初心者必見！光と陰で魅せる、鉛筆画の立体感を生む影の描き方ガイド

　こんにちは。私は、アトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治です。

　　　　　　　　　筆者近影　作品「月のあかりに濡れる夜Ⅱ」と共に

　さて、鉛筆画で作品にリアルな立体感を出すためには、「影」の表現が欠かせません。モチーフの形を捉えるだけでなく、光の当たり方を意識して描くことで、より深みのある表現が可能になります。

　この記事では、初心者でもわかりやすく実践できる「影の描き方」の基本を丁寧に解説し、光源の考え方から影の境界の描写まで、モノクロの鉛筆だけで魅せるリアルな陰影技法をガイドします。

　それでは、早速見ていきましょう！

Table of Contents

光源を意識して構成を決める

蕨市教育委員会教育長賞　灯（あかり）の点（とも）る静物　2000　F30　鉛筆画　中山眞治

　影を正確に描くための第一歩は、光源の位置を明確にすることです。

　光が、どの方向から差し込んでいるかを明確にしないと、影の位置や形が不自然になり、作品全体が不安定に見えてしまいます。

　本章では、鉛筆画では色彩による補正しないため、影の位置が画面構成の印象を大きく左右することを解説します。

単一光源を基本にする

　　　第１回個展出品作品　サン・ドニ運河　1996　F10　鉛筆画　中山眞治

　初心者の人は、まず、太陽や照明などの「一方向からの光源」で構成すると、影の方向が統一されて描きやすくなります。

　複数の光源の場合には、影のでき方がまちまちのなってしまい、描きにくくなってしまうからです。

　尚、太陽の明かりを頼りにして描く場合には、ご存じのように太陽の影は動きますので、できれば、室内で部屋の明かりを消して、デスクの上の「自在に動くライト」を使って、斜め上から光を当ててみましょう。^^

影の落ちている方向を確認する

　　　第１回個展出品作品　ノートルダム寺院　1996　F10　鉛筆画　中山眞治

　影は、光源の反対側にできるため、影の位置や長さを事前に確認して、スケッチしておくと安定した仕上がりになります。

　影をはっきりと確認できないような場合には、モチーフの下に紙片を置いて、実際の影の状態を見るのも効果的です。

光が当たる面と影の面を分ける

　　第１回個展出品作品　金剛力士像（吽形）　1996　F10　鉛筆画　中山眞治

　立方体や円柱など、単純な形で練習する際は、明るい面・中間のトーン・暗い影の面を意識すると立体感が出やすくなります。

　光源の位置を把握することで、影の方向と形に統一感が生まれて自然になり、作品に説得力が増します。

構成の段階で、光と影をセットで考えることが、リアルな鉛筆画の第一歩となります。

濃淡で奥行きを表現する基本ルール

第２回個展出品作品　ランプの点（とも）る静物　2000　F30　鉛筆画　中山眞治

　鉛筆画において、立体感を生み出す最大の要素は「濃淡」のコントロールです。

　影をただ濃くするだけではなく、グラデーション（階調）によって面の変化や奥行きを表現することが重要です。

　本章では、陰影の微妙な変化を丁寧に描くことで、スケッチブックや紙の平面の画面上に、奥行きのある世界を作り出すことができる点について解説します。

明暗の3段階を意識する

　　　第１回個展出品作品　金剛力士像（阿形）　1996　F10　鉛筆画　中山眞治

　まずは「ハイライト（最も明るい部分）」「ハーフトーン（緩やかな明暗）」「コアシャドウ（最も暗い部分）」の3つを意識して描き分けましょう。

　この3段階を意識するだけでも、立体的に見えるようになります。

　尚、上の画像にもありますように、キャストシャドウは長く伸びるにしたがって、影の縁がかすんでいきます。

　そして、反射光は、リアルな表現には欠かせませんのでよく研究しましょう。次の作品を参照してください。

　卵の反射光が洋ナシに映り込み、また、卵の底面が床の明かりを受けてかすかに明るくなっています。このような部分をよく観察することで、リアルな描写に結びつきます。

　　　第２回個展出品作品　洋ナシのある静物　2000　F1　鉛筆画　中山眞治

筆圧でトーンを調整する

　濃淡は、鉛筆の種類よりも、筆圧によってコントロールするのが基本ですが、筆圧を高め過ぎると紙が破れてしまいますので、重ね塗りでじっくり濃くすることが基本です。

　尚、その場合の重ね塗りの方法では、縦横斜めの4方向からの線（クロスハッチング）を使うことで、コントロールできます。

　次の作品の「巨峰」は、鉛筆画には最適なモチーフです。作品例のように、一粒を手前において、遠近感なども試してみましょう。この場合のコツは、手前の一粒を「より濃く」することです。

第１回個展出品作品　葡萄　1996　F6　鉛筆画　中山眞治

エッジの硬さを使い分ける

　モチーフの、輪郭にできる部分の影はシャープに、それ以外の柔らかい影はぼかして描くことで、質感や空気感も演出できます。

　エッジ（縁）の「硬さ」と、「柔らかさ」で距離感を表現できます。濃淡は単なる影付けではなく、形状や奥行きを説明するためにも必要なのです。

　最初は、段階を分けて描く練習から始め、徐々に境目のグラデーション（階調）を滑らかにしていくことで、自然な陰影を身につけることができます。次の作品の「一輪挿し」のトーンの入れ方を参照してください。

　　　　第１回個展出品作品　トルコ桔梗　1996　F6　鉛筆画　中山眞治

濃淡の理解と制御が、鉛筆画の深みを決定づける基礎力になります。

影の境界を描き分ける3つの技法

国画会展　入選作品　誕生2006-Ⅱ　F100　鉛筆画　中山眞治

　影の表現で、最も差が出るのが「境界の描写」です。モチーフに密着する影はくっきり、距離が離れるほど、ぼんやりとした輪郭になります。

　本章では、この「硬さ」と「柔らかさ」を描き分けることが、自然な陰影を作る鍵となる点について解説します。

接地影は濃く・シャープに描く

第２回個展出品作品　モアイのある静物　2000　F50　鉛筆画　中山眞治

　モチーフが地面や他の面に接してできる影（接地影）は、輪郭をくっきりと濃く描きましょう。

　また、シャープな線で描くことで重量感や安定感が出ます。

　この接地影がしっかりと濃く描けていないと、モチーフの存在感が不安定になりますので、注意が必要です。地に足がついていないような状態になってしまうからです。

距離のある影はぼかす

　窓から入ってくる光は、部屋の中に入っていくに従って、縁が徐々にカスレていきますので、そのカスレ具合を表現します。

　そして、モチーフから少し離れた場所に落ちている影も、そのカスレ具合をよく観察して描いて行きましょう。

　また、柔らかい光で生まれる影は、鉛筆を優しく軽いタッチの、縦横斜めの4方向からの線で広く薄く描き、ティッシュペーパーや綿棒でぼかすと自然になります。　

　尚、ぼかしについては、専用の擦筆（さっぴつ）という道具もありますが、筆者は、ほとんどティッシュペーパーを小さくたたんで使うことで足りています。

　　　　　　　　　　　擦筆の画像です

境界をグラデーション（階調）でつなぐ

　　　第２回個展出品作品　パプリカのある静物　2000　F1　鉛筆画　中山眞治

　光と影の境目が画一的では不自然になるため、少しずつトーンを変化させてつなぐことで、立体感と空気感が生まれます。

　特に、人物や動物の顔や、布など曲面の多いモチーフでは重要です。人の顔の陰影では、2Hなどの鉛筆を優しく軽いタッチの、縦横斜めの4方向からの線（クロスハッチング）で、徐々に淡くトーンを乗せていくようにしましょう。

　このように、影の境界を状況によって描き分けることで、作品に緊張感やリズムが生まれます。影はすべてが濃ければ良いわけではなく、柔らかさのコントロールが描写力の証です。

境界線をどう描くかで、作品全体のリアリティー（現実性）と完成度が大きく変わってきます。

鉛筆の使い分けでリアリティーをアップ

国画会展　入選作品　誕生2001-Ⅱ　F80　鉛筆画　中山眞治

　影を表現する際には、鉛筆の使い分けを意識することでリアリティー（現実性）が大きく向上します。

　単一の硬度だけで描くと、濃淡や質感の幅が限られてしまい、単調な印象になりがちです。

　本章では、適材適所に鉛筆の濃さを変えることが、リアルな陰影表現への近道となる点について解説します。

濃い鉛筆は影の主役

　　第２回個展出品作品　ランプのある静物　2000　F50　鉛筆画　中山眞治

　4B〜6Bの鉛筆は、黒く太く描けるため、深い影や接地影に最適です。

　ただし、細かい部分の描き込みや仕上げの際は、鉛筆自体が濃いだけに、必要とする箇所からはみ出てしまうと修整に手間取りますので、慎重に扱う必要があります。

中間のトーンはHB〜2Bでなめらかに

　第２回個展出品作品　君の名は？　1999　F30　鉛筆画　中山眞治

　中間の明暗を担う部分には、HB〜2Bの鉛筆がバランス良く使えます。

　特に、曲面やグラデーション（階調）を描く際に活躍し、立体感を滑らかに演出できます。

硬い鉛筆で輪郭と光の演出

第２回個展出品作品　コスモス　1997　F10　鉛筆画　中山眞治

　2H〜Hの鉛筆は、シャープな線が描けるので、明るい部分の描写や、影の輪郭を調整したいときに効果的です。また、影のエッジ（縁）を立たせたい時にも重宝します。

　異なる硬さの鉛筆を、状況に応じて使い分けることでトーンの幅が広がり、スケッチブックや紙の上に、立体的に浮かび上がるような表現が可能になります。

　また、筆圧だけで濃淡を調整するよりも、鉛筆の硬度を変えるほうがスケッチブックや紙を傷めず、繊細な描写がしやすくなります。

描く対象や光の強さを見極めながら、最適な鉛筆を選ぶ判断力が上達には不可欠です。

練習課題で影の描写力を高めよう

第２回個展出品作品　灯（あかり）の点（とも）る窓辺の静物　2000　F100　鉛筆画　中山眞治

　影の描き方は、理論を知るだけでなく、実際に手を動かすことで上達します。

　初心者の人にとっては、段階的な練習課題に取り組むことで、影の構造や濃淡表現を体得することができるのです。

　本章では、シンプルで効果的な練習方法を紹介します。

立方体・球・円柱のデッサン

　基本形状は、光と影の学習に最適です。

　ひとつの光源を想定して、どこに濃い影が生まれ、どの部分がハイライトになるのかを観察して描きましょう。

　これにより、トーンの分布とグラデーション（階調）の練習ができます。

影の帯グラデーション

　濃淡のコントロールを鍛えるために、白から黒までを滑らかにつなぐ帯を描いてみましょう。

　最初は段階的に、慣れたら滑らかな移行で仕上げると、鉛筆の圧力調整が習得できます。

日常の身の回りにある小物をモチーフに選ぶ

　コーヒーカップ及び、コップやリンゴなど、単純な形のものに光を当てて描いてみましょう。自然な影の落ち方や、接地影との境界線の描写力が鍛えられます。

　そして、できれば写真よりも、実物を観察することで影の理解が深まります。

　また、黒い下敷きを一枚用意して、その上にモチーフを置いてみると、きれいな映り込みを確認できますので、それも作品に加えてみましょう。次の作品を参照してください。

　　　　　　　家族の肖像Ⅰ　2023　F1　鉛筆画　中山眞治

　これらの練習を繰り返すことで、自然な影の描写力が養われます。描けば描くほど、目が「影をどう捉えるか」に敏感になり、無意識に適切な描き方ができるようになれます。

陰影表現は、反復練習が成果に直結します。日々の鉛筆画に影の観察と描写を組み込むことが、上達への一番の近道です。

実践モチーフ案一覧（練習課題対応）

　　　第１回個展出品作品　胡桃のある静物　1997　F10　鉛筆画　中山眞治

　実際に手を動かして実践することによって、あなたの画力は磨かれていきます。

　本章では、具体的な課題を提案しますので、ぜひ具体的に行動してみてください。

立方体・円柱・球体を使った光源トレーニング

モチーフ名	推奨素材	狙いと効果
サイコロ	白色プラスチックまたは木製	エッジのはっきりした影を練習できる。
トイレットペーパーの芯	円柱形状を捉えやすく、光の回り方が見やすい。
ピンポン球	完全な球体で、滑らかなトーン変化を練習可能。
小さな箱（お菓子の箱など）	簡単な立方体モチーフとして最適。
空き缶	上級者向け応用。金属反射も含めて陰影観察が可能。

身近な小物に落ちる影を観察して描く

モチーフ名	推奨理由	配置のポイント
りんご	滑らかな球体＋凹みもあり、トーンの変化を学べる。	片側から斜めに光を当てると影の形が明確になる。
マグカップ	円柱＋取っ手付きで複雑さもある。	接地影と落ちる影の両方が練習できる。
スプーン	金属反射とシャープな影が学べる。	白い紙の上に置いてコントラスト（明暗差）を高める。
シンプルな人形やフィギュア	複数の形状が混在し、応用力が養える。	柔らかい照明と組み合わせると陰影が複雑になる。
グラス（中身なし）	透明素材の扱いと影のゆがみが観察できる。	光で照らすと複雑な影ができ、練習に最適。