初心者でも簡単!鉛筆画で人物を描くための下描きのコツとポイント

 こんにちは。私は、アトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治です。

       筆者近影 作品「月のあかりに濡れる夜Ⅰ」と共に

 さて、鉛筆画で人物を描く際に、最も重要なのは「下描き」です。適切な下描きを行うことで、バランスの取れたリアルな人物画を描くことができます。

 この記事では、初心者の人でも簡単に実践できる人物の下描き方法を解説します。

 下絵(エスキース)の作り方、構図の決め方、そこから本制作画面への下描き、アタリの取り方、バランスの調整方法など、スムーズに仕上げるためのポイントをご紹介していきます。

 さらに、プロの技術を取り入れたテクニックも解説しますので、これから鉛筆画で人物を描きたい人は、ぜひ参考にしてください。

 それでは、早速見ていきましょう!

Table of Contents

人物の下描きに必要な基本知識とは?

       午後のくつろぎ 2024 F6 鉛筆画 中山眞治

 人物画に限らず、また、水彩・油彩・アクリルなど、どのような技法にも関係なく、作品を制作する際には下絵(エスキース)を制作することが必要です。

 小さな下絵にしっかりと構図を導入したり、あなたの納得できるレイアウトを行い、その内容を本制作画面の下描きで再現できるようになりましょう。

 そうすることによって、人物の鉛筆画を描く際に、最も適切な下描きができて、完成度の高い作品へとつなげることができるからです。

 特に、モノトーンの鉛筆画では、線の強弱や陰影の表現が鍵となるため、下絵から本制作画面の下描きへ移行していく段階で、バランスや形を適切に捉えることが不可欠です。

 本章では、初心者の人でも理解しやすい基本知識について解説します。

本制作の前には下絵(エスキース)が必要な理由

        水滴 Ⅵ 2019 F3 鉛筆画 中山眞治

 あなたが制作を行う当初には、小さな下絵(エスキースと言います)を制作する必要があります。

 その理由は、いきなり本制作する画面に描いてしまうと、自由に試行錯誤ができないばかりでなく、大きな修整などが必要になると、画面が汚れたり、修整しきれない場合もあるからです。

下絵(エスキース)の造り方

     第1回個展出品作品 静物Ⅲ 1996 F10 鉛筆画 中山眞治

 そこで、ここではまず、エスキースの作り方から始めます。

 あなたが、本制作する画面(スケッチブックや紙)の大きさを、F6だとした場合の説明をしますが、下絵の大きさは、あなたの身の回りのA4の紙であれば何でも良いので用意しましょう。

 そして、A4の紙を正確に半分に切り、サイズを測ると短辺は148mmで長辺は210mmであるはずです。一方、F6のスケッチブックの大きさは、短辺が318mmで長辺は410mmです。

 何がしたいのかというと、F6のスケッチブックの正確な縮尺をかけた下絵を作りたいので、A4の紙を正確に半分に切ったものと、F6のスケッチブックや紙の、短辺同士を合わせて、正確な縮尺をかけた寸法をエスキースへ再現します。

下絵(エスキース)の完成

 下絵(エスキース)の短辺は、148mm÷F6の短辺318mm=0.4654となります。

 この数値をF6の長辺にかけると、410mm×0.4654=190.81≒191mmという数値が出ますので、エスキースの長辺を191mmにしたところを線で分割します。

 つまり、正確な縮尺をかけてみると、下絵(エスキース)の長辺を19mm短くした寸法になるということです。

 尚、完成したエスキースに基づいて制作画面に向き合う際には、エスキース上の寸法に縮尺をかけた値の÷0.4654で、今回の制作例のF6の画面上に、その位置をほぼ特定できます。

 他の大きさのスケッチブックや紙であっても、この縮尺の要領で、A4の紙を半分に切ったエスキースに、本制作画面の実寸に基づいた、縮尺をかけた下絵を作ることできて、本制作画面に反映する際にも役に立ちます。

なかやま

エスキースは、本制作の前段階で試行錯誤して、作品の完成度を高めるための極めて重要で、便利なツールです。

構図を研究すべき理由

       つかの間の休日 2024 F10 鉛筆画 中山眞治 

 あなたが初めて鉛筆画に取り組んだ場合には、最初に取り組む5作品ほどは、構図(※)や色々な面倒なことは一切考えないで、楽しんで制作することが極めて重要です。

 その理由は、最初からいろいろなことを考えてしまうと、手が止まってしまい挫折の原因になるからです。そのようなことよりも、あなたが楽しんで、鉛筆画を描くことに慣れることが大切なのです。^^

※ 構図については、この記事の最終部分にも、あなたの取り組みやすい、いくつかの簡単な構図を、関連記事「初心者でも簡単!プロが教える鉛筆画の構図の取り方やコツとポイント」に掲載していますので、関心のある人は参照してください。

構図導入の重要性

        人物Ⅶ 2025 F6 鉛筆画 中山眞治

 あなたが5作品ほど描いて「ある程度描くことに慣れて」来られましたら、構図についても研究を始めましょう。

 その理由は、構図を導入することによって、より見映えのする、まとまりのある作品にすることができるからです。

 構図とは、先人の築き上げてきた美の構成に裏打ちされた、バランス・緊張感・力強さ・躍動感などを伝えることができる技術です。

 構図は、作者とすれば「作品の魅力をより一層引き出せる技術」である反面、観てくださる人からすれば「見映えのする作品」に仕上げるための、重要なノウハウと言えます。

下絵(エスキース)へ構図を導入

 モノトーンの鉛筆画では色彩がないだけに、観てくださる人の視線誘導がより重要になるので、構図を活用することで効果的な画面構成が可能です。 

 人物画を描く際には、画面の寸法上の真ん中に人物を置いても一向に問題はありませんし、そのような構図で描いている人もたくさんいます。

 しかし、絵画における画面の寸法上の中心に、主役となる今回の人物の中心が重なってしまうようなことは、「動きがなくなる」という意味合いから、避けた方が良いでしょう。

 尚、主だった構図分割線を分かりやすく次の画像で解説します。今回の提案は、黄金分割を紹介して行きますが、それ以外にも、√3や√2分割があります。具体的には次のような計算で分割点(線)を得られます。

√3(白金比分割)…画面の寸法に対して、÷1.732で得られた寸法を画面の縦横に対してそれぞれ、二つづつ求めることができます。

√2(白銀比分割)…画面の寸法に対して、÷1.414で得られた寸法を画面の縦横に対してそれぞれ、二つづつ求めることができます。

 これらの寸法をどのように使い分けるかという点では、人物などの大きな制作対象物を画面寸法上の中心線を避けながら、できるだけ全体を画面中心に近づけた位置に収めたいというときには、√3分割が使えます。

 また、空や海を大きく捉えたいというときには、√2分割の画面を縦向きにした際の分割線に使って、広い空や、広い海を描くことができます。

 それでは一つの例として、黄金分割の構図を取り上げます。黄金分割構図基本線は次の通りです。下絵(エスキース)の画面へ、まずは、縦横の二分割線と二つの対角線を入れていきます。

 黄金分割とは、今回の例で言えば、F6の縦の寸法は318mmなので、その寸法に対して÷1.618で得られた値196.53≒196.5mmを上下から測って分割します。横も、410mm÷1.618で得られた値253.39≒253mmを左右から測って分割します。 

 次に、構図の主要な線や交点を使って、あなたが主役として描きたい人物を配置していきましょう。この場合には、例えば、大きさが合わないのであれば、「あなたに都合の良い寸法に縮尺」して描きましょう。

 尚、ここで重要なことは、あなたが描こうとしている実際に観ている人物に、むりやり構図を当てはめるのではなくて、「扱う構図に実際の人物やモチーフを置く」ということになります。

 つまり、あなたの感動や強調したい部分を、我々人間が見て一番美しいと感じる位置に据えて強調するということです。 

 尚、前述の黄金分割構図基本線上の⑤や⑥に人物を配置した場合には、その人物が画面からはみ出ない程度の縮尺を考えましょう。

 しかし、画面の端ギリギリに描かれた作品は「窮屈」なイメージが出てしまいますので、そのような場合には、「思い切って画面から飛び出ても良い」のです。

 また、髪型やポーズなども、描きにくかったり、構図へ配置するのに都合が悪い場合には、「あなたの都合の良いように」変更しても問題ありません。

 これらの変更はデフォルと呼ばれていて、削除・省略・つけたし・縮小・拡大・移動など何でもありです。どうです楽になったでしょう?^^

 さらに、我々人間の目は、細かい模様や柄に注意を奪われる習性があります。

 そこで、あなたの強調したい主役の人物へしっかりを視線を向けてもらうためにも、人物の細かい模様や柄の服や、背景については「分かる程度」の描き込みにしましょう。

 あるいは、全部のモチーフに細密描写を施したい場合には、主役や準主役となる人物にはしっかりと「ハイライト」を入れて、それ以外のモチーフには「ハイライトを抑えて描く」ことで、主役や準主役を引き立てることができます。

重要な構図上のワンポイントとは

 前述しました、黄金分割構図基本線の中の、B⑥F⑦の右上の四角い部分を「抜け(※)」として活用することもできます。

 次の作品は人物画ではありませんが、このように「抜け」を使って、作品に重要な構図基本線を活用したワンポイントを作れます。植物の芽を、人物に置き換えてイメージしてください。

国画会展 入選作品 誕生2006-Ⅱ F100 鉛筆画 中山眞治

 あなたが、最初に取り組むスケッチブックの大きさをF6だとした場合に、下絵(エスキース)で試行錯誤を重ねて完成した寸法は、先ほどの縮尺値0.4654で割れば、F6上の画面にほぼ正確な位置を特定できることは先ほども述べました。 

 蛇足ながら、あなたがそれ以外のスケッチブックや紙で取り組む際には、先ほどの要領で下絵(エスキース)を作ることができるのです。

※ 抜けとは、制作画面上に窓などのような「外部へ続く空間」があることによって、観てくださる人の、画面上の息苦しさを解消する効果があるので、記憶しておきましょう。

本制作画面へ下絵(エスキース)を再現する

 下絵(エスキース)が完成しましたら、いよいよ本制作していきましょう。まず、本制作画面へ下絵に施しましたように、縦横の二分割線及び対角線と構図分割線を二つづつ入れましょう。

構図とアタリの重要性

   第1回個展出品作品 人物Ⅰ 1996 F10 鉛筆画 中山眞治

 人物を描く際には、まず下絵(エスキース)で導入しました構図及び下絵全体を、本制作画面上にアタリ(※)を取っていくことから進みます。

 主要な人物やモチーフの配置の位置は、エスキースの寸法を測って、0.4565で割った値がF6画面上の位置です。

 構図は画面全体のバランスを整える役割を果たし、特に顔や体の位置を構図上のポイントとなる線上や、交点に中心を持ってくることで、自然で見映えのする人物像を作り出せます。

アタリとは、人体の基本的な形を簡単な円や直線で表す技法で、これを使うことで人物の姿勢や動きを把握しやすくなれます。つまり、ざっくりとしたおおよその形で人物を捉えるということです。

骨格と筋肉を意識した線の描き方

     第1回個展出品作品 少年 1996 F10 鉛筆画 中山眞治

 リアルな人物画を描くためには、骨格と筋肉の構造を理解することも欠かせません。特に、首・肩・腰のラインを意識すると、自然な姿勢を描くことができます。

 下描きの段階では、細かい筋肉のディテール(詳細)を描くのではなく、大まかな形をとらえることがポイントです。

 シンプルなアタリを取った、大まかな形からスタートできれば、本制作画面でスムーズに作業を進められます。そして、その後の制作では、「全体を徐々に完成へ仕上げていく」という意識で、少しづつリアルさを加えていきましょう。

本制作画面での光源を確認し、光源を意識した下描きの工夫

      第1回個展出品作品 人物 1996 F10 鉛筆画 中山眞治

 下絵(エスキース)で、おおよその全体像のレイアウトが決まりましたら、いよいよ本制作画面に向き合いましょう。 

 鉛筆画のリアリティー(現実性)を高めるためには、光と影の配置を充分に検討することが重要です。

 下描きの段階で光源の位置を確認し、光の来る方向と、光がモチーフのどこに光が当たっているのかを、常に意識して制作することで、陰影の配置がスムーズになります。

 例えば、顔の陰影では、頬や鼻の陰影が大きく影響を与えるため、明暗を意識した下描きを行うと、完成した作品の立体感が増します。

人物の下描きは、構図、骨格、光源を意識することで、より自然で説得力のある鉛筆画へと到達することができます。初心者の人は、シンプルな形から練習を始め、少しづつ完成度を高めていくことをオススメします。

バランスの取れた人物を描くためのアタリの取り方

     第1回個展出品作品 人物Ⅵ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画で人物を描く際、バランスの取れた構図を作るためには、アタリの取り方が非常に重要です。

 アタリとは、人体の大まかな形や動きをシンプルな図形で捉える方法で、初心者でも適切なプロポーションを描けるようになる基礎技術です。

 特にモノトーンの鉛筆画では、線の流れやシルエットの美しさが仕上がりに大きく影響するため、適切なアタリを取ることで自然で安定感のある人物画に仕上げることができます。

 本章では、具体的なアタリの取り方を解説します。

シンプルな図形で全体のプロポーションを決める

   第1回個展出品作品 マリリン・モンロー 1996 F10 鉛筆画 中山眞治

 まず、人物のポーズを決めましたら、頭・胴・手足を楕円や円筒形などシンプルな形で表現します。また、上半身は、少し反った板のように捉えましょう。次の画像を参照してください。

 特に立ちポーズや動きのあるポーズでは、全体の傾きを意識することで安定感のある構図が作れます。この段階では細部を描かず、大まかな形とポーズを捉えることがポイントです。

骨格ラインを意識したアタリの取り方

         新しい未来Ⅳ 2024 SM 鉛筆画 中山眞治

 次に、骨格の流れを意識したアタリを加えます。特に背骨のラインを曲線で示し、そこから肩・腰のラインを引くことで、人体の自然な姿勢を捉えやすくなります。

 肩のラインと、腰のラインの傾きを少しずらすことで、より動きのあるポーズに仕上げることも可能です。

重心を考慮したバランスの取り方

        新しい未来Ⅲ 2024 SM 鉛筆画 中山眞治

 最後に、人物の重心を意識したアタリを取ります。立ちポーズでは、重心線(地面に対して垂直に降ろした線)が足のどこにかかるかを確認すると、安定感のある姿勢になります。

 歩行ポーズや動きのあるポーズでは、重心の移動を意識し、片足に重みを持たせることで自然な動きが表現できます。

 モノトーンの鉛筆画では、線の強弱や陰影によって重心の表現が変わるため、下描きの段階でしっかりとバランスを取ることが大切です。アタリを適切に取ることで、バランスの取れた人物画が描けるようになれます。

初心者の人は、まずシンプルなポーズから練習し、徐々に動きのある構図へと挑戦すると、安定した作品を描けるようになれるでしょう。

初心者でも簡単にできる顔や体の比率の決め方

     第1回個展出品作品 人物Ⅴ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画で人物を描く際に、顔や体の比率を適切に取ることは、バランスの良い作品を描くための基本です。

 特にモノトーンの鉛筆画では、陰影や線の強弱だけで立体感や表情を表現するため、下描きの段階で適切な比率を意識することが重要になります。

 本章では、初心者の人でも簡単に理解できる方法を紹介しながら、顔や体の比率の決め方について解説します。

顔の基本比率とパーツ配置のポイント

         邂逅Ⅰ 2019 F3 鉛筆画 中山眞治

 顔を描く際は、まず「縦の比率」と「横のバランス」を意識することが大切です。一般的に、頭を縦に3等分すると、髪の生え際・眉・鼻・顎のラインがバランスよく配置されます。

 目は顔の中央に位置し、目と目の間隔は1つの目の幅と同じくらいが基本です。耳の位置は「眉と鼻の頭までの幅を水平にスライドさせた位置」についています。

 初心者の人はまず、この比率を意識しながらシンプルな輪郭を描き、少しずつ細部を加えていくと良いでしょう。

体の比率を整えるための基本ルール

         邂逅Ⅱ 2019 F3 鉛筆画 中山眞治

 一般的な成人の体の比率は、頭の高さを基準に「7.5~8頭身」とされています。子供の場合は3~5頭身になり、年齢によってプロポーションが異なるため、描く人物の特徴に合わせて比率を調整することが大切です。

出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 三澤寛志 氏

 体のパーツの配置では、肩幅は頭2つ分、肘の位置は腰の高さ、手の先は太ももの中間あたりにくると自然なバランスになります。

 また、脚の長さは胴体とほぼ同じくらいか、少し長めにするとスタイルよく見せられます。

簡単なガイドライン(補助線)を活用した比率の決め方

        新しい未来Ⅱ 2024 F4 鉛筆画 中山眞治

 初心者の人にオススメなのが、「ガイドライン(補助線)」を使った比率の決定方法です。最初に頭部を描いたら、縦に7~8等分のラインを引き、各パーツの目安を決めます。

 次に、肩・腰・膝・足の位置を決め、全体のバランスを確認しましょう。円や四角などのシンプルな形でパーツを配置すると、細部を描く際にもズレを防ぐことが可能です。

 鉛筆画では、下描きの段階で軽くガイドラインを引き、最終的に仕上げる際に徐々に不要な線を消していくことで、スムーズに完成へと作業を進められます。

比率を意識した下描きを行うことで、安定感のある人物画が描けるようになれます。まずは基本のルールを押さえ、シンプルなポーズから練習を始めると、より自然な仕上がりにつながるでしょう。

リアルな表現を目指すための陰影と線の工夫

      第1回個展出品作品 人物Ⅳ 1996 鉛筆画 中山眞治

 モノトーンの鉛筆画で人物を描く際に、リアルな表現を実現するには、陰影の付け方と線の使い方が重要です。

 ただ輪郭を描くだけでは、平面的な仕上がりになってしまうので、光と影を意識しながら、線の強弱や質感の工夫を取り入れることが求められます。

 本章では、リアルな人物画に仕上げるための陰影と、線の工夫について解説します。

光源を意識した陰影の配置

       新しい未来Ⅰ 2024 F4 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画による人物のリアルな表現には、まず光源の位置を明確にすることが不可欠です。

 光がどこからきて、人物や周囲のモチーフのどこに当たっているのかを確認し、常に意識しながら制作することで、明るい部分と影になる部分をしっかり描き分けられるので、立体感が生まれます。

 例えば、顔の陰影をつける場合には、頬骨や鼻、顎の下などに自然な影を描くことで、人物の立体感を強調できます。

 初心者の人は、光源を1つに設定し、明暗の描き分けから練習すると、スムーズにリアルな表現へとつなげられます。

鉛筆の線の強弱を活かした立体表現

 鉛筆画では、線の強さや太さを調整することで、よりリアルな人物を描くことができます。

 例えば、輪郭線を強く描きすぎると絵が硬く見えてしまうため、自然な表現をするには輪郭をやや薄めにし、陰影で形を表現するのがポイントです。次の筆者の作品のような感じです。

      マリリン・モンローⅡ 2021 F4 鉛筆画 中山眞治

 また、明るい部分には軽いタッチで線を入れ、暗い部分は筆圧を強めてしっかりと描くことで、自然なグラデーションを作ることができます。

 トーンを濃くするには、一定方向からの塗り重ねでは、なかなかトーンをしっかりと乗せられないので、縦横斜めの4通りからの線(クロスハッチング)によって、トーンを深めていきましょう。

質感を表現するためのぼかしとハッチング

      マリリン・モンローⅢ 2021 F4 鉛筆画 中山眞治

 リアルな鉛筆画では、影をなめらかにするために「ぼかし」や「ハッチング(一定方向からの線を重ねる技法)」を活用します。

 ぼかしは、ティッシュペーパーや綿棒及び専用の道具である擦筆(さっぴつ)などを使って、鉛筆の線をなじませることで、柔らかい陰影を作ることができます。

             擦筆の画像です

 一方、ハッチングは、細かい線を重ねることで影を作り、筆跡を活かしたリアルな質感を表現する方法です。

 人物の肌や衣服の素材感を引き立たせるために、部位によって使い分けると、より完成度の高い作品に仕上がります。

出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明 氏

 鉛筆画におけるリアルな表現は、陰影の配置、線の強弱、そして質感の工夫によって大きく変わります。

なかやま

これらのテクニックを意識しながら練習を重ねることで、より魅力的な人物画を描けるようになれるでしょう。

鉛筆画で人物の下描きを上達させる練習方法とは

     第1回個展出品作品 人物Ⅲ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画でリアルな人物を描くためには、下描きの技術を磨くことが重要です。

 下描きがしっかりしていれば、仕上に向かう際にバランスが崩れたり、違和感のある線になったりすることを防げます。

 特に、モノトーンの鉛筆画では、陰影や線の流れが仕上がりの印象を大きく左右するため、適切な下描きが求められます。

 本章では、初心者の人でも実践しやすい人物画の下描きの上達法を紹介します。

シルエットを捉えるトレーニング

      種まく人(ミレーによる) 2019 鉛筆画 中山眞治

 まず、人物の全体的なシルエット(輪郭)を捉える練習を行いましょう。

 写真や鏡に映った、あなた自身の姿を観察し、複雑なディテール(詳細)を省いて大まかな輪郭のみをデッサンします。

 このとき、鉛筆の動きを速くし、速写で形を捉えることを意識すると、構図やバランス感覚が身につきます。特に動きのあるポーズを練習すると、人物画の躍動感を表現しやすくなります。

 尚、この速写を行う際には3Bや4Bの鉛筆で、芯先を鋭くしないで描くことが描きやすさの秘訣です。つまり、優しく軽い動きでも、しっかり描写できるということです。

比率とバランスを確認する練習

         願い 2024 F6 鉛筆画 中山眞治

 人物の下描きで上達するためには、顔や体の比率を適切に取ることが不可欠です。初心者の人は、頭身による全体の比率バランスを意識しながら、簡単なポーズを繰り返し描く練習をしましょう。

 例えば、「顔の縦の3等分」「体の7~8頭身」など、基本的なプロポーション(比率)を意識しながら描くことで、自然なプロポーションを身につけることができます。

 また、最初にガイドライン(補助線)を引いて、バランスを整えてから細部を描き込むと、歪みの少ない下描きができるようになれます。

線の質を向上させるクロッキーによる練習

       渚にて 2024 F6 鉛筆画 中山眞治

 クロッキーとは、短時間で人物をデッサンする練習法で、下描きのスピードと正確性を高めることに役立ちます。

 5分~10分程度の時間を決めて、タイマーなども使い、動きのあるポーズや異なる角度からの人物を描いてみましょう。

 鉛筆の筆圧を調整しながら、柔らかい線とシャープな線を使い分けることで、表現の幅が広がります。クロッキーを続けることで、自然な流れのある下描きが描けるようになり、仕上げの作業もスムーズになります。

人物の下描きで上達するには、シルエット(輪郭)を意識する練習、比率を確認するトレーニング、そしてクロッキーによるデッサンの鍛錬が効果的です。日々の積み重ねが、より完成度の高い鉛筆画につながります。

まとめ

    第1回個展出品作品 人物Ⅱ 1996 F10 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画でリアルな人物を描くためには、適切な下描きが欠かせません。

 この記事では、初心者の人でも簡単にできる下描きのコツから、リアルな表現を目指すためのテクニックまで解説しました。最後に、重要なポイントを以下に整理します。

エスキース(下絵)を作る

  • エスキースは、本制作画面の正確な縮尺をかけて制作する。
  • エスキースによって、本制作前の重要な試行錯誤ができる。
  • エスキースを作った際の縮尺で本制作画面上におおよその位置を特定できる。

構図を研究する

  • 作品の完成度を高めるためにも構図を研究する必要がある。
  • 構図は簡単なものから取り組み、下絵(エスキース)に導入して試行錯誤する。
  • 構図上のワンポイントとして「抜け」についても扱いを検討する。

下描きの基本知識を押さえる

  • 構図を決めてからアタリを取る。
  • 骨格と筋肉の流れを意識する。
  • 光源を確認及び意識して、陰影を配置する。

バランスを取るためのアタリの工夫

  • シンプルな図形を用いて人物のプロポーション(比率)を決める。
  • 背骨や関節のラインをガイドライン(補助線)として描く。
  • 重心を意識して、自然なポーズを作る。

顔や体の比率を適切に取る

  • 顔のパーツは「縦の3等分」「目の間隔は目1つ分」を基準にする。
  • 成人の体は「7.5~8頭身」、子供は「3~5頭身」が基本。
  • 簡単なガイドライン(補助線)を活用し、全体のバランスを整える。

陰影と線の工夫でリアルな表現を目指す

  • 光源の位置を確認及び意識して、明暗をはっきりさせる。
  • 輪郭線は薄めにし、陰影で立体感を表現する。
  • ハッチングやぼかしを活用し、質感を豊かにする。

下描きを上達させる練習方法

  • シルエットを捉えるトレーニングでバランス感覚を養う。
  • ガイドライン(補助線)を使い、比率を意識したデッサンを繰り返す。
  • クロッキーを活用し、素早く正確な線を描きデッサン力を鍛える。

 鉛筆画の人物の下描きでは、基本を押さえた上で、繰り返し練習することにより、確実に上達できます。まずはシンプルな構図から始め、徐々にリアルな表現へと挑戦しましょう。

 適切な、アタリの取り方や陰影の工夫を身につければ、初心者の人でも完成度の高い人物画を描けるようになれます。

 ではまた!あなたの未来を応援しています。