こんにちは。私は、アトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治です。

筆者近影 作品「月のあかりに濡れる夜Ⅱ」と共に
さて、「忙しくて時間がないけれど、花の鉛筆画を楽しみたい」そんな人にこそ知ってほしい、短時間で描き上げるための効率的なテクニックをまとめました。
限られた時間の中でも、しっかりと完成度のある作品に仕上げるためには、描くモチーフの選び方や範囲、線の使い方にコツがあります。
このガイドでは、初心者の人でも、無理なく取り入れられる時短テクニックを中心に、仕事や家事の合間でも楽しめる、花の鉛筆画の描き方をわかりやすく解説します。
それでは、早速見ていきましょう!
短時間でも映える!花の鉛筆画に適したモチーフ選び

第1回個展出品作品 トルコ桔梗 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
限られた時間の中で仕上げるならば、最初のモチーフ選びは重要です。選び方次第で、完成度と時短が同時に叶えられるからです。
本章では、短時間で仕上げることに適した、モチーフの選び方を解説します。
シンプルな形の花を選ぶ

チューリップの画像です
複雑な花びらが重なったものより、チューリップ、コスモス、トルコ桔梗、スズラン、マーガレット、水仙、ユリ、アサガオなど、形がわかりやすく、咲き姿が複雑ではない花を選びましょう。
単純な構造の花は、短時間でも形がとりやすく、見映えがします。
また、鉛筆画を描く際に、毎日少しづつ取組みたい人には、これらの花の「白い造花」から描き始めることがオススメです。生花は、すぐにしおれたり、枯れてしまうからです。
一輪に絞ることで描写時間を短縮
たくさんの花を描こうとすると時間がかかります。
一輪の花に絞ることで、集中して描き込むべき部分を明確にできて、完成度も上がります。

コスモスの画像です
背景を入れずに花だけを描く
背景描写は意外と時間を取ります。
まずは背景を省き、花そのものに集中する構図を選ぶのも、時短には重要です。

スズラン 2021 F1 鉛筆画 中山眞治
白い花を選んで陰影中心に仕上げる
陰影表現が主役になる白い花は、鉛筆画で立体感を出しやすく、シンプルな配色と短時間でも映えます。
短時間の制作でも完成度を得る秘訣は、モチーフ選びで8割が決まります。

白椿 2024 SM 鉛筆画 中山眞治
時間をかけずに魅せる!省略と描き込みのバランスを考える

アサガオの画像です
忙しい人ほど、「どこまで描くか」「どこを省略するか」の判断が重要です。すべてを描こうとせず、強弱のバランスを意識しましょう。
本章では、短時間で描くためのコツを紹介します。
目立つ部分を優先して描き込む
花の中心部分や特徴的な花びらは丁寧に描き、周辺は線を減らすことで視線を集めつつ時間を短縮できます。
短時間で描き上げるためには、制作対象のモチーフを「大雑把に捉える」ことが重要です。また、細かい「葉脈」や「葉のギザギザ」などは省略して描きましょう。次の作品を参照してください。

椿Ⅰ 2024 SM 鉛筆画 中山眞治
外側の花びらほど線を省略する
外側になるほど、輪郭線を柔らかく曖昧にすることで自然な印象にできるので、短時間でも奥行きが出せます。
逆に、内側になるほど、または、重なりがある場合には、その影をしっかり描き込んでいくことで、リアリティー(現実性)が増します。次の作品を参照してください。

椿Ⅱ 2024 SM 鉛筆画 中山眞治
一部をあえて「描かない」余白の美学
全部を埋める必要はありません。白く残す部分を計画的に作ることで、完成度の高い鉛筆画に見せることができます。
また、花を描く場合、仮に、一輪挿しや花瓶に活けてある情景を描く際には、「黒い下敷き(A4くらいの大きさが良い)」を購入して、下に敷いてみましょう。その反射している影までも描くと、独特の作風になります。
あるいは、水面に映り込んでいる影を描くことでも、同じような効果を得られます。その場合には、影の方へ淡いトーンを入れることで主役が引き立ちます。次の作品を参照してください。

2024 睡蓮 SM 鉛筆画 中山眞治
描きすぎを防ぐための「途中チェック」

シャクヤク 2024 SM 鉛筆画 中山眞治
5分程度ごとに、全体を見直す習慣を持つと不要な描き込みを防げて、仕上がりがまとまります。
描く範囲をしぼり、メリハリをつけることが、時短でも印象的な鉛筆画を描く秘訣です。
すべてを埋めないことで、逆に観てくださる人の想像力を刺激できて、短時間でも満足できる作品が仕上がります。
構図で時間短縮!シンプルでも印象的な花の配置テクニック

水仙の画像です
構図を工夫することで、制作時間を大きく短縮しながら、完成度の高い鉛筆画が実現できます。構図による配置の工夫は、時短の大きな武器なのです。
本章では、制作画面の中のどの位置に据えることが、「見映えのある作品になるか」を解説します。
構図を研究すべき理由

シュウメイギクの画像です
あなたが初めて鉛筆画に取り組んだ場合には、最初に取り組む5作品ほどは、構図や色々な面倒なことは一切考えないで、楽しんで制作することが極めて重要です。
その理由は、最初からいろいろなことを考えてしまうと、手が止まってしまい挫折の原因になるからです。そのようなことよりも、あなたが楽しんで鉛筆画を描くことに慣れることが重要なのです。^^
そして、あなたが5作品ほど描いて「ある程度描くことに慣れて」来られましたら、構図についても研究を始めましょう。その理由は、構図を使うことによって、作品をより見映えのする、まとまりのある作品にすることができるからです。
構図とは、先人の築き上げてきた美の構成に裏打ちされた、バランス・緊張感・力強さ・躍動感などを伝えることができる技術です。
構図は、作者とすれば「作品の魅力をより一層引き出せる技術」である反面、観てくださる人からすれば「見映えのする作品」に仕上げるための、重要なノウハウと言えます。
構図については、この記事の最終部分に関連記事「初心者でも簡単!プロが教える鉛筆画の構図の取り方やコツとポイント」を掲載していますので、関心のある人は参照してください。
画面の中央に一輪を大きく配置する
中央構図は迷いが少なく、余白を活かしやすいため短時間でまとまりやすいです。
しかし、花を大きめに描くことで描写範囲が絞れ、全体のバランスも取りやすくなりますが、逆に、印象の残りにくい作品になってしまうことも記憶しておきましょう。
次の作品を参照してください。あまり面白くないでしょう?筆者が、最初の頃に描いた作品です。^^

第1回個展出品作品 薔薇 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
あなたが、描くことに慣れてこられました、是非構図を使った制作をしてください。例えば、次のような、簡単で代表的な構図を使うことも考えてみましょう。
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この構図は、中心点から少しだけずらした位置で、まとまった制作を可能にしてくれる構図分割線です。
具体的には、画面の縦横の実寸に対して、÷1.732で得られた寸法で、画面を分割して、⑤や⑥の位置にモチーフの中心を据えてみましょう。
また、⑦をテーブルの線にするならば、テーブル上の広がった面に他のモチーフも置けますし、⑧をテーブルの線にした場合には、室内の広がりを表現できます。
※ 構図につきましては前述していますが、この記事の最終部分に構図の関連記事を掲載してありますので、参照してください。
斜め配置で動きを出す
真正面ではなく、少し斜めに傾けるだけで動きが生まれ、印象的な構図になります。
これにより背景描写も省略しやすく、時短につながります。
次の作品では、画面全体の構図を「黄金分割構図基本線」を使って、スズランの花をその位置に据えて、スズランの枝を画面右下から左上に傾けて描いています。

第2回個展出品作品 君の名は? 2000 F30 鉛筆画 中山眞治
そして、遠近法なども使いながら、主役と準主役のスズランにはしっかりとハイライトを施して、それ以外のスズランの花には、トーンを入れることで主役と準主役を引き立てています。
一部をカットした大胆なトリミングの活用をする
花全体を描くのではなく、あえて画面からはみ出すようにトリミング(切り取り)する方法も時短の一手です。
必要な描写面積が減り、密度感が高まります。先ほども掲載していますが、次の作品を参照してください。

シャクヤク 2024 F3 鉛筆画 中山眞治
この場合には、それぞれの花が別の方向を向く中で、正面の花だけが前を向いていることで、まるで花の視線すら感じませんか?
画面の中に、「全体を何が何でも収める」必要はないのです。あえて、画面からはみ出ることで、全体の広がりを表現できます。
無理矢理押し込んだ作品は、どうしても「窮屈なイメージ」になってしまうので、注意が必要です。
余白を意識した「引き算」のレイアウト
余白は単なる空白ではなく、花の存在感を引き立てる大切な要素です。
配置と余白のバランスを工夫するだけで、描く手間が減りながらも作品が引き締まります。
尚、余白部分は「抜け」としても活用できます。「抜け」とは、観てくださる人の画面上の「息苦しさ」を解消できる効果があります。次の作品の、左上の空間を確認してください。

誕生2020-Ⅰ F3 鉛筆画 中山眞治

シンプルな構図選びと余白の活用は、時短デッサンの基本です。大胆なトリミング(切り取り)や斜め配置を取り入れ、必要最低限の線と配置で印象的な作品を目指しましょう。
線の強弱とリズムでスピードアップ!花を活き活きと描く方法

マーガレットの画像です
短時間の制作でも、花の美しさを表現するためには、線そのものに「変化」をつけることが欠かせません。
線の強弱やリズム感を活かすことで、描く手数を減らしながらも活き活きとした表現が可能になります。
本章では、描線の選び方について解説します。
外側は細く、中心は太く

境内にてⅠ 2021F4 鉛筆画 中山眞治
花の中心や、手前にある部分の輪郭はやや太めに、遠い部分や外側は細めに描くと、自然な奥行きが生まれます。
この変化が、短時間の少ない線のデッサンであっても、花らしさを演出するポイントです。
一筆ごとのスピードと流れを意識する

境内にてⅡ 2021 F4 鉛筆画 中山眞治
ゆっくり丁寧に描くところと、サッと勢いよく描くところを使い分けましょう。
リズミカルな線は、時間短縮だけでなく作品に動きを与えてくれます。
線を重ねすぎず、必要な箇所だけ重ねる

境内にてⅢ 2021 F4 鉛筆画 中山眞治
全体に均一に線を重ねるのではなく、強調したい部分だけに重ね描きをすることで、短時間の制作でも視線を集められる表現ができます。
尚、この重ね描きの際には、「ハッチング(一定方向からの線の重ね描き)」と「クロスハッチング(4方向からの線による重ね描き)」があります。
このクロスハッチングでは、淡いところは淡いなりに、濃いところにはしっかりとトーンを乗せていくのに効果的な手法です。是非試してみましょう。
その際に、描きにくい方向からの線は、スケッチブックや紙を90°回転させれば問題なく描けます。
曲線の変化でやわらかさを出す

路傍の花 2021 F6 鉛筆画 中山眞治
花びらのカーブを単調な弧ではなく、少し揺らぎを持たせたラインで表現すると、活き活きとした印象になります。柔らかさの表現にもなり、速描きでも質感が引き立ちます。
線の強弱とリズムを意識することで、無駄な描写を減らしながら、魅力的な表現が可能です。
一筆一筆を丁寧に考え、スピードと表現力の両立を目指しましょう。
短時間で仕上げるための実践スケジュールと描く手順のコツ

限られた時間内で満足のいく鉛筆画を完成させるためには、あらかじめ描く手順とスケジュールを決めておくことが大切です。
計画的に進めることで無駄な迷いが減り、効率的に仕上げられます。
本章では、制作を計画的に進めていくうえでのスケジュールを提案します。
最初の5分で構図を決める

寒椿 2024 F3 鉛筆画 中山眞治
描き始める前に、構図をラフデッサンする時間を5分以内に設定しましょう。迷いが減ることで、その後の描写がスムーズになります。
その際のコツは、リラックスした状態で、イスに足を組まずに深く座り、Bや2Bの鉛筆を人指し指・中指・親指で優しくつまむように持ち軽いタッチで、肩と腕を使うイメージで描き進みましょう。
輪郭のデッサンは10分以内に終わらせる

グロリオーサ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
鉛筆画における、デッサンの基本は輪郭線ですが、ここに時間をかけすぎると全体のバランスが崩れがちになります。10分以内を目安に、サッと形を捉えましょう。
そして、この場合には、描いては消し・描いては消しと進めるのではなくて、複数の線を描いていく内に、「この線だ」と思える線に出会えますので、そんな調子で全体の輪郭線を複数入れていきましょう。
その後は、「練り消しゴム」を練って、不要な線を整理する方法が良いです。また、整理できた線をなぞる際には、それまで使っていた鉛筆よりも2段階明るい鉛筆で、優しく軽く描きましょう。
重点描写部分を決め、15〜20分で仕上げる

第2回個展出品作品 トルコ桔梗 1996 F6 鉛筆画 中山眞治
短時間で仕上げるためには、「どこを詳細に描き込むか」を明確にして、その部分に集中して描き込みます。
時間をかける場所と、省略する場所を分けることで、時間配分がうまくいきます。
最後の5分で全体チェックと仕上げ

第2回個展出品作品 君の名は? F30 鉛筆画 中山眞治
仕上げの時間をしっかり確保することが、作品の完成度を高める秘訣です。不要な線を整理したり、必要なコントラスト(明暗差)を加えたりして、全体を整えましょう。
スケジュールを立てて、各工程にかける時間を意識することが、短時間による鉛筆画制作のカギです。
時短で上達する重要な習慣作りとは?

チューリップの画像です
あなたが、たとえ短時間でも「毎日取り組める時間を作る」ことができれば、必ず上達できます。
鉛筆画を描くという動作は、目で観て、脳が判断して、腕を動かすという一連の動作であり、これはまさしく「脳トレ」です。日々少しづつでも取り組むことで、進化できることを約束します。
ただし、1週間に1度くらいはたっぷりと時間をかけて、それまで時短で取り組んできた作品に、さらにリアリティー(現実性)を吹き込むように、時間を使ってはいかがでしょうか。

限られた時間内でも完成度を保つためには、「迷わず決める」「描き込みすぎない」「最後に必ずチェック」の3点がポイントです。
練習課題

本章では、課題テーマとして、「忙しい日でも15分で仕上げる花の鉛筆画」について、あなたがすぐに実践できる内容として、以下の練習課題を提案します。
練習課題1:一輪の花を3パターンのラフな構図で制作

第2回個展出品作品 一輪挿しと花 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
- 制限時間:1パターンに付き5分。
- 内容:花の配置を、中央・斜め・トリミングの3パターンでざっくりと練習。
- ポイント:迷わず短時間で構図を決める。
練習課題2:10分で輪郭線だけを描く「スピード輪郭練習」

クレマチスの画像です
- 制限時間:10分。
- 内容:モチーフはチューリップまたはアサガオ(簡単な形の花)。
- ポイント:花びらの枚数をすべて描こうとせず、形の流れを意識する。
練習課題3:省略と描き込みのメリハリを練習

第2回個展出品作品 コスモス 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
- 制限時間:15分。
- 内容:中心部分をしっかり描き、外側を省略した線で練習。
- ポイント:描き込みすぎを防ぎ、強調すべき箇所を意識する。
練習課題4:線に強弱とリズムを加える練習

ポインセチアの画像です
- 制限時間:10分。
- 内容:一筆ごとに線の太さ・速度・方向を変えて花びらを描く練習。
- ポイント:リズムを感じる線を目指す。
何を練習したらよいか分からない場合には、是非試してみてください。
【まとめ】忙しい人でも楽しめる!花の鉛筆デッサン時短テクニックのポイント

ユリの画像です
忙しい毎日でも、少しの時間で花の鉛筆画を楽しみたい…。そんな人に向けて、短時間で作品を仕上げるための工夫をお伝えしてきました。
限られた時間内で描くからこそ、大切なのはモチーフ選び、構図、線の使い方、そして描く工程の順番をしっかりと考えることです。
描きすぎずに、省略と描写のバランスを保つことが、効率よく仕上げるための秘訣になります。また、描く前に計画を立て、各ステップごとに時間を決めておくことで、無駄な迷いを減らすことができます。
この方法であれば、忙しい合間でも楽しく続けられ、確実に上達を感じられるでしょう。
時短鉛筆画を成功させる5つのポイント
- シンプルな花、一輪構成、背景省略でモチーフ選びを工夫する。
- 描き込む場所と省略する場所を決め、メリハリをつける。
- 構図は大胆にシンプルに、余白を活かした配置を意識する。
- 線の強弱とリズムを使い分け、短時間でも表現力を高める。
- 描く手順と時間配分をあらかじめ決め、途中で迷わないようにする。
無理なく取り組める時間帯に、少しずつでも描く習慣を持つことが、忙しい人にとっての最大の上達法です。
ぜひ、今回紹介した時短テクニックを取り入れて、毎日の中に楽しい鉛筆画の制作時間を作ってみてください。
ではまた!あなたの未来を応援しています。
シンプルな花・一輪構成・背景省略・陰影重視。この4点を押さえることで、時間がない人でも、納得のいく作品に仕上げられます。