にもう一つ地面から少しだけ出ている準主役もあり、その3つのモチーフの構成で「リズム」を表しています。

 また、制作画面上で中心に据える対象物は、見映えのする位置である「構図」の分割点に据えていくことが効果的です。さらに、そのような構図に基づいた配置やモチーフを考えることが、「構想を練る」ということです。尚、構図の説明はこの先で行います。

内容の濃い完成度の高い作品は、観てくださる人に感動や心地よさなど、プラスの要因を強調できますので、その意味からも構図を研究し、作品制作の構想を練りましょう。

初心者の人でも取り組める簡単な構図のアイデア集

 構図と聞くと、何か難しいもののように聞こえてしまうかもしれませんが、簡単なものもたくさんありますので、できれば、構図に関する本を一冊購入することをオススメします。  

 つの例としては、三分割法を活用するとした場合には、視覚的に安定した構図が得られます。具体的には、画面を縦横に三分割して、あなたの描こうとしている風景のポイントになる部分をその三分割線上に配置するという方法です。

 また、遠近感を強調するためには、前景・中景・遠景を意識して配置することも重要なポイントです。

構図は、すぐに取り組める簡単なものもたくさんありますので、気軽に挑戦してみましょう。

初心者の人が知っておくべきデフォルメとは?

  ここで重要なポイントをお伝えしておきます。上の文章では、一つの例として三分割法を紹介して、「風景のポイントになる部分をその三分割線上に配置する」と書いていますが、そのように丁度三分割できる現実の景色を探しても実際には存在しません。 

 つまり、実際の風景の中から、ポイントを抽出して、「あなたの都合の良いように配置してしまうと」いうことです。絵画の世界では、ごく日常的に行われていることであり、「デフォルメ」と呼ばれていて、修整・削除・変形・縮小・拡大と、何でもありです。  

 実際に、実物の風景には「電線」や「電柱」があったとしても、それらを省略して、「より魅力的な風景に変更」してしまうことは、当たり前に行われていることを記憶しておきましょう。  

 また、実際の対象物が大きかったり、小さかったり、あるいは、幅があったり、細すぎたりした場合には、あなたの使う構図に都合の良いサイズに変更してしまっても良いのです。^^

構図にぴったりとはまるような風景などありませんので、あなたの都合の良いように、要素を抽出して、それらを構図の分割点に配置していきましょう。

準備するアイテムと環境

 風景の鉛筆画を始める前に、適切なアイテムを揃えましょう。鉛筆は硬さが異なる種類を用意し、B系統の柔らかい鉛筆で太い線や影を、H系統の硬い鉛筆で細かいディテール(詳細)を描くと効果的です。

 イーゼルや画板も用意しておくと、描きやすさが向上します。そして、静かな環境や自然光が入る場所を選ぶことで、集中して描くことができます。

 また、最初から屋外で、イーゼルを立てて制作するとなると、人の目が気になったりするはずでしょうから、当初は画像を使って自宅での制作がオススメです。

  図書館から借りてきた画像や、あなたが撮りためた画像、あるいは、ネットやスクリーンショットからの画像でも良いでしょう。

 筆者の場合には、デジカメで近所の公園へ行き、「自分自身が描きたいと思えるもの」を片っ端から撮影して帰り、その中から使えそうだと思えるものを描いていましたが、正直な話、10枚の中に1枚あるかないかでした。 

 そこで、重要なことは、撮りためた各種画像の要素を合成できれば、何の問題もありません。狙った構図の位置に、好みの対象物を配置すればよい訳ですから。このような考え方で進んでいければ、あなたの納得のいく作品に仕上げることができます。^^  

風景の鉛筆画では、構成要素を構図に従って配置することで、見ごたえのある作品に仕上げることができます。

各種風景画を制作していくうえでの全体的な流れ

 初心者の人の場合には、描き始めの段階で全体の流れを知っておくことは、先々の重要な道しるべとなります。

 本章では、それ以外の作品を制作するにあたって、描き始めの重要な点に焦点を当てて説明します。 

ラフスケッチで全体を把握

 実際に画面に向き合って、制作を始める際には、特に重要な点がいくつかあります。それは、全体をしっかりと把握して、徐々に仕上に向かう手順です。

 適切な制作手順のポイントを知っておくことで、描き直しなどの回り道をすることもなく、画面を汚さずに済むので、納得のいく制作を進めていけます。

 制作画面の中の、大きな主要な要素の輪郭を正確にとらえることが一番重要です。大きな要素から中くらいの要素、そして、細かな要素へと描き進むことが必要なのです。

作品の質を高める秘訣とは大きな輪郭を取った後に休憩をはさむことだった! 

 最初に行うべきことは、風景全体の大まかなラフスケッチです。細部にこだわりすぎず、主な形やバランスを捉えることが重要です。  

 この段階では、制作対象の輪郭が適切かどうかを確認し、必要に応じて調整しましょう。この時点でのコツとしては、全体の輪郭が出来上がったところで、一旦休憩をはさんで、改めて画面を点検することが重要なポイントです。 

  筆者の場合には、休憩をはさんで改めて画面と向き合うと、必ずと言ってよいほど2~3ヶ所の修整点が見つかります。 

 この時点での重要なことは、大きく輪郭を捉える動作で、勢いづいたまま一気に進んでしまうと、のちのち「大きな修整に迫られた際に調整が難しくなる」点が挙げられます。初めの内であれば、簡単に修整できるので、早めに手を打つべきなのです。

描き始めに、大きな輪郭を取って、ほぼこれでよいと思った場合でも、そこで一旦休憩をはさみましょう。休憩後に改めて画面を点検すると、修整点が必ず見つかるものです。

無理をせず楽しむための作品制作のコツとは?

 制作当日に、気が乗らなかったり、疲れている場合などで、「どうも今日はうまく描けない」と思うようなことがありましたら、いっそのことその日の制作をやめて、次回の制作へ繰り越すことも選択肢に入れましょう。

 筆者は、制作中に気が乗らなかったり、疲れが出てきた時点などでは、思い切ってその日の制作を終了することがよくあります。 

 辛かったり、苦しかったりしているような状態のままで描き進み、まるで修行のような状態で描いて行くとすれば、あなたは鉛筆画を描くことが楽しくなくなってしまいます。^^

  あなたも、気の乗らない時などには、無理をしないでやめる勇気も持ちましょう。鉛筆画の制作では、あなたが「楽しんで描く」ことが一番重要なことだからです。 

 好きこそものの上手なれという言葉がありますが、裏を返せば、楽しんで描ける時に集中することが上達を早めるということです。

なかやま

上手になりたいと思っているあなたには、決して無理をしないで、「楽しんで描くこと」が一番重要です。たっぷりと時間が取れて、体調がよく、気分が乗っているときには、しっかりと集中して描き進んでいこう!

輪郭を描く際に全体構成を同時に意識する重要性

 そして、全体の輪郭を取る際には、遠近感を意識しつつ、空間の奥行きを表現するための、全体的な構成を確認しながら進むことが必要です。 

 これらの準備と基本構成を意識することで、次のステップであるディテール(詳細)の描写へとスムーズに進んでいけます。

 制作の途中では、定期的に少し離れた場所から作品を観察することも重要です。作品に接近している制作状態とちがって、離れてみることで分かることもたくさんあるからです。具体的には、作品の中の全体の輪郭および比率や濃淡の状態などです。

 筆者は、今でも毎回の制作において、必ず離れて見直すことを実行しています。途中の点検を怠ってしまうと、のちのち思いもかけない「大修整」が待ち受けていることがあるからです。^^

毎回の制作においては、必ず制作の途中で、少し離れた場所から全体を点検しましょう。早い段階での修整であれば大きな変更もなく、簡単に修整できて楽しく進んでいけます。

リアルな構図を作るためのコツ

坂のある風景Ⅱ 2019 F1 鉛筆画 中山眞治

 リアルな風景の鉛筆画を描くためには、構図が作品の質を大きく左右します。適切な構図を作るためには、視点の設定(構図分割点に主題を配置すること)やバランスを意識して、描きたい主題が引き立つよう工夫することが重要です。 

 そのためにも、納得のいく作品の下絵(エスキース)を作ることができれば、制作画面に向き合ったときには、再現するだけなので、モチーフの配置や構図との組み合わせもスムーズに進めることができます。

  本章では、リアリティー(現実性)を追求した構図を作るための具体的なポイントを解説します。

 尚、上の作品では、道路の奥行の最終地点は、画面上の縦のサイズに対する√2の分割点を使っています。こんな風にも構図は活用できるものです。具体的には、画面縦の寸法÷1.414で得られた寸法ということです。

主題を際立たせるフォーカスポイントの設定  

 前述していますが、リアルな構図を作る際には、まずフォーカスポイント(焦点)を明確に決めましょう。フォーカスポイントとは、観てくださる人へアピールする部分のことです。

 言い方を変えれば、先ほども触れていますが、あなたが風景の中で、強調したい部分や感動を伝えたい部分に焦点を当てた制作をするということです。

  このポイントを意識することで、視線を自然に導き、風景全体に強調したい部分や感動を伝えたい部分を中心とした、統一感を持たせることができます。

 あなたが目立たせたい、あるいは、感動を伝えたい部分を強調するためには、それ以外の部分には、細密描写を控えて「分かる程度の描き込み」にとどめる事も必要であることを記憶しておきましょう。そうすることによって主題が引き立ちます。 

 または、全体的に細密描写を施した場合であってもハイライトは、目立たせたい・感動を伝えたい部分にしっかりと入れて、他の部分には「ハイライトを抑えて描く」ことによって、目立たせたい・感動を伝えたい部分を強調できます。

鉛筆画に限らず、絵画全般に言えることですが、画面上のすべてのモチーフを細密描写することは、主題(主役)が焦点ボケになる場合があるので注意が必要です。

視線誘導と動きのある構図

坂のある風景Ⅰ 2019 F1 鉛筆画 中山眞治

 そして、斜線や曲線を活用すると、画面に動きを出せて、より活き活きとした印象を与えられます。動きのある構図は、観てくださる人に臨場感を感じさせるための効果的な手法となります。

 画面に引き込まれるという表現を聞くことがありますが、まさにこのことです。見た瞬間に、「あなたの意図する方向へ鑑賞者を引き込む」そんな作品を制作しましょう。

 因みに、上の作品では、カーブした坂を登り切った、上の交差する道路の部分に、視線を誘導しています。瞬間的に作品を観ると、その部分へ視線が向かうはずです。^^

 道路及び河や線路などは、上の作品のような描き方をすることで、その奥へ瞬時に観てくださる人の視線を引き込めます。

垂直や水平だけで構成された作品には、魅力が少ないものです。具体的には、扱っているモチーフがどんなに素晴らしく描けていても引き立ちません。

作品制作上の重要点

      青木繁記念大賞展 奨励賞 郷愁2001-Ⅱ F100 鉛筆画 中山眞治

 尚、絵画全般に言えることですが、「迫ってくるような描写」は、「緊張感」を得られる重要な制作テーマです。

 上の作品のような光景や、線路及び道路や河であっても、その要素(手前に迫ってくるような緊張案)を抽出して、それを重要なポイントに据えることもできます。

 人によっては、遠くからこちらに向かって進んでくる「雲」で、緊張感を表現している作家もいますし、建物の中のシャンデリアが、迫ってくるような緊張感を強調した作品を制作する人もいます。

 上の作品では筆者が、この緊張感を意識して、栃木県真岡市まで取材に行き、撮りためた画像などたくさんの画像を総動員して制作した「合成作品」です。「故郷に対する想い」が胸に迫ってくる、そんな情景を描写しました。

 筆者は、このモチーフとどう取り組もうかとしばらく考えていましたが、何としても描きたいという気持ちが大きく膨らんで、「取材」につながったのですが、やはりどうしても描きたい対象がある場合には、実際に観て聴いて触れることが重要だと実感しました。

作品制作における大きなポイントは、「緊張感の導入」も重要な要素であることを記憶しておきましょう。

前景・中景・遠景のレイヤリング(重ね塗り)

      国画会展 会友賞 誕生2013-Ⅱ F130 鉛筆画 中山眞治 

 風景の鉛筆画に奥行きを持たせるためには、前景・中景・遠景の3つのレイヤー(層)を意識した配置が重要です。前景には詳細な描写を行い、中景には主題となるフォーカスポイントを配置します。  

 遠景には、遠くに続く風景の奥行及び遠くの山々や空など、視覚的に奥行きを生む要素を描きます。このレイヤリング(重ね塗り)により、作品に深みが増し、リアルな空間表現ができます。  

 リアルな構図を作るためには、これらのポイントをバランスよく取り入れ、あなたが伝えたいメッセージを際立たせることが求められます。構図に自信を持って、よりリアルな風景の鉛筆画に挑戦しましょう。  

 尚、「画面深度」を高める重要な手法をお伝えします。前景は「薄暗く」・中景は「暗く」・遠景は「明るく」することで、画面深度を高められます。上の作品を改めて参照してください。こんな感じです。^^

構図の選定

国画会展 入選作品 誕生2006-Ⅱ F100 鉛筆画 中山眞治

 制作を進めるうえで、まず構図を決めてから、その後モチーフを決める方法と、モチーフを決めてから構図を考える方法があります。

 今回は、上の作品の「心象風景」を制作するものとして、構図を決めてから描き進む方法の解説をしていきます。まず、A4の紙を半分に切った大きさでよいので、下絵(エスキース)の制作から始めます。

 それは、実際に制作に入る画面の大きさを、正確に縮小した寸法の下絵で試行錯誤を繰り返して、出来上がった下絵を基にして制作する方法です。

 そして、出来上がった下絵を本制作上の画面に再現するには、主要なモチーフの下絵上の寸法を測り、縮尺した係数で割れば正確な位置を再現できます。

 その次の段階では、下絵の各種構図基本線上に、あなたの取り扱うことを決めた、景色の抽出ポイントの配置を検討していきます。

鉛筆画のエスキースの作り方

 上の画像は、今回の作品のモチーフを、構図分割基本線と黄金分割線を施した画面上に配置して、下絵が完成した時点の状態を表していますが、まずはこの状態になることを目指して、以下に書き進みます。

 あなたが取り組みを始める場合には、本制作に入る画面の正確に縮尺をかけたエスキースの画面に、構図基本線を描きましょう。今回は、黄金分割を用いた制作を紹介します。

 あなたが、本制作に入る画面の大きさをF10のスケッチブックのサイズで取り組むとして、そのエスキースをA4の紙を正確に2つに切ったもので制作する場合には、次のようになります。

 F10の短辺は454mm・長辺が528mmなので、あなたが手元に用意したエスキースは、その短辺のサイズは148mmなので、F10の短辺のサイズ454mmで割ると、0.3259という数値が出ます。

 そして、F10の長辺は528mmなので、この長さに上記の縮尺(0.3259)をかければ、172.07となりますので、あなたのエスキースの長辺を172mmにすれば、あなたが本制作に入るF10を正確に縮尺したエスキースの土台ができるということです。

 つまり、F10の短辺のサイズをエスキースの短辺サイズに合わせて縮尺をかけ、その縮尺に応じて、エスキースの長辺も正確に調整することで、F10を正確に縮尺したエスキースを得られるということです。

試行錯誤を繰り返して、出来上がったエスキース上の主要な各モチーフの寸法を測り、縮尺値で割れば、F10の画面上で正確な位置を特定できます。

鉛筆画のエスキースに長辺短辺の2等分割線及び各対角線を描く

 次に、上記画像のように、長辺短辺の2等分割線(③④)及び各対角線(①②)を描きます。

 上の黄色い描線で、すべての基本線は入れ込んでありますが、黄金分割線だけを捉えたものは下の画像の中の水色の線であり、寸法の求め方は次の通りです。

 F10画面の縦の寸法は、454mmなので、÷1.618すると、280.59となりますので、画面上下から280.5mmの位置が黄金分割点です。(⑦と⑧)

 また、F10画面の横の寸法は528mmなので、÷1.618すると、326.32となりますので、画面左右から326mmの位置が黄金分割点です。(⑤と⑥)

鉛筆画のエスキースの画面に光の斜線を描く

 画面の上辺AB上の⑥から左辺AC上の⑧まで斜線を入れます。また、右辺BD上の⑦から底辺CD上の⑤までを結びます。

 尚、画面左上の窓の幅は、画面長辺の1/7の幅にします。その1/7の幅を画面上部左角Aから取り、その位置から斜線②と交差する位置までの直線を描き、その交点から左辺ACへ線を描いて窓(抜け)とします(以後窓を「抜け」と呼びます)。

 そして、画面右上の「抜け」を強調するためにも、画面左上の「抜け」のサイズは小さくする必要があると同時に、それ以上の大きさにしてしまうと、主役の背景に効果的な黒い面積が確保できなくなるからです。

 つまり、さまざまに試行錯誤した結果がこの1/7というサイズになったということです。また、画面左上で「抜け」の右下の角は斜線②上にありますが、その角から左斜め下に描き込む斜線については、上辺AB上の⑥から左辺AC上の⑧までの斜線と同じ角度で線を描きます。

 この各種基本線は、2Bなどの柔らかい鉛筆の軽いタッチで描き込みます。この時筆圧を強く描き込んでしまうと、のちの工程で練り消しゴムでは消しきれなかったり、跡が残ってしまうので、そのためには筆圧をかけ過ぎず優しく描くことが必要です。

鉛筆画の「抜け」による効果はいろいろな作品に応用可能!

 この「抜け」があることによる効果は、観てくださる人の息苦しさを解消できます。それは、意識がその「抜け」の先にある外界のひらけた空間に向けられて、解放感を与えられるからです。

 そして、その効果は心象風景以外のどのジャンル(人物・花を含む静物・動物・風景)にでも応用できますし、今回の「抜け」では、左上の「抜け」の中にある鳥が外部へ抜ける視線を遮り、右上の「抜け」へ視線を導いています。

 また、本来画面の中心点には、それぞれのモチーフの中心点が重ならないように配置しますが、今回の制作例では、三角の構図や生と死の対比などをする関係から、画面中心点に枯葉がかかってしまっていますで、虫食いで中心点を外しています。

鉛筆画の画面全体のレイアウトを考える

  • 黄色線:構図基本線(各対角線・画面縦横の2分割線)
  • 青色線:黄金分割線(上下左右の各2本)
  • 緑色線:3角形の構図線
  • 赤色線:斜線

 そして、描き込んだ基本線の黄金分割の位置にモチーフを置きます。また、この時に、作品によってはそれ以外のモチーフも検討して、各導線との交わり方や導線の導き方も同時に考えていきます。

 今回の制作例では、モチーフの主役は植物の芽と室内に差し込む陽光です。そして主役の背景に、そのモチーフを引き立てるために、死の象徴である「枯葉」を置いて「生と死の対比」を行い、主役を引き立てるべく影の部分に濃いトーンを入れていきます。

 また、一枚の鳥の羽根を配置していますが、その羽根の向きを斜線上に乗せて、画面左上の抜けの中を飛ぶ鳥と関連性をにおわせながら、三角形の構図を意識して配置します。 

鉛筆画の中心点の扱いは慎重にしましょう

 制作例では、中心点部分は虫食いで避けていますが、意識的に中央にモチーフを配置する場合は別として、複数のモチーフで構成する画面では、できるだけ画面の寸法上の中心点と主役や準主役のモチーフの中心点を重ねないように、避けて制作しましょう。

 意図的に画面中心部にモチーフを配置する場合や肖像画は別として、複数のモチーフなどで構成する画面においては、中心点にモチーフを置いてしまうと「動きが止まってしまう」ので、注意が必要なのです。

描き進む順序

 各種構図基本線を踏まえて、それぞれの構図分割基本線上の分割点へ、モチーフの配置が終了しましたら、モチーフにかかっている余分な線を消していきますが、明るいところにする部分は特にきれいに消す必要があります。しかし、暗いところにする部分の消し込みは必要ありません。

 これからトーンを入れていくので、消す必要がないのです。しかし、練り消しゴムで消したところは、練り消しゴムで消さなかったところと比較すると、鉛筆の乗り具合が若干変化するので、できるだけきれいに仕上がるように練り消しゴムの使用は最小限にしましょう。

 そして、余分な線を整理できましたら、画面上の一番濃いところからトーンを入れていきましょう。上の作品では、部屋の中に差し込む斜めの光の上下には6Bの濃いトーンを使っていますが、モチーフの背景の枯葉には、2Bで、床面にはHBで陰影を整えています。

 この時点の、全体にトーンを入れていく順序としては、画面上の一番濃いところから徐々に明るいところを描くことで、描きやすさが増します。

遠近法を活用して奥行きを表現する方法

 風景の鉛筆画で、奥行きを表現するためには、遠近法を適切に取り入れることが不可欠です。 遠近法は、空間の広がりや距離感を視覚的に描写するための技法で、これをマスターすることで、作品全体に深みとリアリティー(現実性)が生まれます。 

 透視図法は、最も知られている遠近法の技術ですが、遠くのものほど小さくなり、消失点で消えるように描きます。 透視図法を簡単にいえば「消失点を決めて、そこへ集まる線を基準に描く」ことで空間の奥行きや遠近感を表現する技法です。

 本章では、遠近法を効果的に活かすためのポイントを紹介します。

一点透視図法の基本

 一点透視図法は、初心者の人でも取り組みやすい遠近法の基本です。この方法では、消失点を設定し、その点に向かって水平線が集まるように描写します。 

 道路及び鉄道の線路や河なども、直線的な風景に適しており、消失点に向かって縮小する線を意識することで、自然な奥行きが表現できます。

 筆者は、この遠近法に取り組む際には葛藤もありましたが、何枚か描くうちにすぐに馴れて、逆に、この遠近法にもっと早くから取り組んでおけばよかったと思ったほどです。

鉛筆画で風景の画面構成では、遠近法の活用は重要な要素です。初心者の人が取り組む際には、この一点透視法から取り組むことがオススメです。

二点透視・三点透視で複雑な構図に挑戦

 二点透視図法や三点透視図法は、複雑な構図や都市景観を描く際に有効です。 

 二点透視法では、2つの消失点を設定し、それに従って水平線と垂直線を描くことで、より立体感のある構図が可能になります。

 三点透視では、さらに高さを強調し、ビルや塔のような縦の伸びを描写する際に活用できます。

一点透視法で、ある程度制作に慣れましたら、この二点透視法や三点透視法にもチャレンジしてみましょう。より複雑な要素を表現することに役立ちます。

重ね合わせで奥行きを強調

入り江の夜明け 2020 Ⅵ F3 鉛筆画 中山眞治

 遠近法を活かした奥行きの表現には、物体の重なりを利用することも効果的です。近くにある物体を詳細に描き、遠くにあるものを簡略化することで、距離感が強調できます。  

 さらに、線の強弱や濃淡の変化も使って、手前と奥の対象物を視覚的に区別することができます。上の作品では、遠くに灯台を据えることで、画面に奥行を出しています。 

 遠近法は、一度習得すれば風景の鉛筆画に大きなリアリティー(現実性)を生む強力な技法です。これらの方法を実践し、奥行きのあるリアルな風景を描き出しましょう。

 鉛筆画の場合には、他のカラフルな技法と比較して表現要素が少ないですが、しっかりとした構図及び光と影の劇的な対比と遠近法の構成によって、油彩にも負けない仕上がりを実現できます。

鉛筆画の風景の制作において、近くの物を大きくはっきりと描き、遠くのものを小さく薄く描くことは基本です。この手法を空気遠近法とも呼びますが、現実に、私たちは風景の中の物体をこのように捉えているので忠実に再現しましょう。

質感とディテールを鉛筆で描き分ける技法

水滴Ⅶ 2020 F3 鉛筆画 中山眞治

 風景の鉛筆画において、質感とディテール(詳細)の表現は作品のリアリティー(現実性)を大きく左右します。

 石、木、草など、自然の要素それぞれに異なる質感がありますが、それらを鉛筆でどう描き分けるかが鍵です。本章では、質感とディテールを巧みに描き分けるための具体的な技法を紹介します。

線の強弱と方向で質感を表現

誕生2020-Ⅱ F3 鉛筆画 中山眞治 

 鉛筆を使った質感表現の基本は、線の強弱と方向です。例えば、木の幹を描く際には、縦に走る太く粗い線を意識し、木のざらつきや節の部分を表現します。 

 一方、草や葉は柔らかく細い線を重ね、風に揺れる動きを感じさせることができます。線の方向性と太さを変えることで、異なる質感をリアルに描き出すことが可能になります。

 上の作品では、当初下描きの段階では、地平線を水平に描いていましたが、「あまりにも動きがない」ので、左方向へ傾斜をつけたところ、大きな動きを出せました。ただし、このような動きを作る場合には、その下の水平なモチーフのように視覚上の補助も必要になります。

質感表現は、仕上げのデリケートな仕事に多く行いますが、その際のポイントは、全部の対象物を事細かに描くのではなくて、あなたが主役や準主役と決めたモチーフを細密描写しましょう。人の目は、「細かく描き込まれている部分」に注目する習性があるからです。

グラデーションでディテールを強調

          すずらん 2021 F1 鉛筆画 中山眞治

 質感だけでなく、ディテール(詳細)をしっかりと描くためには、グラデーション(階調)の技法が役立ちます。遠景は淡く描き、手前にあるモチーフほど濃く描くことで、奥行きとディテールを自然に際立たせることができます。

 細かい部分においては、微細なトーンの変化をつけることで、リアルな表現が可能になります。

 これらの技法を組み合わせることで、風景の鉛筆画における質感とディテールを効果的に描き分け、作品にリアリティー(現実性)と立体感を与えられます。

グラデーションは、リアルな表現に欠かせない要素です。豊かなグラデーションによって、モチーフのディテール(詳細)を引き立てましょう。

光と影で風景にリアリティーを与える描き方

国画会展 入選作品 誕生2002-Ⅱ F100 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画の風景において、光と影の扱い方はリアリティー(現実性)を生み出す鍵となります。 自然の中で光がどのように当たり、影がどのように落ちるかを正確に捉えることで、作品に深みと立体感を加えることができます。

  本章では、光と影を効果的に活用するためのテクニックを紹介します。

光源を意識した描写

国画会展 入選作品 誕生2006-Ⅱ F100 鉛筆画 中山眞治

 最初に考えるべきは光源の位置です。光源がどこにあるのかを明確に確認することで、すべてのモチーフに一貫性のある光と影を施せます。 

 例えば、太陽が左上にある場合、その光を受ける物体の左上は明るく、右下側には影が落ちます。光源の方向に従って、影の位置や長さを正確に描くことが、リアルな表現の基本です。

 筆者の描き始めの時には、光源の観察をしっかりできていないことが多かったので、正確な影の描写が不十分となり、「違和感のある作品」になってしまったことがあります。しかも、かなり制作が進んでから気付くという間の悪さでした。

 もうそうなってしまうと、修整はできますが画面が汚れますので、なんとも困ったことになります。繰り返しになりますが、描き始めには、「光がどこから来て、物体のどこにあたって、その影がどのように落ちているのか」を充分に観察することが重要なのです。

制作の始めでは、それぞれの対象物の輪郭を正しく捉えることは大切ですが、同時に光源の所在をしっかりと確認しながら、影も充分観察して作品に反映できるようにすることが重要です。

トーンを使い分ける

       国画会展 新人賞 誕生2007-Ⅱ F100 鉛筆画 中山眞治

 リアリティー(現実性)を高めるためには、トーンの使い分けが不可欠です。影の部分は濃く描き、光の当たる部分は余白を使うか、淡く描くことでモチーフの立体感が際立ちます。 

 特に、影のグラデーション(階調)を滑らかに表現することで、自然な光の広がりや反射を再現できます。中間のトーンも上手に活用し、強すぎない自然な陰影を目指しましょう。 

 この滑らかなグラデーション(階調)を得る手法として、擦筆(さっぴつ)や綿棒で擦ったりすることで、その効果を得られます。あるいは、ティッシュペーパーや指で擦ることによっても代用できます。 

 筆者の場合には、「ぼかし道具」として、ティッシュペーパーを小さくたたんで使うことが多いですが、あくまでも最初の内は、鉛筆の優しいタッチで、できるところまで描いていきましょう。

 仕上げの部分では、箇所によっては「ぼかし道具」として、ティッシュペーパーなどを使って、グラデーションを整えると記憶しておてください。

 筆者は、制作を始めた当初、描いた鉛筆の部分を何で擦るのかが良く理解できなかったのですが、微妙な陰影を必要とするモチーフの場合には、ティッシュペーパーを小さく畳んで、明るいところから濃い方向に向かって、優しく擦ることでなだらかなトーンを得られました。

 また、その擦り方もいろいろあり、トーンを乗せた線の縁を優しく擦ることで、トーンのエッジ(縁)をなだらかにできて、全体になじませることもできます。

 ただし、最初の内は、2Hなどの鉛筆を優しく軽く持って、徐々にトーンを乗せていくことを心がけて描き進みましょう。その後の仕上げとして、「ぼかす」ことをオススメします。

なかやま

さまざまなトーンを使い分けて描き進むうちに、曲面や微妙な凹凸などを描く際には、トーンの輪郭をぼかすこともテクニックに加えよう!

環境に影響を受ける影の描写

       国画会展 入選作品 誕生2007-Ⅱ F130 鉛筆画 中山眞治               

 影は、その形状や濃さが環境によって変化します。地面に落ちる影は、表面の凹凸によって形が歪んだり、遠くになるほど薄くなります。  

 草地や砂地では、影がぼやけて柔らかくなる場合もあります。このように、描く対象物や地形に合わせて影の形や強さを調整することで、現実的な風景を表現できます。

 一つの例では、真夏の炎天下の樹木の影はとても濃いです。逆に、曇天時の影は、それほど濃い訳ではありません。一方、窓から差し込む光のエッジ(縁)は、部屋の奥へ進むに従って、弱くなっていきます。このような観察はとても重要です。 

 光と影を的確に捉えることで、風景の鉛筆画にリアリティーを持たせられて、観てくださる人を引き込むような作品を描けるようになれます。光と影の技法をマスターして、より魅力的な風景の鉛筆画を楽しんでください。

 また、上の作品では、明るめの影を使って「早朝のモヤ」のような景色を描いていますが、このようにトーンの使い分けによって、その世界を表現することもできます。また、濃い背景の物体を活用して、主役(黄緑色の枠線)を引き立てることもできます。

 尚、画面左下のモチーフ(ピンクの枠線)から、その右少し上のモチーフ(青い枠線)との連続性の3つのモチーフを使って、「リズム」を表し、観てくださる人の視線を画面左下から右上に導いています。

なかやま

影の表現は、光が当たっている面の反対側に影はできますが、色々な影のでき方や、夜明け直前の淡い影の中に展開する世界なども、制作の対象として考えてみると表現の幅が広がるよ!

風景デッサンにおける仕上げのポイント

         予期せぬ訪問者 2020 F3 鉛筆画 中山眞治

 風景の鉛筆画の完成度を高めるためには、最後の仕上げが非常に重要です。細部を整え、全体のバランスを確認しながら、作品に統一感を持たせることで、よりプロフェッショナルな仕上がりになります。 

 本章では、風景の鉛筆画における仕上げの具体的なポイントを紹介します。

ハイライトと最終的なコントラストの調整

        国画会展 入選作品 誕生2008-Ⅱ F100 鉛筆画 中山眞治

 仕上げの段階では、ハイライトを入れて全体の明暗を引き締めましょう。光が強く当たる部分には明確なハイライトを加えることで、作品に立体感が増します。 

 また、全体のコントラスト(明暗差)を調整し、暗い部分と明るい部分のバランスを見直すことで、作品全体を引き締められます。特に、フォーカスポイントとなる部分のハイライトは丁寧に描写しましょう。  

 つまり、それまであなたが一番濃い色として扱ってきた部分が3Bであったとすれば、最終的にもう一段濃い4Bを使う一方で、あなたの強調したい・感動を伝えたい部分には、「練り消しゴム」などで丹念に拭き取って、ハイライトを強調するということです。  

 この段階のコツは、全体のバランスやコントラストの確認もさることながら、あなたがその作品に「もっと明暗の強調はできないか」を絶えず自問自答して、何回となくバランスを見ながら完成度を高めていくことがポイントです。

最終的な仕上げに対する認識があいまいな場合には、完成度が高くない作品の制作に終わってしまいますが、濃いところを濃く、明るいところはより明るくすることで、完成度を高められることを記憶しておきましょう。

細部のクリーンアップとエッジの強調     

    国際美術大賞展 マツダ賞 静かな夜 2023 F10 鉛筆画 中山眞治

 細部の仕上げとして、エッジ(縁)の処理は重要です。主要なラインや輪郭を軽くなぞり、必要な部分にはシャープなエッジを加えます。 

 これにより、対象物が際立ち、風景の中での存在感が増します。また、余分な線や汚れを取り除くクリーンアップ作業も行いましょう。微細な鉛筆の跡を丁寧に取り除くことで、仕上がりが一段と美しくなります。  

 この場合には、「練り消しゴム」を練って、先端を細いマイナスドライバーやプラスドライバーのような形状にして使うことで、細かな仕上げに役立てられます。

なかやま

作品の完成が近づいてきましたら、全体を観察して作品の中のモチーフが、「ぼんやり」とした状態である場合でも、モチーフの輪郭をしっかり濃く描きすぎると不自然になってしまいますので、慎重に適切な輪郭を加えておくことも必要だよ!

仕上げの統一感を持たせるための調整

      国画会展 入選作品 誕生2014-Ⅱ F100 鉛筆画 中山眞治

 最後に、全体のトーンや質感が統一されているかを確認します。部分ごとに異なる表現がある場合、それらを馴染ませるための微調整を行います。  

 例えば、遠景と前景のつながりが不自然な場合、柔らかいトーンで境界をぼかすことで、より自然な仕上がりになります。この場合には、専用の擦筆(さっぴつ)や綿棒、あるいは、ティッシュペーパーや指などで擦って、滑らかな遷移を得ることもできます。

 また、最終的に作品全体を少し離れて眺めることで、バランスを整えるための最適な手直しが見えてきます。  

 尚、仕上げ時点での重要なポイントがあります。仕上げに向かって制作していた日の夕方頃になると疲れて、「こうこんなものでいいや」と思ってしまうことがよくありますが、サインをしてフィキサチーフを描けてしまうと、修整がほとんどできなくなります。 

 筆者は、フィキサチーフをかけて、翌日画面を見てみると、見落としている修整点が複数個所見つかるという経験を何回もしています。もうこうなると、描き直しか、運が良ければ砂消しゴムによって修整できますが、きれいには仕上がりません。 

 そこで、あなたも、その日に出来上がったと思っても、次回の制作日に、改めて確認してからフィキサチーフを噴霧するようにしましょう。この点は極めて重要です。 

作品の最終的なサインをした後のフィキサチーフを噴霧するのは、できれば次回の制作時に、「よく点検をした後」で行いましょう。噴霧をした後では、修整が困難になるからです。 

初心者の人が避けるべき鉛筆画の風景を制作する際の間違い

         月夜の帰り道 2020 F3 鉛筆画 中山眞治 

 鉛筆画の風景に挑戦する初心者の人が陥りやすい間違いを理解し、それを避けることで、よりスムーズに技術を向上できます。本章では、初心者の人によくありがちな間違いと、その対策について解説します。

過剰に細部にこだわりすぎる

国画会展 入選作品 誕生2015-Ⅱ F100 鉛筆画 中山眞治

 初心者の人に多く見受けられる間違いは、細部にこだわりすぎて全体のバランスを崩してしまうことです。鉛筆画の風景では、まず大まかな形や構図を捉えることが重要です。  

 細部は後から描き込むとして、初めは全体の印象を掴むことに集中しましょう。全体のバランスが整った後に、徐々に細部の表現へ移ることで、統一感のある作品が完成します。

なかやま

鉛筆画の制作では、全体の大雑把な描写から徐々に細かい部位へと仕上げていくものと認識しよう!

光源と影の位置を見誤る

        国画会展 入選作品 誕生2016-Ⅱ F100 鉛筆画 中山眞治

 光源と影の位置が不自然になると、風景全体のリアリティー(現実性)が失われてしまいます。初心者の人は、光源の位置を意識しないまま描き進めることが多いものですが、これは大きな間違いです。 

 まず、どこに光源があるのかを確認し、それに基づいて影の位置や形を統一することで、より現実的な鉛筆画の制作ができます。

 上の作品では、画面右上からの陽光が差し込んできていますが、あえて陽光の中心を描かずに、主役にあたっているひかりで、陽光の方向を指し示しています。つまり、観てくださる人の視線を画面左下から右上に導いているのです。

光源の位置と、その光の当たっている部分及び、それに伴って影になっている部分では、当然一貫した方向があります。その方向に沿った影を適切に入れることで、まとまりのある作品になります。 

遠近感を無視してしまう

 道Ⅱ 2020 F4 鉛筆画 中山眞治

 遠近法を無視した風景の鉛筆画は、平面的で奥行きのない絵になってしまいます。特に初心者の人は、手前にあるものと奥にあるもののサイズやディテール(詳細)を同じように描いてしまいがちです。

 奥行きを出すためには、遠くにあるものほど小さく淡く描くことを意識しましょう。また、物体の重なりや消失点をしっかり捉えることも重要です。 

 これらの間違いを避けることで、初心者の人でも効果的に鉛筆画の風景のスキルを向上させることができます。まずは基本を押さえ、少しずつ上達していきましょう。

 筆者は、この遠近法を用いる際には、前述していますが、道路及び線路や河などを使うことが良くあります。最初の頃は、なかなかうまく描けませんでしたが、上の作品のような道路の場合には、消失点を√2の位置などに据えることで、描く方向性を決めることができました。

 √2の構図分割線とは、上の作品の場合であれば、画面縦の寸法に対して÷1.414で得られた寸法を画面の下から測った分割点になります。尚、そのような方法で得られる分割点は、画面の上下左右から測って合計4つあります。

鉛筆画において、構図を基本として、輪郭の正確な描写及び光と影の適切な配置と遠近感の表現は、大きな骨格と言えるでしょう。これらの重要な要素を的確に表現できるようになれることが、上達の大きなポイントと言えます。

まとめ(風景の鉛筆画を極めるための総合ガイド)

蕨市教育委員会教育長賞 灯(あかり)の点(とも)る静物 2000 F30 鉛筆画 中山眞治 

 風景の鉛筆画で、リアルな表現を追求するためには、基本的な構図、遠近法、光と影、質感表現をバランスよく取り入れることが重要です。初心者の人が陥りがちなミスを避け、段階的に技術を向上させるために、以下のポイントに注意しましょう。

構図を決める際のコツ

  • 三分割法や黄金分割を活用し、バランスの取れた構図を作る。
  • フォーカスポイント(焦点)を設定し、視線を自然に誘導する。
  • 前景・中景・遠景のレイヤー(層)を意識して奥行きを表現。

遠近法を取り入れるポイント

  • 一点透視図法や二点透視図法を使い、正確な距離感を描写。
  • 重なりや縮小を利用して、遠くの物体を自然に見せる。
  • 光源の位置に合わせて影を適切に配置し、リアルな深みを出す。

質感とディテールを描き分けるテクニック

  • 細い線や太い線を使い分け、木や石など異なる質感を表現。
  • グラデーションでディテールを強調し、自然なトーンを実現。
  • エッジの強弱を調整し、対象物をより引き立てる。

仕上げに注意すべきポイント

  • 最終的なハイライトとコントラスト(明暗差)調整で全体を引き締める。
  • 不要な線や汚れを除去し、クリーンな仕上がりを目指す。
  • 全体の統一感を確認し、必要に応じて微調整を行う。

初心者の人が避けるべき風景の鉛筆画の間違い

  • 細部にとらわれすぎず、全体のバランスを優先する。
  • 光源と影を統一し、自然な奥行きを表現。
  • 遠近感を無視せず、奥行きのある構図を意識する。

 これらのポイントを押さえることで、初心者の人から上級者の人まで、風景の鉛筆画を一層魅力的に描けるようになれます。最終的には、構図を組み合わせるなども含めて、自身のスタイルを見つけ、自由に表現することが、鉛筆画の楽しみ方の一つです。

 ではまた!あなたの未来を応援しています。