こんにちは。私は、アトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治です。
筆者近影 作品「パーティーの後で」と共に
さて、鉛筆画で人物を描くことは、モノトーンの世界で表現力を高める素晴らしい方法です。しかし、リアルな人物を描くにはいくつかの重要なポイントとコツが必要です。
この記事では、初心者の人から上級者の人まで役立つ、鉛筆画で人物を描く際に注意すべき5つのポイントを解説します。
これらのポイントを押さえることで、作品に深みとリアリティーを加えることができて、描く人物に生命を吹き込むことができます。鉛筆だけで描くシンプルさの中に、無限の表現力を見つけてみましょう。
それでは、早速どうぞ!
鉛筆画で人物を描く前に知っておくべき基本
鉛筆画で人物を描く際には、基本を押さえることが非常に重要です。まずは人物の特徴を的確に捉え、リアルな表現を目指しましょう。
本章では、鉛筆画で人物を描く前に知っておくべき基本ポイントを解説します。
人物の観察力を養う
鉛筆画でリアルな人物を描くためには、観察力を高めることが不可欠です。人の顔や体の特徴、動き、光の当たり方など、細かい部分にまで注意深く観察する習慣を持ちましょう。
特に、目・鼻・口といったパーツの配置やプロポーション(比率)を把握することは、作品の中の人物に、説得力を持たせるための重要な要素です。観察力を高めることで、モデルの細かなニュアンスを捉え、描写に深みを与えることができます。
筆者の場合には、静物・風景・心象風景・動物よりも、最も難しかったのが人物画でした。最初に描いた絵などでは、何度修整してもうまく描けず、自己嫌悪に陥ったくらいです。
しかし、いくらやってもうまく描けなくても、心を静めて、対象を良く観察して取り組むことで、実物の人物に近づけることができるようになれます。
また、あなたが人物画を描く際には、「周囲の人物」にモデルをお願いしてはいけません。 その理由は、よく知っている、身近な人であればあるほど、似ていないと描いている最中から「ヘコム」ことがあるからです。^^
シンプルなラインで骨格を捉える
鉛筆画で人物を描く際に重要なことは、描き始めは複雑な形状であってもシンプルなラインで大雑把に捉えることです。まずは、頭部や体の大まかな形を描き、骨格を意識しながら全体のバランスを確認します。
この段階では、細部にこだわりすぎず、あくまでも人物全体のプロポーションを捉えることに集中しましょう。シンプルなラインで骨格を捉えることで、人物の動きや姿勢を自然に表現する基礎が作れます。
具体的には、下の画像のように、人物の腕や足は円筒形として捉えることができますし、上体は、少し反った厚い板のようなイメージで描くことができます。このように、描き始めは単純化して全体を捉えて、徐々に細部を描き進む手順が極めて重要です。
出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 三澤寛志 氏
どのジャンルの描き方にも共通することですが、描き始めは単純化して全体を大雑把に捉える手法は、極めて重要な手順です。徐々に詳細な描き込みをして仕上げていきましょう。
ディテールへ進む前の準備
鉛筆画はモノトーンで表現するため、明暗の使い方が特に重要です。ディテール(詳細)に進む前に、まずは大まかなトーンの種類を検討し、人物の陰影を大雑把に優しく軽いタッチで捉えます。
光源の位置を確認しながら、明るい部分と暗い部分を描き分けることで、作品全体に立体感を持たせることができます。この段階での陰影のバランスが、その後の詳細な描き込みにも影響を与えるため、丁寧に描き進めます。
大きく輪郭を捉えた後に、人物に入れる陰影は、優しく軽いタッチで入れていきます。最初から決定的なトーンは入れないようにしましょう。筆圧の強い線は消しにくいですし、消した跡が残ることがあるためです。
練習によるスキルの向上
鉛筆画で人物を描くスキルは、一朝一夕で身につくものではありません。観察と実践を繰り返し、さまざまな角度や表情の人物を描くことで、スキルを向上させることができます。
また、他のアーティストの作品を参考にし、彼らがどのように人物を表現しているかを学ぶことも有効です。最初はうまく描けなくても、継続的な練習がやがて自身の描画力を高め、リアルな人物を描けるようになる鍵となります。
これらの基本を理解し、実践することで、鉛筆画での人物描写がより、リアルで魅力的なものになります。基本を押さえつつ、自分なりの表現を追求することが、鉛筆画の楽しさを広げるポイントです。
上達のコツは、毎日たとえ10分間であっても完全に集中できれば上達していけます。しかし、同時に、週に一日はたっぷりと時間を取って練習しよう!
人物のプロポーションを正確に捉えるコツ
鉛筆画で人物を描く際、プロポーション(比率)を正確に捉えることは非常に重要です。正確なプロポーションは、描く人物にリアリティー(現実性)を与え、自然な表現を可能にします。
本章では、人物のプロポーションを正確に捉えるためのコツを解説します。
基本的なプロポーション(比率)のルールを理解する
出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 三澤寛志 氏
出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 三澤寛志 氏
まず、人物のプロポーションを正確に描くためには、基本的なルールを理解しておくことが大切です。一般的に、成人の人体の寸法は、頭部の長さを基準にすると7〜8頭身とされています。
頭部を起点にして、肩、腰、膝、足の位置をおおまかに決めていきます。この基本的なガイドラインを使うことで、人体のバランスを適切に保つことができ、全体的に調和の取れた姿を描くことが可能になります。
大まかなプロポーション(比率)を意識して描き進んでいかなければ、必ず大きな修整が必要になってきます。筆者も、この部分ではずいぶんと手こずりましたが、「比率」を意識して毎回描いていく内に、習慣づけできるようになれます。
頭部を基準にバランスを取る
頭部の大きさを基準にして全体のバランスを取るのが効果的です。頭部の長さを計測し、それを体全体のプロポーションのガイドラインとします。
例えば、頭部の長さを基に肩幅は約2倍、胴体の長さは約3倍といった具合に、各部位の大きさや位置関係を決めていきます。この方法は特に初心者にとって分かりやすく、描く際に迷わずに済むのが利点です。
まずは、一般的な「比率」に基づいて、描き進んでいくことを心がけましょう!
姿勢によるプロポーションの変化を捉える
人物は、さまざまな姿勢や動きで表現されるため、プロポーションもそれに合わせて変化します。例えば、座っている姿勢や歩いている動作では、体の部分が圧縮されたり伸びたりします。
このような変化を正確に捉えるためには、関節や骨格の動きを理解しておくことが重要です。クロッキー(※)やスケッチの練習を通じて、動きの中で変化する人物のプロポーションに慣れていきましょう。
※ クロッキーとは、10分程度の時間で、対象に対して正確に描き進む練習手法です。
短時間での練習には、描写に正確さを求めるクロッキーと、印象を大切にするジェスチャードローイングがありますので、どちらがあなたの求めているものかによって選びましょう。
視覚的な比較を活用する
プロポーション(比率)を正確に描くためには、視覚的な比較を活用することが有効です。描く対象を見ながら、頭部の長さや肩幅などを他の部位と比較し、全体のバランスを整えていきます。
例えば、腕の長さを頭部の長さと比較してバランスをチェックしたり、脚の長さを胴体と比較して全体の調和を確認するなど、描く過程で常に相対的な関係を意識します。
筆者の場合には、人物の全体的な輪郭が出来上がりましたら、一旦少し離れたところから全体を観るようにしています。接近した状態で見ているよりも、全体のバランスのチェックに役立つからです。
練習を重ねてプロポーション感覚を養う
プロポーション(比率)を正確に捉えるための感覚は、練習を重ねることで養われます。さまざまなポーズや角度の人物を描き、異なるプロポーションに対応する練習をしましょう。
初めは補助線を用いて描きますが、次第にそれらを使わずに描けるようになることが目標です。経験を積むことで、直感的にプロポーションを正確に描けるようになり、人物に生命力を吹き込む鉛筆画が可能となります。
これらのコツを活かし、人物のプロポーションを正確に捉えることで、鉛筆画の表現力を大きく向上させることができます。
筆者の人物画では、いろいろな人物を何回も描くことによって、少しずつ慣れていくことができました。
そして、顔などの描写では、顔の輪郭を描いて、目の高さを合わせるための横線及び口の高さの横線と鼻筋を描く基本の縦線を入れて描き始めます。
また、目の輪郭を描いて、その時点で、逆に顔の輪郭も再度チェックし、鼻や口との距離を修整していきます。この、目・鼻・口の形状及び大きさや位置が、当然一番重要なので、その中心的なパーツの目を主体にしてバランスを調整しているということです。
人物画を描いていくうえで大きな要素は、当然描く対象である人物全体の身体の比率が一番重要です。いくら表情がうまく描けても、身体全体の比率が悪いと良い作品にはなりません。バランスを重視しましょう。
光と影で人物に立体感を与える方法
鉛筆画で人物に立体感を持たせるためには、光と影の使い方が重要です。光と影を適切に描くことで、平面的な作品がリアルで奥行きのあるものに変わります。
本章では、光と影で人物に立体感を与えるための具体的な方法を紹介します。
光源の位置を明確にする
まず、光と影を正確に描くためには、光源の位置を明確にすることが大切です。光源がどこにあるかを確認することで、人物のどの部分が明るくなっているか、どの部分に影ができているかを正確に認識できます。
例えば、光源が左上にある場合、右側の顔や体に影ができ、左側は明るく描かれます。光源の位置を確認できましたら、人物全体に影がどのように落ちているのかを確認できます。これが、作品に一貫性とリアリティーを持たせるための基本です。
光源の位置は正確に把握することがとても重要です。それによって、あるべきところの影の濃さや長さを意識できるからです。
光と影を使い分ける
光と影で立体感を出すためには、光と影の使い分けが重要です。ハイライトは光が直接当たって最も明るくなる部分であり、鉛筆で描く際には紙の白さを利用して描くか、練り消しゴムで部分的に抜くことが有効です。
一方、影は光が当たらない部分や物体に遮られてできるので、濃い影は、濃い鉛筆で筆圧を強めて、クロスハッチングによって描きます。光と影を適切に配置することで、人物の顔や体の起伏を強調し、立体感を生み出せます。
ただし、影の入れ方では、一番濃いトーンから描き始め、徐々に明るいところを描いていくことで描きやすさが増します。
筆者は、描き始めのころ、影をどこから描けばよいのか分からなかったので、右端から徐々に左端に向かって描いたことがありますが、その際には、トーンのバランスを取ることが困難になってしまった失敗があります。
影は濃いところから徐々に明るいところへ向かって描き進めましょう。
グラデーションで滑らかな陰影を表現
リアルな立体感を出すためには、光から影への移り変わりを滑らかにすることが重要です。これはグラデーション(階調)の技法を使って表現します。光から影への移行部分を、鉛筆の筆圧を調整して段階的に濃淡を変えていきます。
特に、顔の額及び頬や鼻と顎などのような、丸みを帯びた部分では、滑らかなグラデーションが立体感を高めるポイントです。硬さの異なる鉛筆を使い分けることで、より細かな陰影表現が可能になります。
尚、曲面や球体に対する影の入れ方は、曲面や球体に沿った影を入れていきます。その点はお忘れなく。下の画像を参照してください。
反射光を描く
反射光を意識することも、人物に立体感を加えるための重要なテクニックです。反射光とは、光が周囲の物体に反射して人物に当たる微妙な光のことです。
例えば、顔の側面や体の下部にわずかな反射光の明るさを加えることで、影の中に存在する反射光を表現できます。これにより、影の部分が完全に暗くならず、自然な立体感が生まれます。
上のタマネギの影の部分に隣接している「わずかな明るい部分」や、下の画像の「反射光」部分を参照してください。
キャストシャドウで奥行きを強調
キャストシャドウとは、人物が床や壁に落とす影のことです。この影を描くことで、人物がその場に存在するリアリティー(現実性)と奥行きを強調できます。キャストシャドウの形や濃さは光源の位置と距離に左右されます。
しっかりとしたキャストシャドウを描くことで、人物と背景との関係性が強調され、立体感がより際立ちます。
これらのテクニックを活用することで、光と影を効果的に使って人物に立体感を与え、鉛筆画の表現力を高めることができます。下の作品を参照してください。劇的な光と影の対比は、白い部分を「輝いて」見せることさえできます。
第1回個展出品作品 人物Ⅴ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
鉛筆画では、光と影の扱いは極めて重要な要素です。最初はなかなかうまく描けなくても、意識的に濃いトーンなどを使うことで、思いのほかハイライトを強調できることを体験できれば、その魅力的な際立て方が理解できるようになれます。
表情を豊かにするための鉛筆の使い方
人物の表情を豊かに描くためには、鉛筆の使い方には工夫が必要です。鉛筆の濃淡や線の強弱を巧みに操ることで、喜びや悲しみ、驚きといったさまざまな感情を表現することが可能になります。
本章では、表情を豊かにするための具体的な鉛筆の使い方を紹介します。
鉛筆の硬さを使い分ける
表情を描く際、鉛筆の硬さを使い分けることは重要です。硬い鉛筆(H系統)は薄い線を描くのに適しており、細かい部分のディテールや繊細な陰影を表現するのに向いています。
例えば、瞳のハイライトや口元の微妙なシワなど、表情のニュアンスを繊細に表現する際に活用できます。
一方、柔らかい鉛筆(B系統)は濃い線や大胆な陰影を描くのに適しており、感情の強さや影の深みを表現するのに効果的です。
硬さの異なる鉛筆を組み合わせて使うことで、表情に深みとリアリティー(現実性)を与えることができます。
淡いトーンの表現の部分には、そのトーンに見合った鉛筆画必要です。淡いトーンのところへ、B系統の鉛筆で優しくそっと描いても、適切なトーンは得られません。
線の強弱で感情を表現
線の強弱をつけることで、表情に動きと感情を加えることができます。例えば、眉や口角の線を強く描くことで、怒りや決意を表現し、逆に柔らかく描くことで穏やかさや優しさを表現することもできます。
鉛筆の持ち方や筆圧を調整し、太さや濃さを変えることで、顔の微妙な表情の違いを描き出すことができます。
特に、目元のシワや口元のラインなど、感情を伝える部分の描き方を工夫することで、より豊かな表情を生み出すことが可能になります。
明るい表情の作り方では、口角が上がり具合をよく観察して描写しましょう。それによって印象は大きく変化します。
ハッチングで表情の陰影を強調
表情の陰影を描く際に、有効なテクニックはハッチングです。ハッチングとは、平行線やクロスハッチング(縦横斜めの4種類の方向の線)で陰影をつける技法です。
例えば、頬の凹凸や額のシワを表現する際に、ハッチングを使うことで立体感を生み出し、表情を際立たせることができます。
影の部分を濃く描くことで、悲しみや苦悩のような深い感情を表現することができて、軽く描くことによって喜びや優しさを表現することも可能になります。
表情の描写の際には、淡いH系統の鉛筆で優しく軽いタッチでトーンを塗り重ねていきます。化粧を施すようなイメージで進めることがベターです。
なだらかな曲面に対する陰影の入れ方は、優しく軽いタッチで、クロスハッチング(縦横斜めの4通りの線による描き込み)による手法が効果的ですよ。
微細な陰影でニュアンスを表現
表情の微細なニュアンスを表現するためには、細かな陰影の描写が欠かせません。例えば、目元の微妙な陰影は、笑顔の際にできる小じわや瞳の輝きを表現するのに重要です。
練り消しゴムを使って微細なハイライトを加えることで、目の表情に輝きを与えたり、薄い影を重ねることで、複雑な感情を含んだ表情を描き出すことができます。
これらの細かな調整が、人物の表情にリアリティーと深みを加えるポイントとなります。例えば下の、筆者の作品を参照してください。モノトーンであっても、このくらいの表現は十分可能です。
第1回個展出品作品 人物Ⅵ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
表情筋を意識して描く
人物の表情は、顔の筋肉である表情筋の動きによって形成されます。鉛筆画で表情を豊かに描くためには、表情筋の構造を理解し、その動きを意識して描くことが必要です。
例えば、笑顔の際には頬の筋肉が引き上げられ、目元にしわが寄ります。これを鉛筆の濃淡や線の方向で表現することで、リアルな笑顔を描くことができます。
表情筋の動きを正確に捉え、描く部分に合わせて鉛筆を使い分けることで、より自然で豊かな表情が生まれます。
これらの技法を駆使して、鉛筆画で人物の表情をより豊かに描き出すことができ、作品に込められた感情を伝える力を高めることができます。
下の筆者の作品では、少年がわずかに微笑んでいるのが分かると思いますが、ここでも口角の状態は重要です。こんな感じで、表情をよく確認して描いていきましょう。
第1回個展出品作品 少年 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
仕上げのポイント:人物にリアリティーを加えるテクニック
鉛筆画で人物を描く際には、最後の仕上げが作品のリアリティーを決定づけます。仕上げの段階で細部に気を配ることで、人物により自然な存在感と深みを加えることができます。
本章では、人物にリアリティーを与えるための仕上げのテクニックを紹介します。
ハイライトで生命感をプラス
仕上げに欠かせないのがハイライトの追加です。特に目元や唇、髪の毛など、光を受けて輝く部分にハイライトを入れることで、人物に生命感を与えることができます。
練り消しゴムを使って、ほんのわずかな光を加えることで、瞳の輝きや唇の潤いを表現することができます。
この場合のハイライトは、過度にならないように注意し、さりげなく入れることで自然なリアリティーを生み出します。
下の筆者の作品を参照してください。目の中や唇のハイライトはこんな感じで入れていきましょう。
第1回個展出品作品 人物Ⅳ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
髪の毛の質感を描き込む
髪の毛の質感は人物のリアリティーを高める重要な要素です。仕上げの段階では、髪の毛の流れや光の当たり具合を細かく描き込みます。髪の流れに沿って柔らかく滑らかな線を重ね、部分的に強調したい箇所には濃淡をつけます。
また、ハイライトを効果的に加えることで、髪の艶や柔らかさを表現することができます。髪の毛一本一本を細かく描き過ぎると不自然になるため、全体のバランスを見ながら調整しましょう。
下の筆者の作品でも、髪の毛の描写では、細かく描いてはいません。仕上のハイライトは、練り消しゴムを使って描いています。
第1回個展出品作品 人物Ⅱ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
肌の質感を微細に調整
人物の肌の質感をリアルに表現するためには、微細な陰影の調整が必要です。肌の表面には微細な変化や質感があります。鉛筆の筆圧を調整し、薄いグラデーションを重ねることで、肌の柔らかさや凹凸を表現します。
そして、練り消しゴムで軽くトーンを整えることで、自然な肌の質感を作り出せます。特に、頬や額、首筋などの光と影と影のバランスを調整することで、立体感とリアリティーを強調できます。
また、微妙な繊細なトーンの調整では、「ぼかし技法」も必要です。ティッシュペーパー小さくたたんだもの及び擦筆や綿棒で、トーンの境界線部分を優しく擦ってなだらかな部分を調整することで、リアルな陰影を得ることができます。
下の作品では、顔及び肩や胸のあたりのハイライト周辺に、ティッシュペーパーを小さくたたんで優しく擦り、仕上げています。
第1回個展出品作品 マリリン・モンロー 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
服のシワと質感の表現
服のシワや質感も、人物にリアリティーを加えるための重要な要素です。仕上げの段階で、服の布地の質感やシワの流れを細かく描き込みます。
布の厚さや光の当たり方を意識し、シワの濃淡を強弱をつけて描くことで、布地の柔らかさや重なりを表現します。
また、ハッチングを使って布のテクスチャーを表現し、素材感を強調することも効果的です。これにより、人物が実際にその場に存在しているかのようなリアリティーを持たせることができます。
各種布地の描き方では、次の画像を参照してください。いろいろな素材がありますが、細かすぎて描くのが困るようなことがあった場合には、その細かく描くことをやめて、あっさりとした状態へ「デフォルメ」するのもアリです。
出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明 氏
環境光で全体の調和を図る
人物にリアリティーを与えるためには、環境光を意識して仕上げることも大切です。環境光とは、周囲の光が人物に与える微妙な影響のことで、これを描き込むことで作品全体に統一感が生まれます。
例えば、背景の色や光源の位置に合わせて、人物の輪郭や影を微調整します。反射光をさりげなく取り入れることで、人物と背景の一体感を高め、作品に奥行きを与えられます。
これらの仕上げのテクニックを駆使することで、鉛筆画で描かれた人物にリアリティーと生命感を加えることができて、作品の完成度を大きく向上させることが可能になります。
つまり、光の当たっている周囲の物体の光が、人物に反射している状態を描き込んでいくということです。先ほどもご覧になっていますが、下のタマネギの底面が僅かに光を受けているような状態のことです。
実際の描画手順の一例
今回の実際の描画手順には、乳児を使って説明していきます。
大人の場合と違う点は、大人の場合には、目鼻立ちがもっとはっきりしている点でしょうか。しかし、大きな変更はありませんので、まずは、こんな感じと理解してください。
まずはエスキース(下絵)を造ろう
今回の制作では、黄金分割の構図を使うことにしますが、その前にあなたが制作をする画面のエスキース(下絵)を作りましょう。
あなたが取り組みを始める場合には、本制作に入る画面の正確に縮尺をかけたエスキースの画面に、構図基本線を描きましょう。今回は、黄金分割を用いた制作を紹介します。
あなたが、本制作に入る画面の大きさをF10のスケッチブックのサイズで取り組むとして、そのエスキースをA4の紙を正確に2つに切ったもので制作する場合には、次のようになります。
F10の短辺は454mm・長辺が528mmなので、あなたが手元に用意したエスキースは、その短辺のサイズは148mmなので、F10の短辺のサイズ454mmで割ると、0.3259という数値が出ます。
そして、F10の長辺は528mmなので、この長さに上記の縮尺(0.3259)をかければ、17.07となりますので、あなたのエスキースの長辺を172mmにすれば、あなたが本制作に入るF10を正確に縮尺したエスキースの土台ができるということです。
つまり、F10の短辺のサイズをエスキースの短辺サイズに合わせて縮尺をかけ、その縮尺に応じて、エスキースの長辺も正確に調整することで、F10を正確に縮尺したエスキースを得られるということです。
試行錯誤を繰り返して、出来上がったエスキース上の主要な各モチーフの寸法を測り、縮尺値(0.3259)で割れば、F10の画面上で正確な位置を特定できます。
取り扱う構図を決める
正確な縮尺をかけたエスキースが作れましたら、今回の制作では黄金分割を使った構図にしますので、各種基本線を描いていきます。
尚、構図に取り組むのは、余計なことは何も考えないで、あなたが楽しんで描くことに集中できて、5作品ほど描いて「ある程度描くことに慣れて」来られてから、検討しましょう。最初からいろいろなことを考えてしまうと挫折してしまうからです。^^
そして、今回の制作では、黄金分割を取り入れた制作を行いますので、画面の縦横の2分割線を描きます(③と④)、また、2つの対角線も描きます(①と②)。
さらに、黄金分割線を入れますが、これはエスキースの実際の縦横の寸法÷1.618で得られた数値を、左右あるいは上下から測って描き込みます(⑤⑥⑦⑧)。
構図分割基本線上にモチーフの輪郭をデッサンする
ご覧のように、黄金分割線の⑥と⑦の交点を乳児の顔のほぼ中心にして描き、体の向きは、斜線①に沿っています。また、左手の指先と右足の寝具に接している部分も黄金分割線の⑦上に位置しています。
身体全体が何となく、構図分割基本線をできるだけ取り入れられるように描くことで、画面上のモチーフが、構図分割基本線になじむので、仕上がった作品は観てくださる人から見て、観やすい・ストレスの少ない作品に仕上げることができます。
ここまでは、乳児の表情を入れずに、大まかな輪郭を捉えることに主眼を置いて制作を進めています。
乳児の表情を入れ、乳児を除く全体にトーンを薄く入れる
いよいよ乳児の表情を入れますが、決定的な描き込みはしません。一旦ある程度の描き込みをしています。
そして、乳児を除く背景全体にHBの鉛筆で、軽く優しいタッチの、クロスハッチング(縦横斜めの4種類の方向からの線による描き込み)で面を埋めていきます。この作業の意味合いは、その次の工程で、「光」を描き込んでいくために必要な作業なのです。
画面の背景に光を描く
乳児を除く全体へ入れた薄いトーンの上から、制作対象の寝具にあたっている光を、練り消しゴムで拭き取っていきます。
シーツや薄い掛布団の光っている部分に光を「描き起こし」て、全体の光具合を確認しながら調整していきます。
乳児と寝具との接点周辺部分に影を入れていく
乳児の身体と寝具との接点及び、掛布団の影や、シーツにできている柔らかな影もよく観察しながら描き込みます。
乳児の顔の輪郭の修整と表情全体を描き進む
描いていく内に、顔の横幅が若干大きいことに気づきましたので、修整しました。また、乳児の表情もさらに描き加えています。
細かな修整などを含めて最終的な仕上げを行う
新しい未来Ⅰ 2024 F4 鉛筆画 中山眞治
各部の濃くあるべきところを濃く、光っているべきところを練り消しゴムでさらによく消し込んで仕上がりです。
最後にサインを入れて、フィキサチーフをかければ終了ですが、サインはできるだけ目立たない場所で、構図分割基本線の邪魔にならないところへ記載しましょう。
まとめ
第1回個展出品作品 人物Ⅲ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
初心者の人から上級者の人までが、鉛筆画で人物を描く際に、リアリティーと立体感を持たせるためのコツやテクニックを5つまとめました。
1 基本を押さえる
人物の特徴を正確に捉えるために、観察力を高めましょう。顔や体のプロポーション、光と影の関係性を理解することが重要です。
2 プロポーションの正確さ
頭部を基準に全体のバランスを取り、骨格や筋肉の位置関係を意識します。基本の7〜8頭身を参考に、姿勢や動きに応じてプロポーション(比率)を変えることがポイントです。
3 光と影で立体感を強調
光源の位置を明確にし、光と影の使い分けで立体感を表現します。滑らかなグラデーション(階調)を使い、反射光やキャストシャドウで奥行きを加えます。
4 豊かな表情を描く
鉛筆の硬さや線の強弱を使い分け、表情の細かなニュアンスを表現します。ハッチングや陰影の調整で感情や表情筋の動きをリアルに描き出します。
5 仕上げでリアリティーを追加
ハイライトで目や唇に輝きを持たせ、髪の毛の質感を描き込みます。肌や服の質感も丁寧に表現し、環境光を取り入れて全体に調和を持たせます。
これらのテクニックを総合的に活用することで、鉛筆画で描く人物に深みとリアリティーを持たせることができます。
光と影、プロポーション、表情の描き方に気を配り、細部にこだわることで、シンプルな鉛筆画でも豊かな表現力を発揮できます。
ではまた!あなたの未来を応援しています。
最初の内は、無料写真素材サイトの写真などでの制作をオススメします。仮に似ていなくても、どうってことありませんからね。何枚も描くうちにだんだんうまく描けるようになりますから、落ち込まないようにしましょう。^^