こんにちは。私は、アトリエ光と影の代表で、プロ鉛筆画家の中山眞治です。

筆者近影 作品「月のあかりに濡れる夜Ⅳ」と共に
さて、鉛筆で人物を描いたときに、「なんとなく似ていない」「特徴を捉えているはずなのに違和感がある」と感じた経験はありませんか?
特に、鉛筆画中級者になると、輪郭やパーツの配置は描けているのに、なぜか似ないという悩みが増えてきます。
この記事では、そうした鉛筆画中級者の人が陥りやすい原因を10の視点で分析し、それぞれに具体的な改善ポイントを解説します。
観察力・構図・陰影・修整技法などを見直すことで、「似ない」を「似ている」に変えるコツが見えてきます。地道な確認と小さな修整を積み重ねて、より完成度の高い人物画を目指しましょう。
尚、あなたが既にたくさんの作品を制作していて、「そろそろ個展を開催したい」とお考えの場合には、この記事の最終部分に、有益な関連記事を掲載してありますのでご覧ください。
それでは、早速どうぞ!
観察不足がもたらす誤差を見直す
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第1回個展出品作品 ノーマ・ジーン 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
人物の顔が似ないと感じるとき、多くの場合その根本には「観察不足」が潜んでいます。
あなたが、知っているつもりの顔のイメージに頼りすぎ、目の前にある実際の特徴を適切に捉えられていないことが原因です。
本章では、鉛筆画中級者になると、基本ができていると過信しがちですが、観察の精度を再確認することが改善への第一歩となる点について解説します。
環境造りから考える
人物画に限らず、絵画全般の取り組みとして環境造りは大切です。無理矢理作った時間や、疲れていたりで、心が落ち着いていない状態ではうまくいきません。
ゆったりと取り組めるだけの、心と体の余裕のある環境を造り出すことが最も重要です。
そして、あなたの落ち着ける音楽なども小さめにかけて、足を組まずにイスに深く腰掛けることで、長時間描いていても疲れにくくなれて制作を楽しめます。
特に、制作当初の、大きな輪郭を捉える段階においては、落ち着ける環境の中で「描線を楽しむ心持ち」が必要になります。
筆者も、人物の顔を描いていて、「いくら努力しても似ない」ということがたくさんありました。描いても描いても全くうまくいかずに、だんだんイライラして、何度もうやめようかと思ったものです。
しかし、落ち着ける・没頭できる・穏やかな環境を心がけて、「描線を楽しむ心」で臨むようになった時点で、何となく描けるようになってきたことを思い出します。
人の顔は、微妙な描き込みの違いで、「似ていない」作品になってしまうものなので、時間をかけて楽しむ心があれば、数をこなすことが前提ではありますが、上達できるのです。
顔全体のプロポーションを見直す

顔を描く際にまず必要なのは、アタリ(※)の段階での比率確認です。
縦横のバランス、顔の中心線、左右の非対称性などを明確にすることで、パーツのズレを防げます。次の画像の青色線のように、必ずアタリの元となる基準線を入れてから描き進みましょう。

顔の中心に対して目、鼻、口がどの位置にあるかを丁寧に測定しながら描くことで、印象のズレが減少します。

※ アタリとは、描き始めの画面全体の中で、大雑把な輪郭やバランスを取ることを指します。
各パーツの相互位置を客観的に計測する

人の顔は、非常に微妙な比率で印象が変わります。
目と目の間隔、鼻の長さ、口の広さなどを一つひとつ正確に計測することで、特徴の誤認を防ぐことができます。
鉛筆を使って、目測で距離を測ったり、水平線や垂直線を意識的に描くことで、空間把握が安定します。
ミラー反転で誤差をチェックする

輪郭線の描写がある程度進んだ段階で、鏡に映して左右反転した状態で見ると、普段気づきにくいズレが浮き彫りになります。
顔が片側に寄っていたり、角度が歪んでいたりするミスも、反転確認で発見しやすくなります。
ミラー確認は、描き始め時の輪郭が取れた時点や、仕上げ前にも必須作業として習慣化しましょう。
目の錯覚に注意しながら描く

人の顔を見ていると、先入観や経験による目の錯覚が生じやすくなります。
例えば、笑顔のときの目の細まり具合や、光の影響による輪郭のぼやけかたなどは、思い込みで描いてしまうと印象がずれてしまいます。
常に、「本当にそう見えているか」を自分自身に問いかけながら、観察を続けましょう。
観察不足を改善するには、単にじっくり観るだけでなく、数値的にも把握し、定期的に反転や客観的視点を取り入れることが重要です。
描き慣れによる思い込みを捨てる

第1回個展出品作品 人物 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
顔が似ないと感じる原因の一つに、描き慣れているがゆえの「思い込み」があります。
本章では、鉛筆画中級者の人は、何度も人物を描いてきた経験から、自分なりの「顔のパターン」を無意識に持っていることが多く、それが似せたいモデルとのズレを生み出してしまう点について解説します。
顔のテンプレート化を防ぐ意識

人の顔はひとつとして同じものがなく、それぞれに特徴があります。
しかし、描き手が「いつもの目」「いつもの鼻」といった形を頭の中に持っていると、観察する前に手が勝手に動いてしまう現象が起こります。
これを防ぐには、毎回の制作を新鮮な目で観る姿勢が大切です。
特徴的な部分を先入観なしで観る

たとえば、鼻が高い人は鼻の角度が他の人と違いますし、目が垂れ気味の人はまぶたのラインも独特です。
こうした微妙な個性を「普通の鼻」「一般的な目」と処理してしまうと、似てこないのは当然です。
個々の違いを、ありのままに捉えることが第一歩です。
一度描いた線を疑ってみる

思い込みによって描いた線は、モデルを改めて見直すと違って見えることがあります。
勇気をもって、一度描いた線を消してみることも重要です。
特に、輪郭線や目の角度はズレが出やすいため、修整を前提に描く意識を持ちましょう。
描き直しを恐れず柔軟に対応する

鉛筆画中級者の人にありがちなミスは、一度描いた線を信じて、そのまま進めてしまうことです。
完成度を高めたいならば、途中で立ち止まり、何度も見直し、描き直す勇気が必要です。
紙が汚れることを恐れずに、納得いくまで修整しましょう。思い込みを取り払うことで、本来のモデルの特徴に近づくことができます。
経験を重ねるほど、無意識のパターンに引っ張られやすくなりますが、だからこそ「その人らしさ」を忠実に再現するという、原点に立ち返ることが求められます。
似ない理由がわからないときは、自身の癖や固定観念を疑ってみるのも大切なステップなのです。
比率と角度の微差を正確に捉える

第2回個展出品作品 少年 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
人物画において、顔が似ない最大の要因のひとつが「わずかな比率の違い」です。
人間の顔は、数ミリ単位の誤差でも印象が大きく変わるため、比率と角度の精度を高めることは極めて重要です。
本章では、目や口、鼻といった中心的パーツの配置や傾きが、似せるための鍵となる点について解説します。
目と目の距離を基準に全体を構築する

目の間隔は顔の幅を決める重要な基準です。
この間隔をもとに、顔の両端や耳、口元、顎の幅を決めていくと、全体の比率が整いやすくなります。

先に目のラインを決めてから、他の要素を正確に配置する方法が効果的です。
傾きの角度に敏感になる

鼻筋の傾きや口角の上下、顔全体の角度など、わずかな傾きが顔の印象に大きく影響します。
水平・垂直の基準を意識して、パーツごとの角度を慎重に計測しましょう。
角度を確認する際には、あなたの視野の中で、鉛筆をモデルに並べて観察及び比較する方法も有効です。
複数の基準線を活用する

目のライン、鼻のライン、口のラインをそれぞれ水平に描き、それらを比較しながらパーツを配置していくと、ズレを未然に防ぐことができます。
基準線を使うことで、どのパーツが高すぎる・低すぎるといった問題を客観的に把握できます。

比率の誤差は段階的に調整する

一度で正確な比率を出すのは難しいため、ラフの段階から段階的に修整を加えていくことが現実的です。
描いては確認し、少しずつ近づけていくことで、最終的に高い完成度に至ります。初期段階で細かく測る習慣をつけることが、後の修整の手間を減らしてくれます。
比率と角度を丁寧に見極めることで、モデルの顔に近づけることができます。
この、少しづつ調整していくことを考慮して、Bや2Bの柔らかい鉛筆で、優しい軽いタッチで描き進むことが必要です。
特に、鉛筆画中級者の人は、構成や印象に気を取られて比率の正確性が疎かになることがあるため、改めて基本に立ち返り、数値的な精度を追求することが求められます。
陰影による立体感のずれを修整する

第1回個展出品作品 人物Ⅳ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
顔が似ないと感じるもう一つの原因は、陰影の付け方によって立体感に違和感が生じていることです。
陰影は、顔の骨格や筋肉の形状を表す重要な要素であり、形が適切に描かれていても陰影が不自然であれば、顔全体の印象が大きく崩れてしまいます。
本章では、鉛筆画中級者の人にとっては、形だけでなく光と影の扱い方を見直すことが、さらなる精度向上につながりる点について解説します。
光源の位置を明確に確認する

まず、描画の初期段階で、光源の位置を明確に確認することが大切です。
光がどの方向からきて、どこに当たっているかが曖昧な場合には、陰影も一貫性を欠き、立体感が損なわれます。
光源の方向に合わせて、影がどのように落ちているか(角度・長さ・濃さ)を丁寧に観察し、適切に描き込むよう意識しましょう。
骨格の起伏に合わせて陰影を調整する

顔の立体感を生み出すには、頬骨や顎のライン、目のくぼみなど骨格の起伏を正確にとらえる必要があります。
特に、中間トーンの使い方が重要で、濃淡をグラデーション(階調)で滑らかにつなぐことで自然な立体感を表現できます。
影の濃さに頼るのではなく、骨格に沿った陰影の形状表現を意識しましょう。
顔の特徴に合わせた影の形状を捉える

人は、それぞれ顔の形状が異なるため、影の出方も個性的です。
たとえば、鼻筋が細い人と太い人では、影の落ち方がまったく異なります。
モデルをよく観察し、その人特有の陰影パターンを捉えることで、個性がより明確に表現されて、似ている印象が高まります。
仕上げ前に陰影の一貫性を見直す

全体が描けてきた段階で、もう一度陰影の整合性を確認します。
頬や額にあるはずの影が消えていたり、逆に不自然な場所に濃い影が入っていないかをチェックし、必要に応じて修整を加えます。
目を細めて全体を見渡すことで、陰影のバランスを確認しやすくなります。
陰影は形の延長ではなく、それ自体が印象を左右する重要な要素です。どんなに適切に輪郭やパーツが描けても、陰影の使い方がずれていると似せることはできません。

光と影の流れを意識し、モデル固有の陰影の出方を忠実に捉えることが、似顔力を高める鍵になります。
輪郭線の精度を高める工夫

第1回個展出品作品 人物Ⅲ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
顔が似ないと感じる要因の一つとして、輪郭線のわずかな誤差が挙げられます。
顔の外枠である輪郭は、顔全体の印象を決定づける重要な要素です。
鉛筆画中級者になると、顔の個々のパーツに集中するあまり、輪郭の適切さがおろそかになることがあります。
本章では、輪郭線の精度を高めるための具体的な工夫を解説します。
頭部全体の形を大まかに捉える

まずは、顔の輪郭だけでなく頭蓋骨全体を意識することが大切です。
後頭部や額、頬骨の出っ張りなどを含めた全体像を描くことで、顔の輪郭に立体感が生まれ、実際の人物に近い印象になります。
特に、斜め向きや俯瞰の構図では、頭部の奥行きを意識したライン取りが重要です。
線の太さと濃さを調整する

輪郭線をすべて同じ太さ・濃さで描いてしまうと、顔の硬さが目立ち不自然な印象になります。
顎の下など、影になる部分はやや濃く、光が当たる頬のラインは細く薄く描くことで、自然な立体感が生まれます。人物の顔へ入れるトーンには、「化粧をする」イメージが必要です。
この微調整が顔の印象を大きく左右します。
パーツとのつながりを意識する

輪郭は、目・鼻・口などのパーツと連動して表情を作る役割もあります。
特に、頬や顎のラインは、口角や目尻といった部分の形状と関係しています。
それぞれのパーツの終点が、輪郭とどう交差しているかを丁寧に観察しながら描きましょう。
自身の癖を見直す

輪郭線に関しては、描き手の癖が出やすい部分でもあります。
たとえば、毎回顎を細く描いてしまったり、頬の張り出しを弱く描いてしまうなど、本人も気づかないパターンがあります。
過去の作品と見比べ、自身がどのような輪郭を描きがちかなのかを分析して、修整する意識が必要です。
輪郭線は、目立たないようでいて、顔の印象を大きく左右する重要な要素です。わずかなラインの違いが顔全体のバランスを変えてしまうため、意識的に練習を重ねることが大切です。
パーツの描写が整っていても、「何か違う」と感じるときには、まず輪郭線の精度を見直してみましょう。
練習課題(3つ)

第1回個展出品作品 人物Ⅵ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治
本章では、あなたが実際に手を動かして練習できる課題を用意しました。いろいろ描く中で確実に上達できますので、早速取り組んでみましょう。
練習課題①:モデルの顔の特徴を的確に捉えてスケッチする
内容:
用意した画像、または実在モデルの顔をよく観察し、顔の各パーツの比率や配置、角度の微差を丁寧に測定・描写してください。
目の間隔、鼻の位置、口の広さなど、特徴を数値で把握しながらスケッチを完成させましょう。
目的:
・観察精度の向上。
・比率・バランスの客観的理解。
・「思い込み」で描く癖の排除。
練習課題②:ガイドラインを引いたうえで、あえて配置をずらした顔を描く
内容:
縦横のガイドラインを引き、意図的に目や鼻、口の位置をずらした顔を描いてみましょう。

違和感が出る理由を明確化し、どの程度のズレで「似なくなる」のかを体感してください。仕上げに正確な配置で再度描くと、差異が明確にわかります。
目的:
・ズレが生む印象の変化を体感。
・配置ミスに敏感になる力を育てる。
・修整スキルの向上。
練習課題③:左右反転・ミラー描写で違和感を発見する
内容:
鏡に映したモデルの顔、または完成済みのデッサンを左右反転して描いてみてください。
描いている途中での違和感やズレを記録し、自身がどこで判断を誤りやすいのかを可視化することが目的です。
目的:
・左右対称性の精度を高める。
・反転チェックの習慣化。
・違和感を自分で見つける訓練。

特に人物画は、難易度が高いものですが、制作を続けていく中で、必ず上達できる分野でもあります。日々少しづつでも取り組む習慣をつけましょう。
まとめ:顔が似ない悩みを克服するための10の視点

願い 2024 F6 鉛筆画 中山眞治
人物の鉛筆画において「顔が似ない」という悩みは、多くの鉛筆画中級者の人が直面する壁です。
しかし、その原因は一つではなく、観察力・構成・陰影・比率・輪郭など、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。
この記事では、それぞれの原因に対して具体的な改善方法と練習課題を提示してきました。以下に、再確認すべきポイントを箇条書きで整理します。
- 観察不足は印象のズレを生むので、測定とミラー確認を習慣にする。
- 思い込みで描く癖を捨て、毎回の顔を「初見」のつもりで描く。
- 比率と角度の微差を数値的に捉え、基準線を活用して構成を組み立てる。
- 陰影は形以上に印象を左右するので、光源と骨格の整合性を丁寧に観察する。
- 輪郭線の精度が顔全体の印象を支えるため、顎や頬のライン取りの癖を見直す。
- 練習課題で誤差と違和感を体感し、自身の修整ポイントを明確化する。
- 左右反転描写やズラし描写によって、「似ない理由」を明確化する。
- 線の濃淡・太さを意識して、顔の立体感と柔らかさを調整する。
- 各パーツの終点と輪郭の接点を整えることで、自然な表情に仕上げる。
- 過去の作品と比較して、自身の傾向と改善余地を常に検証する。
鉛筆画中級者の人は、ある程度描けるようになったことで自身の癖に気づきにくくなり、観察や修整の精度が曖昧になる傾向があります。
だからこそ、今一度「なぜ似ないのか」を一つずつ丁寧に分析し、技術を段階的に見直す姿勢が必要です。
特に、練習課題を通じて視覚と手のズレを実感し、自身の弱点を客観視できるようになると、人物画の完成度は飛躍的に向上します。
すぐに成果が見えるとは限りませんが、今回ご紹介しました10のポイントを意識して描き続けることで、「似ている」と言われる顔の再現力が確実に身につくでしょう。
ではまた!あなたの未来を応援しています。
モデルの特徴を的確に再現するには、最初の観察段階の度合いがすべてを左右します。観察の精度を上げる意識が、似せる力を確実に高めてくれます。