こんにちは。私は、アトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治です。
筆者近影 作品「パーティーの後で」と共に
さて、鉛筆デッサンはシンプルながらも奥深い芸術表現の一形態で、コツを少し掴むだけでも作品が大きく変わります。今回は、初心者の人でもすぐに試せる7つのコツをご紹介します。
光と影の使い方や、質感を引き出すテクニック、簡単に立体感を出すためのポイントなど、基本的ながらも効果的なテクニックを解説していきます。
それでは、早速見ていきましょう!
鉛筆デッサンの基本を押さえる:基礎を整えよう
水滴Ⅵ 2019 F1 鉛筆画 中山眞治
鉛筆デッサンを始めるにあたり、基礎をしっかり押さえることが、作品の完成度を高めるためには重要です。本章では、鉛筆デッサン初心者の人でも、取り組みやすい基礎知識と、その基礎を整えるためのポイントを紹介します。
鉛筆デッサンに適した鉛筆の選び方と使い方
最初に揃えるべき鉛筆の種類は、2H・H・HB・B・2B・3B・4Bの合計7本の鉛筆があれば、当面の制作ができます。尚、ここで重要なことは、「同じメーカーの鉛筆で揃える」ということです。
筆者の場合には、ステッドラー、ファーバーカステル、三菱ユニを使っていますが、ステッドラーは「カリカリ」した描き味で、ファーバーカステルは「少ししっとり系」、三菱ユニは「しっとり系」といった感じです。
筆者は、ステッドラーを中心にして揃えていますが、補助的にファーバーカステルを使い、10Hと10Bは三菱ユニといった具合で使用しています。あなたが揃える場合には、「どこででも購入できる」ステッドラーがオススメです。
そして、鉛筆デッサンでは当初の大きな輪郭などを捉える際には、Bや2Bの鉛筆がよく使われます。硬めの鉛筆(H系統)は細部を描くときに便利で、柔らかめの鉛筆(B系統)は陰影を付ける際に最適です。
どの硬さも使い分けることで、表現の幅が広がり、立体感が生まれます。また、鉛筆の握り方や筆圧によっても線の質が変わるため、自身の描きやすいスタイルを見つけることが大切です。例えば次のような感じです。
鉛筆の握り方 A
大きな輪郭を捉える際の握り方です
鉛筆の握り方 B
大きな輪郭を取った後には文字を書く時と同じ握り方です
鉛筆の握り方 C
鉛筆を寝かせ気味にして描く場合の握り方です
線の質感と筆圧の調整
鉛筆デッサンの基本の一つは、線の質感と筆圧をコントロールすることです。初心者の人の場合、最初は軽い筆圧で描くことを心がけ、線を重ねることで徐々に濃さを出していくと失敗が少なくなります。
また、鉛筆を横に寝かせ気味にして軽く描くと、柔らかい質感を出すことができて、逆に鉛筆を立てて強めに描くと、しっかりとした線が描けます。これらの技法を組み合わせることで、より豊かな表現が可能になります。
練習の基本は形を正確に捉えること
鉛筆デッサンを美しく見せるためには、モチーフの形を正確に捉えることが不可欠です。
鉛筆デッサンの基礎では、まずは2Dの円及び三角形や四角形を描き、次の段階では3Dのそれぞれの立体的な、球体及び立方体や三角錐といった基本形状を練習することが推奨されます。
これらの基本形を使って、陰影のつけ方や立体感の出し方を学び、より複雑な対象にも応用できる力を身につけましょう。
円柱を描く練習などでは、光の当たる面と影のつく部分を意識しながら描くことで、立体的な質感を引き出せます。
これらの立体的なモチーフではできるだけ、白い石膏モチーフを使うと光と影を確認しやすいです。自宅でモチーフを探すのであれば、白い卵及び白いカップ&ソーサーや白いマグカップなどが良いでしょう。
効果的な陰影のつけ方の基本
陰影をつける際は、光源を確認及び意識して描くと、リアルな表現が可能になります。鉛筆の濃淡を使い分け、光が当たって明るい部分には軽く、暗い部分にはしっかりとした筆圧で描くことで、自然な立体感が生まれます。
基本的に、光源が右上にある場合は左下が暗くなるように陰影を入れ、且、光を受けている反対側の影の位置及び長さや濃さをしっかりと観察して、作品に反映することで統一感が出せます。
鉛筆デッサンの重要な要素である、光と影の適切な描写がモチーフの立体的な表現に直結すると言っても過言ではありません。制作に入る前には、しっかりとモチーフを観察することが極めて重要です。
デッサン時のモチーフの配置
描き始めは、余計なことは何も考えずに、楽しんで5作品ほど描くことに集中しましょう。そして、5作品ほど描き終わって「描くことに慣れて」来られましたら、作品の完成度を高められるように、「構図」に取り組みましょう。
構図と聞くとむずかしくきこえるかもしれませんが、作品をより見映えのする仕上がりにできますし、公募展などへ出品する際には必須です。
5作品ほど描いて、ある程度描くことに慣れてこられましたら、構図のたくさん載っている本を一冊購入しましょう。
初心者の人の場合には、まずはシンプルな構図に取りかかることがオススメです。鉛筆を使って線の位置やモチーフの大きさを軽く決めてから描き始めると、全体のバランスが簡単に取れるようになれます。
鉛筆デッサンでは最初に、細かな技術よりもまずは基礎をしっかり身につけることが上達の第一歩です。コツコツと基本を積み重ねることで、より美しい作品が描けるようになれます。
光と影のコントラストを使って奥行きを出す方法
第1回個展出品作品 サン・ドニ運河 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
鉛筆デッサンでは、奥行きを表現するための、光と影のコントラスト(明暗差)は欠かせない要素です。適切な明暗をつけることで、モチーフにリアルな立体感を持たせられて、画面に奥行きが生まれます。
本章では、鉛筆を使った光と影の効果的な描き方と、奥行きを出すためのテクニックを紹介します。
光源の位置を確認及び意識して陰影を描く
光と影のコントラストを強調するために、まずは光源の位置を正確に確認しましょう。光がどの方向から来て、モチーフにどのように当り、どのように影を作っているのかを確認及び意識することで、自然な陰影が描けるようになれます。
たとえば、光が左上から当たっている場合、右下に影がつくようにデッサンすることで奥行きが強調されます。影の方向及び位置や長さと濃さを調整することが大切です。
第2回個展出品作品 ランプの点(とも)る静物 2000 F30 鉛筆画 中山眞治
グラデーションで滑らかなトーンを表現する
鉛筆デッサンで奥行きを出す際に重要なのが、濃淡のグラデーション(階調)です。濃い影から徐々に明るくなるような滑らかなトーンを描くことで、立体感が引き立ちます。
まず、一番トーンの濃い部分から描き始め、徐々に筆圧を緩めながら明るい部分へと移行するように描くと描きやすさが増します。この技法により、滑らかな陰影が生まれ、奥行きのある鉛筆デッサンが完成します。
鉛筆の種類を使い分けてコントラストを強調
鉛筆の硬さを使い分けることで、陰影のコントラスト(明暗差)をさらに強調できます。柔らかい鉛筆(3B~4B)で濃い影を描き、硬い鉛筆(H系統)で明るい部分を表現することで、はっきりとしたコントラストが生まれます。
このように、鉛筆の種類を工夫して使い分けることで、自然な光と影が作り出せます。
影の形状で奥行きを演出する
影の形や濃淡を工夫することで、奥行きがさらに増します。たとえば、モチーフの形に沿って自然な影が落ちるように描くと、立体的に見えやすくなります。
影を描く際には、光から遠ざかるほど薄くなるように調整すると、よりリアルな表現が可能です。また、影の輪郭は光源から距離を置くほど、ぼかして柔らかくすることで、モチーフが引き立って見える効果も得られます。
この件では、真夏の昼下がりの街路樹などにできている影を連想してください。光が強ければ強いだけ影は濃くはっきりとしますし、窓から差し込む光の縁などは、部屋の奥に向かって進むに従って徐々に淡くなっていきますので、このように表現するという感じです。
影は一様に、ただ暗く描けばよいのではなくて、強い光のそばにできる影はくっきりとしていますし、光から距離のあるモチーフにできる影は、距離があるほどその影も淡くなっていきます。
重なり合う影で立体感を強調する
異なる物体同士が重なり合う際の影を描くと、奥行きを強調できます。
手前にある物体の影が、奥にある物体の上に落ちるように描くことで、視覚的な距離感が生まれるからです。
これにより、デッサン全体に立体感が増し、空間的な広がりが感じられます。
ハイライトを使ったアクセント付け
影だけでなく、ハイライト(光が強く当たる明るい部分)も奥行きを出すために重要です。例えば、光が強く当たる部分には鉛筆の使用を最小限にし、スケッチブックや紙の白さを残しておくことで、明暗のコントラストが際立ちます。
ハイライトを使うことで、モチーフの輪郭がよりくっきりと見え、奥行きの印象が強まります。そして、ハイライトをよりいっそう強調したい場合には、その背景部分に濃いトーンが必要になってくることを計算に入れることも必要です。
ハイライトは、練り消しゴムを練って鋭いマイナスドライバーやプラスドライバーのような形状にして、光らせるべき部分を丹念に拭き取ることで表現できます。
作品全体のバランスを見直して自然な奥行きを演出
最後に、作品全体のバランスを見直して、影やハイライトの位置を整えることが大切です。特定の部分だけが暗すぎたり明るすぎたりしないように、全体を見渡して調整することで、自然な奥行きが生まれます。
鉛筆での陰影は、少しの調整でも大きく印象が変わることもあるため、デッサンの仕上げ段階ではしっかりとバランスを確認しましょう。
光と影のコントラストを駆使することで、鉛筆デッサンに奥行きを持たせ、より立体的で引き込まれる作品に仕上げることができます。
質感を表現するためのシンプルなテクニック
第1回個展出品作品 ノスリ 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
鉛筆デッサンでは、質感を表現することで作品に深みとリアリティーを加えることができます。本章では、シンプルでありながら効果的な質感の表現テクニックをいくつか紹介します。
これらの技法を使えば、初心者の人でも手軽にさまざまな質感を再現できるようになれます。
線の方向と密度を使って質感を変える
鉛筆デッサンで、質感を表現する際の最も基本的なテクニックは、線の方向や密度を調整することです。たとえば、木目のある素材を描くときは、鉛筆を軽く持ち、木の繊維に沿って細かく平行な線を描きます。
また、布や紙のような柔らかい素材には、滑らかな曲線や短い線を重ねると、柔らかさが際立ちます。線の密度を変えるだけでも、硬さや柔らかさが伝わる効果が得られます。
出典画像:武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明 氏
ストロークの長さと方向を意識する
質感を表現するためには、ストローク(線を引く動作)の長さや方向にも注意が必要です。石やコンクリートのような粗い表面を描く場合は、短く不規則なストロークを使い、表面のザラザラ感を出します。
逆に、金属やガラスのような滑らかな素材には、長く均一なストロークを使い、光沢感を演出しましょう。ストロークのバリエーションを使い分けることで、素材の違いが視覚的に感じられるようになれます。
出典画像:武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 石原崇 氏
鉛筆の角度を変えて表現する
鉛筆の角度を変えることで、異なる線の質を作り出すことができます。例えば、鉛筆を寝かせ気味にして描くと、柔らかく広がる陰影が生まれ、布や皮革などの柔らかい質感に適しています。
逆に鉛筆を立てて鋭い線を描けば、ガラスや金属の硬質な質感を強調できます。鉛筆の角度を工夫するだけで、質感表現がよりリアルになります。
点描で細かい質感を表現する
細かい質感を出すためには、点描(ドット)を使うのも効果的です。砂や土、石のような粗い表面を描くときに、小さな点をランダムに配置することで、自然なザラつき感が表現できます。
密度を調整することで、影や濃淡も簡単に表現できるため、複雑な質感を描きたいときに役立つテクニックです。
ぼかしを利用して柔らかい質感を再現する
鉛筆の線をぼかすことで、柔らかい質感が生まれます。綿や布、雲のようなふんわりとした質感を出す場合には、鉛筆で軽く描いた後、ティッシュペーパー及び綿棒や指先で優しくぼかすと効果を得られます。
ぼかしによって、エッジのない柔らかい表現が可能になり、作品全体の奥行きも増します。
重ね描きで深みを出す
同じ部分を何度も重ねて描くことで、質感に深みが出ます。たとえば、毛皮や布のような層のある素材では、クロスハッチングで縦横斜めの4方向からの線を重ねることにより、細かな質感が強調できます。
濃淡の層を作ることで、質感にリアリティーが生まれ、作品に立体感が増す効果も得られます。
ハイライトを使って質感を強調する
最後に、質感をさらに引き立たせるためには、光の当たる部分にハイライトを入れることが重要です。鉛筆で描いた部分の一部を練り消しゴムで軽く拭き取ると、光沢感が表現でき、特にガラスや金属、湿った表面などがリアルに見えるようになります。
適切な位置にハイライトを入れることで、質感が強調され、作品全体が活き活きとした印象に仕上がります。例えば下の筆者の作品である、コーヒーポットのハイライトなどを参照してください。
午後のくつろぎ 2019 F1 鉛筆画 中山眞治
立体感を演出するための線の描き方とコツ
第1回個展出品作品 ペンギン 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
鉛筆デッサンにおいて立体感を出すためには、線の描き方が重要なポイントです。適切な線の使い方と工夫を凝らすことで、平面的な描写にも深みが加わり、モチーフがよりリアルに見えるようになります。
本章では、立体感を演出するための具体的な線の描き方とコツを紹介します。
重ね描きで深みを表現する
立体感を出すためには、線を重ねる「クロスハッチング」という技法が効果的です。クロスハッチングとは、縦横斜めの4方向の異なる方向で線を重ねて陰影をつける方法で、濃淡をコントロールしやすく、奥行きを出すことができます。
まずは薄めの線を軽く描き、その上に別の方向から線を重ねることで、影の深みが増し、立体感が強調されます。何層か重ねることで自然な濃淡ができ、物体に奥行きが生まれます。
筆者の場合には、明るい面や暗い面であっても、このクロスハッチングを基本として色面を構成しています。
描きにくい方向からの線については、スケッチブックや紙側を90°回転させることで問題なく描き込むことができます。
グラデーションで自然な陰影をつける
線を使って立体感を演出するためには、グラデーション(階調)を取り入れた陰影付けも欠かせません。筆圧を少しずつ調整して、徐々に濃くなる、あるいは徐々に明るくなるグラデーションを描くことで、滑らかな陰影を作れます。
モチーフに光が当たる部分から影になる部分にかけて、ゆるやかな濃淡をつけることで、自然な立体感が表現できます。このグラデーションを活用することで、よりリアルな奥行きが生まれます。筆者の次の作品を参照してください。
第2回個展出品作品 灯(あかり)の点(とも)る静物 2000 F30 鉛筆画 中山眞治
曲線を活用して形状を強調する
円柱や球体などの立体物を描く際には、曲線の線描きが有効です。曲線を使うことで、モチーフの丸みを強調し、立体感が引き立ちます。
たとえば、円柱のような物体には、表面に沿うように曲線を描き、物体の形状に合わせて陰影をつけると、自然で立体的に見えます。線の方向を工夫することで、単なる平面に奥行きをもたらすことができます。
鉛筆の握り方で線の強弱を調整する
鉛筆の握り方を変えることで、線の強弱をコントロールし、立体感を表現することも可能になります。軽い筆圧で細かい線を描くと、柔らかな質感や薄い影が表現できます。
逆に、鉛筆をしっかり握りしめ、強い筆圧で濃い線を描くと、影の深みや強調したい部分が際立ちます。このように使い分けることで、平坦な作品に奥行きが生まれます。
遠近法を意識した線の使い方
立体感を演出するためには、遠近法を取り入れると効果的です。遠くの部分には薄い線を、近くの部分には濃い線を使うことで、奥行きを表現できます。
たとえば、近くにある物体の輪郭はしっかりと描き、遠くにある物体は柔らかくぼかすことで、視覚的な距離感が生まれ、絵全体の立体感が増します。
国画会展 会友賞 誕生2013-Ⅱ F130 鉛筆画 中山眞治
エッジの強弱で立体感を引き出す
エッジ(色面の縁)をはっきりさせることで、モチーフの輪郭がくっきりし、立体感が引き出されます。影になる部分のエッジを濃く、光が当たる部分のエッジを薄くすることで、自然な陰影が生まれます。
こうしたエッジの強弱を意識することで、モチーフが引き立って見える効果が得られます。ただし、陰影のエッジでは、光源から離れるにしたがって、淡くなって行くことを再度認識しておきましょう。
ハイライトで明暗のコントラストをつける
立体感を引き出すためには、明るい部分(ハイライト)と暗い部分のコントラスト(明暗差)をつけることも重要です。鉛筆デッサンでは、明るい部分を意識して描かず、スケッチブックや紙の白さを残すことで、自然なハイライトが表現できます。
第1回個展出品作品 夜の屋根 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
特に光が当たる部分を残すことで、物体の形が立体的に見え、よりリアルな奥行きが生まれます。
これらの線の描き方とコツを活用して、鉛筆デッサンに立体感を持たせることで、より深みのある表現が可能になります。
劇的な光と影の対比は、作品に強い印象を与えられますので、色々試してみましょう。油彩にも負けないインパクトを実現することさえできますよ!
適切なグラデーションで自然な陰影を描く
第1回個展出品作品 反射 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
鉛筆デッサンにおいて、自然な陰影を描くためのグラデーション技法は、作品に立体感を与え、奥行きを引き出すための重要な要素です。
本章では、適切なグラデーションを使って、よりリアルな陰影を表現するためのテクニックを紹介します。初心者の人でも試しやすい内容なので、ぜひ参考にしてください。
筆圧を調整してグラデーションを作る
グラデーション(階調)の基本は、筆圧を少しずつ調整することです。光が当たる部分から影の濃い部分にかけて、ゆるやかに筆圧を増減させることで、滑らかなトーンの変化が生まれます。
最初は軽いタッチで始め、徐々に力を加えていくことで、自然な陰影が形成され、物体に立体感が出ます。練習の際には、グラデーションを滑らかに描くために、鉛筆の硬さも意識して選びましょう。
スムーズなトーン遷移を意識して描く
陰影のグラデーションでは、急激な変化を避け、トーンが自然に遷移するように注意します。硬めの鉛筆(HやHB)から柔らかい鉛筆(B系統)にかけて使い分けると、トーンの遷移が滑らかになり、リアリティーが増します。
光が当たる部分は軽めのタッチで、影になる部分はしっかりと濃く描くことで、自然な陰影の変化が生まれます。
鉛筆の角度と動かし方で陰影をつける
鉛筆の角度を調整して描くことも、陰影のグラデーションに効果的です。鉛筆をやや寝かせて描くと、広い面が紙に接触し、柔らかいトーンが生まれます。
逆に、鉛筆を立てて鋭く描くと、影の濃い部分やシャープな陰影を強調することができます。陰影の深さや明るさに応じて、鉛筆の角度と動かし方を変えることで、より細やかな表現が可能です。
クロスハッチングで濃淡をつける
クロスハッチング(4方向からの交差する線で濃淡を表現する技法)は、奥行きのある陰影を描く際に効果的です。異なる方向に線を重ねることで、影の深みが強調され、自然なグラデーションができます。
手早く、かつ確実に陰影を表現したい場合におすすめの方法です。線の密度を変えることで、陰影の濃さを自在に調整できます。
ぼかしを使って柔らかい陰影を作る
柔らかい陰影を作るために、ぼかし技法を使うのも効果的です。ティッシュ及び綿棒や指先を使って鉛筆の線をぼかすと、滑らかなグラデーションができ、自然な陰影表現が可能になります。また、ぼかし技法専用の道具として擦筆(さっぴつ)というものもあります。
擦筆の画像です
ぼかしは特に、肌や布などの柔らかい質感を出したいときに適しており、エッジのない陰影を描くことで、リアリティーが増します。
明るい部分を残して陰影のコントラストを出す
グラデーションで陰影を描く際、光が当たっている明るい部分をあえて残しておくことで、全体のコントラストが際立ちます。
影の濃淡がはっきりするため、デッサン全体が引き締まり、立体感がより一層引き立ちます。スケッチブックや紙の白を生かすことで、自然なハイライト効果が得られます。
練習を重ねて滑らかな陰影を描くコツをつかむ
グラデーションの技術は、練習を重ねることで身につきます。さまざまな硬さの鉛筆を試したり、筆圧を調整したりして、陰影をスムーズに描くコツを習得しましょう。
最初は、シンプルな形を使って陰影の練習をすると良いです。小さなグラデーションから始めて、徐々に大きなモチーフへと挑戦することで、陰影の表現が上達していきます。
適切なグラデーションで自然な陰影を描くことで、鉛筆デッサンに立体感とリアリティーを持たせることができます。
細部にこだわりすぎない大胆さの重要性
第1回個展出品作品 マリリン・モンロー 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
鉛筆デッサンで作品を仕上げる際に、細部に集中しすぎてしまうことがよくあります。しかし、全体のバランスや大胆さを保つことも、魅力的な作品を生み出すために重要です。
本章では、細部にとらわれすぎず、思い切りのある表現で作品を引き立たせるためのコツを紹介します。
全体の構図とバランスを意識する
鉛筆デッサンを始めるときは、全体のバランスを意識することが大切です。最初に細かい部分から描き始めてしまうと、全体のバランスが崩れてしまうことがあります。
大胆に、制作の対象であるモチーフの輪郭を描き出し、主要なラインや大きな形を最初に捉えることで、作品全体がまとまりやすくなります。細部よりも全体の雰囲気を先に押さえることが、鉛筆デッサンの質を向上させる第一歩です。
細部は最後に仕上げとして描き込む
デッサンの初期段階で細かい部分にこだわらないことが、完成度の高い作品を生み出す秘訣です。まずは大まかな形や影を大胆に描き込み、作品の雰囲気や全体の輪郭を整えてから、最後に細部を描き込んでいきましょう。
このように進めることで、全体の調和を保ちながら、細かい部分にもアクセントを加えられます。大胆な線や陰影を活かし、細部を後から追加することで、作品に奥行きが出ます。
鉛筆の力強いタッチを意識する
鉛筆デッサンの大胆さを強調するためには、鉛筆の力強いタッチが効果的です。躊躇せず、思い切りよく鉛筆を動かすことで、線に動きや生命力が宿ります。
筆圧を変えながら、粗く描く部分と繊細に描く部分のコントラスト(明暗差)をつけることで、視覚的なメリハリが生まれます。特に背景や陰影の表現において、大胆なタッチが作品の印象を引き立たせます。
「省略」のテクニックを活用する
すべてを細かく描き込むのではなく、「省略」のテクニックを使うと、デッサンがより洗練された印象になります。
視覚的に重要な部分には細密描写を施し、それ以外の部分は軽くスケッチする程度に抑えると、観てくださる人の目を引きつける効果を得られます。
省略により、余白が生まれ、観てくださる人に自由な解釈を委ねる余地が生まれるため、作品に奥行きとストーリーが感じられるようになります。画面全体にびっしりと描き込まれた作品では、「息苦しい」印象を与えてしまうので注意が必要です。
尚、我々人間の目は、細かい柄や模様のような部分に注目してしまう習性があります。あなたが伝えたい感動及び、強調したい主役や準主役となるモチーフや、観てもらいたい部分を選んで細密描写しましょう。
そして、主役や準主役以外の脇役や、特にメインとなっていない部分については、「意図的に手を抜いて」主役や準主役を引き立てましょう。
あるいは、全体を克明に描いたとしても、主役や準主役にははっきりとハイライトを当てて、それ以外のモチーフには、「ハイライトを抑えて描く」ことによって、主役や準主役を引き立てられます。
何でもかんでも克明に描くことは、必ずしも良いことではないのです。全部を克明に描いてしまうと「何が言いたいのか分からない作品」と言われかねません。
端的な例では、実際の風景には「電柱や電線」があっても、意図的にそれらの「美観に邪魔になるもの」を省いて描くことは当たり前に行われているということです。これを「デフォルメ」と呼び、省略・削除・縮小・拡大・変形など、自由に行えます。^^
視点を離して全体を確認する
鉛筆デッサンに没頭しすぎると、細かい部分ばかりに目がいき、全体のバランスを見失いがちです。時々視点を離し、少し距離をとって全体を確認することで、必要以上に細部にこだわりすぎていないかをチェックしましょう。
この方法は、作品全体の構成を整えるために非常に有効です。離れて見ることで、大胆な表現の重要性を再認識できます。
鉛筆デッサンに「遊び心」を取り入れる
細部を描き込みすぎると、作品が息苦しい印象になることがあります。鉛筆デッサンに「遊び心」を取り入れ、あえて線を粗く引いたり、筆圧を変化させたりして、自由な表現を楽しむことが、作品に個性を加えるポイントにもなります。
大胆なタッチや自由な線を取り入れることで、より活き活きとした作品に仕上がります。
練習を通じて大胆さと細やかさのバランスを学ぶ
細部にとらわれずに大胆に描くことは、練習を通じて徐々に身についていきます。日々の練習では、まずは大胆に輪郭を描き、少しずつ細部を加える習慣を身につけましょう。
このプロセスを繰り返すことで、全体のバランスを崩さずに細部を描き込むスキルが身につき、デッサンにおける大胆さと繊細さのバランスが取れるようになれます。
鉛筆デッサンで細部にこだわりすぎず、全体の流れを重視することで、作品がより魅力的に映ります。
作品全体のバランスを見直して美しく仕上げるコツ
午後の寛ぎ 2019 F1 鉛筆画 中山眞治
鉛筆デッサンで美しい作品に仕上げるためには、作品全体のバランスを常に意識することが重要です。部分にこだわりすぎると、全体の統一感が損なわれがちですが、バランスを整えることで、完成度の高い作品が生まれます。
本章では、作品全体のバランスを見直して、美しい仕上がりにするための具体的なコツを紹介します。
中心点を決めて構図を整える
描くことに慣れて来られて、構図を研究し始める際には、一番簡単な構図上の中心点(線)に、人物を置くだけでも、充分な効果を得られます。
具体的には、制作画面の実寸に対して、÷1.618で得られた寸法を左右から測ると、2つの黄金分割線を得ることができますが、その一つの黄金分割線上に人物の中心を置くだけでも、充分見やすい構図になります。
また、もう一方の黄金分割線上には、準主役的な何かを配置するとかでよいのです。また、画面の上下にも同じように黄金分割線を得られますのが、床の高さ及び地平線や水平線に使うという方法で、画面の中に何の違和感もなく構図を導入することができます。
このように、絵画の世界での「中心点(線)」とは、画面の寸法上の中心点(線)ではなくて、構図による分割点(線)を指しますので記憶しておきましょう。
そして、デッサンの始めに、作品の(構図上の)中心点を意識することで、構図が整いやすくなります。中心となるポイントを決め、それに対して各要素を配置することで、観てくださる人の視線が作品の中を自然に流れるようになります。
主要な形状をまず大まかに捉える
細かい部分にこだわる前に、主要な形状や構成を大胆に描きましょう。まず大まかにアウトラインを描くことで、全体の配置が確認できます。
たとえば、風景画では、遠くの山や建物、大きな木などを先に描き込み、後から細部を追加していくとバランスが整います。大きな形状を先に描くことで、各部分の比率や配置が把握しやすくなり、作品全体のバランスが整います。
光と影の分布を意識する
光と影の配置を工夫することで、作品全体のバランスを調整できます。例えば、光の当たる部分と影の部分を意識的に配置し、明暗のコントラスト(明暗差)をつけることで、奥行きや立体感が生まれます。
作品の片側に影を集中させ、もう一方に明るい部分を配置することで、視覚的なバランスがとれ、作品全体に統一感が生まれます。明暗の分布に気を配ることで、作品が引き締まり、メリハリが生まれます。
具体的には、次の筆者の作品を参照してください。画面左上に「窓」を模した部分を作り、観てくださる人の印象が、外の空間をイメージできることで、画面の中の「息苦しさ」を解消しています。これを「抜け」と呼びます。
灯(あかり)の点(とも)る窓辺の静物 2022 F10 鉛筆画 中山眞治
この抜けは、あらゆるジャンルの作品に応用できますので、記憶しておきましょう。この抜けの外の景色を「薄く小さく描く」ことによって、遠近法を取り入れることもできます。
余白を活かして構成を引き締める
余白を適切に活かすことも、バランスを保つための有効なテクニックです。すべてのスペースを埋めようとすると、窮屈な息苦しい印象になりがちです。
空間をあえて残すことで、観てくださる人の視線が作品の中心に集中し、作品全体に余裕が生まれます。余白を取り入れることで、描きたい部分が強調され、自然なバランスが整います。
視線の誘導を意識した配置を工夫する
作品の中で視線を誘導することで、全体のバランスが向上します。例えば、モチーフが向いている方向に視線を引くことで、絵の中を自然に見る人の目が流れるようになります。
また、線の流れや陰影の方向を活用して、視線が特定のポイントに導かれるように工夫することで、作品全体の一体感が感じられる仕上がりになります。
次の筆者の作品では、画面左下から画面右上の方向へ観てくださる人の視線を誘導しています。画面左下の隅には見えづらいかもしれませんが、地面の中から芽を出そうとしているモチーフがあります。
そして、その右上には、地面の中から抜け出たばかりのモチーフがあり、一番目立つところに主役のモチーフを据えています。
この3つのモチーフで、生命のリズムや躍動を表現し、背景には死の象徴である「枯葉」を置いて生と死の対比を行い、視線の誘導を目的にして「タバコの吸い殻」を配置しています。こんな風に工夫することもできるわけです。
国画会展 入選作品 誕生2001-Ⅱ F80 鉛筆画 中山眞治
鉛筆のタッチや筆圧の変化で統一感を持たせる
バランスを意識するためには、鉛筆のタッチ(筆触及び線や調子)や筆圧の変化を使い分けることも効果的です。全体的に同じ筆圧やタッチで描いてしまうと、絵が平坦に見えることがあるからです。
柔らかい部分には軽いタッチを、影や強調したい部分には強めのタッチを取り入れることで、作品にリズムが生まれます。タッチを変えることで、自然な統一感が出て、作品が調和します。
全体を遠目からチェックすることの重要性
作品全体のバランスを整えるためには、制作段階初期の大きく輪郭を取った後では、一旦休憩をはさんで、改めて画面を点検することが最も重要です。
描き始めからどんどん勢いづいて描き進んでしまうと、途中から大幅な修整に迫られることもあるからです。また、途中段階や完成前にも、少し離れて遠目から全体を確認することは重要なひと手間です。
細かい部分ばかり見ていると気づかない点も、少し距離を置くことで全体のバランスが客観的に見え、微調整がしやすくなります。
これらのテクニックを活用し、作品全体のバランスを見直すことで、鉛筆デッサンに美しさと統一感を持たせることができます。
まとめ
誕生 2020-Ⅱ F4 鉛筆画 中山眞治
鉛筆デッサンで美しくリアルな作品を仕上げるには、全体のバランスや陰影の付け方による立体感など、いくつかの基本的なポイントを押さえることが重要です。
細部にこだわりすぎず、光の配置、グラデーション、そしてやがては構図を駆使することで、より完成度の高い作品が生まれます。以下では、デッサンを上達させるための7つのコツをまとめましたので、参考にしてください。
Ⅰ 全体の構図と中心点を意識する
作品の中心点を決め、主要な形状から制作することで、視線が自然に流れる作品を作り出せます。また、描くことに慣れてこられましたら、一番簡単な構図を使って、モチーフを配置していきましょう。
Ⅱ 大胆さを保ちながら細部を最後に仕上げる
まず大まかに形や影を描き、全体のバランスを整えてから細部を描き込むと、統一感が生まれます。
Ⅲ 光と影のコントラストで奥行きを演出
光源の位置に基づいて影を配置し、濃淡のコントラストをつけることで、絵に深みと立体感を加えます。
Ⅳ 自然なグラデーションで滑らかな陰影をつける
筆圧や鉛筆の角度を調整し、滑らかなグラデーションを描くことで、リアルな陰影表現が可能になります。ぼかし技法も併せて試してみましょう。
Ⅴ 余白と省略を活かして視覚的なバランスを保つ
すべてを描き込むのではなく、あえて余白を残し、省略する(意図的に手を抜く)部分を作ることで、見どころが強調され、作品に余裕が生まれます。
Ⅵ 視線の誘導とエッジの強弱で統一感を持たせる
視線を自然に誘導する配置や、エッジ(描線の境目)に強弱をつけることで、デッサンにリズムが生まれ、調和が増します。
Ⅶ 遠目で全体を確認し微調整する
遠くから全体を見直し、特定の部分が浮いていないか(描き加える必要がある部分)を確認することで、細部と全体のバランスが整います。
これらのポイントを取り入れることで、鉛筆デッサンのクオリティーが大きく向上し、誰もが惹きつけられる美しい作品が完成します。
ではまた!あなたの未来を応援しています。
大きな輪郭を捉える際には、鉛筆を人指し指・中指・親指で優しく軽く持ち、肩と腕を振るって大きく、自由に描くイメージで描き進んでいきましょう。