こんにちは。私は、アトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治です。

筆者近影 作品「静物2025-Ⅲ」と共に
さて、この記事は、鉛筆画や鉛筆デッサンにおける、人物デッサンで「顔が似ない」と悩む原因を整理し、形の捉え方・比率・観察力を改善する具体的な練習法をわかりやすく解説します。
人物デッサンを続けているのに、なぜか顔が似ない。写真や画像を見ながら描いているはずなのに、仕上がると別人のようになってしまう。
そんな悩みを抱えている人は少なくありません。実はこの問題は、才能やセンス以前に、顔の捉え方や観察の順序、練習方法そのものに原因があるケースがほとんどなのです。
この記事では、人物デッサンで顔が似なくなる代表的な原因を整理しながら、上達につながる考え方と練習法を段階的に解説します。
感覚に頼らず、形と構造を理解しながら描くための実践的な内容を通して、「似ない」状態から確実に抜け出すための道筋を提示しましょう。
それでは、早速どうぞ!
顔が似ない最大の原因とは?人物デッサンで起こりやすい思考のズレ

人物デッサンで、「どうしても顔が似ない」と感じると、多くの人は目や鼻、口の描き方が悪いのではないかと考えがちです。
しかし実際には、顔が似なくなる原因はパーツの技術以前に、描く際の思考の順序や観察の組み立て方そのものにあります。
本章では、人物デッサンで、特に起こりやすい思考のズレを整理しながら、なぜ似なくなるのかを具体的に見ていきましょう。
部分から描き始めてしまう思考の落とし穴

顔が似ない人に共通して多いのが、描き始めから目や鼻など、印象的な部分に意識が集中してしまうことです。
パーツ単体は丁寧に描けていても、顔全体との位置関係や大きさのバランスが整理されないまま進むため、微妙なズレが積み重なります。
人物の印象は、各パーツの形よりも、それらがどの距離感で配置されているかによって決まるため、部分先行の思考は似ない結果を招きやすくなるのです。
顔を「記号」で処理してしまう観察不足

もう一つの大きな原因は、目は楕円、鼻は三角、口は一本線といった無意識の記号化です。
見ているつもりでも、実際には対象を観察しているのではなく、自身の中にあるイメージをなぞってしまいます。
その結果、目の傾きや左右差、まぶたの厚み、鼻筋の方向といった個人差の要素が抜け落ち、誰を描いても似た顔になりやすくなるのです。
立体ではなく平面として捉えてしまう問題

顔を正面からの、平面的な図として捉えてしまうことも、似なくなる大きな要因です。
実際の顔は、額、眉骨、頬骨、顎など複数の面が角度を変えながら連続する立体構造をしています。
この立体意識が弱いと、奥行きや面の向きが反映されず、写真や画像と比べたときに違和感のある顔になります。とくに、斜め向きの顔で破綻しやすいのは、この認識不足によるものです。
完成像を急ぎすぎる思考のクセ

早く顔を完成させたいという気持ちも、判断精度を下げる原因になります。
全体の比率や傾き、配置関係を充分に確認しないまま描き込みを進めてしまうと、途中で違和感に気づいても修整が難しくなってしまうのです。
完成を急ぐほど確認工程が省かれ、似ていない状態がそのまま固定されてしまいます。
人物デッサンで顔が似ない最大の原因は、技術不足ではなく思考の順序にあります。部分から描く、記号で処理する、平面で捉える、完成を急ぐ。これらのズレが重なることで、顔全体の関係性が崩れ、結果として似なくなります。
比率が崩れる理由を知る:顔全体を面で捉える意識の重要性

人物デッサンで顔が似なくなる大きな要因のひとつが、比率の崩れです。
目や鼻を丁寧に描いているにもかかわらず、違和感が残る場合、その原因は細部ではなく、顔全体の捉え方にあります。
多くの場合、顔を線や点の集合として見てしまい、面同士の関係を把握できていないことが比率崩れにつながっているのです。
本章では、なぜ比率が狂うのかを整理しながら、面で捉える意識の重要性を掘り下げていきます。
基準となる大きな面を最初に決めていない

比率が崩れる人に共通するのは、描き始めの段階で顔全体の基準を作れていない点です。
額から顎までの縦の流れ、左右の頬の広がりといった大きな面を曖昧にしたまま描き進めると、途中で修整の基準が失われます。
最初に大きな面を設定せずに進めると、後から目や口を整えても全体のズレは解消されません。
面の傾きではなく輪郭線だけを追っている

輪郭線をなぞる意識が強いと、面の向きや傾きが意識から抜け落ちます。
顔は正面であっても、左右で微妙に面の角度が異なり、斜め向きではさらに複雑な面構成になるのです。
線だけで捉えると、奥行きの情報が反映されず、結果として比率が不安定になります。面の傾きを感じ取る視点が欠けると、立体感と似ている印象の両方が失われます。
左右対称に整えようとする無意識の補正

人は、無意識に顔を左右対称に整えようとします。しかし実際の顔は完全な左右対称ではなく、その微妙なズレこそが個性を生み出しています。
このズレを無視して平均化してしまうと、目や口の位置関係が不自然に整い、本人らしさが消えてしまうのです。
左右差を含めた面の配置を受け入れることが、比率を安定させる重要なポイントになります。
面同士の関係を途中で確認していない

描き進める途中で、面同士の関係を見直さないことも比率崩れの原因です。額と頬、頬と顎といった隣り合う面のつながりを確認せずに部分を描き込むと、小さなズレが積み重なります。
途中で、面の関係を確認する工程を入れることで、比率の破綻を早い段階で防ぐことができるのです。
顔の比率が崩れる理由は、顔を線ではなく面として捉えられていない点にあります。基準となる大きな面を最初に定め、面の傾きや左右差を含めて観察し続けることで、比率は安定します。
顔全体を、面の集合として意識することが、似ている人物デッサンへの確実な近道になるのです。
部分描写に走らないための練習法:目・鼻・口の前に見るべきもの

人物デッサンで顔が似なくなる人の多くは、比率や構造を理解しているにもかかわらず、描いている途中で、無意識に部分描写へ引き寄せられてしまいます。
とくに、目や口など印象の強い部分は、早く描き込みたくなるため、全体の確認が後回しになりがちです。その結果、完成時にはパーツは描けているのに、顔全体としては似ていない状態になるのです。
本章では、部分描写に走らないために意識すべき視点と、練習段階で身につけたい考え方を整理します。
顔をパーツではなく配置関係として見る意識

目・鼻・口は、それぞれ独立した形ではなく、顔全体の中での配置関係によって意味を持ちます。
似ているかどうかを左右するのは、形の完成度よりも、距離や角度、重心の位置です。目が少し離れている、鼻と口の間隔が短いといった関係性こそが個人差になるのです。
描く前に配置関係を把握し、それを保ったまま描き進める意識が、部分描写への暴走を防いでくれます。
描き始めは情報量を意図的に制限する

描き始めから細部を追うと、視点が局所化し、全体のバランスが見えなくなります。
そのため練習段階では、あえて情報量を制限し、目の形やまつ毛、唇の輪郭といった要素を省略することが有効です。
形を単純化することで、顔全体の傾きや配置に集中できて、結果として似ている印象を保ちやすくなれます。
顔全体に流れる方向性とリズムを先に捉える

部分描写を抑えるためには、顔全体に流れる方向性やリズムを先に捉えることが重要です。
額から鼻、顎へと続く中心の流れ、頬の膨らみが作る左右のリズムなどを意識すると、描写の優先順位が自然と全体寄りになれます。
この流れが崩れていなければ、細部を後から加えても印象が大きく崩れることはありません。
描写途中で視点を意識的に引き戻す

制作している最中に、視点が部分に偏っていないかを確認する工程も欠かせません。
一定の描写ごとに画面から視線を離し、顔全体の配置や傾きを確認することで、描き込みすぎを防げます。この確認作業を習慣化することで、部分描写による破綻は大幅に減ります。
部分描写に走ってしまう原因は、描く順序と視点の置き方にあります。パーツではなく配置関係を見ること、情報量を抑えて全体の描写を優先すること、顔の流れとリズムを先に捉えること、そして途中で視点を引き戻すこと。
「線の判断に迷いやすい方は、こちらの記事も参考になります」
線がかすれる・薄いと感じたら?鉛筆画・デッサンで印象を引き締める方法!

これらを意識することで、部分に引きずられず、似ている人物像を維持したまま描き進めることができます。
観察力を高める人物デッサンの練習:写真のどこを見るべきか

人物デッサンで顔が似ない状態が続く場合、多くの人は「もっとよく見なければならない」と考えます。
しかし、問題の多くは、見ていないことではなく、見る順序と注目点が整理されていないことにあります。写真を前にしても、視線が細部に散ってしまえば、重要な情報は拾えません。
本章では、人物デッサンに必要な観察力を高めるために、写真のどこを見るべきかを段階的に整理します。
最初に確認すべきは顔全体の傾きと中心軸

観察の第一段階で見るべきなのは、目や鼻といったパーツではなく、顔全体の傾きと中心軸です。
頭部がどの方向に傾いているのか、顔の中心線が直線なのか、わずかに傾斜しているのかを確認しましょう。
この軸の認識が曖昧なまま描き始めると、後からどれだけ修整しても、全体の印象が整いません。最初に軸を捉えることで、その後の観察が安定します。
パーツを見る前に大きな形と面構成を捉える

次に注目すべきなのは、顔を構成する大きな形のまとまりです。
額、頬、顎がどのような面構成になっているのか、どこが張り出し、どこが引っ込んでいるのかを観察します。
この段階では、目や口の形には踏み込まず、面同士の関係性に集中します。大きな形を把握しておくことで、後から細部を描き加えても比率が崩れにくくなるのです。
平均から外れた個人差を意識的に探す

観察力を高める上で重要なのが、平均的な顔との差を探す視点です。
左右の目の高さの違い、鼻筋の微妙な曲がり、口角の上がり方の差など、個人差は必ず存在します。
これらは意識しなければ見逃されやすく、結果として誰にでも似た顔になってしまいます。特徴を探す姿勢を持つことで、観察の精度は大きく向上するのです。
観察と描写を切り分ける練習

観察力が伸びにくい原因の一つに、見ながらすぐ描こうとする癖があります。観察と描写を同時に行うと判断が曖昧になり、重要な情報を取り逃してしまいます。
写真を一定時間観察し、情報を整理してから描き始めることで、見る力そのものが鍛えられます。この切り分け練習を繰り返すことで、観察の質が安定するのです。
人物デッサンにおける観察力は、見る量ではなく見る順序によって高まります。顔全体の軸を確認し、大きな形と面構成を捉え、個人差を探し、観察と描写を切り分けましょう。
この流れを意識することで、写真から得られる情報は格段に増え、顔が似る確率も確実に高まります。
顔が似ない状態から抜け出すための段階的トレーニング方法

人物デッサンで顔が似ない状態が続くと、どこを直せばよいのか分からなくなり、練習そのものが迷走しやすくなります。
この段階で重要なのは、一度にすべてを改善しようとせず、目的を明確に分けた段階的なトレーニングを行うことです。
人物の顔は情報量が多いため、順序を誤ると判断基準が曖昧になり、結果として「似ない」状態を繰り返してしまいます。
本章では、顔が似ない状態から抜け出すために有効な練習の進め方を、段階ごとに整理しましょう。
第1段階は全体比率と配置関係の安定

最初に取り組むべきなのは、目や鼻を描き込むことではなく、顔全体の比率と配置関係を安定させる練習です。
額から顎までの縦の長さ、左右の幅、目や口のおおまかな位置関係だけに注目し、細部は一切描かない意識で進めます。
この段階の目的は、正確さよりも全体の枠組みを崩さないことにあります。ここが不安定なまま次へ進むと、後の工程ですべてが狂ってしまうのです。
まずは、顔の輪郭に対して、縦横の基準線を描いて行きましょう。そして、一般的な顔の配置の広津については、次の通りです。人物デッサン当初は、なかなか似ないものです。筆者もそうでした。ご安心ください。^^


第2段階で面構成と立体意識を育てる

比率が安定してきましたら、次に取り組むのが面構成の把握です。
額、頬、顎がそれぞれどの方向を向いているのか、どの面が前に出て、どの面が奥に引っ込んでいるのかを意識します。この段階では、影の濃さではなく面の向きそのものに注目します。
顔を立体として捉える感覚が育つことで、平面的な印象による「似なさ」を解消しやすくなれるのです。
第3段階で個人差を正確に拾う

面構成が安定してきた段階で、初めて個人差に意識を向けます。
左右のズレ、目の高さの違い、鼻筋のわずかな傾きなど、平均から外れている要素を事実として拾い上げるのです。
この段階で重要なのは、特徴を強調することではなく、観察した差を正確に反映することです。個人差を自然に取り込めるようになると、顔の印象は一気に本人へ近づきます。
最終段階で描写量を慎重に増やす

最後の段階で、必要最小限の描写を少しずつ加えていきます。描き込みを増やすたびに全体を見直し、似ている印象が保たれているかを確認しましょう。
この確認を怠ると、描写量が増えた途端に印象が崩れます。描写は仕上げではなく、判断力を試す工程として扱うことが重要となります。
顔が似ない状態から抜け出すには、感覚的な練習ではなく、段階を意識したトレーニングが不可欠です。
比率、面構成、個人差、描写量という順序を守ることで、判断基準が明確になり、人物デッサンの完成度は安定します。
「練習全体が迷走していると感じた場合は、こちらも併せて読むと整理できます」
「練習全体が迷走していると感じた場合は、こちらも併せて読むと整理できます」

段階を飛ばさず積み重ねることが、「似た人物表現」への最短ルートになるのです。
練習課題(3つ)

本章では、あなたが実際に手を動かして練習できる課題を用意しました。鉛筆画やデッサンは練習しただけ上達できますので、早速試してみてください。
顔全体の比率と配置関係を安定させる練習
内容:
写真を1枚選び、目・鼻・口などの細部は一切描かず、顔全体の外形と配置関係のみを捉える練習を行います。
額から顎までの縦の長さ、左右の幅、目と口のおおまかな位置だけを確認し、シンプルな形で描写します。
目的:
顔が似なくなる最大要因である比率崩れを防ぐため、全体の枠組みを優先する判断力を養います。完成度を求めず、全体の安定感だけを評価基準にします。
ポイント:
・細部の描写禁止。
・途中で何度も全体を見直す。
・似ているかではなく「ズレていないか」を確認する。

参考画像です
面構成と立体意識を育てる観察練習
内容:
同じ写真を使い、額・頬・顎などの面構成に注目して描きます。輪郭線を追うのではなく、どの面が前に出ているか、どの面が奥に引っ込んでいるかを意識して形を整理します。
目的:
顔を平面ではなく立体として捉える感覚を身につけ、奥行き不足による「似なさ」を改善します。
ポイント:
・面の向きと関係性を優先。
・影の濃さより面の切り替わりを見る。
・描写量は最小限に抑える。

参考画像です
個人差を拾い上げる観察集中トレーニング
内容:
写真をよく観察し、左右差や傾き、平均から外れている要素を3点以上見つけてから描き始めます。描写は簡潔にし、見つけた差が反映されているかを重視します。
目的:
誰にでも似た顔になってしまう原因を取り除き、本人らしさを判断できる観察力を鍛えます。
ポイント:
・特徴を誇張しない。
・事実として正確に反映する。
・描き終えた後に「拾えた差」を確認する。

参考画像です
まとめ:顔が似ない悩みを解消するための考え方と練習の要点

人物デッサンで顔が似ないと感じる原因は、描写力そのものよりも、判断の順序と観察の軸が整理されていないことにあるのです。
目や鼻を丁寧に描こうとするほど、全体の関係性が後回しになり、結果として似ない状態が固定されてしまいます。
この記事では、顔が似なくなる要因を分解し、どこで判断を誤りやすいのかを段階的に整理してきました。まず重要なのは、顔全体の比率と配置関係を最優先に考える姿勢です。
細部を描く前に、額から顎までの縦の流れ、左右の幅、目や口の大まかな位置関係を安定させることで、似ない原因の多くを初期段階で防ぐことができます。
次に、顔を線ではなく面として捉える意識が不可欠になります。面の向きや奥行きを理解することで、平面的な印象が解消され、立体としての説得力が生まれるのです。
さらに、平均的な顔から外れた、個人差を意識的に拾い上げる視点が、人物らしさを決定づけます。左右差や傾き、わずかな歪みは欠点ではなく、本人らしさを構成する重要な情報となります。
これらを正確に反映できるようになると、顔の印象は一気に本人に近づきます。そして最後に、描写量を慎重にコントロールする判断力が求められるのです。
描き込みは、完成度を高めるための工程であり、全体の関係性を壊さない範囲で行う必要があります。
これらの考え方を支えるのが、段階的なトレーニングです。比率、面構成、個人差、描写量という順序を守ることで、判断基準が明確になり、練習が迷走しにくくなれるでしょう。
顔が似ないと感じたときには、技術を足すのではなく、どの段階で判断が崩れているのかを振り返ることが、上達への近道になります。
まとめの要点(整理)
- 顔が似ない原因は、描写力不足ではなく判断順序の乱れにある。
- 比率と配置関係を最優先し、細部は後回しにする。
- 顔は線ではなく、面の集合として捉える。
- 左右差や、傾きなどの個人差を事実として拾う。
- 描写量は段階的に増やし、全体確認を怠らない。
- 比率 → 面構成 → 個人差 → 描写量の順序を守ることが重要。
自画像の制作では、まずは落ち着ける環境を作って、ゆったりと楽しんで描いていきましょう。楽しく描くことができれば、毎日少しづつでも続けられるようになれるのです。
疲れていたり、イライラしていたりしているときには、無理して描いてはいけません。それが、自画像に限らずあらゆるジャンルの制作に通ずるコツとなります。^^
「人物デッサン全体の練習の流れを整理したい方はこちら」
初心者から中級者へ進むための鉛筆画・デッサン練習ロードマップ完全版
ではまた!あなたの未来を応援しています。




まずは描き始める前の考え方を整えることが、人物デッサン上達への確かな第一歩になるのです。