こんにちは。私は、アトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治です。

筆者近影 作品「月のあかりに濡れる夜Ⅱ」と共に
さて、鉛筆画で人物を描く際には、顔と同じくらい重要なのが髪の毛の描写です。
特に、男性と女性では髪型や質感、ボリューム感が異なり、それを適切に描き分けることが作品の完成度を一段と高めることに結びつきます。
しかし、どこをどう変えれば違いが出るのか、初心者の人には難しい部分でもあります。
この記事では、鉛筆画を描く上で男性と女性の髪の描写に注目し、それぞれの特徴をとらえた5つのポイントをわかりやすくご紹介します。
陰影のつけ方、髪の毛の流れの工夫、ボリュームの調整法まで、すぐに実践できる内容となっています。
それでは、早速見ていきましょう!
髪の毛のボリューム感を描き分ける
髪の毛のボリュームは、人物の印象に大きな影響を与えます。
特に、男性と女性では、髪の毛の量や膨らみ方に違いがあるため、その差をしっかりと意識して描くことが重要です。
尚、筆者の場合には、次の作品「少年」でもそうですが、一旦髪の毛の部分全体にHBの鉛筆で優しく軽いタッチの縦横斜めの4方向の線(クロスハッチング)で面を埋めます。

第1回個展出品作品 少年 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
そして、髪の毛の光っている部分を「練り消しゴム」を練って、先端を鋭い形状にして「拭き取り」ます。その後、それぞれに必要なトーンを乗せていけば、完成に向かうことができます。
この方法は、動物の毛並であっても、静物の空きビンやガラスコップの描写にも応用が利きます。簡単に描くことができますので、次の作品を参照してください。

第1回個展出品作品 ブラザーウルフⅠ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治

第1回個展出品作品 反射 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
本章では、男性と女性の髪の違いについて解説します。
男性は面を意識した密度の描写が必要
男性の髪は短く、頭部に沿った「面」の印象を活かして描くと自然です。

髪の流れよりも、面としてのまとまりを強調することで、シャープな印象が表現できます。
女性は毛束の広がりと空気感を演出
女性の髪は長く、毛束が外側に向かって広がります。

そのため、ストロークを外向きに柔らかく伸ばすことで、空気を含んだ軽やかな表現が可能になります。
根元から毛先へグラデーションを
髪の根元を濃く、毛先に向けて薄く描くことで、立ち上がりから自然なボリュームへとつながります。

筆圧を段階的に変えることで、流れるような立体感が生まれます。
毛の流れの方向性を意識して描く
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第1回個展出品作品 マリリン・モンロー 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
髪は、単なる線の集合ではなく、全体に流れる方向性を持っています。
本章では、男女で毛の流れの動きや印象が異なるため、その違いを捉えることでリアリティーが増すことについて解説します。
男性は方向を整えてまとまりを重視
短髪の男性は、髪の流れが比較的一方向に揃っており、清潔感や力強さを演出できます。

髪の生え際から放射状に描くのが基本です。
女性は流れに緩急と変化をつける
女性の髪はウェーブや長さがあるため、毛の流れが一定ではなく、動きがあります。

曲線やうねりを使い、緩やかな変化で自然な女性らしさを表現しましょう。
毛の重なりや交差に注意
毛の流れが交差する部分では、線が重なることで濃さや密度に変化が生まれます。

これにより奥行きと動きが強調され、より写実的な髪が描けます。
毛の流れの方向性を丁寧に観察し、男性は整った流れ、女性は緩やかな変化をもたせることで、性別の印象がより明確になります。
陰影の入れ方で質感を変える
髪の質感や立体感は、一本一本の線だけでなく、陰影の配置で大きく変わります。

第1回個展出品作品 人物 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
本章では、性別ごとに質感の出し方を変えることで、より自然な人物像が完成できる点について解説します。
男性は陰影で骨格を引き立てる
男性の髪は短く、頭の形に沿った面としての構造が目立ちます。

そのため、光が当たる部分と影になる部分を明確に分け、骨格の形状を陰影で表現すると、力強い印象になります。
女性は明暗を滑らかにグラデーション
長く柔らかい髪の描写では、急な明暗の差は避け、穏やかなグラデーション(階調)を意識します。

光があたる部分から、影の部分へと自然につながるように、なめらかな筆致が効果的です。
光源に合わせた立体表現
光の位置を明確に設定し、髪の分け目や内側、首筋に落ちる影を調整します。

特に、光と髪の層の重なりによって生まれる立体感が、写実的な表現には不可欠です。

陰影によって、髪のボリュームと質感は大きく変化します。男性は構造を、女性はなめらかな質感を意識して描き分けることで、印象が一段と引き立ちます。
髪型の輪郭とフォルムを丁寧に捉える
人物の外観は、髪のシルエットに大きく左右されます。

第1回個展出品作品 人物Ⅳ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
本章では、髪型の輪郭を適切に捉え、男女での形の違いを意識することが重要である点について解説します。
男性は髪型の輪郭をシャープに仕上げる
襟足や側頭部は角をつけるような描写が効果的です。

直線や鋭角を意識し、全体の印象を引き締めることで男性らしさを強調できます。
女性は髪型の輪郭に曲線を多用する
丸みを帯びた柔らかいラインで包み込むように描くと、優しい印象になります。

毛先も外向きに軽く広げることで、自然な動きが出ます。
髪型の輪郭と顔との接続を自然にする
髪の輪郭だけを強調しすぎると、顔が浮いて見えてしまいます。

特に、耳や頬に触れる髪は、顔のラインとの自然なつながりを意識して描写を調整します。
髪型の輪郭は、印象の決め手になります。男性は鋭くコンパクトに、女性は曲線的に包むようにすることで、それぞれの特徴がより明確に表現できます。
部分的なディテール(詳細)で性別の印象を補強する
髪の細部の表現は、人物全体の完成度に直結します。

第1回個展出品作品 人物Ⅵ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
本章では、髪の分け目や毛先、前髪などの細かな表現で性別の印象を強化することができる点について解説します。
男性は生え際や分け目を明瞭に
額のラインや、もみあげ部分をしっかり描くことで、男性らしい顔立ちを引き立てます。

特に、額周辺は薄くなりがちなため、骨格のラインを意識した表現が効果的です。
女性は分け目や前髪を柔らかく
女性の髪は流れるようなラインで、前髪や分け目が自然に広がる描写が求められます。

あえて完全に線で囲わず、空気を含ませるように描くと柔らかさが増します。
毛先の動きで表情を加える
毛先を少し跳ねさせたり、流れを持たせることで動きが生まれます。

女性は、特に毛先の処理で雰囲気が大きく変わるため、表現の幅を持たせましょう。

細部の描写は、全体の印象を決定づけます。男性は明確なラインでシャープに、女性は柔らかく動きのある描写を意識することで、性別を自然に描き分けられます。
練習課題の提案【5個】

第1回個展出品作品 人物Ⅲ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
本章では、具体的な課題を提案して、あなたが実際に練習できる環境を整えました。
課題1:短髪男性の側頭部を描写する
正面ではなく斜めから見た男性の横顔をモチーフに、髪の面としての構造と密な筆致を意識して描きましょう。

襟足や、耳まわりの直線表現を観察します。
課題2:長髪女性の毛束感と広がりを描写する
髪をおろした女性の後ろ姿を描き、毛束の重なりとグラデーション(階調)、空気感のある広がりを表現します。

特に、毛先の流れに注意を払いましょう。
課題3:光源を設定した髪の陰影表現
男女どちらでもよいので、光源を決めてその位置に応じた陰影を描いてください。

分け目・生え際・後頭部などの光の当たり具合に差をつけましょう。
課題4:男性と女性のシルエット比較練習
正面から見た、男性と女性の髪型を並列に描き、それぞれの輪郭線や全体のフォルムの違いを表現します。
片方は曲線的(女性)に、もう片方はシャープ(男性)に。


課題5:前髪と分け目のディテール描写
女性モデルの斜め顔を選び、前髪や分け目の自然な動きと空気感、重なりを重点的に描きます。

筆圧と線の、強弱の練習にも効果的です。
練習課題には、実際に手を動かして実践してみましょう。鉛筆画は、練習するほど確実に画力がアップします。
まとめ:男女の髪の描き分けが鉛筆画の完成度を決める

第1回個展出品作品 人物Ⅴ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
鉛筆画において、髪の描写は人物の印象を大きく左右します。
特に、男性と女性の髪は、形状・質感・流れ・ディテール(詳細)などに明確な違いがあるため、これらを意識的に描き分けることが作品の完成度を高める鍵となります。
今回紹介しました、5つのポイントを押さえれば、初心者の人でも性別の特徴を自然に表現できるようになれます。
以下に、ポイントを整理しておきます。
- 髪のボリューム感は、男性はコンパクトに、女性は広がりと空気感を重視して描く。
- 毛の流れは、男性は整った方向性、女性は緩急と動きを活かす描写が効果的。
- 陰影のつけ方では、男性は構造を、女性は滑らかなグラデーション(階調)を意識。
- 輪郭の処理は、男性は直線的にシャープに、女性は曲線的に包み込むように描写。
- 細部では、生え際や前髪、毛先の描き分けにより性別の印象を明確にできる。
こうした違いを踏まえて描くことで、単なる鉛筆画による似顔絵やデッサンを超えた、人物の魅力や個性を引き出すことができます。
最初は、細かい描き分けを難しく感じるかもしれませんが、練習課題を通じて視点を養い、繰り返し描写することで自然と表現力が身についていきます。
髪は、描けば描くほど上達するモチーフです。性別の違いを理解し、それぞれの特徴を描き分けられるようになることは、人物の鉛筆画全体の精度向上にもつながります。
まずは1つの課題からでも良いので、実際に鉛筆を持って描き始めてみましょう。
ではまた!あなたの未来を応援しています。
ボリューム感の描写は、密度・広がり・グラデーションで調整できます。男性はコンパクトに、女性は空気感と広がりを意識して描き分けましょう。