こんにちは。私は、アトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治です。

筆者近影 作品「静物2025-Ⅲ」と共に
さて、鉛筆だけで描かれたアートは、独特の奥深さと魅力を持っています。とくに、鉛筆画やデッサンでの立体感の表現は、その魅力を最大限に引き出す鍵となります。
しかし、立体感をしっかりと描写するためには、光と影の適切な取り扱いが不可欠です。
この記事では、初心者の人から中級者の人に向けて、光と影の基本的なガイドラインをわかりやすく解説しましょう。
実践的なテクニックや、日常の中での観察のポイント、そして練習方法まで網羅的にご紹介して、あなたの鉛筆画やデッサンのスキルアップをサポートします。
それでは、早速どうぞ!
基本の光と影:鉛筆画・デッサンでの明暗の基礎知識

第2回個展出品作品 ランプのある静物 2000 F50 鉛筆画 中山眞治
鉛筆画やデッサンの魅力の一つは、色の多様性に頼らず、モノトーンで立体感を表現する技法にあります。
この立体感は、光と影、そして明暗の差によって成り立っているのです。
本章では、初めての人でも、この基礎知識を把握することで、作品の質を大幅に向上させることができる点について解説します。
光の強弱とその効果
光の強弱は、モチーフの表面にどれだけの明るさが当たっているかを示しているのです。
強い光は、明るい部分を強調し、逆に影までも深くします。次の作品を参照してください。

第2回個展出品作品 ランプの点(とも)る静物 2000 F30 鉛筆画 中山眞治
一方、弱い光は、全体的に柔らかな雰囲気を作り出します。この光の強弱を意識的に活用することで、作品に深みや緊張感を持たせることができるのです。
影の種類とその役割
影には大きく分けて、投影される「落ち影」とモチーフ自体が持つ「形影(けいえい)」の2種類があります。
落ち影は、光源からモチーフによって遮断されることで生じる影で、その形や長さで光の方向や強さを示唆しているのです。次の作品を参照してください。

国画会展入選作品 誕生2006-Ⅰ F100 鉛筆画 中山眞治
一方、形影は、モチーフの表面の凹凸によって生じる微妙な影で、これを上手く表現することでモチーフの質感や形状を強調できます。
明暗のバランスとその重要性
明るい部分と暗い部分のバランス、これが鉛筆画やデッサンでの明暗の鍵となります。次の作品を参照してください。

第2回個展出品作品 寂夜 1998 F10 鉛筆画 中山眞治
このバランスがうまく取れていると、作品全体に奥行きが生まれ、観てくださる人の目を引きつけることができるのです。
逆に、明暗のバランスが崩れると、平面的に見えることがあります。
デッサン初心者が知るべき!光の方向と影の形成の関係

鉛筆画やデッサンとは、3Dの現実のモチーフや風景を、2Dの紙上に再現する技術となります。
この技術を磨くうえで、光の方向と影の形成の関係性は、必ず理解しておくべき重要な点であり、光の方向が変わることで、モチーフ上やその周辺に生じる影の形や長さも変わるのです。
初心者の段階から、この関係性をしっかり学ぶことで、よりリアルな鉛筆画やデッサンが可能となります。
光の方向の基本的な理解

光がモチーフに当たる角度によって、影の形や長さは大きく変わります。
たとえば、光が上から斜めに当たる場合、モチーフの影はその反対方向に伸びるのです。
また、光の方向が低い場合、影はより長くなります。このような光の当たる角度と影の関係を理解することで、モチーフの形や配置をより適切に表現することができます。
影の形成のプロセス
モチーフが光を受けると、必ず影が生じます。この影は、「核影」と「半影」の二つの部分からなります。核影は最も暗い部分で、光が一切当たっていない部分です。
一方、半影は核影の周辺で、部分的に光が当たっているところになります。次の作品を参照してください。

第1回個展出品作品 夜の屋根 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
これらの、二つの影の部分を適切に描写することで、モチーフの立体感を強調することができるのです。
実践!光と影を活用した鉛筆画やデッサンのコツ
鉛筆画やデッサンを描く際には、まず光の方向を確認しましょう。
その方向に基づいて、モチーフの形や配置を適切に捉えることが重要です。
また、影の部分を描く際には、筆圧を調整して明暗を表現することがポイントになります。



初心者の人は、簡単な形のモチーフから始めて、光と影の関係性を徐々に学ぶと良いでしょう。
中級者向け:質感と材質に応じた光と影の描き方

鉛筆画やデッサン中級者の人が、次のレベルへ進む際の大きなステップは、質感や材質を適切に描写する技術の獲得です。
異なる材質や質感は、光と影の取り扱い方に違いをもたらします。
本章では、この段階での技術の習得が、あなたの作品にリアリズムと深みをもたらす鍵となる点について解説しましょう。
光の反射による質感の違い
光は、異なる材質に応じて、異なる方法で反射します。
たとえば、光沢のあるモチーフ(金属やガラス)は、鋭い明るさや反射を持つのです。
一方、マット(艶消し)な質感の物体(布や木材)は光を柔らかく散乱させます。これらの特性を捉えることで、材質のリアルな再現が可能となります。次の画像を参照してください。

出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 石原崇 氏

出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明 氏

出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明 氏
材質別の影の特性
異なる材質は、それぞれ独特の影の特性を持っています。硬いモチーフはクリアな影を形成し、その境界がくっきりしています。
一方、柔らかいモチーフは影の境界がぼやけ、滑らかな移り変わりを持っているのです。
鉛筆画中級者の人は、このような微細な違いを描写する技術を磨くことで、作品の質をさらに高めることができます。次の画像を参照してください。

出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明 氏
実践的なテクニック:筆圧と陰影技法
質感や材質に応じた、光と影の描き方をマスターするには、筆圧と陰影技法の技術が欠かせません。
硬い材質は、強い筆圧で明確な境界を描き、柔らかい材質は軽い筆圧でぼやけた境界を作成しましょう。次の作品を参照してください。

第1回個展出品作品 反射 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
また、陰影技法の技術を活用して、モチーフの表面の質感や凹凸を適切に表現することが求められます。
質感と材質に応じた光と影の描写は、鉛筆画の中級者の人が、次のステップへと進むための重要なスキルです。

これらのテクニックを磨くことで、あなたの作品は更なるリアリズム(写実性)と深みを持つことでしょう。
実践テクニック:光と影を用いたリアルな立体表現のコツ

立体的な描写は、鉛筆画やデッサンの真骨頂です。
光と影の使い方を熟知することで、2Dの紙上で3Dの世界を鮮やかに再現することができます。
本章では、その実践的なテクニックを解説し、リアルな立体表現のコツを探求しましょう。
光の方向を明確にする
立体感を出すための最初のステップは、光の方向を明確にすることです。
光源の位置によって、モチーフの形状や質感が際立ちます。次の作品を参照してください。
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第1回個展出品作品 金剛力士像(阿形) 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
光の角度を変えるだけで、異なる印象の作品が生まれるので、光の方向を実験的に変えてみると良いでしょう。
明暗の差を強調する
リアルな立体感を出すためには、明るい部分と暗い部分の明暗の差をしっかりと描写することが必要です。
とくに、モチーフの端や角に注目して、明暗の違いを強調することで、モチーフの形状や深さを強く表現できます。次の作品を参照してください。

第1回個展出品作品 サン=ドニ運河 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
影の階調(グラデーション)を細密に表現する

第3回個展出品作品 灯の点る窓辺の静物 2022 F10 鉛筆画 中山眞治
影は、単に暗い部分として描写するだけではなく、その中でもさまざまな濃淡が存在します。
核影から半影への階調(グラデーション)を細密に描写することで、モチーフの質感や立体性をより精緻に再現することができるのです。
反射光を活用する
モチーフの暗い側にも微かな光が当たることがあり、これを反射光といいます。次の画像を参照してください。

この反射光を適切に描写することで、モチーフの立体感や質感をよりリアルに表現することができます。とくに、光沢のある材質や湿った表面の描写において、反射光の役割は非常に大きいのです。
光と影を巧みに使うことで、平面上での描写に深みと立体感を持たせることができます。

蕨市教育委員会教育長賞 灯(あかり)の点(とも)る静物 2000 F30 鉛筆画 中山眞治
これらのテクニックを組み合わせることで、あなたの作品は一段とリアルなものとなるでしょう。
作品をレベルアップ!光と影の適切なバランスと明暗の差の調整

光と影のバランスは、作品の印象を大きく左右します。
適切な明暗の差を持つ作品は、観てくださる人の目を引きつけ、深い印象を残すことができます。
しかし、そのバランスを見つけるのは簡単なことではありません。
本章では、作品を更にレベルアップさせるための、光と影のバランスと明暗の差の調整テクニックを探ります。
光と影のバランスの基礎

第1回個展出品作品 昼下がりの桟橋 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
作品における光と影のバランスは、主題(主役や準主役、以下主題)や背景、そして全体の構図(※)に深く関連しています。
明るい部分と暗い部分が、適切なバランスによって存在することで、作品に奥行きとリアルな立体感が生まれるのです。
一つのヒントとして、モチーフの形状や質感を適切に再現するために、光と影の境界を意識して描写しましょう。
また、実際に部屋の明かりを消して、ランプやロウソクの明かりでモチーフを照らして制作するのも趣がありますよ。^^
しかし、絶えず暗いところで描き進めることは無理もあるので、そんな場合には、「画像」に収めておくことも考えましょう。スマートフォンやデジカメなどで撮影した画像をパソコンで拡大して制作することもできます。
尚、この薄暗い中での撮影には、スマートフォンでは難しいかもしれませんので、スマートフォンで撮影する人は、実際に撮影できるかどうかよく確認しましょう。無理な場合には、撮影可能なデジカメで試してみましょう。
※ 構図については、この記事の最終部分に関連記事を掲載してありますので、関心のある人は参照してください。
明暗の差の重要性
大きな明暗の差は、強い印象を与えられる反面、バランスを取りづらくなる場合もありますが、劇的な光と影の対比には、この強い明暗の差が必要になります。次の作品を参照してください。

第1回個展出品作品 ノートルダム寺院 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
逆に、弱い明暗の差は穏やかな印象を与えるものの、立体感が弱まる可能性もあるのです。
目的や作品のテーマに応じて、適切な明暗の差を選びましょう。
テクニック:中間調の活用
中間調は、明るさと暗さの中間に位置する色調のことを指します。中間調をうまく活用することで、作品に滑らかな階調(グラデーション)や深みを持たせることができます。
とくに、人物の顔や風景画において、中間調の扱いは非常に重要です。中間調を基本ベースに構成することで、それ以外のモチーフが引き立てられるようになることが多いのです。次の作品を参照してください。

第1回個展出品作品 少年 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
具体的には、中間調と相反する明るいトーンは、手前に出てくるような印象を与えられますし、逆に、中間調よりも暗いモチーフは、一段奥に引っ込んだ表現に使うことができます。
さらなる深みを!反射光と陰影のニュアンス
光と影のバランスをさらに洗練させるには、反射光や陰影の微細なニュアンスを捉えることが鍵です。
たとえば、モチーフの暗い部分に微かに見える反射光を描写することで、モチーフの形状や質感をより細密に表現することができます。前述しました、「反射光」を思い出しましょう。^^
具体的には、あなたが描こうとしているモチーフが複数であった場合に、そのモチーフに反射している他のモチーフのわずかな光も描き加えることで、リアルな表現となって観てくださる人の注意を引くでしょう。次の作品を参照してください。

第2回個展出品 灯(あかり)の点(とも)る窓辺の静物 F100 2000 鉛筆画 中山眞治
作品のクオリティーを向上させるためには、光と影のバランスや階調の調整が不可欠なのです。

これらのテクニックを磨くことで、あなたの作品はより深みを持ち、観てくださる人の心を捉えることでしょう。
まとめ(鉛筆画・デッサンの真髄:光と影の適切なバランスと明暗の差の調整)

鉛筆画やデッサンにおける立体的な描写は、その作品の魅力を大きく引き立てる要素となります。とくに、光と影のバランスは、作品全体の印象を左右する極めて重要なポイントです。
しかし、その微妙なバランスを探るのは簡単なことではありません。この記事では、あなたの作品を更にレベルアップさせるための、光と影のバランスと明暗の差の調整テクニックを深堀りしてきました。
まず、作品の中での光と影のバランスについてでは、主題や背景、そして全体の構図と深く関連しているのです。
モチーフや人物が持つ独自の形状や質感を正確に捉え、再現することで、作品に奥行きとリアルな立体感を生み出すことができます。とくに、光と影の境界や中間調を意識して描写することで、より滑らかで豊かな表現が可能となります。
次に、明暗の差の調整。強い明暗の差は迫力ある印象を作り出しますが、過度になるとバランスが崩れる場合もあるのです。
一方、弱い明暗の差は、穏やかで柔らかい印象をもたらしますが、立体感が不足する恐れもあります。作品のテーマや意図に合わせて、最適な明暗の差を選ぶ必要があります。
さらに、反射光や陰影の微細なニュアンスを捉えることで、作品に深みと繊細さを加えることができるのです。
そして、モチーフの暗い部分に、微かに見える反射光を巧みに描写することで、モチーフの形状や質感をより鮮明に表現することが可能になります。
光と影の適切なバランスや明暗の差の調整は、鉛筆画やデッサンの作品を一段と引き立てる鍵となるのです。
これらのテクニックを磨くことで、あなたの作品は観てくださる人の心を深く打つことでしょう。立体感あふれる作品制作の参考として、この記事の内容をぜひ実践に役立ててください。
尚、あなたが展覧会や公募展へ出品を希望する際には、ただモチーフを上手に描けるだけでは入選できません。
それは、あなたの制作する画面全体を使いきって、作品全体を魅力的な構成にする必要があるのです。その内容について興味のある人は、次の関連記事を参照してください。
関連記事:初心者でも簡単!プロが教える鉛筆画の構図の取り方やコツとポイント
また、「人生が充実する、鉛筆画やデッサンがもたらす驚きのメリットと魅力!」という次の記事もありますので、関心のある人は参照してください。^^
ではまた!あなたの未来を応援しています。








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明暗の調和を意識して、鉛筆の筆圧を調整することで、リアルな立体感を表現することができるのです。