こんにちは。私は、アトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治です。

筆者近影 作品「静物2025-Ⅲ」と共に
さて、静物の鉛筆画やデッサンは、複数のモチーフを組み合わせることで、画面に深みと物語性を生み出せる、鉛筆画やデッサンの中でも奥の深いジャンルです。
しかし、複合構図になると、「配置が難しい」「まとまりが出ない」と悩む人も少なくありません。
そこで、この記事では、鉛筆画やデッサン初心者の人から中級者の人までが、確実にレベルアップできるように、静物を複合構図で描くための考え方と、実践手順を体系的にまとめました。
モチーフ選びやレイアウトのコツ、視線誘導、強弱のつけ方など、作品をより魅力的にするためのポイントを分かりやすくご紹介します。
静物の鉛筆画やデッサンで、ワンランク上の画面づくりを目指している人は、ぜひ参考にしてください。
それでは、早速見ていきましょう!
複合静物の鉛筆画やデッサンの魅力と初心者がつまずきやすいポイント

第2回個展出品作品 ランプのある静物 2000 F50 鉛筆画 中山眞治
複数のモチーフを組み合わせた、静物の鉛筆画やデッサンは、単体モチーフでは得られない奥行きや物語性を表現できる魅力があります。
しかし、その一方で、鉛筆画やデッサン初心者の人から中級者の人の多くが「配置が難しい」「何を主役にすればいいか分からない」と、つまずきやすい分野でもあるのです。
本章では、複合静物の魅力と、制作の最初の段階で理解しておきたい重要な課題を整理していきます。
複数のモチーフが生む深みと作品の世界観
複数の静物を組み合わせる利点は、画面に複層的な奥行きと視線の動きを生み出せる点にあるのです。
主役のモチーフが持つ存在感を中心に、準主役や脇役を適切に配置することで、作品全体の世界観が成立します。
静物それぞれの、形・質感・明暗の違いが互いに補完し合い、単独では得られない臨場感が生まれるのです。この関係性が複合静物の最大の魅力と言えるでしょう。次の作品を参照してください。

蕨市教育委員会教育長賞 灯(あかり)の点(とも)る静物 F30 鉛筆画 中山眞治
初心者の人がよく陥る「全部主役にしてしまう勘違い」

誕生2020-Ⅱ F4 鉛筆画 中山眞治
複合構図で最もよく起こる失敗は、複数のモチーフを全て同じ強さで描いてしまうことにあります。
全体を均一に仕上げてしまうと、画面が平坦になり、主役がどれか分からなくなります。複合静物では、主役・準主役・脇役の優先順位を早い段階で決めておくことが不可欠です。
描く順番、描き込み量の差、明暗の強弱など、画面全体の序列を意図的に作ることで、作品にまとまりが生まれます。
当然、主役が一番引き立つように、次いで準主役が目立つように、脇役は簡略化して描くことで、主役や準主役を強調できます。
あなたが5作品以上描いて、ある程度慣れてこられたことを前提にすれば、あなたが制作する画面上には、構図(※)に基づいた構成をしながら、主役や準主役には細密描写を施しましょう。
そして、主役や準主役以外のモチーフには、仮に「細かい模様や柄」があっても、簡略化して描きましょう。そうすることによって主役や準主役を引き立てられます。
あるいは、全体に細かい描写を施したい場合では、主役や準主役にはしっかりと「ハイライト」を施し、それ以外のモチーフには、「ハイライトを抑えた」描写をすることで、主役や準主役が引き立つのです。
このように、見えるがまま、あるがままに描くのではなくて、構図上の交点などに主役を据えて、前述のような配慮を意図して構成することで、「見映えの良い作品」になることを記憶しておきましょう。^^
※ 構図については、この記事の最終部分に関連記事を掲載してありますので、関心のある人は参照してください。
配置のバランスが取りにくい理由とその根本

水滴Ⅶ 2020 F4 鉛筆画 中山眞治
複数のモチーフを並べると、上下左右の重心が不安定になりやすく、配置の印象が散漫になる場合もあるでしょう。
この原因は、「どの線を基準にして置くか」が、曖昧なまま描き始めてしまうことにあります。 3角形構図、対角線構図、3分割、黄金比など、画面を支える構図分割基本線を使うことで、複合静物は一気に安定します。
つまり、配置の難しさは才能ではなく、「構図分割基本線」を知らないだけで生まれる問題なのです。前述していますが、この件はこの記事の最終部分にある、関連記事を参照してください。
複数のモチーフだからこそ必要な視線誘導の考え方

水滴Ⅸ 2020 F4 鉛筆画 中山眞治
複合の静物で重要になるのが、「視線の動き」です。複数の形が並ぶと、視線が画面上で迷いやすく、落ち着かない印象になる場合があります。
そこで、主役の方向へ視線を導くために、斜線、3角形の頂点、抜けの空間、トーンの強弱などを巧みに使いましょう。
視線の出口や入口を意識することで、複雑な構成でも観てくださる人を自然に導ける画面へと変えていけます。
複合静物の鉛筆画やデッサンは、複数のモチーフによる関係性や物語性を生かせる魅力的なジャンルですが、初心者の人や中級者の人がつまずきやすい要素も多く含んでいるのです。
とくに、主役の設定が曖昧なまま描き始めること、画面全体にメリハリのない描き込み量の均一化、構図分割基本線の欠落などが典型的な失敗と言えます。
しかし、視線誘導や構図の基礎を理解すれば、複数のモチーフでも安定した画面を作ることは充分可能なのです。
主役・準主役・脇役をどう組み合わせるか:静物配置の基本原則
複合静物の鉛筆画やデッサンでは、複数のモチーフを画面に配置する際に、どれを主役にして、どれを準主役や脇役として扱うかを最初に決めることが、画面づくりの中核になります。
この序列が曖昧なままな場合には、複合する構図は途端に散漫となり、描き込みの方向性も定まらないため、鉛筆画やデッサン初心者の人から中級者の人が、特に悩みやすいポイントではないでしょうか。
次の作品の主役は、黄金分割の縦横の交点にランプの炎を据えて、準主役はカップ&ソーサーと胡桃です。この3つのモチーフで「(ランプのホヤの先端を頂点とする)3角形の構図」を構成し、画面左の石膏像は脇役なのです。^^

第2回個展出品作品 ランプの点(とも)る静物 2000 F30 鉛筆画 中山眞治
本章では、静物の役割分担をどのように考えるか、その基本原則を整理していきます。
主役とは「最も注目を集める存在」
主役に据えるモチーフとは、形の魅力や質感だけでなく、視線が自然に集中する位置に置かれる必要があります。
画面中央から外しつつも、構図分割線の交点に据える、あるいは周囲よりもトーンを明確にして存在感を出すなど、主役には視線の集まる要素を複数持たせることが大切です。
次の作品では、画面の縦横の√2分割(※)の交点(I)に主役を据えていますが、複合静物の場合には、主役の存在感が弱いと画面全体がぼやけてしまい、他のモチーフとの関係性も曖昧になってしまいます。

旅立ちの詩Ⅰ 2020 F4 鉛筆画 中山眞治
※ √2分割とは、制作画面の縦横の寸法に対して、÷1.414で得られた値で分割するということです。次の画像を参照してください。Iの位置に主役のモチーフがありますよね。地平線の分割線も√2です。^^
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準主役の役割は主役を引き立てながら画面の安定を作ること

あのね…。 2020 F4 鉛筆画 中山眞治
準主役に位置づけるモチーフは、主役を補助しつつ、画面の広がりや奥行きを形成します。
たとえば、主役が丸い形であれば、準主役には縦長や四角い形を置くことで形の対比が効果を生みだせることもあるのです。
また、準主役は主役と競り合わないように、描き込みの量及びトーンの強さやハイライトを調整し、主役の存在感が際立つようにまとめると、複合構図全体のバランスが整います。
脇役が作る「動き」と「リズム」
脇役に相当するモチーフは、画面の隅や空間部分に配置されることが多く、視線の動きを繋げる役割を持っています。
たとえば、画面奥のビン、テーブル端の小物、背景の影などが脇役として働きます。これらは主役の邪魔をしない配置が前提ですが、形の繰り返しや小さな明暗差を活かすことで、画面全体にリズムをつくれるのです。
脇役が適切に効果を発揮することで、視線は自然に主役へ誘導され、複合構図のまとまりが生まれます。次の作品を参照してください。

第3回個展出品作品 暮らし 2021 F6 鉛筆画 中山眞治
この作品では、√3分割構図基本線(※)を中心として、2本の歯ブラシの入ったカップを配置していますが、「新婚の男女」に見えませんか?この作品の背後の窓も、√3分割構図基本線を使っています。^^
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※ √3分割とは、画面縦横の寸法に対して、÷1.732で得られた寸法で分割するということです。
役割分担は描く前に決める:序盤の整理が完成度を左右する

第3回個展出品作品 旅立ちの詩Ⅱ 2021 F4 鉛筆画 中山眞治
主役・準主役・脇役の序列は、描き始めてから調整しようとすると、まとまりがつかなくなることがあります。そのため、エスキース(※)段階で序列を必ず決めておくことが重要です。
とくに、準主役と脇役の扱いは、鉛筆画やデッサン初心者の人が混同しやすい部分です。準主役はあくまで主役の補助役であり、脇役は視線のつながりを作る潤滑剤となります。
この役割の違いを明確に理解しておくことで、複数モチーフを扱う際の混乱が大幅に減少するでしょう。
複合静物デッサンでは、主役・準主役・脇役の序列が明確になっているかどうかが、画面の完成度を左右する最重要ポイントになります。
主役には、視線が集まる強い要素(構図分割線の交点に配置するなど)を持たせ、準主役は画面の広がりを支えつつ主役を引き立て、脇役は視線の流れとリズムを作るのです。
次の作品を参照してください。この作品の主役は、画面中央右側の植物の芽です。その左下が、準主役の植物の芽ですが、画面左下から画面右上を結ぶ対角線上に展開しており、観て」くださる人の目を導線上で主役へと導いています。

国画会展 入選作品 誕生2001-Ⅰ F80 鉛筆画 中山眞治
この序列を描き始める前に決めておくことで、複数のモチーフを扱う際の迷いや破綻を防ぐことができるのです。
今の作品のモチーフについている、「水滴」も辿ってみてください。確実に対角線を使っていることが理解できるでしょう。^^
因みに、画面左上からの対角線は、画面左上の草の先端→枯葉の虫食い→主役の地面のすぐ上の水滴→タバコの折れ曲がり→画面右下の地面へと続いているのです。くどいって言われましたけどね。^^
※ エスキースとは、下絵のことです。この件につきましては、この先の章で解説します。
複合する構図に挑戦するときは、まず「役割分担の整理」からスタートすることで、作品全体のまとまりが生まれ、静物の鉛筆画やデッサンの質が一段と高まるでしょう。
複合する構図を安定させるレイアウトテクニック:3角形・対角線・抜けの活用

複数の静物を組み合わせる複合構図では、どのモチーフも互いに影響を及ぼし合うため、安定したレイアウトを作ることが難しくなりがちになります。
そこで役立つのが、3角形構図や対角線構図、そして画面の奥行きを生み出す抜けといった画面構成の基礎概念です。
これらを理解して取り入れることで、複雑に見える複合の静物でも画面全体が整い、視線の動きも自然に導かれるようになります。
本章では、それぞれの効果と使い方を分かりやすく整理しましょう。
3角形構図で主役を安定させるレイアウト
複合静物の鉛筆画やデッサンで、最も扱いやすいのは3角形構図です。3角の頂点に主役を置き、左右の頂点に準主役や脇役を配置すると、画面に安定感が生まれるのです。
とくに、鉛筆画やデッサンでは、明暗の対比が強いほど3角形の効果が引き立ち、主役に視線を集めやすくなれます。
また、3角形の傾きを少し変えるだけでも画面の動きが出るため、複合モチーフでも自然なリズムを作れるのが特徴です。次の作品を参照してください。
尚、3角形の頂点に主役を何が何でも据える必要はありません。現に次の作品の「ミヒカリコオロギボラ」という珍しい名前の貝は、画面の右側にあります。この貝の位置は、作品上の配置が一番安定したので、そのまま描いています。^^
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- 黄色の線:3分割構図基本線
- 緑色の線:3分割線
- 青色の線:「抜け(※)」に使うための線
- ピンク色の線:モチーフで3角を構成する線

ミヒカリコオロギボラのある静物 2022 F4 鉛筆画 中山眞治
※ 「抜け」とは、制作画面上に外部へ続く部分があると、観てくださる人の「画面上の息苦しさ」を解消できる効果があり、また、奥行も表現できるのです。
対角線構図で動きと視線誘導をおこなう
対角線構図は、画面全体に動きを与えたいときに有効です。たとえば、画面左上から右下へ通る導線の上にモチーフの一部を乗せることで、視線が自然と移動する道筋ができます。
これはビンの口や果物の丸み、布の折れ目などでも利用でき、モチーフそのものが導線として働くのです。
複合静物では、対角線上に準主役や脇役の一部を重ねることで、主役へ誘導する流れを意図的に作ることができます。次の連続画像を参照してください。
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- 黄色の線:4分割構図基本線
- 青色の線:「抜け」に使うための線
- ピンク色の線:モチーフで3角と逆3角を構成する線

- 紫色線:対角線を暗示するためにモチーフを追加配置

家族の肖像 2022 F4 鉛筆画 中山眞治
抜けを意識して空間を広げる方法
抜けとは、画面奥に向かう開放的な空間のことで、窓や遠景のスペースなど、視線が進む余白がこれに該当します。
複合静物は、画面が窮屈になりやすいため、抜けを意識することで圧迫感を軽減し、全体に大きな広がりを与えられるのです。
とくに、テーブル上の静物の奥で背景へ抜けるように配置すると、手前から奥へと視線が連続していき、立体感や奥行きが増す効果があります。次の作品を参照してください。

モアイのある静物 2022 F4 鉛筆画 中山眞治
3角形・対角線・抜けを組み合わせた複合構図の最適化

灯(あかり)の点(とも)る窓辺の静物 2000 F4 鉛筆画 中山眞治
3角形構図、対角線構図、抜けは単体でも効果がありますが、複合構図ではこれらを組み合わせることで、より完成度の高いレイアウトが実現します。
たとえば、主役を3角形の頂点に置きながら、背後の抜けが対角線の延長上に来るように配置すると、視線の入口と出口が自然につながり、画面の流れが一気に滑らかになるのです。
また、3角形が作る安定感と、対角線が生む動きが同時に存在することで、複合モチーフでも破綻しない画面構成が可能になります。
複合静物のレイアウトでは、画面の安定と動きを両立させるために、3角形構図、対角線構図、そして抜けの活用が極めて重要です。
3角形構図は主役を安定させ、対角線構図は視線の流れを作り、抜けは画面に広がりと深さを与えます。
とくに、複合モチーフでは、これらの概念を単独で使うのではなく、複数を重ねて使うことで画面全体の調和が生まれるのです。

構図を意識した配置を行うことで、複合静物の鉛筆画やデッサンは格段にまとまりがよくなり、作品としての説得力も大きく高まるでしょう。
エスキースで完成度が決まる!複合静物の下準備と試行錯誤の進め方

複合静物の鉛筆画やデッサンでは、描き始める前の下準備が完成度を大きく左右します。
とくに、複数のモチーフを扱う場合には、エスキース(下絵)を通して、構図の方向性やモチーフの位置関係を整理することが欠かせません。
下準備が曖昧なまま本制作に入ってしまうと、描いている途中で配置に迷いが生じたり、主役と準主役の関係が弱くなって、バランスが崩れてしまいます。
本章では、複合静物のエスキース作成を、効果的に進めるための方法を段階的に解説しましょう。
簡易構想から始める:まずはアイデアをざっくり視覚化する

第1回個展出品作品 反射 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
複合静物の構成を考える際には、まずはA4の紙を正確に半分に切った大きさで、簡単なメモ描きからスタートすると効果的です。
主役・準主役・脇役の位置関係をざっくり描いておくことで、画面の重心や流れが見えてきます。この段階では形を正確に描く必要はなく、大きさと配置の方向性をつかむことが目的となります。
複合構図は選択肢が多いため、最初の段階で複数案を試し、比較しながら構想を進めていくことで、後の迷いが減るのです。
縮尺エスキースを作る:本制作への橋渡しとなる重要工程

第1回個展出品作品 男と女 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
簡易構想が固まりましたら、実際に使うスケッチブックのサイズに合わせて、縮尺エスキースを作ります。
本制作画面の縦横の寸法を正確に測り、縮尺比を算出することで、本制作画面に正確に落とし込めるエスキースを完成させることができるのです。
複合静物ではモチーフ数が多いため、位置関係が少しずれるだけで画面の印象が大きく変わります。縮尺エスキースを作ることで、構図の正確性が保たれ、スムーズに本制作へ進むことができます。
ここから具体的なエスキースの作り方や、活用の仕方と本制作にそのまま生かせる手法をお伝えしましょう。ここでは、あなたが取り組む本制作画面が、F6のスケッチブックだと仮定して話を進めます。
A4の紙を正確に半分に切った紙のサイズを測ると、短辺は148mmで長辺は210mmのはずです。一方、F6のスケッチブックの大きさは、短辺が318mmで長辺は410mmです。
何がしたいのかというと、F6のスケッチブックの正確な縮尺をかけた下絵を作りたいので、A4の紙を正確に半分に切ったものと、F6のスケッチブックの短辺同士を合わせて、正確な縮尺をかけた寸法をエスキースへ再現します。
下絵(エスキース)の短辺は、148mm÷F6の短辺318mm=0.4654となります。
この数値をF6の長辺にかけると、410mm×0.4654=190.81≒191mmという数値が出ますので、エスキースの長辺を191mmにしたところを線で分割します。
つまり、正確な縮尺をかけてみると、下絵(エスキース)の長辺を19mm短くした寸法になるということです。
尚、完成したエスキースに基づいて、本制作画面に向き合う際には、エスキース上の位置の寸法に対して、縮尺をかけた値の÷0.4654で、今回の制作例のF6の画面上に、その位置を特定できます。
他の大きさのスケッチブックや紙であっても、この縮尺の要領で、A4の紙を半分に切ったエスキースに、本制作画面の実寸に基づいた、縮尺をかけた下絵を作ることできて、本制作画面に反映する際にも役に立ちます。
エスキースは、本制作の前段階で試行錯誤して、作品の完成度を高めるための極めて重要で、便利なツールなのです。
基本線を入れて構図を固定する:黄金比や対角線の併用が鍵
縮尺エスキースができましたら、次に構図の基本線を入れていきます。
縦横の2分割線、対角線、黄金分割構図基本線など、複合静物で特に役立つ線を画面上に描き込んでおくことで、モチーフの位置決めが一気に楽になるのです。次の画像を参照してください。
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誕生2023-Ⅰ F4 鉛筆画 中山眞治
主役を画面縦横の構図分割線の交点に置いたり、準主役を対角線に乗せるなど、画面の動きを意図的に作ることが可能になります。これにより、複雑な構成でも画面が安定し、破綻のないレイアウトが実現します。
描いては消しを繰り返して完成形へ:試行錯誤こそ複合静物の醍醐味

境内にて 2021 F4 鉛筆画 中山眞治
複合静物のエスキースでは、一度描いたモチーフをを何度も描いては消しを繰り返しながら「構想を練る」作業が欠かせません。そのためにも、エスキースの構図分割線は「ボールペン」で描いておけば、鉛筆で何度も試行錯誤ができます。
主役が弱いと感じた場合には位置をずらし、モチーフ同士の距離が近すぎると感じたら離してみるなど、恐れずに確認することが重要です。
とくに、抜けの有無や重心の位置は、わずかな調整だけで印象が大きく変わるため、この段階で念入りに確認します。エスキースの段階で充分に調整しておけば、本制作は迷わず描き進めることができます。
複合静物の、鉛筆画やデッサンにおいてエスキース造りは、画面作りの基礎を固める最も重要な工程です。簡易構想で大まかな流れをつかみ、縮尺エスキースで正確な位置関係を整理し、構図基本線で画面の方向性を固定しましょう。
そして、描いては消す試行錯誤を重ねる「構想を練る」ことで、複数のモチーフが調和したレイアウトが完成します。
尚、完成したエスキースのモチーフの寸法を、本制作画面へ反映する場合には、エスキース上の寸法÷先ほどの縮尺値(0.4654)で、位置を特定できるのです。
違う大きさの本制作画面で行う場合には、前述のように、あなたの扱う本制作画面の短辺とエスキースの短辺で縮尺値を出して、あなたの扱う本制作画面の長辺の寸法にその縮尺値を掛ければ、エスキース上の長辺の分割点を確定できます。
エスキースの段階での、丁寧な準備が本制作の迷いを大きく減らし、最終的に作品の完成度を高める鍵となるのです。
仕上げで差がつく!光と陰の整理・強弱のつけ方・描き込み量の判断基準

第2回個展出品作品 灯の点る窓辺の静物 2000 F100 鉛筆画 中山眞治
複合静物の鉛筆画やデッサンの仕上げ段階では、下準備や構図の良し悪しだけでなく、光と陰の整理の精度が作品の完成度を大きく左右します。
複数のモチーフがあると、どこをしっかり描き込み、どこを弱く抑えるべきか判断が難しくなりがちです。
本章では、光の扱い方、陰のつけ方、描き込み量の調整といった仕上げの工程で、特に重要な要素を整理していきます。
これらを丁寧に抑えておくことで、複雑な複合構図の静物でも、画面全体のまとまりが格段に向上するのです。
光源の方向を明確にしてトーンを統一する

境内にて 2021 F4 鉛筆画 中山眞治
複合静物の仕上げでは、光源の位置を明確に確認し、すべてのモチーフが同じ方向から光を受けていることを統一することが重要です。
光が、複数の方向から当たっているように見えてしまうと、静物全体の調和が崩れ、人工的で不安定な印象を与えてしまいます。
光源をひとつに定め、その方向に合わせて影の落ち方やハイライトの位置を統一すると、複雑な構成でも安定した空間が生まれるのです。
主役と準主役の描き込み量に差をつける

旅立ちの詩Ⅲ 2021 F4 鉛筆画 中山眞治
複合静物の難しさのひとつが、描き込み量のコントロールです。全体を均一に描き込んでしまうと、視線がさまよってしまい、主役が弱くなります。
主役には、細部の質感や明暗をしっかりと描き、準主役にはやや抑えた描写を施すことで、画面内に明確な序列が生まれるのです。
脇役に至っては、簡素な輪郭に留める程度でも充分で、描き込みの強弱によって自然な視線誘導が実現します。
陰の深さを調整して立体感と奥行きを作る

パーティーの後でⅠ 2021 F4 鉛筆画 中山眞治
陰の深さは、複合静物における立体感と奥行きの要です。とくに、主役周辺の陰が浅いままでは、モチーフの存在感が弱くなり、光として描いている部分も輝きません。
そして、陰を深くする際には、いきなり濃くせず、段階的にトーンを重ねていくことで滑らかな仕上がりが表現できます。
また、背景との明暗差を付けることでモチーフが浮き上がるため、手前と奥の距離感も自然に表れるのです。
部分的な引き算で画面のメリハリを保つ

パーティーの後でⅡ 2021 F4 鉛筆画 中山眞治
複数のモチーフを描いていると、つい全ての物に細部を描き込みたくなるものですが、複合静物では、意図的な「引き算」が画面を整える鍵になります。
主役以外のモチーフには、ハイライトを抑えて描いたり、輪郭の一部をぼかしたり、陰影を弱くして背景と馴染ませることで、画面の緊張と緩和が生まれるのです。
全てを均一に描くのではなく、必要な部分と控える部分を見極めることで、最終的な完成度が大きく変わってきます。
複合静物の鉛筆画やデッサンの仕上げでは、光と陰の整理、描き込み量の強弱、部分的な引き算の3つが重要な要素になるのです。
光源を統一することで画面全体に一体感が生まれ、主役と準主役の描き込み差によって視線の動きが明確になります。
また、陰の深さを段階的に調整することで、立体感と奥行きが強まり、必要に応じた引き算によって、画面の雑味を整理することができるのです。

これらの仕上げの判断を丁寧に行うことで、複合静物でもまとまりのある作品となり、鉛筆画やデッサンとしての説得力がさらに高まります。
練習課題(3つ)

道Ⅱ 2022 F4 鉛筆画 中山眞治
本章では、あなたが実際に手を動かして練習できる課題を用意しました。鉛筆画やデッサンは練習しただけ上達できますので、早速試してみてください。
練習課題①:三角形構図で組む複合静物レイアウト練習
内容
- コップ(円柱)+リンゴ(球体)+箱(直方体)の3点構成。
- 3角形を意識し、頂点に主役を置いて全体の重心を安定させる練習。
- 主役=リンゴ、準主役=コップ、脇役=箱。
- 3角形の頂点位置を3パターン(左・上・右)で試す。
目的
3角形構図の安定感を体感し、複数モチーフを直感的に配置できる力をつける。

参考画像です
練習課題②:対角線構図で動きを作る複合静物配置
内容
- ワイングラス(縦長)+ビン(縦長)+布(曲線)の3点構成。
- 対角線(左上→右下)に沿って、どれかのモチーフの一部を重ねる。
- 布は導線として使い、視線が主役へ向かう動きを作る。
- 主役はビン(縦長)。
目的
対角線構図特有の「動き」と「視線誘導」を体感し、複合モチーフでも流れを作る力を磨く。

参考画像です
練習課題③:抜けを意識した奥行きのある複合静物デッサン
内容
- マグカップ(円柱)+壺(大)+本(平面)+背景に「抜け」となる窓の形状。
- 手前(マグ)→中景(壺)→奥(窓)を明確に描き分ける。
- モチーフは手前から暗→中→明→奥で少しずつトーンを軽くする。
- 主役は壺、奥の窓が視線の出口になる構成。
目的
複合静物で奥行きを作るための「抜け」の扱いと、手前から奥へ向かう空間設計力を身につける。

参考画像です
まとめ

第3回個展出品作品 午後のくつろぎ F1 鉛筆画 中山眞治
複合静物の鉛筆画やデッサンは、多くのモチーフを同時に扱うため、一見すると難しそうに感じられますが、実際には画面の構造を整理し、主役と準主役の役割を明確にすることで、誰でも安定した構図を作ることができるのです。
この記事の、第1章から第5章に沿って一連の流れを振り返ると、制作の要点がはっきりと見えてきます。
複数のモチーフを扱うときの混乱も、視線誘導や光の方向、描き込み量を意識することで驚くほど解消され、まとまりのある作品へと仕上げることが可能です。
ここでは重要ポイントを整理し、複合構図の静物の鉛筆画やデッサンを、より高いレベルへ引き上げるためのまとめとして綴っていきます。
まず、最も重要なのは主役と準主役を明確にすることです。どれをしっかり描き、どれを抑えるかを決めておかないと、全体が均一な印象になり、視線がさまよってしまうのです。
次に、構図基本線を活用してモチーフを配置すると、自然な安定感と動きが生まれます。
複合静物では、わずかな位置の違いが画面に大きな影響を与えるため、この段階での整理が作品の仕上がりを左右するのです。
また、抜けの設定は、複数モチーフの窮屈さを軽減し、画面全体に呼吸する空間を与える効果があります。背景に窓や奥への通路を配置することで視線の出口ができ、空間の広がりを表現しやすくなれます。
さらに、仕上げの段階では光源の方向を統一し、陰影を段階的に整えていくことで、主役を際立たせながら全体に一体感が出ます。描き込み量の調整や部分的な引き算は、複合静物だからこそ必要な判断であり、完成度に直結するのです。
以下に主要ポイントを箇条書きで整理します。
- 主役・準主役・脇役の序列を最初に決める。
- 構図基本線(対角線・2分割・黄金分割など多くの構図分割線)を併用する。
- 抜けを作って、空間に外部へ続く解放感を確保する。
- 縮尺エスキースで、位置関係を適切に整える。
- 光源の方向を統一して、明暗を整理する。
- 主役は描き込みを強く、脇役は控えめにして差をつける。
- 陰は、段階的に深めて自然な立体感を作る。
- 画面に不要な細部は、あえて省略する。
- 線や形が崩れたときには、定規やコンパスを補助的に使う。
- エスキースに、描いては消しの試行錯誤を繰り返し、完成度を高める。
複合静物は、難易度が高いように見えますが、これらのポイントを押さえることで、落ち着いた空間構成と、魅力ある作品へと必ず近づいていけます。
静物は自由度が高く、モチーフの組み合わせ次第で無限の表現ができるため、ぜひ今後の作品に活かしていただければ幸いです。
また、「人生が充実する、鉛筆画やデッサンがもたらす驚きのメリットと魅力!」という次の記事もありますので、関心のある人は参照してください。^^
ではまた!あなたの未来を応援しています。








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複合静物の魅力を生かすためには、序盤の整理と基礎の構図の理解が何より重要であり、この部分がしっかり固まっていれば、作品の完成度は大きく向上します。