こんにちは。私は、アトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治です。
筆者近影 作品「月のあかりに濡れる夜Ⅳ」と共に
さて、鉛筆画の魅力は、線だけでなく濃淡の繊細な表現にもあります。
とくに、鉛筆画中級者になると、単に「暗く塗る」「薄く描く」といった段階から一歩進み、グラデーション（階調）の細密なコントロールが求められます。
この記事では、鉛筆だけでできる濃淡の描き方に焦点を当て、トーンの幅を自在に操るための具体的な練習メニューをご紹介します。
濃さの調整が難しい、グラデーション（階調）が均一にならないといった悩みを抱える方に向けて、描写力を鍛えるステップを段階的に解説していきます。
それでは、早速見ていきましょう！
トーンコントロールとは？濃淡の基本を再確認しよう
葡萄 2019 F3 鉛筆画 中山眞治
鉛筆画における濃淡の表現は、単なる明暗の使い分けではありません。
グラデーション（階調）や調子（※）、そしてスケッチブックや紙面全体のバランスを意識した「トーンコントロール」という考え方が重要になります。
本章では、鉛筆画中級者の人が技術を磨くうえで、まずはこの基本をしっかりと再確認しておくことが欠かせない点について解説します。
※ 調子とは、光と影によってできる明暗の変化や、鉛筆で描いたグレーの濃淡、明暗などのグラデーション（階調）の状態や様子を指します。
トーンとは何か？
林檎 2019 F3 鉛筆画 中山眞治
トーンとは、鉛筆によって描かれる明るさから暗さまでのグラデーション（階調）のことで、立体感や空間感、質感を表現するための基盤となる要素です。
輪郭線を描かずとも、モチーフの背景にトーンを配置するだけでも、モチーフを描写できるのが鉛筆画の魅力です。
単に黒く塗る、白く残すという作業ではなく、滑らかなグラデーションやトーンの変化を意識することで、作品の表現力は格段に高まります。
鉛筆画中級者が陥りやすいトーンの偏り
誕生前夜 2019 F3 鉛筆画 中山眞治
描写力がある程度ついてくると、自身の得意な描き方に偏りが出てくることがあります。
たとえば、陰影が強すぎて全体が黒っぽくなったり、逆に薄すぎて立体感が不足したりする場合です。
鉛筆画中級者の人は、このようなトーンの偏りに無自覚なまま描いてしまうことが少なくありません。
自身の作品をスマートフォンで撮影して確認するなど、客観的にグラデーションバランスを観る習慣をつけると効果的です。
グラデーションと濃淡の違いを理解する
水滴Ⅵ 2019 F3 鉛筆画 中山眞治
「濃淡」とは主に2段階の強弱を意味しますが、「階調」はその間を滑らかに連続させる要素です。
グラデーション（階調）を、滑らかに描くことができるかどうかで、モチーフの質感表現や空間の奥行きが変わってきます。
10段階程度のトーン表を制作して練習することで、階調を意識的に使い分ける力が養われます。
トーンのコントロールができるということは、スケッチブックや紙上で光を自在に操作できるということでもあります。
筆圧とストローク（鉛筆の動かし方）を見直す
邂逅Ⅰ 2019 f3 鉛筆画 中山眞治
トーンの幅は、鉛筆の種類よりも筆圧とスピードの違いに大きく依存します。
ゆっくり強く描くと濃く、軽く速く描くと薄くなりますが、筆圧を高め過ぎるとスケッチブックや紙の表面がつぶれてしまうため、調子が重たくなりすぎることもあります。
筆圧のコントロールは、トーンの練習の基本です。鉛筆で、5段階以上の濃淡を滑らかにつなげられるように練習することが、適切なグラデーション（階調）表現への第一歩です。
トーンコントロールは、鉛筆画の中核となる技術です。単に白と黒を描き分けるのではなく、階調の滑らかな移行を意識することで、より自然で説得力のある表現が可能になります。
グラデーションを滑らかにつなぐ練習法
邂逅Ⅱ 2019 F3 鉛筆画 中山眞治
滑らかなグラデーション（階調）の描写は、鉛筆画において立体感や空気感を伝えるために欠かせません。
本章では、鉛筆画中級者になると、意識的に階調をコントロールする力が求められる点について解説します。
グラデーションの基本構造を理解する
月夜の帰り道 2019 F3 鉛筆画 中山眞治
グラデーション（階調）は、明から暗へ、あるいはその逆へと連続する階調の流れです。
鉛筆で描く場合、筆圧とストローク（※）の均一性がその成否を左右します。均等に変化するグラデーションは、目に心地よいだけでなく、物体の滑らかな曲面や照明の変化を自然に伝えられます。
最も基本的な練習方法は、四角い帯の左から右へトーンを変化させるものです。この単純な反復練習こそが、トーンコントロール力を支える土台にもなります。
※ ストロークとは、鉛筆を画面上で動かす際の筆跡や動きのことです。特に、大きく腕を振るような、運動感のある鉛筆の動きやその跡を指します。
意図的なトーンの段階差を作って描く方法
予期せぬ訪問者 2019 F3 鉛筆画 中山眞治
滑らかなグラデーション（階調）だけではなく、意図的に段階的な濃淡の差を、表現できるようになることも重要です。
たとえば、3段階または5段階に分けたトーンマップを作り、各階層の境目が明確に観えるように描いてみましょう。
これにより、必要な濃淡幅を瞬時に判断し、描き分ける力が育ちます。とくに、背景の調子（※）とモチーフとの対比をコントロールしたいときに、この練習が役立ちます。
※ 調子とは、光と影による明暗の変化や、鉛筆で描いたグレーの濃淡、グラデーションの状態を指します。
均質な描写のためのストローク管理
水滴Ⅶ 2019 F3 鉛筆画 中山眞治
グラデーション（階調）の成否は、鉛筆（腕）の動かし方に大きく左右されます。
円を描くように動かす回転法や、斜め方向に一定のリズムで描くハッチング法など、複数の描法を使い分けることで、滑らかでブレのないトーンが生まれます。
力を一定に保つだけでなく、鉛筆の傾け方や持ち方を調整しながら、スケッチブックや紙の目（紙肌の凹凸）を活かす工夫も必要です。
滑らかなグラデーションは、作品の完成度を一段と高める要素です。濃淡の幅を理解するだけでなく、描写技術として適切に再現できることが、鉛筆画中級者の人には求められます。
反復練習と観察眼の両面からトーンを捉えることで、描写の幅が広がります。
光と影を意識したトーンの設計
誕生2020-Ⅰ F3 鉛筆画 中山眞治
鉛筆画でリアリティーを高めるには、ただ濃淡を付けるだけでなく、光と影の関係性を意識したトーン設計が必要です。
本章では、光と影の扱い方を掘り下げていきます。
ハイライトは描かずに残す
入り江の夜明け 2019 F3 鉛筆画 中山眞治
鉛筆画では、光として見せたい部分は消すのではなく「塗らない」ことで表現します。
これがハイライトの基本です。とくに、スケッチブックや紙の白をそのまま残す位置を最初から決めておくことで、塗り残しや調子の濁りを防げます。
光の当たる方向と、面の角度を考慮しながら、ハイライトの位置を計画的に配置していきます。
一方で、簡単な描き方として、あなたが描こうとしているモチーフの輪郭が出来上がりましたら、HB等の鉛筆を軽く持ち、優しく軽いタッチで輪郭線内を縦横斜めの4方向からの線で埋めましょう。
そして、練り消しゴムを練って、先端を鋭いプラスのドライバーやマイナスのドライバーのような形状にして、実物のモチーフの光っている部分を、制作画面上で拭き取りましょう。
その後は、それぞれに必要となるトーンを施せば完成へと向かうことができます。筆者の場合には、この描き方で、静物（花・石膏モチーフ・空きびん・空き缶）及び人や動物の毛並などもこの手法で描いています。
この手法の良いところは、描きやすくて簡単なことです。是非試してみてください。^^
影をグラデーションで描く
春の気配 2024 F3 鉛筆画 中山眞治
モチーフの影とは単なる暗さではなく、形を説明するトーンの変化です。
真っ黒に塗りつぶすのではなく、最も濃い部分から中間調へ滑らかにつなげることで、柔らかく自然な陰影が得られます。
また、影の部分には、モチーフの輪郭や背景との境界が埋もれやすいため、境目のトーン差を意識することが求められます。次の画像を参照してください。
球体などを使って練習できると、トーンの使い方のコツが良く理解できるはずです。その応用として、人の顔などへのトーンの入れ方も分かってきます。
尚、モチーフの下部に、床面からの反射で「わずかな反射」が映り込んでいるような表現は必須です。リアリティーを高めるうえでは、重要な表現要素だからです。
トーンの設計で立体感を検証する方法
寒椿 2024 F3 鉛筆画 中山眞治
完成後の作品を、少し離れたところからや斜めから観て、トーンの配置が視覚的に立体として成立しているか確認しましょう。
そして、スマートフォンで撮影し確認すると、光の状態が客観的に観えてきます。また、鏡を使って反転させて確認する方法もあります。
光と影のバランスが取れているかを常に意識することで、作品全体の印象が整います。
光と影を的確に配置することは、作品の説得力に直結します。的確に光源の位置を確認し、トーンの計画性をもって描くことが、リアリティーと深みを生み出すポイントです。
トーンで質感を表現する描き分け技法
シャクヤク 2024 F3 鉛筆画 中山眞治
鉛筆画で、モチーフの質感をリアルに描くためには、単なる濃淡の違いだけでなく、トーンの使い方によって、「硬い」「柔らかい」「ざらざら」などを伝える技術が求められます。
本章では、質感の出し方について解説します。
硬質な質感の表現法
金属やガラスのような硬い質感を描くには、はっきりとしたコントラスト（明暗差）とエッジの強調が効果的です。
光と影の差を大きくし、急激なグラデーション（階調）の変化を意識して描くことで、硬さや冷たさが伝わります。次の画像を参照してください。
第２回個展出品作品 モアイのある静物 2000 F50 鉛筆画 中山眞治
線を立て気味に使い、ストローク（鉛筆の動かし方）の方向も整理して、整った印象にすることが重要です。
柔らかい質感の表現法
誕生2020-Ⅰ 2021 F4 鉛筆画 中山眞治
布や肌などの柔らかい質感は、グラデーション（階調）を滑らかに保ちつつ、境界をあいまいにすることがポイントです。
鉛筆の芯の側面を使って塗る技法や、縦横斜めの４通りの線（クロスハッチング）を使って軽く重ねていく方法などが効果的です。
筆圧を高めるのではなく、塗り重ねる回数によって濃さを調整することで、ふんわりとした印象が得られます。
表面のざらつきを描く技法
誕生2020-Ⅱ F4 鉛筆画 中山眞治
木材や石、土などのざらついた素材は、スケッチブックや紙の目（紙肌の凹凸）を活かして描写するのが基本です。
鉛筆を寝かせて細かいストロークを重ねると、ランダムな粒子感が生まれます。必要に応じて練り消しゴムを練り、先端部分を鋭い形状にして表面を抜くことも効果的です。
部分的な濃淡の変化で、素材感を強調することができます。質感の描き方は、次の画像を参照してください。
出典画像：東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明 氏
出典画像：東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 石原崇 氏
トーンは明暗を描くだけでなく、質感を伝える手段でもあります。モチーフごとの表情を見極めて、トーンの設計と描き分けに意識を向けることで、作品の説得力が格段に向上します。
作品全体のバランスを整える濃淡の配置法
第3回個展出品作品 誕生2020 F4 鉛筆画 中山眞治
鉛筆画において、濃淡の適切なコントロールができても、画面全体の調子が整わなければ完成度は上がりません。
本章では、構図全体の濃淡の配置に注目して解説します。
重心を考えたトーンの配分
水滴Ⅷ 2020 F4 鉛筆画 中山眞治
画面の下部に濃いトーンを配置すると、安定感のある印象になります。
一方で、上部に重たいトーンが集中すると、不安定な印象を与える場合があります。
観てくださる人の視線の動きを意識して、明暗の重みを適切に配分することが必要です。また、画面中央が白く空くことで、視線を集めやすくもなります。
リズム感のあるトーンの配置
水滴Ⅸ 2020 F4 鉛筆画 中山眞治
全体を均等に塗りつぶすのではなく、濃淡の対比を使って「間」を作ることが、観てくださる人に心地よいリズムを与えます。
例えば、左下に濃い影を配置した場合は、右上に「抜け」を作ることで視線が巡るように構成できます。
描き込む箇所と、抜く箇所をバランスよく配置する判断力が必要です。
尚、次の作品では、画面左下の角から、画面右上の角までを結ぶ斜線を使って、観てくださる人の視線を導いています。
国画会展 入選作品 誕生2001-Ⅰ F80 鉛筆画 中山眞治
画面左下角には、この画像ではよく観えていませんが、今まさに地面を割って出てくる植物の芽があり、順を追って準主役から主役へ成長の「リズム」を刻んで、主役の背後には死の象徴である「枯葉」を配置しています。
そして、画面上の「タバコの吸い殻」も手伝って、観てくださる人の視線を画面右上の角へ導き、丸い地平線は大地の広がりを表しています。そうです。地平線はマクロ視点では「曲線」だからです。^^
※ 「抜け」とは、画面上に外部へつながる部分（窓など）があると、観てくださる人の画面上の息苦しさを解消できる効果があります。
最後に全体を俯瞰する視点
旅立ちの詩Ⅰ 2020 F4 鉛筆画 中山眞治
完成に近づいた段階では、少し離れた場所から全体を見直すことは重要です。
部分的な描き込みに気を取られがちですが、全体のトーンのバランスが崩れていないかを客観的に確認しましょう。
鏡に映して反転した画像を確認する、スマートフォンで写真を撮るなど、視点を変える方法は効果的です。
濃淡の配置は、作品の印象を左右します。描写力を活かしながら、画面全体を通じて、調和の取れたトーンの構成を作ることが、鉛筆画中級者の人に求められる視点です。
練習課題（3個）
あのね…。 2020 F4 鉛筆画 中山眞治
本章では、あなたが実際に手を動かして練習できる課題を用意しました。是非、取り組んでみてください。鉛筆画は、練習すればするほど、確実に画力を高められるからです。
課題①：10段階トーンスケールを滑らかにつなげて描く
目的：グラデーション（階調）の段階を確認することと、滑らかなグラデーションを視覚的・感覚的に習得する。
内容：縦または横に長い矩形（幅約15cm）を用意し、左端から右端まで10段階のグラデーションを等間隔に描く。各段階の境目を意識しつつ、つなぎ目が目立たないよう滑らかに移行させる。
ポイント：濃い・薄いではなく「間」を描く意識で進める。
- 鉛筆の持ち方や角度、圧力の微調整を確認しながら描く。
- 最終的にすべての段階がなめらかに連続しているかを目視で確認する。
課題②：白い球体と立方体を光源を意識して描き分ける
目的：光と影の設計、立体モチーフへの濃淡の施し方を身につける。
内容：球体と立方体を横並びで描き、左上から光が当たる設定でそれぞれに濃淡を加える。球体は滑らかな階調、立方体は平面的なトーン分割を意識する。
ポイント：ハイライト部分は最初から塗らずに残しておく。
- 球体ではトーンを回転軸に沿って変化させる（丸いモチーフには曲線でトーンを入れていく）。球体がない場合には、「白い卵」でも代用できる。
- 立方体では面ごとに明・中・暗を明確に区切る。何かの小さな空き箱でも代用できる。
課題③：異なる質感の3素材を一つの静物画で描く
目的：トーンによる質感の描き分けと、濃淡バランスの統一感を養う。
内容：モチーフとして「金属スプーン」「ガラスの瓶」「布（ハンカチなど）」を組み合わせて1枚の静物画にまとめる。全体の構図を整えたうえで、それぞれの質感に応じたトーン処理を施す。
ポイント：金属には強いコントラスト（明暗差）とエッジ（縁）の効いた反射を。
- ガラスには透明感と背景の映り込みを。
- 布には柔らかいトーンと丸みを意識して描写する。
- 全体の調子が均一にならないように、緩急を意識する。
まとめ：濃淡の描写力を高めて鉛筆画の表現力を一段と引き上げよう
第１回個展出品作品 静物Ⅰ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
鉛筆画中級者の人が次のステップへ進むためには、「濃淡」のコントロール力が不可欠です。
トーンの理解とグラデーション（階調）の描き分け、そして素材や空間に応じた濃淡の配置と設計を習得することで、作品の完成度は格段に上がるでしょう。
この記事で紹介しました内容を通じて、単に描写技術を磨くだけでなく、見せ方と構成力も同時に養っていくことが可能になります。
以下に、特に意識すべき要点を整理しておきます。
- トーンとは単なる濃淡ではなく、明から暗までの連続的なグラデーション（階調）であり、空間や質感を表現する基礎である。
- 滑らかなグラデーションは、筆圧・角度・ストロークの工夫によって描き分けることができる。
- グラデーショントレーニングでは、10段階のトーンスケールや段階的な明暗差の描写が有効である。
- ハイライトは「塗らずに残す」、シャドウは「極端に塗りつぶさず、階調で構成する」という意識が重要。あるいは、一旦面を柔らかいトーンで埋めてから、練り消しゴムで「光を描く」手法はオススメ。
- 金属・ガラス・布などの異なる素材は、トーンとストロークの質を変えて描き分ける必要がある。
- 細部に集中しすぎず、画面全体の調子と、視線の動きを考慮したバランス配置が求められる。
- 描いた後は、写真撮影や鏡を使った反転など客観的な視点で確認し、濃淡の偏りをチェックする習慣をつける。
- 描き込みと余白、濃い部分と薄い部分の対比を意識して、視覚的リズムと深みを演出する。
- 練習課題として、トーンスケール、基本形体の光と影の描き分け、異素材の静物表現などを反復することが効果的。
- 観る力を養いながら描くことで、濃淡の設計力が自然と向上し、作品の説得力が増す。
濃淡の扱いは、鉛筆画における最も根源的でありながら最も奥深い技術です。
鉛筆画中級者の人にとって、ここを徹底的に強化することが、表現の幅を広げ、観てくださる人を惹きつける作品へと導くカギになります。
基礎から丁寧に見直し、描く力と構成力の両面から高みを目指していきましょう。
ではまた！あなたの未来を応援しています。
描く技術と観る技術の両方を育むことが、鉛筆画中級者の人のさらなる飛躍につながります。