鉛筆画・デッサンの魅力を引き出す!陰影技法の基本を徹底解説

 こんにちは。私は、アトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治と申します。

            筆者近影 作品「静物2025-Ⅲ」と共に

 さて、鉛筆だけで、感動的な美しい作品を描くことは可能であり、その鍵となるのが、陰影技法です。

 この技法を駆使することで、平面的な鉛筆画やデッサンに深みや立体感を持たせられて、リアルな質感や光の表現ができるようになれます。

 しかし、陰影技法は、ただ影をつけるだけではありません。正しい方法で適切に行うことによって、作品の魅力が飛躍的に向上できるのです。

 この記事では、鉛筆画やデッサンの基本から応用までの、陰影技法を徹底的に解説していきます。

 鉛筆画初心者の人でも、安心して学べる内容から、鉛筆画中級者の人向けの応用テクニックまで幅広くご紹介します。

 それでは、早速見ていきましょう!

陰影技法(シェーディング)の基礎:光と影の基本原理を理解する

 鉛筆画やデッサンでの陰影技法は、作品に深みや立体感を持たせられる重要な技法です。

 陰影技法の成功の鍵は、光と影の原理をしっかり理解することから始まります。

 本章では、この基本的な原理を詳しく探ることで、よりリアルな作品制作への第一歩を踏み出せる点について解説しましょう。

光の方向と影の形成

 当たり前ですが、光がモチーフに当たると、その反対側に影ができます。

 しかし、この影の濃淡や形は、光の方向や強さ、モチーフの形によって変わるのです。

 たとえば、スポットライトのような直接的な光のもとでは、影は鮮明でクッキリとしますが、散乱した光の場合には、影は柔らかくぼやけたものになります。

3つの基本的な影のタイプ

キャストシャドウ(投影影)

 これはモチーフが、光源から遮られた部分にできる影です。

 たとえば、立っている人物の足元にできる影などがこれに当たります。

フォームシャドウ(形成影)

 モチーフの表面に沿って光を受けていない部分の影です。

 球体の場合、光が当たらない側がこれに該当します。

リフレクテッドライト(反射影)

 モチーフの影の部分に隣接する、反射した光によって生じる明るめの影の部分です。上の画像では、「反射光」のところです。

光と影のバランスの重要性

 美しい陰影技法を取り込むためには、光と影のバランスをとることが不可欠です。

 強すぎる光や濃すぎる影は、作品に不自然さをもたらす可能性があります。

 一方、柔らかすぎる光や薄すぎる影は、立体感が不足してしまうでしょう。適切なバランスを見つけることで、作品全体の調和と写実性(リアリズム)が増すのです。

なかやま

陰影技法は、光と影の原理を理解し、それを鉛筆やチャコール(炭)などで表現する技術です。これらの基礎を身につけることで、作品の質は大きく向上することでしょう。

ステップバイステップ:鉛筆画・デッサンの初心者向け陰影技法実践ガイド

 鉛筆画やデッサンの陰影技法は、作品に深みやリアリズム(写実性)を追加する、魔法のような技術です。

 しかし、鉛筆画やデッサン初心者の人には、少し難しく感じるかもしれません。

 本章では、鉛筆画やデッサン初心者の人のために、陰影技法をステップバイステップの手順で提供します。心配せずに、一緒に学びましょう!

必要な道具の準備

 鉛筆画やデッサンを始める前に、適切な鉛筆、消しゴム、そしてスケッチブックを用意しましょう。鉛筆の硬さは、陰影技法の効果や質感に影響しますので、複数の種類を持っておくと便利です。

 初めの段階では、2H・H・HB・B・2B・3B・4Bの7種類あれば当面の制作ができます。あなたが、鉛筆画を描くことに慣れて、これからも続けていく自信がついてきましたら、少しづつ種類を増やしていきましょう。

 その場合には、明るさに対する意識を持った場合には、10Hまでありますし、より濃い色を求めるのであれば、10Bまではすぐに購入することもできて、メーカーによっては、12Bまでの品揃えをしているところもあるのです。

 尚、鉛筆についての、具体的な内容については、次の関連記事を参照してください。

ステッドラーですぐに始められる鉛筆デッサンの初心者向け基礎講座!

https://atelier-light-and-shadow.com/staedtler13

基本の陰影技法

 平行線の練習: スケッチブックのページに、平行な線を何本か描いてみましょう。線の間隔を狭めることで、より濃い影を作り出すことができます。

 円形の練習: ゆっくりと円を描きながら、中心から外側へと陰影技法を実行してみましょう。中心が最も濃く、外側に向かって薄くなるようにします。

     

影の位置の理解

 モチーフの形と光の方向によって、影の位置や形は決まります。

 簡単な形の、たとえば球や立方体を描き、異なる光の方向からの影の変化を観察してみましょう。

     

実践!簡単なモチーフの陰影技法

リンゴの陰影技法

出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 大寺聡 氏

 リンゴをスケッチブックや紙に描き、前述の技術を活用して陰影技法を適用します。

 リンゴの曲線に沿って陰影技法を行い、立体感を出すことがポイントです。

 丸いものは、丸いものなりの曲線によって、陰影をつけていくことを忘れないようにしましょう。

 尚、同じ方向からの線だけでは、鉛筆のトーンが乗りにくいと感じられるようでしたら、縦横斜めの4種類の線を、モチーフの曲面に沿って湾曲させて描き込んでいく方法も効果的です。

 この場合に、描き込みにくい方向の線がありましたら、スケッチブックや紙側を90°回転させれば無理なく描き込めます。

カップの陰影技法

 カップの内部と外部、そしてカップの下の影をしっかりと陰影技法を適用して、三次元の形状を強調します。

 場合によっては、次の作品のように、ソーサー(受け皿)の反射光がカップに映り込んでいる描写などもあるとリアルです。^^

  第2回個展出品作品 胡桃のある静物 2000 F1 鉛筆画 中山眞治

 この作品には、スプーンを描き込んでいませんが、ソーサーの上にスプーンが乗っていて、そのスプーンの反射がカップに映り込んでいるのを描き込んでも、楽しい仕上がりになります。^^

これで、鉛筆画の陰影技法の基礎を学ぶプロセスが完了しました。繰り返し練習を続けることで、技術は確実に向上します。次は、さらに複雑な形状や質感への挑戦がオススメです。

選べる鉛筆の硬さ:陰影技法に最適な鉛筆の選び方

 鉛筆は、デッサンやイラストレーションの、最も基本的な道具の一つです。しかし、鉛筆にもさまざまな硬さがあり、それぞれが異なる特性や用途を持っています。

 陰影技法を習得する際には、適切な鉛筆を選ぶことは非常に重要です。

 本章では、各鉛筆の特性と、それが陰影技法にどのように影響するかを解説します。

鉛筆の硬さの基本

 鉛筆の硬さは、主にHからBの範囲で示されています。Hは硬め、Bは柔らかめを指し、数字が大きいほど、その特性が強まります。

 Hシリーズ: 硬く、細かい線を描くのに適しています。細密描写に最適です。

 Bシリーズ:柔らかく、濃い線や陰影技法に活用されます。影の深みや濃淡表現に役立ちます。

陰影技法に適した鉛筆の選び方

 H~2H: 細密部分や質感を描く際に役立ちます。硬いため、シャープな線を持続的に描くことができます。さらに明るい部分の描写が必要な場合には、3H~4Hを揃えるこもできるでしょうが、まずは2Hで筆圧を弱めて使用しましょう。

 HB: 陰影技法の基本となる鉛筆です。HシリーズとBシリーズの中間の硬さで、濃い影の部分に「試しに影を入れる」際にはちょうど良いでしょう。制作画面全体にトーンの当たりを付けた後に、必要となるトーンを後から加えていきます。

 B ~4B: 影の部分や、背景の陰影技法に適しています。柔らかいため、濃い影や質感のある部分を描くのに便利であり、画面上に最初に描くデッサンには、後から消しやすいBや2Bでの取り組みがオススメです。

 あなたが、鉛筆画やデッサンにこれからも取り組む意思が固まりましたら、種類を増やしていけばよいのです。

鉛筆の保管とメンテナンス

 鉛筆の寿命を延ばし、最高の表現力を維持するためには保管方法も重要です。

 乾燥した場所に保管し、鉛筆削りで適切に削って、描きやすさを保ちましょう。次の画像を参照してください。

              筆者の鉛筆収納ケースです

 筆者は、10Hから10Bまで、F(HとHBの中間トーン)も含めての22本の鉛筆を使っていますが、主体がステッドラー(上の画像の青い鉛筆)で、次に多いのはファーバーカステル(緑の鉛筆)です。

 収納ケースは、100円ショップで販売されている「書類入れ」に、バンダナを敷いて使っています。また、鉛筆削りの他に、やはり100円ショップで購入した「果物ナイフ」も使っています。

 鉛筆の選び方は、陰影技法や制作する作品のスタイルによって、変わるかもしれません。しかし、その基本的な理解は、あなたの芸術表現能力を向上させる大きな一歩です。

なかやま

適切な鉛筆を選ぶことで、陰影技法もさらに洗練され、あなたの作品に深みと写実性(リアリズム)が高まります。

質感とニュアンス:細密な質感の陰影技法をマスターする

     第2回個展出品作品 洋ナシのある静物 F1 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画やデッサンの魅力は、リアルな質感と微妙なニュアンス(かすかな違いや含み/要素)を表現することができる点にあります。

 樹の皮や髪の毛、布の織り目など、細密な質感を適切に表現することで、作品は一段と写実的(リアリスティック)に、感動的になります。

 本章では、細かい質感の陰影技法を探求し、それを習得するためのヒントを提供します。

基本的な質感の描写技術

点描法

 小さな点を連続して打つことで、粗い質感や影の階調(グラデーション)を表現します。

ハッチング

 平行な線を連続して描くことで、影や質感を再現します。

クロスハッチング

 線を交差させることで、深い影や濃い質感を作り出せます。

 尚、次のような描線で立体を表現することもできます。

       出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 大寺聡 氏

質感別の陰影技法のコツ

樹の皮

 縦の長い線と、それを横切る短い線を組み合わせることで、樹の年輪や皮の質感を表現します。次の画像を参照してください。

出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 三澤寛志 氏

髪の毛

       出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 三澤寛志 氏

 細い線を流れるように描き、毛先や影に注意を払うことで、髪の流れやボリュームを再現できます。

 クロスハッチングを使って、折り目やしわを強調し、布の柔らかさや質感を描写します。次の画像を参照してください。

出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明 氏

質感(テクスチャー)の深度と写実性(リアリズム)

 質感の陰影技法では、深みを持たせることが重要です。モチーフの形や光の角度によって、質感を表現するためのトーンの濃淡を変えることで、より写実的な表現を目指しましょう。

 たとえば、球状のモチーフに陰影を入れていく場合には、光が当たる部分は薄く、影の部分は濃く描くことで、球の形状を強調できます。次の画像を参照してください。

 質感の陰影技法は、練習と観察によって習得することができます。身の回りのものを観察し、その質感をスケッチブックや紙に再現することで、感覚を磨き上げましょう。白い卵でも代用できるのです。

これらのテクニックを組み合わせることで、作品に深みと要素を加え、観てくださる人を魅了することができます。

陰影技法の発展:中級者向けの応用技術とコツ

 陰影技法の基礎を習得した後の、アーティストとしての次のステップは、その技術をさらに洗練し、作品に深みと独自性を持たせることです。

 鉛筆画中級者の人向けの陰影技法は、基本的な技術を基本にしながら、更なる表現力と細やかな描写を追求することが必要となります。

 本章では、鉛筆画中級者の人向けの、陰影技法の応用技術とそのコツを解説します。

レイヤリング技法の活用

 レイヤリングは、複数の陰影技法の層を重ねることで、濃淡や質感を細かく調節する技法です。透明感や複雑な質感を表現する際に非常に有効です。次の画像を参照してください。

出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明 氏

ステップ1: 軽く基本的な陰影技法を施す。

ステップ2: 更に細かな陰影技法を加え、深みや質感を強調する。この段階では、縦横斜めの4種類からの線による描き込みでトーンを作り、全体の様子を見ながら、濃淡の度合いを調整して進めていく。

ステップ3: 最終的に、細部の微調整や明るい部分の強調を行う。明るい部分には、練り消しゴムなどで整えることも忘れない。

※レイヤリングとは、「層」を積み重ねるという意味合いの英単語です。

トーンの階調(グラデーション)を細かく表現

 均一な陰影技法から、段階的なグラデーションへの移行は、作品に写実性をもたらします。

 たとえば、夕焼けの空のように、色の変化が滑らかで自然な場合、細かいグラデーション技法を使用しましょう。

 次の作品は、晩秋の夕暮れ時を描いています。電柱の長い影が状況を説明しています。^^

          坂のある風景Ⅱ 2019 F1 鉛筆画 中山眞治

 テクニック: 軽く描き始め、徐々に圧を強めていくことで、自然なグラデーションを描写できる。

環境の影響を取り入れる

     国画会展受賞作品 会友賞 誕生2013-Ⅱ F130 鉛筆画 中山眞治

 モチーフだけでなく、その周囲の環境も陰影技法の重要な要素です。

 反射光や投影、透明モチーフの後ろの光など、環境の影響を受ける部分の陰影技法は、作品全体のリアルさを大きく向上させてくれます。前述していますが、「反射光」では、次の画像を参照してください。

 鉛筆画中級者のアーティストにとって、陰影技法は単なる技術以上のものです。それは、感情、環境、物語を表現するための強力なツールとなるのです。

なかやま

これらの応用技術を習得することで、あなたの陰影技法スキルは次のレベルに進化し、作品は更に魅力的になるでしょう。

まとめ

         第1回個展出品作品 1996 人物Ⅳ F10 鉛筆画 中山眞治

 陰影技法は、鉛筆画やデッサンの中でも、とくに表現力が豊かな技法として知られています。

 この技法の基本を習得した後に、鉛筆画中級者のアーティストが追求したいのは、作品にさらなる深みと独自性を持たせることです。

 ここでは、鉛筆画中級者の人向けの陰影技法とその応用について解説しています。まず考えるべきは、レイヤリング技法の活用です。

 これは、複数の陰影技法層を重ねることで、濃淡や質感を細かく調節する手法です。たとえば、透明なガラスのように、微細な質感や色の変化が必要な場合には、この技法は非常に効果的です。

 基本的な陰影技法をまず施した後に、さらに細やかな層を追加していくことで、深みや写実性を強調することができます。

 次に、トーンのグラデーション(階調)を細かく表現する技術が挙げられます。均一な陰影技法よりも、段階的なグラデーションが現実的な表現には必要です。

 夕焼けの空や、柔らかい肌の質感など、色の変化が滑らかで自然な場面での陰影技法は、細かいグラデーション技法を駆使して描写すると効果的です。

 この時、軽く描き始めてから徐々に圧を強めることで、自然な色の移り変わりを表現することが可能となります。

 そして、モチーフや人物を描く際には、その存在する環境の影響も考慮することが欠かせません。

 たとえば、モチーフの周りの反射光や、窓から差し込む光の影響などを、どう陰影技法で表現するかは、作品全体の写実性に大きく影響します。

 陰影技法は、表現の幅を広げるための強力なツールです。鉛筆画中級者の人にとって、これらの応用技術を深く探求することで、作品に生命を吹き込み、観てくださる人の心を捉えることができるでしょう。

 継続的な練習と、これらの技術の活用を通じて、あなたの鉛筆画は新たな次元へと進化していけるはずです。

 尚、あなたが展覧会や公募展へ出品を希望する際には、ただモチーフを上手に描けるだけでは入選できません。

 それは、あなたの制作する画面全体を使いきって、作品全体を魅力的な構成にする必要があるのです。その内容について興味のある人は、次の関連記事を参照してください。

 また、「人生が充実する、鉛筆画やデッサンがもたらす驚きのメリットと魅力!」という次の記事もありますので、関心のある人は参照してください。^^

 ではまた!あなたの未来を応援しています。